Fate/Reprise 〜円環迷宮聖杯戦争〜   作:シン・丸

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雪原夢

夜の闇に沈むフランスの街で、原田元次は夢を見ていた。

それは、まるで他人の人生を追体験するかのような、不思議な夢だった。

 

凍てつく戦場。息が白く舞い、死の匂いが満ちた雪原。

 

戦場において彼はまるで機械のようだった。ただ狙い、引き金を引き、また狙う。恐怖も迷いもない。ただそこにいる敵を葬るのみ。

 

そして、気づけば彼自身が恐怖の象徴となっていた。

 

◼️◼️軍は彼の影に怯えた。死体の山が築かれ、敵は逃げ惑う。彼の一撃が戦局を変える。

 

だが、最後の瞬間——彼は標的となった。敵の執念の前に追い詰められ、弾丸が彼の顎を撃ち抜く。流れる血、揺れる視界、薄れる意識。

 

「……ぅ!?」

 

その驚愕の声とともに、夢は唐突に途切れた。

 

彼の知らない時代の、彼の知らない戦場。

だが、その感覚は、妙にリアルで――。

 

夢が醒めたとき、彼の掌には、冷たい雪の感触が残っていた。

 

 

ーーーーー

 

 心臓の鼓動が早い。喉が渇いている。額には汗が滲み、寝起きの頭は妙な重みを感じていた。

 

 ——妙に鮮明な夢だった。

 

 戦場の冷気、硝煙の匂い、そして、自分の手を通じて奪われていく命の感触。

あれは単なる夢か? それとも——。

 

 深く息を吐きながら、ゆっくりと身体を起こす。カーテンの隙間から僅かに朝の光が差し込んでいた。

 

(……なんだ、この感じは)

 

 ただの悪夢、そう思うこともできた。しかし、身体の奥に残る戦場の記憶のようなものが、それを否定する。

無意識に右手の指を曲げる。引き金を引く感覚がまだ残っている気がした。

 

 ベッドから降り、無言で洗面所へ向かう。蛇口を捻り、冷たい水で顔を洗うと、わずかに意識がはっきりした。

 

(……一体、私は何を見たんだ?)

 

 深く息を吐き、頭を振る。考えても仕方がない。今は、日常を続けるだけだ。

そう思いながらリビングへ向かうと、すでにアーチャーがそこにいた。

 白い衣を纏い、窓際に立っている。朝の光を背にした彼の姿は、妙に幻想的に見えた。

 

 そして——彼は、こちらを振り返ることなく、低く呟いた。

 

「……夢を見たか?」

 

 その言葉に、元次の足が止まる。

 

 心臓が、一瞬だけ跳ねた。

 

「何故そう思う?」

 

 落ち着いた声で問い返す。

アーチャーはゆっくりと振り返り、彼を見た。

赤い瞳。まるで全てを見透かすような、その眼差し。

 

「……お前の顔が、まるで"死にかけた男"のようだったからな」

 

 淡々とした口調だった。しかし、その言葉は妙に鋭く、元次の胸に刺さる。

"死にかけた男"。

 確かに、夢の中の自分は 顎を撃ち抜かれ、視界が揺れ、血の匂いに包まれながら意識を手放した——。

 

(……まさか)

 

 元次は、アーチャーを見つめた。

彼はサーヴァントだ。過去に生きた英雄、英傑。ならば、私が見た夢は——。

 

「……私が見た夢は雪原の戦場だった。あなたに心当たりはあるか?」

元次は、静かに問う。

アーチャーはしばらく沈黙していたが、やがて静かに口を開いた。

 

「マスターは夢として契約したサーヴァントの記憶を見る事が有るらしい。逆も然り、だ。」

 

 淡々とした口調だった。そこに感情はなく、ただ事実を述べているに過ぎないと言うように。

 

「つまり、あれは……あなたの記憶だと?」

 

 元次の問いに、アーチャーはわずかに目を細めた。窓から差し込む朝の光が、彼の横顔を照らす。静かで、冷ややかで、どこか遠い光景を見ているような表情だった。

 

「さあな」

 

 彼は肩をすくめ、どこか皮肉げに口元を歪める。

 

「お前が見た光景が、俺の記憶と一致するかどうかは知らん。ただ……戦場の夢を見たというなら、それが俺のものだとしても、何ら不思議ではない」

 

  元次は、静かに息を吐いた。

 戦場の冷気、硝煙の匂い、そして——。

 夢の中の自分は、まるで訓練された兵士のように、躊躇なく引き金を引いていた。

 だが、夢の最後、銃口がこちらへ向けられたとき——確かに“死”を覚悟した。

 

  元次は、無意識に拳を握る。

 自分が見たものは、ただの夢なのか。あるいは——。

  窓の外、朝の陽光は穏やかだった。

 だが、胸の奥に広がる違和感は、決して晴れそうになかった。

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