世界を救う英雄を育てた英雄   作:スカイハーツ・D・キングダム

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第19話 正義の乙女達 クラウモノ

 

──正義は巡る

 

それは 死んだ友が残した言葉だった

 

自分の考えていた正義が揺らぐことは幾度もあった

そのたびにこの言葉を思い出し、なんども立ち上がり、そして自分の信じる正義の為に戦ってきた

それはいつかきっと 私の正義が 多くの人の未来をより良きものにすると信じて

 

だが 私は愚かだった

いや もっと早くに気づくべきだった

あの日 六月(愛する人)を失ったあの時に

 

あの高次元の戦いに入り込めない己の脆弱さを理解するべきだった

 

その結果が

 

今の惨劇を生んでしまったのだから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇派閥の残党狩り

それを行うためにダンジョンの下層にて闇派閥の一派、ルドラファミリアをアストレアファミリアが総出で捕縛しようとしていた

 

約一年前、闇派閥の邪神をロキファミリア主導で捕縛し、壊滅的な被害を受け、闇派閥の勢力を大きくそぎ落とし

闇派閥の生き残りであるルドラファミリアが仕掛けた階層一つを大きく爆発させるほどの爆薬を仕込み、アストレアファミリアを壊滅させようとしたが、直前で罠だと気づくと全員どうにか回避し誰一人掛けることなく乗り切ることに成功した

ルドラファミリアが狼狽える中、後は捕縛するだけだと意気込んでいた正義の乙女たちだった

 

だが

 

そこで思いもよらないイレギュラーが発生した

 

ルドラファミリアが仕掛けた爆薬により、ダンジョンが大きく破壊された

通常、ダンジョン内での破壊によって荒れた地形や構造はダンジョンの意志の下、自動で修復されていく

 

しかし、行き過ぎた破壊規模によりダンジョンが大きく傷つけば、修復よりも傷つけた者達への排除を優先する

 

結果彼女たちの頭上から ソレは生まれ落ちた 

 

その姿はまるで恐竜の化石のような外見に鱗に包まれた未知の生物

このモンスターの詳細は現在のオラリオで知る者はおらず

 

そのモンスター のちにこのモンスターの存在を認知したオラリオの大神ウラノスは破壊者を意味する 『ジャガーノート』と名図られるソレは 圧倒的な力の前で、多くの者達を蹂躙していった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリーゼ「はあ、はあ……みんな、無事?」

 

輝夜「これを無事と思えるとは、団長も血を流し過ぎて頭が回らなくなったか?」

 

ネーゼ「どうにか致命は避けられた………けど」

 

マリュー「駄目、リオンは………身体はともかく心が…………」

 

リュー「────ッ」

 

全くの初見のモンスター、ジャガーノートの圧倒的な力の前に、アストレアファミリアとルドラファミリアは狩りまくられると思われたが、実際には狩られているのはルドラファミリアだけであり、アストレアファミリアはなんとジャガーノート襲来から約20分近く持ちこたえており、一部五体満足ではないとはいえ誰一人欠けることなくどうにか持ちこたえていた

 

レベル5の第一級冒険者をも凌駕するスピードに加え、その爪は高い強度を誇る鎧も容易く貫通して見せるほどの攻撃力

本来の歴史ならばここでアストレアファミリアは壊滅してしまうだろうが

 

イスカ「あのモンスター、確かに速いし強い」

 

リャーナ「正直言って勝てそうにない…………けれど」

 

アリーゼ「ええ、六月に比べたらずっと遅いくらいね!」

 

生前の六月は、アストレアファミリア居候時、その圧倒的な身体能力を武器に、アストレアファミリアの面々達と数え切れないほど撃ち合い、結果全員が格上相手でも生き延びられるよう立ち回れるようになっていた

あまりにも実力に差がありすぎて戦う力よりも格上相手にある程度の時間生き残れる立ち回りが伸びてしまい、戦闘能力がそこまで成長しなかったがここに来てそれがアストレアファミリアを生かしていた

 

