強面男が幻想入り 作:疾風迅雷の如く
「ここだよ。心理学のスペシャリストがいる場所は」
神奈子がそう言って地霊殿の扉を開けようとするが…
「待った」
俺はそれを止めた。
「…いきなりなんだい?」
「俺にその扉を開けさせてくれ」
「別に良いけれど…何故?」
「俺が開けないと嫌な予感がするからだ」
「博麗の代行の勘って奴かい?」
「そんなところだ…行くぞ」
これでフラグ二つ目回収完了。そして三つ目は…
「にゃーん」
三つ目はこの猫だ。この猫の正体は火焔猫燐。通称お燐。正確には猫ではなく火車という妖怪だが見た目が尾が二つあること以外は黒猫そのものであり、この姿で初見の客には鳴き声しか出さない。その為、神奈子が開けると猫をスルーしてそのまま神奈子に案内されることになる。また俺が無言で開けた場合は二つ目のフラグが無くなってしまうので神奈子に声をかけた訳だ。
「ここから先はお前が案内してくれるようだな」
「…猫の言葉がわかるのかい?」
「わかる訳がない。だがこの猫がただの猫でないことくらいはわかる。おそらくここに住んでいる妖怪が化けた姿だ」
「よくわかったわね、流石は大和一族の末裔って訳かい」
また大和一族の名前か…その名前を聞いてうんざりしているんだよ。兎にも角にも目の前のお燐が人型に化け話しかけてきた。
「ほう、大和一族とな?」
「かつて私ら地底に住む妖怪達の大半を封じた陰陽師の一族のことだよ」
うちの家系が陰陽師ってそんな訳ねえだろ? とは言えないのが婆さんの存在だ。普段は家にいる婆さんは時折、ふらっと出かける時があるのだが出かける度に出かけた先の都市伝説が無くなったり自殺の名所が名所で無くなったりしている。初めは噂話だろ? などと思って婆さんの出掛けた先を調べてみると本当に無くなっていて俺の中で婆さんの存在そのものが都市伝説みたいなものになってしまった。
「俺が大和一族かどうかはどうでもいい…この先にいるんだろう?」
「ああ、この地霊殿の主であるあたいのご主人様がお待ちになっているところだよ」
「さっさと案内してくれ、火焔猫燐」
「! …あたいの名前を知っているなんて誰から聞いたんだい?」
「俺の能力によるものだ。そう気にするな。これからの交渉事でそれくらいのことは最早戯れでしかないからな」
「…少し待ってな。さとり様と相談してくる」
「さとりを使って俺の能力を調べようなんてことは止めておけ。閻魔が浄玻璃の鏡を使っても俺の過去は覗けず実力行使に出たくらいだ」
「あんた一体何をしたのさ?」
それを聞いた神奈子からも呆れられ、ため息を吐かれた。
「いや別に大したことはないぞ?」
俺が覚えている限りで俺がやったことといえば、早苗を誘拐した橋野組などの暴力団組織を潰したこととか、海外マフィアに喧嘩を売られたから300人ボコしたとか、留学で米国に行った時に銀行強盗に遭遇したので強盗に石を当てたらヘッドショットして死んだとかそんな程度だな。もっとも幻想入りする前の俺の記憶なんてものほどアテにならないものはないが。
「それよりも、約束通り勇姿を連れてきたから私はこの地下の方に行かせてもらうよ。そこに目的があるんからね」
「お空に会いたいなんて珍しい神様もいるもんだね…まあさとり様の命令だし、この旧地獄を害するって訳でもなさそうだからどうぞご好きなように」
その言葉と共にお燐は奥へ消え、神奈子も地下へと向かった。そして俺は無言で近くにあった頭を掴んだ。
「わっ!? な、何!?」
帽子を被った緑髪の幼女が頭を掴まれたことに驚き声を上げた。
「それはこっちのセリフだ。古明地こいし」
その幼女の頭を解放し、下ろす。こいつこそが一つ目のフラグの存在…古明地こいしだ。勇儀とのバトルで圧勝すると俺に着いて行くがそれ以外の時はどこかフラフラと出かけてしまう。圧勝する定義は特に決まっていないが確実にわかったのは時間ではないということだ。今回のextraの出現条件に『○○を使わないで倒す』というヒントから得たのが手足を使わずに倒すという方法を実践してみたところ、こいしが現れるようになった。
「俺の後をつけて何の用だ?」
「なんとなくだよ?」
「なんとなくか。お前ならあり得る話だな」
古明地こいしという少女は『無意識を操る程度の能力』と言う能力を持っている。その能力は誰にも気づかれずに行動できる能力と言って良い。ただしその間はオート操縦だからベストな行動を取るとは限らない。その為なんとなくでもまかり通ってしまう。
