Fate/Reprise 〜円環迷宮聖杯戦争〜 作:シン・丸
「あちゃぁ……見つかっちゃったかな」
私は、目の前にいる二人組を前にそう呟いた。
目の前には二人分の人影が見える。一人は、オレンジ髪に露出度の高い三国志を思わせる格好をしたランサーと呼ばれた少女。もう一人は、メガネをかけた茶髪の白人男性だ。
「……それで、貴方達は一体どちら様で?」
私は彼らに向けて問いかける。
すると、ランサーの方が答えた。
「んー? お姉さんこそ誰さ。
霊体化してるけど、サーヴァントって訳じゃ、ないよね」
そう言いながら彼女は薙刀を構える。どうやら戦闘態勢に入ったようだ。
それに対してもう一人の男性の方は焦った様子で制止の声を上げた。
「ちょ、ちょっと待ってよ!まずは話し合いをしようよ。ランサー」
(……なんか気弱そうだなこの人)
なんて思いながら見ていると、ランサーの方が口を開いた。
「あのなぁ、マスター!聖杯戦争については、教えただろう? サーヴァントは敵だ。出会ったら即戦闘、これが基本だろうが」
「いや、でもさ……もしかしたら、何か理由があって巻き込まれた人かもしれないじゃないか。それを聞いてから、話し合ってみて……」
「……あのなぁマスター。そんなん理由になるわけねぇだろう? それにな。もし仮にどんな理由でも、ウチには関係ないね! だって、ウチは強い奴と戦いたいもん!」
でもね……… なんだよ…………
わーわー……きゃーきゃー………
(うーん……なんか勝手に盛り上がってるなぁ)
そんな二人のやり取りを遠目に見ながら私は考える。
マスターの彼は、好戦的性格では無さそうだし、ランサーの彼女もまだ話が通じそうな雰囲気がある。
私としても、此処には戦いに来たわけじゃ無い。
私の目的は、他の魔術師やサーヴァントの情報を集める事であって、戦ったりする事ではない。
出来れば、話し合いで解決したいところだけれど……
セイバーの方を見ると彼女も困ったような表情を浮かべている。
どうやら彼女も同じ事を考えていたようだ。
……さて、どうしようか? と考えていると、ランサーのマスター方が話しかけてきた。
「ねえ、君たち。お互い争うつもりは無いようだし……とりあえず今回は、話し合いで解決できないかな?」
「……ええ。そうですね……私も出来れば、そうしたいのですが……」
「うん!なら決まりだね!」
そう言って彼はニッコリと笑った。
彼の笑顔はとても純粋で良い人そうだ。ただ、魔術師としてはどこか隙がありすぎるというか危機感が足りないように思えた。
(うーん……まぁでも、悪い人ではなさそうだし)
私は、彼の雰囲気にあてられたのか、近づいてくる彼に警戒する事無く、そのまま……
ザァンと、鋭いトカゲの様な爪が私に向かって振り下ろされた。
「マスター!危ないッ!!」
セイバーが叫ぶと同時に、私も咄嗟に後ろへ下がる。
だが、ほんの僅か遅かった。
私の右肩から胸にかけて袈裟斬りに赤い鮮血が流れる。
「……え?」
突然の出来事に頭が追いつかない中、目の前で起こった出来事を理解した時には既に遅く……
グサァ
「ぐぁ……はぁ……」
「ヒヒッ!この爪で切り裂いた感触……いいね。これはいいぃい!」
「何だよマスター!結局、
「あぁ…やっぱセイバーは、潰した方がいいからなぁ」
目の前の異形の怪物は私の血が付いた自身の爪をペロリと舐めながら、ニタニタと笑った。
さっきまではアリンコ一匹殺せない様な、無害そうな男だったのに……
その目はまるで飢えた獣のように、その爪はあらゆる肉を咲く様に鋭く、その牙は肉食獣の様に荒々しく、その手足は恐竜の様な姿に……その化け物は、ただ眼前の獲物を貪る為に動く。
「はぁ…はぁ…完全に油断した……まさか、霊体化した身体に当てられるなんて……」
「マスター!下がってください」
セイバーが私の前に立つ。
それと同時に、怪物の爪が今度は彼女を狙った。
だが、彼女はそれを難なく避けると、そのまま反撃に転じた。
「せいッ!!」
彼女の剣撃は確実に相手の急所を捉えていた。
しかし……
「うへへぇ……いいねぇ……その殺意に満ちた目ぇ!」
「……!?」
(切れない!?)
