Fate/Reprise 〜円環迷宮聖杯戦争〜   作:シン・丸

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お仕事始めました

(何でこんなことに……)

 

俺がそう思っていると昔の村娘の様な服装に着替えたライダーにモップを渡される。

 

「はい、一緒に頑張りましょうね」

「……あぁ……」

 

俺はそれを受け取った。そしてそのまま黙々とモップ掛けを続けた。

どうしてこんな事になっているのか……それは今から数時間前に遡る事になる。

 

ーーーーー数時間前ーーーーーー

 

アイヴェール・ニュー 廃墟街

 

 ライダーと名乗った女を召喚して3日が経った。

俺は、ライダーを召喚した場所を拠点と定め、霊脈に近い廃墟に居を構えていた。

 

「おい」

 

 俺は目の前で座りながら本を読んでいるライダーに声を掛ける。

すると読んでいた本から顔を上げ、俺に視線を向けた。

 

「はい、なんでしょう?」

「ちょっと良いか?」

 

俺はそう聞くと、ライダーは読んでいた本を閉じこちらに向き直った。

 

「はい何でしょうか?マスターさん」

「その『マスター』っての止めてくれねぇか?何かムズムズして仕方が無いんだが……」

 

俺は素直に思った事を口にすると、ライダーはキョトンとした表情を浮かべると言った。

 

「じゃあ何てお呼びすれば良いんですか?」

「……ベートでいい」

 

俺がそう言うと女は少し考え込んだ後、笑顔で言った。

 

「はい、分かりましたベートさん。それで御用は?」

「ああ、お前の事についてだ。まずお前の目的は何なんだ」

 

俺がそう問うと、ライダーは少し困った様な表情を浮かべた後答えた。

 

「目的と言われましても……私自身は聖杯に望みなど無いですし……」

 

その答えを聞いて俺は頭を抱えた。

 

「…そんな訳ねぇだろ。お前が言った話じゃ、聖杯戦争に呼ばれるサーヴァントは、己が願いの為、聖杯を求めているサーヴァントだけって話だろ」

 

俺がそう言うとライダーは、再び困った様な表情をして答えた。

 

「ええと……そうですね……強いて言うなら子供の……いえ、誰かの夢を守りたい。でしょうか?」

「……何だそりゃ。」

 

俺は思わず呟いた。意味が分からない……いや、言葉の意味は理解できるが、なぜそんな事を思うのか理解できない。

 

「ベートさんは無いのですか?何か叶えたい願いとか、やり残した事とか。」

「……聖杯で……死んだ者を生き返すって出来るのか。」

 

俺は少し考えてから口を開いた。

 

「それは……擬似的な物は出来るかも知れませんが……完璧な死者蘇生を行うのなら、魔法使いと呼ばれる人々の力が必要になると思います。」

「そうか…じゃあ願いは特にねぇな」

 

俺は正直に答えたが、女は少し不満げな表情を浮かべた後に言った。

 

「では……何か夢とかは無いのですか?例えば……誰かを守りたいだとか、何かをしたいだとか、些細な事でも…」

「ねぇな」

 

即答する俺にライダーは驚いた表情を浮かべると言った。

 

「えっ夢も無いんですか!?本当に?」

「あぁ。今はそんな上等な物、見れる余裕がある生活してないからなぁ」

 

俺がそう言うと彼女は残念そうな表情を浮かべながら言ってきた。

 

「……そうですか……それは残念ですね……」

 

そんな彼女を見て俺は思った。こいつは、こいつこそ自分の為より他者の為に動く人間なのだと……誰かさんに似て……

 

「それじゃあ私は、ベートさんに夢を持ってもらう為生活環境の改善を……あっそういえば……」

 

突然ライダーは何かを思いついたように呟くと、こちらを向いて聞いてきた。

 

「ベートさん、お仕事は大丈夫ですか?」

「……は?仕事?」

「はい、ここ3日間、私にばかり、時間を割いてしまっていますから……何かお仕事をされているのでは?」

「いや別に何もしてねぇよ。」

 

俺がそう言うとライダーは再び、驚いた表情を浮かべた後言った。

 

「えっ?それじゃあ、今までどの様に生活していたのですか?」

 

 俺は、その質問に対して答えに詰まった。

人を殺して金品を奪って生活していたなんて馬鹿正直に言えるわけがない。

俺は、何とか誤魔化せないかと思考を巡らせるが、良い案は一向に出てこない。

そんな俺にライダーは助け舟を出した。

 

「もしかして……ホームレスでしたか?」

「……ま、まぁそんな感じだ。」

 

ライダーの不躾な質問に俺は戸惑いながらも答える事しかできなかった。すると彼女は言った。

 

「そうですか……じゃあお仕事を探しに行きましょうか!」

「……は?…何でそうなるんだよ!」

 

そんな俺の言葉を聞かずにライダーは俺の手を取った。そしてそのまま何処かへと連れて行かれる。

 

「ちょ、ちょっと待っ」

 

俺は静止の声を掛けようとするが女の耳には届いていなかった。

 