「でもあの勇儀さんを手も足も使わず倒しちゃうなんて凄いね!」
「なら弾幕ごっこで勝負するか?」
「弾幕ごっこ?」
「弾幕ごっこってのはだな…」
それから俺はこいしに弾幕ごっこの定義とルールを説明した。
「それじゃやろー!」
「よし、今回はお試しということで1分で終わりだ」
「それじゃ行っくよー!」
こいしの弾幕が俺を襲うがそれをサブマシンガンで打ち消す。勇儀の通常の弾幕よりも多く、いちいち処理するのが面倒だ。左手にサブマシンガンを持ち変え処理を続けると右手に対物ライフルを持って、引き金を放つ。
瞬間、轟音が響き、こいしの頭にヘッドショットが決まりこいしが気絶するとある本を落とす。その本は二つ目のフラグで立てることによってこいしが落とす本であり、後々重要になってくる。何故神奈子に声をかけて扉を開けなければフラグが立たないのかは謎だが俺の知ったことではない。俺はその本をすぐに回収し、コマンドの袋の中へ入れた。
「何ですか、今の音は…ってこいし!?」
その轟音に反応し、奥からやってきたピンク色の髪の幼女がこいしに駆けつける。
「安心しろ、気絶しているだけだ」
「さとり様ではなく、こいし様に危害を加えるとは…この地霊殿に喧嘩を売っているのかい?」
そしてもう一人、先ほどさとりのところへいったお燐が爪を立て、敵意を露わにする。そう、このピンク色の髪の幼女こそがこいしの姉であり、この地霊殿の主でもある覚妖怪の古明地さとり。こいしはパチモンというか心を読めない覚妖怪であるのに対し、さとりは普通に心を読む覚妖怪。その為戦闘の際にはトラウマを読み、相手の心を折るというえげつないやり方をする。
「地霊殿という勢力そのものに興味はない。あるとしたら古明地さとりそのものに興味がある」
「私ですか?」
「お前じゃない」
「…なにを訳のわからないことを言ってんだ!」
お燐が混乱し、俺にその爪で心臓を一突きし殺そうとする。だが俺は人差し指と親指でお燐の鼻をつまみ、コンロを回すかの如くお燐の鼻を回す。するとお燐の鼻が曲がり、その場に転がりながら鼻血をダラダラと垂らした。
「わからねえ奴だな。お前は古明地さとりじゃねえって言ってんだよ」
俺はそれを視界に入れながらもさとりに指差す。言葉が足りないと言ってはいけないそれが婆さんの教え…じゃないにしても精神的に追い詰めるには良いからだ。
「私は正真正銘、古明地さとりですよ」
「なら証明して見せろよ。本当に古明地さとりなら俺の心を読めるはずだぜ?」
「読めないんですよ、貴方とこいしに限って…」
「いくら惚けたって無駄だ。こいしがこれを持っていたからな」
俺は袋の中に入れたその本を取り出すとさとりがそれを見て目を丸くした。
「そ、それは!?」
「お前が探していた日記帳だ」
その本の正体は日記帳。それもここ一年くらい書かれた日記帳だ。この中身は目の前の幼女が見せたく無いものが書かれているから奪いに来るが俺はそれ避けた。
「か、返して下さい! それは私の日記帳です!」
「誰がお前の日記帳って言ったんだ? この日記帳はこいしの日記帳だ」
「! …失礼、見間違えました」
「この中にはとんでもない秘密が隠されている。1ページずつを読むぜ」
【☆月*日
今日は私の無意識を少しでも制御する為にお姉ちゃんと一緒に日記帳を買ったよー! 私の日記帳とお姉ちゃんの日記帳はデザインがかなり違うけどそれでもお姉ちゃんと一緒にやれるだけ幸せ♡】
「そう、つまりだ…さとりの日記帳とこいしの日記帳は違うから見間違えることなんてことはないっ!」
「いえ、後でこいしと同じものに買ったんですよ」
「果たしてその言い訳がどこまで通るかな?」
【$月@日
この日記帳をつけてから数ヶ月経ったけれどちょっとお姉ちゃんの様子が変。あのひらひらデザインの日記帳をつけるのも数日前から止めちゃったし、趣味の小説も書かなくなっちゃったみたいで不安だな〜】
ちなみにこの日記帳はいかにもDiaryという古臭そうな日記帳であり、外の世界にありがちな可愛らしいデザインの日記帳とは訳が違う。
「で? さっきの言い訳は通用しないよな? この日記帳はこいしが何ヶ月も使っている以上、後で同じものをさとりが買ったとしても使いつづけているはずなんだ。だがここに記述されているさとりの日記帳はひらひらしたデザインだ。てめえが言っていることは矛盾しているんだよ」