首筋に当てられた剣は、怪物の骨を断つことは叶わず、強靭な首肉に防がれた。
怪物は首に刺さった剣を押さえ付けセイバーが剣を引き抜くのを防ぎながら、そのまま空いた手で彼女の腕を掴もうとしたが
セイバーはそれを華麗に回避した。
だが、そのタイミングを待っていたと言わんばかりに、ランサーが襲いかかる。
「ハッ!隙を見せたなぁ!」
薙刀の穂先が彼女の横腹に突き刺さる。
「ぐぅっ………」
だが、それでも彼女は怯むことなく反撃した。
「…我が手に雷を【
そう言うとセイバーの手元に落雷が起き、彼女の手には先程までと、
違う形の剣があった。
その剣は、彼女の魔力と呼応してか、 神々しい光を放っている。
「穿て……【
セイバーが呟くと同時に、彼女は剣を横薙ぎに振り抜いた。
すると……
ズガァン! 凄まじい雷轟と共に、その剣から放たれた一撃は、 まるで空間ごと焼き焦がすような光を放ちながら目の前のランサーと化け物へと迫り行く。
「うおおおぉ!!?」
「な!?チッ!!」
慌てて回避行動をとる二人だったが間に合わずそのまま直撃。轟音と共に周囲の地面が抉り取られる様な勢いで吹き飛んだ。
その威力に思わず絶句する私だったが、セイバーは淡々とした様子でこちらを振り返った。
「怪我は大丈夫ですか?メア」
「……うん、大丈夫だけど……」
私は立ち上がりながら答えると彼女はホッとした様に微笑んだ後、再び敵へと向き直る。そしてそのまま剣を構えた。
「やはり……そう簡単には倒せませんか……」
そこには、先程の攻撃でダメージを受けながらも、未だ健在な様子の男とランサーが立っていた。
「ハッ!……今のは効いたぜぇ……」
「……はぁ…はぁ…はぁ」
ランサーの目にはまだ消えぬ闘志が宿っていたが、男の方は、さっきまでの敵意を感じさせない、なよなよとした雰囲気に戻っていた。
「……ランサー、撤退するよ。さっきの一撃は流石にまずい」
「はぁ?何言ってんだよマスター!せっかく楽しくなってきたってのに、ここで退くなんて勿体無いだろう?」
「いいから早く!」
「チッ……わかったよ」
ランサーは舌打ちすると男を抱え、森の中へと消えていった。
セイバーはそれを見届けた後、こちらに向き直り口を開いた。
「……とりあえず、傷の治療をしましょう。メア」
セイバーはそう言って、私の傷に手を当てた。すると、彼女の手が淡く光り出したかと思うと、みるみるうちに傷が癒えていくのを感じた。
「ありがとう。セイバー」
私は礼を言うと彼女は微笑みながら答えた。
「いえ……それよりも今は、あの者達について考えるべきでしょう」
「……そうだね」
確かにその通りだ。
身体を異形に変化させる魔術自体は、時計塔に所属する魔術師にも使える者はいるが、恐竜の様な姿に変化させるなんて芸当は見た事がない。
セイバーの攻撃を受けてなお、生き残った生命力の強さ、別人になったかのような性格の豹変。
考えれば考えるほど、謎は深まるばかりだ。
そんな私の思いを知ってか知らずか、セイバーは再び口を開いた。
「とりあえず拠点に戻りましょう。そこで今後について話し合うべきだと思います」
私は頷きながら答える。
確かに、この場所ではゆっくり考える事も出来ないだろうと思い、私達はその場を後にした。