ーーーーーー 彼此あって数時間後ーーーーー

 

「ベートさん、良かったですね。こんなにも早くお仕事が見つかるなんてラッキーですよ」

 

彼女は笑顔で話しかけてきた。

 

「何で俺が……こんな面倒な事を……」

 

そう言いながら俺は、手に持ったモップで床を拭きながら不満を漏らした。

 

「もう、そんな事を言わないで下さいよ、ベートさん。私も一緒に働きますから。ねっ?頑張りましょう!」

「…何でお前まで一緒に働くんだよ。お前はさっさと帰ってろ」

 

俺がそう言うとライダーは頬を膨らませて言った。

 

「それは無いですよベートさん!私は貴方のサーヴァントなんですよ?貴方を守るために居るんですから、一緒にお仕事をするのは当然です!

それに私お掃除は得意なんですよ!」

 

そんな彼女の態度に俺はため息を吐いた。そしてそのまま彼女に背を向けると言った。

 

「勝手にしろ……」

 

するとライダーは嬉しそうに答えた。

 

「はい!勝手にさせて頂きます!」

「はぁ……」

 

俺は、そんな彼女を見て再びため息を吐く。

 

「ベートさん、ため息ばかりついてると幸せが逃げますよ。ほらっ笑顔笑顔」

 

ライダーは俺の顔に触れると自分の方に顔を向けさせた後、俺の頬を引っ張ってきた。

 

「……ひゃめるんだ」

 

俺は抗議の声を上げながら女を見る。しかし彼女は楽しそうに頬を引っ張る力を強めるだけだった。

 

「やめふぉ」

 

そんな俺の抗議の声を無視しながら、ライダーはさらに引っ張り続ける。

そしてついには痛みで涙目になった俺を見て満足したのか彼女の手は離れた。

 

「ふふふっベートさん可愛いです」

 

ライダーは相変わらずの笑顔を向けてくる。俺はそんな彼女にうんざりしながらも諦めの境地で黙々とモップ掛けを続けた。

 

ーーーーー

 

 

「……疲れた」

 

俺は、仕事帰りの道中で呟いた。今日一日中、ライダーに振り回された俺は疲労困憊だった。

 

(何であいつはあんなに元気そうなんだ)

 

目の前で楽しそうに歩くライダーを見て、見てその様に思っていると、視線に気付いたのかこちらを向いてきた。

 

「?どうかしましたかベートさん?」

「……なんでもねぇ」

 

俺がそう答えると彼女は首を傾げながら聞いてきた。

 

「そうですか……ところでどうでしたお仕事の感想は?」

「……疲れた……」

 

俺の言葉を聞いてライダーはクスクスと笑った後言った。

 

「ふふっお疲れ様です」

「誰のせいだと思ってんだよ……」

 

俺は、ため息を吐きながら言った。するとライダーは笑顔を浮かべながら言ってきた。

そんな彼女の様子を見て俺は再びため息を吐いた後言った

 

「……まぁいい……飯買って帰るぞ」

「あっそれならバイトの先輩にカスクートなるものを頂いたので、それを食べましょう」

「なんだそれ?」

 

俺が聞くとライダーは、笑顔で答えた。

 

「はい!パンにハムやチーズを挟んだ料理です。とっても美味しいらしいですよ!」

 

そんな女の言葉を聞いて俺は少し興味を持ったのだがライダーの手元を見ても何も持ってない。

 

「お前頂いたって言ったがそれ今持ってるのか」

 

俺がそう聞くと女は、笑顔で言った。

 

「はい!ちゃんとここに……」

 

女は自分の手を見るがそこにカスクートを入れた袋がない事に気づくと、少し悲しげな表情を浮かべて言った。

 

「あれ?おかしいですね……」

「お前まさか……」

 

俺がそう言うと女は気まずそうに言った。

 

「……はい……ビルに忘れてきちゃったみたい……です」

「はぁ……」

 

俺は思わずため息を吐く。するとライダーは申し訳無さそうに謝ってきた。

 

「すいません、すぐに取ってきますね!」

 

そう言って止める間もなく駆けだしていった。

 

「あっ……ったく、あいつは」

 

 そんな女の後ろ姿を見て、俺は再びため息を吐いた。

そのまま俺は近くの壁に背を預ける。

俺はそのまま目を閉じようとした時不意に見知らぬ声が語りかけて来た。

 

「だいぶお疲れの様だね。殺人鬼。」

 

俺は慌てて目を開く。

そこには白衣を身に纏い両目を前髪で覆い隠した白髪の青年が立っていた。

俺はナイフを手に持ち、いつでも殺しに行ける体制で警戒する。

 

 

「そんなに怯えなくてもいい。私は魔女でも鬼でもないし、君を傷つけようとは思っていないよ。もっとも、人喰い狼のように騙そうとしていると見えるとしたら、それは私の不徳の致すところだがね。」

 

そんな俺に対して青年は笑いながら言った。しかしそんな言葉を簡単に信じるほど俺は馬鹿ではない。

だから俺はいつでも動けるように構えながら質問する事にした。

 

