世界を救う英雄を育てた英雄   作:スカイハーツ・D・キングダム

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仕事が忙しく投稿が遅れました。今の仕事が落ち着くまで投稿ペースは遅いですが、時間を見つけてなるべく投稿していきますのでどうか気長に待っていてください。

今回は作者がダンまち世界の男性キャラでトップ入りするほど好きなキャラクター、ラウルが主人公回です。この凡夫な所が一般視点での物語の感情移入させやすさから好ましく思います。特に最近見たソードオラトリア16巻での活躍やその結末には心に来るものがありました。また余談ですが、ダンまちのカップリングで一番好きなのはラウ×アキです。原作の方では見事ラウ×アキが見れて大変うれしく思い、この話を執筆しました。

私事ですが、最近久しぶりに妖怪ウォッチ2がやりたくて3DSとソフトを買いそろえましたが計算したら中古のPS5が買える額まで使っていたので驚きました。


第24話 強さを求めし者 ラウル編

 

暗黒期という地獄を生き抜いた多くの者のその後は主に二つに分かれていた

 

一つはその地獄を味わったトラウマから逃げる様に冒険者の引退、もしくはオラリオを去る

 

もう一つはそれでも前に進み、今も冒険者を続ける者

 

だがここに トラウマを抱えつつも、前に進もうと必死に足掻く者がいた

 

ラウル「…………」

 

ラウル・ノールドはロキファミリアの若き団員であり、あの地獄を生き抜いた人物だった

レベルは2であり、ラウルの冒険者歴と年齢を考えればそこそこ優秀といえよう

 

しかし、彼には他の上級冒険者に無い特徴があった

 

それは発展アビリティを除き、スキルも魔法も一切発現していないと言うものだった

 

どんな冒険者にもなにかしら発現するだろうそれを一切持たない

更にラウル自身は冒険者としての資質はほとんど持たない才能無しの部類に入り、ランクアップできたのもフィン達のおこぼれによるものだと本人は認識している

 

才能がないからステイタス更新の際の伸び率が極端に悪く、周りの同期と比べても劣っている

 

どこまでいっても平凡な男

それがラウルだった

 

今日もロキの下へ行きステイタスの更新をしたが、相変わらずスキルも魔法も発現せず、アビリティ上昇率も一桁程度しか伸びなかった

おまけに自身がレベルアップした際に付いた二つ名は超凡夫(ハイ・ノービス)

 

その名を含め、才能の内自分自身にコンプレックスを募らせる日々を送っていた

 

気が弱く、自信を持てず、年下のはずのアイズに敬称をつけて呼ぶ始末

 

そんな自分を変えたくて輝夜が始めた『シン・陰流』の道場にも通い会得しようとした

 

魔法を持たない為ステイタス上では0と表記されてはいるが、それは魔法を持たなければ魔力は使われない為そう記しているのであって恩恵を刻んでない者や魔法を持たない者も含め、例外である六月を除き全人類には総じて魔力が存在している

 

当然魔法ではなく技術であるシン・陰流も魔力は使われるため使い続ければ魔力のアビリティは上昇する

最も、それは使えれば話になるが

 

おまけに魔法が使えず発動したことが無い者と魔法が使えて発動したことがある者とでは習得難易度は天と地ほどの差がある

 

この日も習得が出来ず、トボトボと帰路につき、このままホームに付けばそのまま自室で倒れる様に眠る

そんな日々をかれこれ一年以上続けていた

 

同期やフィン達も心配し声を掛けたが、ラウルは肉体を酷使することをやめなかった

誰よりも才に恵まれなかった自分は、誰よりも努力をしなければならないと考えていたこともあるが、暗黒期の最終局面にて、自分や同期の面倒を見て指導してくれていた先輩冒険者の方々が犠牲になって敵を食い止める姿を見て思った

 

 

────なぜ自分はこうも弱いのか 

 

────なぜ自分みたいな弱い奴が生き延びてあの人たちみたいな強くて勇敢な人が死ななきゃいけないのか

 

 

その日から何かに取り憑かれたかのように 何かに怯える様に必死に鍛え続けた

 

それでも目に見える成果は一切見えず得られず、時間だけが過ぎて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな日々を過ごしたある日の深層への遠征

 

この日サポーターとして遠征に参加し、フィン達がモンスターを順調に討伐し何事もなく階層の攻略を進められると思っていた

だがそこへ突如大量の深層のモンスターが襲撃してきたことで遠征の為に集まった団員達は各自武器を持って対応し、当然ラウルも剣を持ち身を守ろうとした

しかし度重なるモンスターからの攻撃により、何人かの団員が攻撃をくらい負傷それに気を取られていたところでラウルは持っていた剣をモンスターにより弾かれつい手放してしまった

それに怯えつい逃げ出してしまいモンスターが攻め立てた

 

こうやって命の危機に陥るたびに思ってしまう

 

────暖かな布団で眠り続けたい

 