輝夜「見立てでは、レベル5と6の間と言うところだ。まともな反撃しようにもこちらの手札を警戒してこちらの様子をうかがってばかりだ」

 

ルドラファミリアを蹂躙し、こちらに襲い掛かったジャガーノートを退けたが、こちらを警戒しながら様子を見ており、隙を見て襲い掛かっては撃退する為に反撃しては団員の何名かが負傷し、また隠れてこちらの様子を伺ってはまた攻めるを繰り返している

 

ライラ「頼むぞ輝夜。あいつに現状決定打を当てられるのはお前だけだかんな」

 

ジャガーノートがアストレアファミリアを襲撃した際

殆どの団員がギリギリ回避し、それぞれが反撃をしたが、素早く動き回るジャガーノートに攻撃を当てることは至難の業

しかも並みの第二級冒険者の攻撃も通じない為、このファミリアでレベル4に達しているアリーゼと輝夜、そしてリューが要になるはずだった

 

しかし、ジャガーノートの見せた速度から来る攻撃に団員の何人かが身体欠損する事態に陥り、リューは欠損こそしなかったものの手足を骨折する重傷を受け、ジャガーノートに狩られる寸前だったのを輝夜に救われた

結果リューを守ることと引き換えに輝夜は片腕を失う重症を負う

 

それでも今なおジャガーノートがアストレアファミリアを積極的に攻めきれないのは輝夜の存在があったからだ

 

ライラ「しかし、格上が反応に遅れるくらい速く斬れるなんざ流石はシン・陰流師範代……いや今は現当主って言うべきか?」

 

輝夜「……まだまだだ。理想的なのは、あのモンスターが攻撃するよりも早くあのモンスターの首を落とすことだが浅かった。これではせっかくあいつが残してくれたものを、使いこなせていない。私もまだまだだ」

 

生前、六月から一通りシン・陰流の技全てを教え込まれ、自身が何かあった後のシン・陰流について任せると公言され、現在オラリオにてシン・陰流の道場設立と共にそこで師範兼現当主に就いた輝夜

腕を切り飛ばされる直前、六月直伝、シン・陰流奥義『抜刀』を発動し、ジャガーノートの首を落とすつもりだったが、力の入り様が足らず、浅い傷しか刻めず腕を持っていかれた

それでもジャガーノートからすれば、一瞬自身が視認するのに遅れる速度の刃を飛ばして見せた輝夜の存在を大きく警戒し距離を取り、それが団員たちの命を繋げたのだった

 

そしてリューはというと、力の差見せられ何もできず殺される寸前に追い込まれたうえ、自身を庇い片腕を無くした輝夜(好敵手)の姿を見て、圧倒的な力の前に満身創痍となり死が近づいていた六月の姿を彷彿とし、また同じことの繰り返しになるのではと失う恐怖が蘇り、トラウマが発症し心が壊れかけていた

 

ネーゼ「どうする?…………このまま籠城してたら私達確実に負ける……」

 

今のところアストレアファミリア内で死者は出ていない

戦えないリューを除き、10人でどうにか持ちこたえてきた

だが時間が経てばたつほど止血により鈍り出し、このままいけば拮抗している状況に綻びが生じ、いずれはアストレアファミリア内で死者が出かねない

 

輝夜「……今が選択の時か……」

 

アスタ「輝夜?」

 

輝夜「こうなったら、誰かがあのモンスターを引き付けている間に他は逃げる。これくらいしか生き延びるすべはない」

 

ノイン「────なに言ってんの!?そんなこと」

 

輝夜「現状それしかない………だから、私が囮になる。その間に、全員この階層から離脱するべきだ」

 

囮になる

この現状でそれを志願するということは死にに行くと言っているようなもの

10人で持ちこたえていたものをたった一人で引き受けるのは余りにも酷でしかない

 

ライラ「待てよ輝夜。ならアタシがやるよ」

 

そこで待ったを掛けたのは…………ジャガーノートの攻撃で両目を失明してしまったライラだった

 