「ぐっ!」
「さらにもう一つ行くぜ」
【£月¢日
そして私は見てはいけないものを見てしまった。お姉ちゃんの後をこっそりついていくとそこにはお姉ちゃんがもう一人いた。もう一人の方のお姉ちゃんはやつれている上に、痣痕が強く目立ち暴力を振るわれていることがわかった。そんな観察をしているとここに来たお姉ちゃんが徐々に姿を変え、影のように黒い人型になるのを間近で見た私は逃げてしまった…もしかしたら日記帳や小説を書かなくなった時からお姉ちゃんはこの影に成り代わられてたのかも。】
「これが最後の証拠だ。お前がさとりに成り代わっていることはすでにわかっているんだよ」
「ざ、ざどり様?」
鼻血をまだ垂れ流しているせいか濁点をつけながらお燐がさとりに話しかける。
「…くくく、あははは、はーっはっはっはっ!」
さとりが大笑いし、この場にいる全員がドン引きした。
「流石は大和優一の甥なだけありますね…」
優一? …確か食中毒で死んだ親父の兄貴だよな? 外の世界では優一よりも親父の名前の方が知られているからそんな奴の名前が出るなんて珍しいこともあるもんだ、と感心していた。
「お燐、下がってろ!」
俺はそう言って無理やりお燐の首を掴み、下げさせる。その瞬間、お燐のいたところに爆風が飛ぶ。
「死ね、大和勇姿!」
お燐が殺せなかったことに苛立ったのかあるいは元からなのか、殺気丸出しで俺に弾幕を放つ。わかりやすすぎて草。
「それがどうした?」
「…っ!」
それを冷静に対処していくとさとり(偽)が苦い顔をする。ちなみにさとり(偽)の本名は異変イベント中ではわからないままなのでこう表記させて貰った。
「やはりこの身体では無理ですか…なら、搦め手を取るまでよ!」
さとり(偽)が徐々に姿を変え、ある人物の姿へと変えていく。その人物の姿は俺や雄山、或いは親戚達の天敵とも言える人物でもあった。
「婆さんに化けるとはいい度胸しているじゃねえか」
そう、俺の祖母にして師匠でもある婆さんだ。
「行くぞい、勇姿…!」
わざわざ口調まで変えたことからあの姿は不完全だということが推測される。もし不完全でなければ口調を変えずとも婆さんの動きを真似ればいいだけのことだ。そうすれば俺を少しは動揺させることも出来ただろうが…何度も対戦してりゃ怖くもねえよ。
「ふんっ!」
二発ほど腹にカウンターするように当て、腹をくの字にさせると頭を両拳で挟み、ともにジャンプする。そしてそこから右膝を顔面に当てた。
「がはっ!」
「所詮紛い物は紛い物でしかない、いくら婆さんに化けても俺からしてみれば婆さんには見えない」
【ふん…やはりドッペルゲンガー事件の真犯人にこの程度の刺客を送ったところで無駄だったか】
さとり(偽)が宙に浮き、廊下の丁度真ん中あたりまでいくとそこに穴が開き、何者かの声が響く。
「だ、誰だい!?」
お燐がそう言って声を出すと律儀にもその声は答えてくれた。
【我が名は月影。大和一族に濡れ衣を着せられ地底に封印された同族ドッペルゲンガーの無念を晴らす者也】
「濡れ衣?」
【我が同族達を貶めた罪は貴様で償ってもらうぞ。さとりが殺されたくなければ地下の灼熱地獄跡にて待つ。それにしても我が影ながらああも一方的に殺られるとは不甲斐なき奴め…時空の狭間に消え去れいっ!】
「ぐぁぁぁっ!」
月影の言葉によりさとり(偽)がバラバラになりながらその穴へと吸い込まれていった。
「…濡れ衣ってあんた何したのさ?」
「ものごころ着く前にやったことだから俺の知ったことではない。だがお燐、お前の主人を助ける為にも俺はそこに行く。お前はそこでおとなしく待っていろ」
「あたいも行くよ!」
「止めておけ。お前は俺に片手でねじ伏せられるほどの実力しかない。足手まといは不要だ! 説諭っ!」
俺はお燐の腹を殴り気絶させ、こいしとともに収納した。
それにしてもようやく
まず最初にコードの制限。これだけでもかなり嫌がらせ染みたものだ。確かにレミリアが起こした異変や幽々子が起こした異変も一部コードが使えなかったがその時は表示されなかった。それに比べれば親切なんだろうがいくらなんでも制限が大きい。もう少し制限する量を減らして貰いたいもんだ。
