Fate/Reprise 〜円環迷宮聖杯戦争〜 作:シン・丸
私が
幾ら聖杯戦争の開催地だとしても街は平穏そのもの。
一般人に被害が出ることなく、私の監督役としての不安は杞憂に終わりそうです。
この二日間、彼女と共にこの街を回りました。
彼女はとても物腰柔らかで、誰に対しても優しく接しその笑顔は街の人々全てに分け隔てなく向けられていました。
ですが、ふとした時に見せる顔はどこか悲しそうで。
私はそんな顔を見ていられなく、何度か話を聞こうとしましたがはぐらかされてばかりでした。
彼女はきっと何か重いものを背負っているのでしょう。ですが彼女自身それを誰にも打ち明けず、一人で抱え込んでいて……まるで聖母の様であるのにその心はどこか儚げで脆く、触れてしまえば崩れてしまいそうな危うさを感じました。
そしてそんな彼女を見ては心が痛むのです。
「マスター?どうなさいましたか?」
私の視線に気づいたのか彼女は私に向き直りそう言いました。
「あ、いえ……ただ少し考え事をしていただけです。」
慌てて視線を逸らしながら私はそう答えると彼女は小さくそうですか、と言いその場を後にしようとしました。
が、何かを思い出したのか足を止めると私の方を向いてこう言いました。
「……マスター?この後はどうなさいますか?」
その問いに私は少し悩みました。今の所、この街に特に異常はないですし……
ならばそろそろ他の参加者の方の動向を探ってみるのも有りかもしれませんね。
今の所、聖堂教会からの情報は時計塔の生徒が参加していると言う事と中国政府が螺旋館の方達に何やら依頼をしたという情報のみ、それもどこまで信用して良いものやら。
一応、聖杯戦争の管理は聖堂教会と魔術協会の協力の元、行われるものなどで、時計塔の生徒がマスターである事はその関係者の方々から聞き出せるでしょうし、私はそれ以外の方を探す事にしましょう。
「ルーラー殿、この街ですが貴方から見て何か変わったことは有りますか?」
そう尋ねると彼女は少し考え込んだ後にこう言いました。
「いえ、特に何もありませんが……強いて言うのならこの街で聖杯戦争が行われているという実感が湧かない事ぐらいでしょうか。聖杯との繋がりもかなり薄い様に感じます。」
「……そうですか。」
確かにルーラー殿が言う通り、ここ数日この街は平穏そのものでとても聖杯戦争が行われているとは思えない状況でした。
それに聖杯との繋がりが薄いと言うのもまた気掛かりではあります。
「ならばルーラー殿、この辺りで何か異変が起きた場所など御座いませんか?どんな小さな事でも良いのです。」
そう尋ねると彼女は少し考え込んだ後にこう言いました。
「そうですね……あっ、ありました。昨日の夜に郊外の森にて魔力の乱れを感じました。」
「魔力の乱れ、ですか。」
「はい。ただ、郊外となると私の魔力感知も万全では無いので、確信は無いのですが……それでもよろしければ案内致します。」
彼女はそう言い、私に手を差し伸べてきました。私はその手を躊躇うことなく握り返すとこう言いました。
「えぇ、是非お願いします。ルーラー殿。」
ーーーーーー
郊外へと移動し森の中を進むとまるで雷が落ちたのかと思う焦げ跡に魔力の残滓を感じました。ルーラー殿はこの魔力についてどうお考えでしょうか?