────母さんの手料理が食べたい

 

────なぜ自分は死にかけるたびにそう思ってもまたこんな危険な場所に足を運んでしまうのか

 

そんな自問自答を繰り返しながらも逃げ出したその瞬間視界に映ったのは 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同い年の同期であり、自信と違い才能があり、有能で要領も良かった猫人の彼女が

 

ラウル「アキぃぃぃぃぃぃ!!」

 

アナキティ・オータムがモンスターの攻撃を受け、宙へ吹き飛び

 

そんな彼女の姿を見たラウルは彼女を掴もうと手を伸ばしたがその手は届かず下の階層へと続く縦穴へと落ちて行った

 

だがここで、ラウル自身も信じられない行動に出てしまった

 

弱い自分が明らかにするべきでない行動

 

臆病な自分がとても自発的にするはずない行動

 

それは

 

アキを追いかけ縦穴に飛び込んだ(・・・・・・・・・・・・・・・)のだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

気が付けばふたりは深層の未攻略領域に迷い込んでおりラウルが持ち込んでいたバックパックにある僅かな食料とポーション、そして僅かな武器を頼りに深層から脱出しようと探索をした

 

団長たちの居ない、レベル2同士しかいない現状は絶望的であり、出てくるモンスターもやはり適性レベルが上の者しかおらず、できるだけ戦闘を避けて通るしかなかった

 

そんな窮地の中、本当はすぐにでも泣き叫びたい

助けてと叫びたかったラウルだったが、弱音を吐かなかったが手足に尻尾を震えさせながら耐えるアキの姿を見て自分も堪え続けた

 

やがてふたりはモンスター達が寄り付かない安全地帯を見つけると方針を決めた

 

このまま深層を登りロキファミリアの遠征部隊と合流しようにも確実に再会できる保証はなく、最悪すれ違ったまま深層をさ迷い続け、手持ちの物資がなくなりそのまま詰む。それならより助かる可能性のある上へ目指そうと

運よくどこかで他の派閥パーティと合流できるかもしれないし、最悪18階層まで誰とも遭遇できなくてもリヴィラの街があるあそこまで生き延びれば無事に地上へ帰ることができる

 

そう決めたふたりは上へと目指しながら互いに背中合わせになってモンスター達の襲来をどうにか乗り切って見せた

 

隠れ場所を見つけるたびに片方が見張り、片方が仮眠を取る形で各々の疲労具合を少しでも回復させてきた

その際、不安そうな表情を浮かべながらラウルにもたれかかって眠るアキの姿に少しでも不安を拭えられないか考えた末に手を握る

そうすると不安そうだったアキの表情は僅かに緩み、安心して眠りにつき、そんなアキを見てラウルも安堵した

 

そうして自分達が何日さ迷っているかわからないまま28階層下層に存在する安全地帯 迷宮の花園(アンダーガーデン)にたどり着き、僅かだが食料を確保しひと息つく

精神的に余裕が生まれるとそこでアキはラウルになぜあの時自分を追いかけて飛び込んで来たか問い詰めた

 

その問いにラウルは少し答えづらそうだったが口を開いた

 

────考えるよりも先に気が付いたら身体が勝手にアキに手を伸ばしたらそのまま一緒に落ちちゃったっす

 

それは あまりにも想定外な回答だった

 

何も考えず只がむしゃらに自分を助けようとした結果だったのだから

 

そしてアキはラウルに謝った

自分のせいでラウルを危険な目に会わせたのだから

 

そんなアキにラウルは大したことないと言い、つい『自分みたいな大したことない凡人よりも、アキみたいな優秀で誰かを手助けできるくらい強い人が死んでいいはずない』と自分を卑下しつつアキを持ち上げる発言をした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────ラウルがそんなこと言わないで!ラウルは冴えない人なんかじゃない!

 

ラウル「!」

 

そんなラウルにアキは怒りながら詰め寄る

 

アキ「私見てたよ。いつも隣でラウルを見て来たんだよ?…………皆知らないくせに、ラウルのこと好き勝手言って、なんでラウルはそれを聞いてもヘラヘラしてるの!?もっと怒ってよ!もっと何か言ってよ!!暗黒期の時だって、怖くても自分のできることをやり遂げようと諦めなかった。暗黒期が終わって、弱い自分を変えたいって誰よりも必死に努力して、みんなとはぐれて深層に落ちた後も!誰よりも努力して身に着けた知識で私じゃ分からなかった深層のモンスターの生態に対処できる方法も教えてくれた!ラウルが居なかったら、私は今生きてここに居なかった!ラウルが居なかったら、私は一人ぼっちで寂しく最期を迎えてた!」

 

ラウルの両手を掴みながら目に涙を浮かべながらそれでも口を開き続ける事をやめない

 

アキ「ラウルは自覚してないかもしれないけど………ラウルは私よりもずっとすごいんだよ………だけど誰もそれがわかってない…………悔しい…………悔しいよラウル…………」