次はヤマメ&キスメ。この二人はただでさえ体力が回復出来ないと言うのに体力をゴリゴリと削っていく。だから会話の余地もなしに悪党と呼ばれても不意打ちをするしかない。…そういえばまだその二人を解放してなかったな。異変イベントが終わったらすぐに戻そう。
その次が初めてゲームオーバーになった初見殺しの水橋パルスィ。こいつは選択肢を一つでも間違えるとゲームオーバーになってしまいセーブした場所から所持金を減らされてやり直させられるというまさしく嫌がらせの為に生まれてきたような妨害者だ。ただ戦闘力は俺からしてみれば皆無に等しい為にやりやすいと言えばやりやすい。
その次は地底最強と評価高い星熊勇儀。これだけでも難易度高すぎと言えるがさらにその上を目指すなら手足を使わずに勝つという条件が加わる。おそらくセーブ&ロードの能力が使えなければ攻略不能となっていただろうな。もっとも何度も繰り返しやっていくうちに作業染みたものになってしまった。
そして古明地こいし。こいしはextraの出現条件を満たさないと出現しないことからextraと考えられる。しかも『こいしの日記帳』を持ってくるので如何に彼女がこの異変イベントで重要人物かわかるだろう。『こいしの日記帳』そのものは探索すれば見つかるがどこにあるかはランダムでありマップの検索機能も使えない状態で探すのは困難だ。ゲームでいう乱数調整も考えたがあまりにも手間すぎるので、それならいっその事こいしに持ってもらったほうが楽だ。この異変イベントをTAS動画にするなら真っ先に日記帳を拾うだろうがな。
火焔猫燐は俺があまりにも簡単に片付けたせいで雑魚のように感じるが弾幕戦となれば幻想入りした当初の早苗があっさり沈むんじゃねえか? と思わせるくらいには実力はある。勇儀を何回も繰り返し倒したからその分、こいつが弱く見えるだけなんだよな…
そして古明地さとりこと、さとり(偽)。こいつはまさしく戦闘面では
ようやくここまで来れたと思うと胸が高鳴る。
そして、俺は灼熱地獄跡の奥へと進むとその瞬間、またしても噴火したかのような轟音が響き、その音が大地を揺らした。
「なんだ?」
嫌な予感がする…落ち着け、大和勇姿。どんなに速くその現場に向かってもおそらくこの世界、特に異変イベントの場合は間に合わせないようになっている。だから焦る必要はないんだ。自分にそう言い聞かせ、俺はコマンドを開いて冷静になるまで落ち着かせた。
…ふぅ、こんなものか。さて、ここでクリア出来たらとっととセーブしよう。流石に何回も繰り返し同じ異変イベントに参加するのは面倒だ。
「行くか」
コマンドを閉じ、そう呟くと俺の横に赤色のナニカが通り過ぎた。
「つーっ…」
それはよくよく見るとボロボロになった神奈子だった。
「よう、神奈子。その有様だとこの先にいるドッペルゲンガーに騙されたみたいだな」
「…よくわかったわね」
苦い表情で神奈子が答え、俺の推測があっていたことにホッとする。ここから先は何が起こるか俺にも予測不能だ。
「当たり前だ。俺を誰だと思っている? 博麗の代行、大和勇姿だ」
「言うと思ったよ、そのセリフ」
「これから俺が言うセリフもわかっているんだろう?」
「まあね。という事であんたに任せるわ。私は見ての通りあいつにボロクソにやられたから体力回復に専念するわ」
「何ならここから帰っても良いんだぞ? お前が体力を回復する前に決着は着く」
「期待して待っているよ」
俺は神奈子に背を向け、これから起きることに不安を感じていた。もし、一発でこの異変イベントを終わらせたら何が起こるのだろうとか、無茶をして霊夢を怒らせたらどうしようとか、そんな事ばかりだ。だが俺は霊夢の為にも絶対に一発で終わらせる。いくらセーブ&ロードで巻き戻せるとはいえ、霊夢達にその巻き戻される実感がないとはいえ、霊夢を待たせている罪悪感というものがある。だからその罪悪感を消す為にも一発で異変イベントを終わらせる。
それに霊夢の笑顔を早く見たいというのもある。それを見るのに一発で終わらせたいのか? などと思うかもしれないが、案外その力は馬鹿には出来ない。そうやって物語に出てくる英雄達はみんな頑張ってこれた。俺は断じて英雄と呼べるような面じゃなく、むしろ魔王とか魔人とか呼ばれるほどの悪人面だが守りたい者の為に頑張るのに顔は関係ないということを証明してやる。
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