神高川柳コンテスト大賞発表!
【大賞】
永遠にメロンソーダを飲んでたい チタンダ
【講評】
最近メロンソーダを飲んだのはいつだろうか。そういえばしばらく飲んでいない気がする。ふとそんなことを考えました。
私は高校生の頃、卓球に青春を捧げた部活少女でした。毎日のように日が暮れるまで練習していましたが、練習の厳しさだけでなく、部活終わりに飲むオロナミンCが格別だったこともよく覚えています。この句のメロンソーダにもそんな情景を想像しました。
そのままに読めば単純にメロンソーダが好きすぎるという可愛い句にも見えます。一方で将来のことなど考えずにメロンソーダを飲む放課後が続けばいいと願う現実逃避の句にも見え、高校生らしさが表現されていると思いました。
部活帰りの自販機の前でしょうか? 友達と勉強しているファミレスでしょうか? それとも、好きな人と待つバス停でしょうか?
チタンダさんがどんな状況に永遠を願ったのかは想像するしかありませんが、そのメロンソーダの味を、どうか忘れないでいて欲しいと思います。大人になるとメロンソーダは飲まなくなるので。(足立)
七月一日、火曜日。登校し昇降口に着くと、昨日の部室でのやりとりもあり、自然と神高月報七月号が目に入った。
句の下の「チタンダ」の文字に目を引く。豪農千反田家のご令嬢は川柳の感性も持ち合わせていたらしい。しかし、千反田にメロンソーダの組み合わせとは意外だ。あいつなら渋いお茶の方が似合いそうだが、それでは伝わらないということだろうか。
放課後、地学講義室に入ると、一人でちょこんと椅子に座って待ち構えていた千反田は俺に気付くなりかけよって来た。
「折木さん! 神高月報はご覧になりましたか?」
「見たよ。大賞だってな。おめでとう」
軽く賛辞を述べると、千反田はさらに顔を寄せた。
「わたしはチタンダさんではありません!」
ならお前は誰だ。
「……哲学か?」
「そうではなくて、あの川柳はわたしの川柳ではありません!」
「だが名前にはチタンダと」
「ですから、誰かがわたしの名前でコンテストに応募したのです!」
自分の名を騙られたというのに、その大きな瞳はなぜか輝いて見えた。この目はまずい。
「折木さん、一体誰がわたしの名前で川柳を詠んだのか。どうしてそんなことをしたのか、わたし、気になります!」
やはりか。しかも今回の地震は大きそうだ。何としても逃げなくては。
「そうか。変な事をする奴がいるんだな」
「折木さんも一緒に考えてください!」
「知らん。別にお前の名で悪事を働いたわけでもないだろ。むしろ名誉なことだ。ありがたく放っておけばいいじゃないか」
「それはいけません。確かに身に覚えのない悪評には声をあげて否定すべきです。ですが、であれば身の覚えのない良い評価も同様に否定すべきではないでしょうか? 都合よく良い評価だけを受け入れるというのは卑怯だと思うのです」
卑怯ときたか。過度に期待されたくない気持ちは分からなくもないが。
「それに、わたし、あの句すごく好きなんです。この方がどんな状況でどんなことを想ってこの句を詠まれたのか、ぜひお話を聞いてみたいです」
どうやらあの句は千反田の心の琴線に触れたらしい、よかったな、偽千反田。
しかし、あいにく俺には句の良し悪しは分からない。偽千反田に用などない。
「そんなに気になるなら壁新聞部の小暮に聞いてみればいいじゃないか」
「ですが誰がどの川柳を詠んだかは壁新聞部でも分からないのではないでしょうか?」
「小暮が頼みに来るまで応募は無かったって言っていただろ? ならあの日、小暮が参加を募った部活の中に偽物がいるってことだ。小暮が誰に短冊を渡したかが分かれば、大部絞れるんじゃないのか」
あの日、小暮は古典部以外の部活にも打診してみると言っていた。残っていた部活がどれだけあったかは知らないが川柳に興味を持つ酔狂な生徒がそう何人もいるとは思えない。実際に応募した生徒は十人もいないだろう。
小暮に押し付けて切り抜けようとすると、千反田は少し考えて訊いた。
「ということは古典部のみなさんの可能性もあるのでしょうか?」
「里志と伊原が? 里志はともかく伊原はそんなふざけたことしないと思うが」
すると千反田はじっと俺を見つめ言いづらそうに言った。
「折木さんも短冊は貰っていたように思うのですが」
「俺が?」
なるほど、俺も容疑者になるのか。
「俺は応募してないぞ」
嘘じゃない。応募はしていない。
「ちなみに折木さんの短冊はどうされたのですか?」
短冊の所在を言及され言葉に詰まる。短冊は確かにある。多分だが文庫本に挟んだままだ。ここで白紙の短冊を見せれば身の潔白は証明できる。が、それはできない。あの短冊を見られるわけにはいかない。
偽千反田探しはやらなくてもいいことだが、折木奉太郎の無実を証明することはやるべきことだ。俺は自分の主義を貫くために、ドアに振り返った。
「小暮の話を聞きに行こう」
やるべきことなら手短に、だ。