Fate/Reprise 〜円環迷宮聖杯戦争〜 作:シン・丸
プロローグ1/社会不適合者
ーーーー聖杯戦争ーーーー
それは過去に生きた英雄を、自らの使い魔にして競い合わせる儀式。
聖杯に選ばれた七人のマスター達は、それぞれ英霊と呼ばれる過去に活躍した英雄を召喚し、最後の一人になるまで殺しあう儀式。
かつて極東の地、日本の冬木市で行われたとされる、聖杯戦争。
しかし、第三次聖杯戦争にてナチス軍により強奪された聖杯の行方は知れず、聖杯戦争の基盤を失ったまま、ただ世界各国で儀式だけが続けられていた。
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ここはフランスの都市、アイヴェール・ニューの市内。
石造りの街並みは、整然とした佇まいに整備された都市ながら、どこか落ち着きの無さを匂わせている。
ここ1年連続殺人鬼が都内を騒がせている所為もあるだろうが、それ以上にこの都市は、どこか本来あるべき生活のリズムを乱されているように感じられた。
しかし現実は私の事など気にも止めずに、一日一日と時間は過ぎ去っていく。
「はぁ………」
この都市で働くサラリーマン
季節は初冬。肌寒くなり始めた街中を、私はいつもよりも遅めに自宅へと向かっていた。
「はぁ……全く、なんであの程度のミスをする」
イライラが募り愚痴をこぼす。今日はさっさと帰れるはずであった。もともと自身のノルマは殆ど終わっていた。せいぜい半日もあれば今日の作業を終え悠々と帰れていた筈だった。だというのに部下がミスを犯しその尻拭いにここまでかかってしまった。厚意でやったわけではない。放置して置くとより大きな問題となって降りかかり痛い目を見るのは目に見えていたから芽を摘んだに過ぎない。全く腹ただしい時間の無駄だった。
愚かな部下への愚痴が口から洩れる。
私の口から洩れた愚痴は内容と相反する様に白く、外気との温度差ですぐに掻き消えた。
空を見上げると、日はとっくに暮れていた。
満月だったはずの月は雲に隠されてしまい、星の光でしか辺りを確認することが出来ない程に暗くなってしまっている。
それに反して街の明かりは普段よりも増して行き、あちらこちらでは夜間営業の店舗が賑わい始めていた。
自分とは不釣り合いな、賑わい。
私がこの街に来たのは2年前。
仕事の出来る私を日本支部から、フランス支部へ出向という言葉だけ聞けば聞こえは良いが要は定のいい厄介払いをされやって来た。
例え仕事が出来ても人付き合いが大嫌いな私は、居ると職場の雰囲気が悪くなるらしい。
私は別にそれでも構わない。むしろその方がいい。
無駄口など無く静寂なオフィスは仕事を効率良く行うのに何よりも適している。
しかし、私の上司はそうは思わなかったらしく、私を日本から追い出したわけだ。
そんな私がこの街でする事など何もない。
趣味も無いし友人もいないそんな私は、仕事が終わればすぐに帰宅し、休日も家に籠りきっている。
「……ん?」
駅前のネオンに輝く道の途中で足を止め眉をひそめた。毎日のように歩く見飽きた道だ。だというのに通った瞬間に肌を刺すような奇怪な感覚が身体によぎった。刃物を向けられているかのような危険の予兆。それでいて、どこか懐かしい。
「これは、魔術の気配か」
この感覚には以前覚えがあった。祖父の家の奥にあった古い倉庫。他の親戚は一切入れなかったのに私だけは入ることを許された祖父……そして私の秘密が隠されていた数少ない思い出の場所。その倉庫の中の感覚と似通っていた。
ということはどこかで魔術が行使され、それを私の中の魔術回路が感応を起こしているのだ。
「……だとして私になんの関係がある」
少し立ち止まるもすぐにまた家路につく。例えこの街の何処かに魔術師がいて魔術を行使していたとして私にはなんの関係もない。
その世界は私の祖父の更に前の時点で途絶えている
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そうこうしている間に家に辿り着いた。
築50年は経つであろう、古いアパートメント。
その2階の角部屋が、私の家だ。
「ただいま」
私は誰も居ない家にそう呟くと、靴を脱ぎリビングへと足を進めた。
「ふぅ」
私はリビングの電気を点け、コートを脱いだ後冷蔵庫から缶ビールを取り出してソファに腰をかけた。
ビールを飲みながらテレビをつけニュースを観る、しかし内容は全くと言っていいほど頭に入ってこない。
気にしない様にしていたが、頭の中には例の魔術の感覚のことだけが頭の中にこびりついてた。
昔から人と馴染めなかった自分に唯一優しく接した祖父との思い出……それが忘れようとしても忘れられず懐かしんでしまう。
「そういえば祖父の遺品があったな」
ふと思い出した。
祖父は大学生の頃に亡くなった。老衰だった。その後、遺産整理で祖父にとって城とも言える倉庫も死後開放された。祖父は収集癖があったようで骨董品を大量に収蔵されており、その大半は親戚によって売り払われてしまったが、倉庫にあったいくつかは私の手に収まったのだ。
祖父の事を思い出しながら戸棚の一角に置かれた段ボールを見る。それは引越しの際持ってきた数少ない物の一つ、確かその中に祖父の遺品も少し収められていた。
懐かしい気持ちに駆られたのか思わずその遺品を探してしまう。
遺品の大半は古書であった。祖父いわく原田家の先祖が書き溜めた魔導書とのことだが骨董屋からは無価値なものとしか思われなかった。しかし、私にとっては祖父が嬉しそうに私に語る姿を思い出せる数少ない思い出となっていた。
「ん? なんだこれは」
そんな古書を引っ張り出していると奥に木箱が眠っていた。手のひらに収まるほどのそう大きくない箱だ。こんな物入れただろうかと疑問に思ったが酒によった勢いか、なんとなしにその箱を開ける。
「……これは」
中に入っていたのは金属出てきた板のようなものだった。形は細長く、紐を通すような穴が端にある。表面には何やら数字が刻まれている。
「っ!」
それを見た瞬間、体が突然震えた。まるで沼に手を突っ込むかのような不快な感覚。けれどもその感覚に俺は目を見開いた。この感覚は私はよく知っている。それは頭が……魔術回路が起動する感覚だからだ。
「な――」
驚愕を他所に魔術回路は熱を浴びる。祖父といたときでも見せぬ魔術回路の咆哮。身体の主である私を無視して今この瞬間のために輝くかのごとく歓喜の声を上げ始める。
魔術回路はアパートの窓からあふれるんばかりの輝き――。
「――っ!」
瞬間、光が爆発する。
部屋に衝撃が走り、酒の缶が吹き飛び、私も体勢を崩し床に倒れ込む。
「な、何が――」
思わず呟きながら自室を見渡す。部屋は謎の衝撃でホコリが舞っていた。仕事のカバンは壁まで吹き飛び、祖父の古書が散乱している。そんな荒れた部屋の中央に人影が見えた。小柄で肩にかかる程度の灰色の髪。全身を雪原を思わせる白い服を着ている男。彼の左頬には大きな傷があり――。
「――っ」
その人影が放つ視線に私は思わず絶句する。まるですべてを射抜くような赤い瞳。それが私に向いていた。一歩でも動けば死が待っている……それが比喩でもなんでもない。狩人の目をしている。
その男はじっくりと無様に倒れ込んでいる私を見るとゆっくりと近づいてくる。そして顔に見合わぬ野太く、そして自信を持った声で尋ねてきた。
「サーヴァント アーチャー 今問おう お前が少尉のマスターか」