ライラ「この中じゃ、目の見えねえアタシが一番足手まといだ。まともに逃げ切れもしないな。ならせめて、最後にひとはな咲かせてやる」

 

腰に付けた小道具用の鞄から爆薬を取り出しながら言った

勝てない勝負はしない主義といつも言っていたライラが、自分の命が一番大事と言ってきたライラが、自分が死ぬことを理解してもなお言ってみせた

 

イスカ「ライラ!?」

 

ライラ「アタシさ、自分の命が一番大事なんだ。けどさ、いつか誰かを庇わなければいけない時が来たら、あの時の……自分が死ぬことを分かってても、一夏を庇って未来へ繋げて見せた六月みたいに、こんな弱っちい小人族の命ひとつで、未来に生かしてやりたいって思っていたからさあ、今がその時」

 

セルティ「待って!なら私が囮をやる!魔導士の私がここじゃ役に立たない、だから」

 

リャーナ「なら同じ魔導士でセルティよりも弱い私が!」

 

次々と囮を名乗りだす面々

そんな彼女たちに便乗し、リューも口を開こうとした

しかし

 

リュー「────」

 

声がでなかった 恐怖で声帯を発せられなかった

 

このまま誰かが囮になる 誰かが犠牲になる

そんな会話が続いていた時だった

 

アリーゼ「よし!なら私が囮になるわ」

 

それまで黙って聞いていた団長のアリーゼが口を挟んだ

 

それを聞いた一同は止めに入った

団長であるアリーゼはアストレアファミリアにとっては替えの利かない存在

ある意味この中で最も生き延びなければならない女だ

 

輝夜「この中で、あのモンスターに最も有効打を与えられるのは私だけだ。他は時間稼ぎにはならない、それは団長。貴女とて例外じゃない」

 

ライラ「それにアリーゼ、お前は一番生き延びなきゃいけねえ。アストレア様の為にもな」

 

アリーゼ「うん、みんなの気持ちは理解しているわ。でもね、忘れてない?私達の敗北条件を」

 

アリーゼの吐いたその言葉を聞いた一同は口を閉じた

 

アリーゼ「私達の敗北条件は、戦って負ける事じゃない。死んで生きて帰れない事よ。みんなで誓ったじゃない。私達は、生きなきゃいけない。どんなに惨めったらしくても、かっこ悪くても、絶対に…………一夏の為にも

 

六月を亡くし、落ち込んでいた自分達を励ましに何度もアストレアファミリアに立ち寄った一夏を見ての言葉だった

本当は自分達よりも寂しくて、辛くて、苦しいはずなのに、手の届くところに居たのに 助けられなかった無念さが心を縛っていたはずなのに、それを堪えてなお自分達を元気づけようとした

立ち直った後、アストレアファミリアで皆で酒を飲み交わした際、ポツリと呟いたあの言葉

 

────なあ 頼むから お前らまで居なくならないでくれよな 死ぬなら精一杯生き抜いてから死んでくれ…………あの馬鹿みたいにならないでくれよ

 

その時は、他の面々が酒に酔いそのまま眠っていた夜のひと時だった

眠っているふりをしていたライラの口から聞かされたアリーゼ達は 一つの誓いを立てた

 

────例え 巨悪を前にしても 大きな力の前で潰されそうになっても 絶対に生き延びる 私達が死んで悲しむ人の為にも

 

アリーゼ「だから皆選んで、ここで私を囮にするのか。誰一人欠けることなく皆で生きて帰る為に抗い続けるか。私はここで死にたくない、正義を果たせない事もそうだけど、私達が死んで悲しむ一夏(友達)の為にも」

 

自身の愛剣を握り絞め言うアリーゼ

 

輝夜達は互いの顔を見て少しの沈黙がその場を支配した

 

そして

 

輝夜「…………正直現実的じゃない………が、犠牲と引き換えに生き延びるよりかはマシか」

 

ライラ「あーあ、結局こうなるのか……まあこういう泥臭いのはウチらしいな」

 