そう思いながら彼女の方を見るとなにやら難しい顔をしていました。
「これは……いけませんね……。」
そう小さく呟いた後、彼女は私に向き直ると言いました。
「マスター、この魔力には神性が含まれています。私達とは別の宗教観の神、または、神にまつわる存在が聖杯戦争に参加しているようです。」
「神、ですか……?」
「はい。この魔力は間違いなく神のものです。」
彼女の言葉に私は驚きを隠せずにいました。
神性を持つサーヴァント、もしその存在が悪意を持って暴れた場合私には止める手段が無い。
私の実力不足、私はサーヴァントである彼女に頼らざるを得ない。
多くの人達を救う為には彼女が必要不可欠だ。
そう考えると自然とため息が出てしまう。私は本当に無力だ……。
「マスター?どうかなさいましたか?」
彼女が私の様子に気づき心配そうに声をかけてくれる。
「いえ、大丈夫です。」
罪なき人々を守る為ならばどんな事でもやる覚悟はとうに出来ていると言うのにやはり不安が募るばかりです。
そんな事を考えていると彼女が私の手を握ってきました。突然の事に驚いてしまいますが、彼女の体温を感じ不思議と安心感を覚えました。
「マスター、私は貴方のサーヴァントです。貴方がどんな選択をしようと私は貴方について行きますし、決して見捨てません。だからどうか一人で抱え込まないでください。貴方は一人じゃないのですから……。」
彼女は優しく微笑みながらそう言ってくれました。
その笑顔を見て思わず見惚れてしまいそうになる程美しく、それでいてどこか儚げで……そんな彼女に心惹かれる自分が居ることに気が付きます。
「ありがとうございます。ルーラー殿。」
私は彼女の手を握り返しながらそう答えました。
「…ではもう少し、奥深くに潜ってみましょうか。もう残滓のサーヴァントは居ないとは思いますが、何か手がかりがあるかも知れません。」
「はい、分かりました。マスター。」
そうして私達は更に奥へと進んでいきました。
森の奥深くは樹々が生い茂り、一切の光を通さないかのように暗く不気味で……まるで私達の侵入を拒んでいる様でした。
この中に何か手がかりがあるのならば見つけ出さなくてはなりません、そのためには慎重に行かなければ。
そう思い歩を進めようとした時、突然ルーラー殿が私の腕を引いてきました。何事かと思い彼女の顔を見ると何やら険しい表情をしています。
何かあったのでしょうか?そう尋ねる前に後方からの銃声で遮られました。
「マスター!」
彼女が私を庇う様に前に出て私を引き寄せます。
サーヴァントにただの銃弾は効かないとは言え、ただ庇われる私自身に不甲斐なさを感じながらも彼女の身体の隙間から銃を持った相手を見る。
其処には、黒い布で顔を隠した中国拳法家の様な服装を身に付けた男女5人が私達に拳銃を向けていた。
幾らこちらにサーヴァントが居ても私自身が撃たれれば死んでしまう。ならば此処は撤退するべきと思い一歩後退りすると
「マスター、止まって下さい。囲まれています。」
「えっ…」
ルーラー殿が私を制しながらそう言いました。後方を見ると確かに銃を構えた者達がさらに4人、拳銃を持ち構えていた。
視野が確保しづらい暗闇の中10人近い敵の包囲網を抜けるのは至難の業だろう。
ならばこそ、どうやって切り抜ければいいのか?そんな事を考えていると相手側の一人、が大声で話しかけて来た。
「你们是魔法师,你们属于哪里,为什么在这里?」
何だこれ中国語か?私は中国語は分からない。
此処はどうするべきか、下手に答えたら狙撃されるかも知れない。
今はルーラー殿が居るから良いものの、一人だったなら間違いなく恐怖で動けなくなっていただろう。
…もし戦うとなった場合私には戦う為の魔術はありません。
右眼にある魔眼も其処まで強力な物でも有りませんし、ここまで一人一人が離れていると効果があっても一人か二人でしょう。
ならば此処は私達は敵意を持ってない事を示して、対話に持ち込むしか無い。
そう思い私は、両手を上げました。
「私は中国語を話せません。どなたか日本語か英語を話せる方はいらっしゃいませんか?」
私がそう呼びかけると、先程の方とは別の方が前に出た。
「貴様ら魔術師だろ、何処の所属の者だ、何故此処に居る?」
「…私達は聖堂教会の物です。この地にて聖杯戦争の管理者として派遣され、街を警備しております。」
「……なるほどな、それなら我々としても無駄に聖堂教会と事を起こすつもりは無い。……だが、それは貴様に令呪とサーヴァントがなかったらの話だ。今の貴様の言葉を我々が信じるとでも?」
あぁ…どうしよう。彼らの言う事は至極真っ当、幾ら戦う気が無いと言っても参加者になってしまった私を信じるわけがない。
