Fate/Reprise 〜円環迷宮聖杯戦争〜 作:シン・丸
「…………外に出る、といった話ではありませんでしたか? メア。
わたしの目には就寝の準備をしているようにしか見えないのですが」
「外に出るために眠るんだよ。私はそういう魔術師でね」
あれから多少の情報交換──互いの能力や知識について──を経た頃には、既に日は没しかけていた。
夕食、入浴を経たモルフィメアは就寝用のネグリジェに着替えた後、天蓋付きのベッドへと潜り込んだ。
「…………この寝所、何らかの呪を施しているようですね。結界ですか?」
「まあね。私の魔術を使って行動すると肉体は無防備になるから。
防護は出来うる限りのものを用意してるよ。屋敷全体を工房化してるからね」
「なるほど。承知しましたが…………人間相手ならばともかく、サーヴァントを相手取るにはまだまだ守りが不安と見ました。少々助力しましょう」
セイバーは天蓋へと自身の手を翳し、その名を呟いた。
「我がマスターを守り、隠せ【
その名が響くと同時に、天蓋の中に黒黒とした闇が満ちる。
「え、えっ。セイバー、何これ」
「我が末子の神力の一部を借り受けて行使しました。眠りを促す夜の帳ではなく山嶺の峡谷に満ちる闇になりますが…………貴女を守り、隠す闇としては充分でしょう。メア」
「うわー…………さらっと神代の神秘を行使しないでほしいなー…………
いや色々と興味深くは…………あるんだけど…………」
徐々に小さくなる呟きと共に、モルフィメアの精神が眠りに沈んでいく。
やがて。
「──うん。肉体からの離脱完了。お待たせ、セイバー」
幽体離脱、と世間では呼ばれる現象を魔術によって体現し、モルフィメアは精神だけの形態となってセイバーへと歩み寄った。
「これでお互い霊体というわけですか。とはいえ、相手が人間なら手出しは難しいかもしれませんが、同じ霊体のサーヴァントの攻撃は通ります。下手をすれば実体よりも効きが良くなるかもしれません。くれぐれも注意を」
「はいはーい。厳重に警戒しますっ。でも心配はしてないよ。セイバーがいてくれるしね」
「──ええ、そうですね。あなたに迫る危機はわたしが斬り捨てましょう」
セイバーはそう言って自らの主に手を差し伸べる。
モルフィメアは微笑みながらにその手を取った。
「──では、初陣になりますね。周囲に気を払いながら探索とゆきましょう」
そう言うとセイバーは、私を持ち上げ飛んでいく
「え、ちょ、浮いてるっ。浮いてるよ飛んでるってセイバー」
「霊体ですし、不思議でもないでしょう? 不安なら掴まっていてくださいね、メア」
「うへぇ…
宙へ舞い、壁をすり抜け、日の落ちきった空へと霊体になった二人は舞い上がる。
──こうして聖杯戦争の舞台に新たな主従が参戦する。
二人は微笑みと共に、夜空へと飛び込んでいった。
「最初は軽く全体を見て回ろうか。情報収集は大切だからね」
「わかりました」
セイバーの返事に頷いてから、モルフィメア・ルゲイエスは宙を移動しだした。
霊体化により足音などは立たないが、もし仮に誰かに見られていた場合を想定すると速やかな移動が求められるだろう。
なにせ虚空からの来訪者など恐怖以外の何物でもないのだから。
(……私が見つかった時点で手遅れな気もするけどね)
そんな感想を胸中に抱きながら、モルフィメアは宙を滑るように移動していく。
そのまましばらく移動を続け、郊外の森に辿り着いた頃だった。
「……うーん」
モルフィメアは周囲を見回しながら、困ったように呟いた。
「どうしたのですか?」
その呟きを聞き取ったセイバーが問いかける。
すると彼女は苦笑しながら口を開いた。
「……いやね? なんかこう……霊脈の流れが悪いな〜って……」
「霊脈の乱れですか?」
「うん……まあそこまで深刻なものじゃないんだけどね」
と前置きをしてから続ける。
「どうもこの辺りだけ魔力の流れがおかしいというか、密度が低いというか……」
そう言いながら周囲を眺める。
確かに彼女の言う通り、霊脈の流れが僅かに歪んでいる箇所がいくつかあった。
だがそれも誤差程度の違いであり、特に大きな問題にはなりそうにない。
「……まあ、単に土地そのものの質が落ちてきてるって感じかな? んー……
一応調べておいた方がいいかもねぇ」
そう呟きつつ彼女は、土地を調べようとしたが後ろの方から聞こえる大声でその動きを止めた。
「うははははぁ!まさか、まさか、こんなにも早くサーヴァントを見つける事が叶うとはっ!
しかも剣を持ってるな、なら貴様はセイバーか! いきなり最優のセイバーと相対するなんて、ウチらってば、ついてるねぇ!マスター」
「ちょ、ちょっと!そんな大声出したらバレちゃうじゃ無いか!ランサー」
「……あちゃぁ……見つかっちゃったかな」
振り返って見ると、そこにいたのはいかにも豪快な性格の三国志を思わせる格好の少女と、なよなよとしたメガネの男性だった。