「ならお前は何者だ?どうしてここに居る?」

 

俺がそう聞くと青年は答えた。

 

「私かい?私はただの作家だよ。」

「作家だと?」

 

俺は訝しげに思いながらも警戒を怠る事なく尋ねる。すると青年は笑みを浮かべながら言った。

 

「そう、作家さ。だが、現代の人々が知るような作家ではない。物語を生み出しながら、いつしか物語に取り残された語り部さ。もっとも、今の私には別の名がある。"キャスター"……そう呼ぶのが適当だろう?」

「…キャスターだと?」

 

 ライダーから聞いた聖杯戦争の知識を思い出す。

魔術師(キャスター)。陣地作成スキルより自身に有利な陣地を作る能力に長けていて、自陣での防衛戦に特化している。

その反面、他のサーヴァントに対しては白兵戦能力が大きく劣る事が多く、この様に相手陣営の目の前まで乗り込む事はしないはず。

わざわざ目の前まで出て来たという事は、何かしらの策があるのか。

俺は目の前にいる男に警戒しつつも質問する。

 

「ならお前は敵なのか?」

 

すると男は笑いながら言った。

 

「違うさ。私はただ、舞台の幕が上がるのを見守る観客に過ぎない。君達がどんな筋書き(ストーリー)を描くのか、それに興味があるだけなんだよ。」

「ストーリーだと?」

 

俺は眉を顰める。この男は一体何を言っているんだ? すると男は言った。

 

「そうとも。物語とは、書き手の手を離れてなお、生き続けるものだ。

サンドリヨンと青髭男爵が手を取り合う──そんな光景を誰が予想しただろうか?

ならば、私もまた新たな物語を書かねばならないだろう。君達の手で紡がれた、この予想外の結末を記すためにね。」

 

男は嬉しそうに話す。その姿からは悪意や敵意は感じられない。むしろ好意的ともとれる態度だ。

だが、だからと言って油断はできない。こいつはキャスターだと名乗った……つまり何かしらの魔術を持っている可能性が高いのだから。

そんな俺の思考を見透かすかのように男は言った。

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ、言っただろう。私はただ自分の趣味と好奇心を満たすために来ただけなんだから」

 

「なら、その趣味と好奇心に殺されないうちに、さっさと失せな」

 

俺がそう言うと男は笑いながら言った。

 

「おやおや、そんなに睨まないでくれたまえ。私としても、牙を向けられるのは好ましくないからね。まあ、今日はこれで失礼するよ……ただ、その前に、一つだけ忠告をしておこうか。」

 

男はそこで言葉を区切ると真剣な眼差しで俺を見て言った。

 

「無策な遠回りをしては駄目だよ。私の物語には、困った人を助けるお人好しの猟師は居ないのだから。」

 

それだけ言うと、男は背を向けて去って行った。

俺はその後ろ姿を黙って見送る事しか出来なかった。

 

そして、それと同時に確信する。あいつは危険だと……あの男を放っておく訳にはいかない。しかし、今ここで俺1人で追いかけても結果は見えているだろう。ならばどうすれば良い? 俺が思考を巡らせていると不意に背後から声が聞こえた。

 

「お待たせしました。ベートさん」

「……ああ」

 

俺は短く答えると、ライダーの側に立つ。するとライダーは不思議そうな顔で聞いてきた。

 

「あれ?ベートさん何かありましたか?」

「……キャスターって奴に遭遇した」

 

俺がそう言うと、ライダーは驚いた表情をした。

 

「えっ!サーヴァントに遭遇したのですか?」

 

俺は無言で頷く。するとライダーは真剣な表情になり、俺に向かって言った。

 

「それで……そのサーヴァントは?」

 

俺はその問いに答える。

 

「いや特に何もされなかったが……」

 

俺がそう言うと、ライダーは安心した表情を浮かべた後、少し不満そうに言った。

 

「そうですか……なら良かったです」

「……何、不服そうになってんだ?」

 

そんな俺の疑問に対してライダーは言った。

 

「だってもし襲われていたら、ベートさんが死んでしまっていたかもしれないじゃないですか。私は、守ると言ったのに離れて何も出来ず。それだけは嫌ですから……」

 

その言葉を聞いた瞬間、俺の心に温かい何かが流れ込んできた様な気がした。俺はそんな感傷を吹き飛ばす為にライダーに向かって言った。

 

「馬鹿かお前は」

 

すると彼女は少しムッとした表情で言い返してくる。

 

「ベートさん酷いです!私は真剣に言っているのに!」

 

そんな様子に思わず笑みが溢れてしまうが、それを悟られない様にしながら俺は言った。

 

「まあ良い、それより飯にするぞ。腹減った」

 

俺がそう言うとライダーは笑顔で答えた。

 

「はい!分かりました!」

 

そう言って俺の横に並ぶとそのまま歩き出した。

そんな様子を見て俺は思った、こいつは本当に不思議な奴だと……だがそれでも悪い気はしないと思っている自分に内心苦笑しつつも俺達は廃墟へ帰っていく。

 

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