「……確かに貴方の言う通りです。ですが、私は街を守る為だけに最善を尽くすつもりです。私に此処で戦う意志はありません。どうか信じて下さい!」
「ならばその証拠を見せろ、貴様が本当に戦う意思がないと言うのなら、令呪を使ってそのサーヴァントを自害させよ。」
「なっ……!」
「どうした?出来ないのか?」
「それは……」
確かに令呪を使えばルーラー殿に自害させる事が出来る。
だが……私は彼女を犠牲にしてまで生き残りたいとは思わない。
そんな事をすればきっと私は彼女を殺してしまった事を一生後悔してしまうだろうから、だからそんなことは出来ない。
でもどうすれば良い?どうすれば彼らを説得して、引いてもらえるのか? この状況を切り抜けるにはどうしたら良いのか……そんな事を考えているとルーラー殿が話しかけてきました。
「マスター、何も迷う事はありません。貴方は貴方の考えを貫けば良いのです。」
「ルーラー殿……」
「それに私は貴方に従うと決めたのですから貴方がそう決めたのなら私もその意見に従いましょう。ですから私に遠慮する必要はありませんし、堂々としていて下さい。それが貴方のサーヴァントとして私の願いです!」
彼女の言葉を受けて私は覚悟を決めました。
例え私がここで死んでも彼女を見捨てず己が信念を曲げない事、それがマスターである私の責任なのだから。
「すいませんが、私は彼女を見捨てる事は出来ません。」
「そうか、ならば死ね」
相手の言葉と共に放たれる弾丸、それを避ける事は出来そうにない。
私の人生は此処までかと諦める様に目を閉じました。ただ突然。
「
後方から先程とも別の声が聞こえ、瞼を貫く程の強い光が放たれました。
目を開くと私達を囲んでいた物達は目を抑え悶えている。
何が起こったか分からずにいると見知らぬ男性に手を引っ張らてその場から遠ざけられました。
「早く、逃げるぞ。」
見知らぬ男性はそう言うと私達を連れて走り出し、何とか追手を振り切る事が出来ました。
「ここまで来れば大丈夫でしょ。」
彼はそう言い足を止めると私の顔を見て言いました。
「大丈夫?怪我は無いよな?」
「はぁ…はぁ…はい、大丈夫です……助けて下さりありがとうございます。」
私は彼に感謝の言葉を伝えました。
「いや、いいよ。それより災難だったね、でもまぁ命が助かって良かったよ。」
彼はそう言うと笑顔を見せました。
ーーーーーー
それから暫くして落ち着きを取り戻した頃私は改めて彼に話しかけました。
「あの……貴方は一体……」
そう尋ねると彼は少し考え込んだ後にこう言いました。
「あぁ……自己紹介がまだだったな。私はアレクシス・ツー・アインホルン。
此度の聖杯戦争に於いては、キャスターのマスターをしている。しがない錬金術師だ、よろしく。」
「私は薬袋、黒葉と申します。聖堂教会から派遣された監視役…です。
こちらの彼女はルーラー殿、私が召喚したサーヴァントです。」
「此度は危ないところを助けて頂きありがとうございます。助かりました。」
ルーラー殿は丁寧に頭を下げながら感謝の言葉を伝えた。
「いやいや、本当、気にしないでくれ。
こっちとしてもあいつらの動きを探ってたら偶々君達を見つけてね、
見捨てるのも後味悪いから助けただけだよ。
…それにしても監視役がマスターで
「そ、そんな訳ないですよ。」
私は慌てて反論した。
いやまぁ確かに黒幕っぽい立ち振る舞いをしてるとは思うけれども!
「はは……冗談だよ、ただ君達が普通の人間には見えないから不思議でね。
何か特別な事情がありそうだけど、深く聞くのも野暮だし今は聞かないでおくよ。」
彼はそう言うと少し考える素振りを見せた後にこう言いました。
「ただそうだなぁ……じゃあこうしよう。深く聞かない代わりに、もし良かったらだけど君達と協力関係を結びたいんだけどどうかな?」
「協力関係……ですか?」
突然の提案に戸惑ってしまいます。
「そっ、協力関係。さっきも言ったけど私は訳あってあいつらを……
もっと詳しく言うとあいつらのリーダーが召喚したサーヴァント、バーサーカーを探っている。
もしバーサーカーと戦う時、私とキャスターの二人では心許ない。だから君達に手を貸して欲しいんだ。」
彼は真剣な表情で私達に語りかける。
「なるほど。……ただ、すいません。助けて貰った立場の我々ですが、私はあくまで全ての陣営と中立の立場ですから貴方方に手を貸す事は出来ません。」
私は申し訳ないと思いながらも断りました。
「そっか、それは残念だね。でもまぁ仕方ないか……ただ一言、言わせてくれ。
バーサーカーは世界を破滅させる可能性を持つサーヴァントだ。
だからもしその危険性を分かってもらえたら、全マスターに討伐令を出してくれないかな?」