アリーゼ「そうそう、泥や汗に塗れるなんて美しくないけど、精一杯足掻いて足掻いて足掻ききって生きて帰れた私達は、きっと誰よりも美しいわ!まあ私には及ばないかもしれないけどね。フフーン!」

 

この局面でも笑顔を振りまき皆を鼓舞するアリーゼ

普段は団員を振り回したり一夏を怒らせて制裁されるなどどうしようもない一面が目立つが、いざという時、団員達の士気を上げ統率することのできる彼女は紛れもなくオラリオのファミリア団長の中でも勢いのある若きリーダー

 

輝夜「………フフッ、この局面乗り切って、無事地上に戻れた暁には、団長の顔面に拳めり込ませてあげたいわあ」

 

ライラ「アタシ目が見えないけどとりあえず殴りてえ」

 

アリーゼ「なんで!?」

 

ネーゼ「いいこと言ったんだろうけど最後の部分がむかついた」

 

イスカ「ならみんな生きて帰れたらアリーゼに一発ずつ殴るってことで」

 

アリーゼとリューを除くアストレアファミリア

「「「「「「「「「さんせーい!!」」」」」」」」」

 

アリーゼ「!?」

 

謎の一途団結?により団員達の士気が向上したアストレアファミリア

 

皆が円を組み、その中央にリューを置き

まるでリューを守る盾のような陣形を組む

 

リュー「!」

 

アリーゼ「大丈夫よリオン。私達は絶対にかって生き延びる」

 

ライラ「本音言ったら、お前にも戦って欲しいが、まあ末っ子守るのもアタシらの務めだしな」

 

輝夜「そこで見ていろ。出来の悪い妹を持つと姉は苦労する」

 

アリーゼ「あれ?輝夜ってリオンのこと妹って思ってたんだ」

 

輝夜「周りから妹扱いされるのを嫌がっていたので私からの嫌がらせだ。これで右腕の件チャラにしてやる」

 

そう話していれば、こちらの様子を伺っていたジャガーノートが周囲の地形鍾乳石を足場にアストレアファミリアの周辺を飛んでまわりアストレアファミリアの隙を見つけ出そうとした

 

輝夜「──片腕だが、まあなんとかするか────『シン・陰流 簡易領域』」

 

鞘に収めた刀を握ると意識を集中させ、自身と仲間達を囲う魔力で構築して見せた簡易的な領域

この領域は対領域展開対策と言うだけではなく、領域内に侵入した相手に脊髄反射での迎撃をするもの

奥義『抜刀』は、簡易領域内に侵入した対象に術式を斬る技であり、その際刀身を魔力でで覆い鞘の中で加速させることでステイタス以上の速度で切ることができ、ジャガーノートがアストレアファミリアで輝夜を唯一恐れた要因でもある

 

輝夜「かかってこい。今度こそ貴様を冥土へ送ってやる」

 

その挑発ともとれるその言葉は

本来知性のないはずのジャガーノートが輝夜を最優先的に潰そうとする要因となり、レベル5以上の高速移動をした末

輝夜を含めたアストレアファミリアに牙を向けるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夏「んで、これどういう状況だあ?」

 

アストレアファミリア面々「「「「「「!?」」」」」」

 

ジャガーノートの爪が接近しアストレアファミリアに攻撃を浴びせようとしたその時だった

突如アストレアファミリアとジャガーノートの間に一人の男が割り込むとジャガーノートの爪ごと振るった前足を片手をポッケに片腕で受け止めて見せた

 

その受け止めた張本人こと一夏は傷ついたアストレアファミリアとジャガーノートを見比べ大体の状況を理解すると

 

一夏「未確認のモンスター………か…………あいつらをあそこまで追い込むほどの強さを持ってんのか。ダンジョンじゃ獲物の横取りはご法度だが、悪いけどこいつ俺が相手するわ…………(あいつらの出血具合から見て、あんま長引けばあいつらの命にかかわるな…………さっさと終わらせるか……けどまあそれはそれとして)…………味見と言った所かな」

 

ダンジョンから送られし死神 ジャガーノートを倒そうと気合を入れるのだった

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