アクセルの街の片隅に、急ごしらえで建てられたような建物が存在していた。最低限人が住めるような作りにはなっているその建物は、見た者に寂寥感と死の匂いを感じさせる。
まるで隔離病棟のようなその建物では、ゴジラがベルゼルグを蹂躙した後、生き延びたわずかな人々が運び込まれ、女神アクアが治癒魔法や浄化魔法で人々を治療し寄り添っていた。
(カズマやめぐみんの時とは比べ物にならない程治りが遅い……ゴジラが神に近づいた分私の力が効きづらくなってるの……?)
しかし女神アクアをもってしても今死にかけている人々を救うのは困難だった。神となりつつあるゴジラの熱線はもはや物理現象を超えた呪いと同義だった。
最初に顕現したゴジラならともかく、ベルゼルグに現れたゴジラの神格は女神アクアに届きうる程に高まっている。今でさえこのありさまなら、完全に神と成ったゴジラが振りまく放射能はこの星の生命を根絶させかねないだろう。
「アクア様……私は死ぬのでしょうか……」
「大丈夫よ、あなたは死なないわ。私は女神だもの……あなた達を蝕むものはどれだけ時間がかかっても取り除いてみせる。だからもう少しだけ頑張ってね、私も一緒に頑張るから」
「……ありがとうございます…」
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「失礼しますアクア様、少しよろしいでしょうか」
できる限りの治療と診察を終え、少しの休憩をしていたアクアに、エリス教徒のヒーラーが声を掛けた。
普段であればアクアを女神と信じる者はアクセルにはいないし、アクアもエリス教徒をライバル視しているため、このように敬語を使われることはないだろう。
だがアクアもこのような状態でエリス教徒を邪険にするような女神ではないし、エリス教徒もここまで患者に慈悲深く、奇跡のような治癒魔法を使う女性を女神でないと言い張ることは出来なかった。
「なになに?新しい患者さんが来たの?まだベッドに空きはあったはずだけど…」
「いえ、冒険者のミツルギキョウヤ様とサトウカズマ様がアクア様に面会したいそうです。いかがなさいますか?」
「カズマと……ああ!魔剣の人ね!いいわよ、連れてきてくれる?」
「かしこまりました」
しばらくして、エリス教徒に連れられてミツルギとカズマはアクアの待つ休憩所にやってきた。
「お久しぶりですアクア様、以前お会いしたときは無礼を働いてしまい申し訳ありませんでした」
「いいのよ別に!気にしてないわ!」
「よっ!お前も頑張ってるみたいだな。お前の好きな酒、買ってきたけど飲むか?」
「あっ!それ凄く高いお酒じゃない!飲みたいところだけど……ここは一応診療所だしね。そこに置いといてくれる?」
「わかった」
酒好きの女神とはいえ、このような状況で飲むわけにはいかないと思ったのだろう。カズマは内心失敗したなと思いながら、酒の入った瓶を机のわきにそっと置いた。
「アクア、忙しいとこ悪いんだけど、ここに来たのは今度の作戦にお前の力が必要になりそうだからなんだ」
「私の?」
「ああ、実はこの街にデストロイヤーが近づいてきてる。ゴジラとデストロイヤーをぶつけて、残った方を俺たちで倒そうって作戦なんだ」
「………私働きすぎて幻聴が聞こえるみたい。今デストロイヤーって聞こえたんだけど」
「アクア様、残念ですがサトウカズマの言っていることは本当です。ギルドにもデストロイヤーの進路上にアクセルがあると情報が入っています」
アクアの目からハイライトが消えた。
「……最低限の荷物と患者さんを運んで逃げたほうがよくない?それ勝った方が私たちの敵になるだけですってことよね?」
「……まあそうなりますね」
「頼むよアクア、デストロイヤーの魔法障壁を破れそうなのはお前だけなんだ。それさえなくなればデストロイヤーは爆裂魔法で倒せるだろ?」
「……デストロイヤーはそうかもね。でもゴジラは?デストロイヤーはゴジラにどのくらい対抗できそうなの?」
「それはやってみないと分からない……でもゴジラからもデストロイヤーからも逃げ出して次はどこに行くんだよ?行った先で奴らがもう来ない保証もないんだぜ?」
それは確かにカズマの言う通りだった。デストロイヤーは遥か昔から人類を踏みつぶして回っていたし、ゴジラもこの世に争いがある限りいつどこに顕現するか分からない。それは1秒後かもしれないし、10年後かもしれない。しかし確実にその際は今よりも被害が大きくなるだろう。
「頼むよアクア……俺怖いんだよ。クリスが言ってたんだけどさ……ゴジラは縁のあるものに引き寄せられたって、それってつまり、俺がアクアをこの世界に連れてきたのも原因の一つになってるんじゃないかって。ゴジラは神に成るんだろ?最初にあいつが現れたときいたのも俺なんだ。」
「お前を巻き込んじまって本当に悪いと思ってる……。俺が死んだら地獄に落としてくれていい。それを見て、最初に会った時みたいに笑ってくれていい。だから今回だけは頼む。この通りだ」
カズマは深々と頭を下げた。アクアもミツルギもぎょっとしたが、その真摯な思いは充分に伝わった。
「カズマ、頭を上げなさい」
「………………」
「他の誰でもない、この女神アクアが許すわ。頭を上げなさい」
「アクア……」
「いい?カズマ、神っていうのは…とくにゴジラみたいなタイプは人間の常識じゃ測れないわ。あいつは人間を憎悪しているけど、一人一人の人間を区別しているわけじゃない。よく言えば平等、悪い言い方なら『誰であろうと殺す』ってところね。蜂に刺されたから巣ごと、その種全体を憎んでいるようなものなのよ」
「ゴジラはあんたが居なくてもこの世界に来たかもしれない。元々魔王のせいで不安定な世界だったしね。他の世界から魂がやってくる世界で、神を受け入れる容量がある世界なんて限られてるわ」
「それに、そんなこと言ったら日本人を送り込んでたのは私たちだし、あんたのいう事が正しいなら私にも責任がある。いつか誰かがやらなきゃいけない。それが今で私たちだった………デストロイヤーの魔法障壁は私がなんとかする。カズマが悪いからじゃない。そうすべきだからよ」
「アクア……ありがとう」
「サトウカズマ、アクア様程頼りにはならないが、同じ日本人として僕も戦う。君は一人じゃない。アクア様を悲しませるなよ」
「……あんたもありがとうな」
カズマはにじんでいた涙を拭った。状況は変わっていないが、少しだけ未来に希望を持てた気がする。
「………ところでデストロイヤーはいつ来るの?」
「明日の朝一番になるそうです」
「もっと早く言いなさいよ!?」