彼は先ほどよりも真剣な表情で私に訴えかけて来ました。
「……分かりました。ただ私自身他の参加者を把握できてない状況ですので、
出来る限り頑張ってみますが期待しないで下さいね……」
「ありがとう、君ならそう言ってくれると思ったよ!」
私が答えると彼は満面の笑みを浮かべました。
「それじゃあ、今日はこの辺にしておきましょうか。」
ルーラー殿がそう提案すると私もそれに賛同しました。
「……はい、そうですね……それでは私達はこれで失礼致します。」
「うん、じゃあね。また縁があったら会おうか」
私達は彼に一礼した後、その場を後にしました。
ーーーーーー
「はぁ…」
薬袋達と別れた後、一人、アレクシスはため息を付く。
「聖堂教会の方に協力を仰げたら良かったけど、 ……まぁ、しょうがないか。
彼は彼で仕事で来てる訳だし、他の陣営と共闘なんて出来るはずが無いのは、分かりきってた事だよなぁ。
それはそれとして……問題はこれからどうするかだ。
バーサーカーを倒すにしても、まずは何処かしらと同盟を結ぶ必要が有るしなぁ。」
アレクシスは暫く考え込んだ後、自分と繋がった魔力が近付いて来たのに気づいた。
その方向を見るとそこには、白衣を来たキャスターが立っていた。
「あぁ帰って来てたのかキャスター、君は単独行動スキルを持ってないのを忘れて帰って来ないのかと不安だったよ。」
「いやはや、すまないね。ちょっと面白い
つい筆を執る気分で眺めてしまったのさ。
それに心配はいらないさ。帰るのを忘れて魔力切れで倒れるなんて、三流小説にもならないだろう?」
そう言うとキャスターは首元に掛けたネックレスをこちらに見せた。
「さすがはアトラス院の技術だね。コレさえ付けておけば、どれほど離れようとも魔力の繋がりが途切れない……いやはや、実に便利だ。
おかげで私は安心して"寄り道"ができる。感謝するよ、マスター。」
キャスターはそう言うと満足そうに微笑んだ。
「あぁ、こちらこそだキャスター。私が作ったそれを勝手に持ち出し、私に何も言わずに街を偵察に行って来た事について、言葉には言い合わせない程の感謝をしているよ。…ところで面白いペアとは一体誰なんだい?」
皮肉混じりに聞くと彼はニヤリと笑い答えた。
「良くぞ聞いてくれた!!
こんなに胸が高鳴るのは、いつ以来だろうか。
私の物語は、紙の上に綴られるもの。だが今、目の前には"生きた物語"がある。
かつて語り継がれた昔話が、血肉を持ち、己の意志で歩み始める――
それだけでも驚きだというのに、その隣に立つのは、人々の恐怖そのものたる殺人鬼。
まるで、光と影が手を取り合うようなこの組み合わせ。
善と悪、恐怖と希望、救済と破滅。
……これは、実に興味深い。
彼らの物語は、どんな結末を迎えるのか?
悪として滅びるのか、あるいは思いがけず英雄譚を築くのか?
それは誰にも分からない。だからこそ、この物語は面白いのだ。
私は作家であり、この聖杯戦争の語り部だ。
ならば、最後まで見届けるのが筋というものだろう?」
キャスターは嬉しそうにそう語った。
「…楽しそうにしてるとこ悪いが、つまり君に関わるサーヴァントが殺人鬼に召喚されたって事で合ってるか?」
「ふふ、まさにその通りさ、マスター。」
キャスターはそう言うと、また嬉しそうに微笑んだ。
「はぁ……マスターの一人は殺人鬼か。そんな奴は信用出来ないしな、同盟候補は一組減ったか。」
「いやいや、私はそうは思わないよ、マスター。
確かに彼は恐るべき殺人鬼だ。それは否定しない。
だが私達の最初の目的はバーサーカーを倒す事だろ?
それなら手段の一つにはマスター殺しも入ってくるはずだ。
殺しに躊躇いが無いって点で言えば、殺人鬼は適任だとは思わないかい?」
「……まぁ、君の言う事にも一理ある。」
私はキャスターの意見を聞き少し考えた後、同意した。
「それに、ライダーの彼女、あの子に騙し討ちは無理だよ。あの性格じゃ、嘘をつくのすら一苦労だろうしね。
その点で信用できるし、だからこそ、"狼を家に招く"ような真似は避けるべきなんだよ。
別の陣営と手を組むのは勿論構わないが、寝首を掻かれたら意味がない。
背中を晒して寝首を掻かれるなんて、まるで間抜けな悪役の最期みたいで御免被りたい。
相手がただの人間なら、私がどうにかしてやるさ。
でもサーヴァントが相手なら……さすがに私はそこまで万能じゃないよ、マスター?」
「……確かにそうだな。」
「だろう?なら、同盟を結ぶ方向で話を進めた方が得策だ。」
「……そうだな。ありがとうキャスター。君のおかげで最初の方針が決まったよ。」
私は彼にお礼を言った後、今後の行動について考え始めた。