 

やがてラウルの胸元に顔を押し付けながらまるで自分の事のように悔しがりつつも涙を少し流す

 

ラウル「…………アキ」

 

そうしてほんの少しの静寂がその場を包み込んだかと思えば、胸元に顔を押し付けていたアキが眠りについた

 

そんなアキを地面に下ろし、自身の膝の上に乗せた

 

ラウル「…………」

 

膝に乗せたアキの寝顔を見下ろすと、そのまま目元の涙を指で拭いながら着ていた服を被せた

 

ラウル「…………俺がすごい……か………」

 

ラウルにとってアナキティ・オータムは同期でありつつも優秀で才に恵まれ、身近に居ながらとても尊敬できる相手だった

 

そんな彼女が自分のことをそんな風に思ってくれていた

 

彼女の言葉は、ある意味尊敬するフィンに言われるよりも嬉しかった

 

眠る彼女の横顔に優しく手を置きながら、ラウルはふたりだけのサバイバル中で初めて心が晴れたかの様な感覚を感じながら周囲を警戒しつつ眠りにつく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウル「!?────これって………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それからふたりはなんとか順調に下層を抜け、中層に入った

 

ここまでで他の冒険者と遭遇することはなかったがそれでも着実にゴールである18階層に近づいており、残り少ない装備や物資を遣り繰りし中層24~19階層まで続く大樹の迷宮とも呼ばれる密林エリアに入り、襲い掛かるモンスターを退け、ついに19階層に到達した

 

あと一階層 あと一階層登れば安全地帯、リヴィラの街に着ける

 

当初は助からない可能性の方が高いと内心思っていたふたりだったが、ここに来てその精神が緩んでしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その隙を狙っていたかのように 

 

ラウル/アキ「「!」」

 

密林から飛び出してたモンスターが奇襲しその攻撃をまともに受けたふたりは付近の林に吹き飛ばされた

 

ラウル「グファ!」

 

アキ「ッアアア!」

 

互いに口から血を吐きながら地面に横たわり、痛む身体に鞭を打ちながら現状を理解しようと頭を働かせた

 

ラウル「(襲ってきたのはバグ・ベアー)」

 

アキ「(素早いミノタウロスって言われるくらいにミノタウロスに近いモンスター)」

 

ラウル「(とっさに右腕に着けていた小盾でガードしたから致命は避けられたけど今ので右腕の骨折、おまけに盾が壊された。そしてなにより)」

 

アキ「(何が不味いって、このモンスターは素早いから今の私達じゃ逃げ切るのが難しい上に)」

 

バグ・ベアーに目を向けたふたりの思考は

 

ラウル/アキ「「(この大きさ、通常個体より大きい。恐らく強化種だ/ね)」」

 

みごと一致した

 

ラウル「(最悪だ………あと少しだって時に…………どうする)」

 

この状況をどう乗り切ろうか頭を巡らせるラウル

 

バグ・ベアー 適性レベル2であり強化種なら恐らくレベル3

しかしそれでも本来のラウルとアキであれば二対一で負けることはない

 

しかし、これまで騙し騙しの回復作業自体はしてきたが肉体と精神の疲労は溜まり、先ほどの奇襲により更に肉体へ追い打ちのダメージが加算され、今でも意識を保とうとしなければそのまま起き上がれなくなりそうなほど限界がそこまで来ていた

 

そんな状態では格上相手に勝てない

かといって逃げようにもただでさえミノタウロスより素早いバグ・ベアー、それも強化種の個体

 

その万全な状態でも逃げ切るのは難しい相手を前に両者が出した結論は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウル「アキ、ここは」

 

アキ「ラウル行って」

 

ラウル「!」

 

ラウルが出した結論

それは自身が引き付けている間に18階層に行くよう促すことだった

負傷した自分では大した戦力になれず、このまま二人で戦えば死ぬ可能性が高く、なら自分が殿になって例え死ぬようなことになってもアキだけは生かそうと考えた

 

しかし、それを口にするよりも先にアキに言われてしまう

 

アキ「私が囮になってる間に、あなたは上へ」

 

ラウル「な、なに言ってんっすか!?そんな傷で戦えないはずっす!俺ならアキより持ちこたえきれるからアキこそ上に」

 

アキ「でもラウル。今のあなた、顔に死相が浮かんでるように見えるわ

 

ラウル「…………え?」

 

アキ「私を逃がした後なら死んでもいい、そう考えているでしょ?」

 

そんなラウルの考えを見透かして心のうちを明かすと驚きを隠せずにいた

 

ラウル「…………なんで………」

 

アキ「フフッ、言ったでしょ?ラウルのことはいつも見てるって。いいから聞いて?私の方が軽傷だしラウルよりも素早く動ける、だからラウルよりも持ちこたえることができるわけ。だからラウル、私が引き付けている間にあなたはリヴィラの街の冒険者たちに救助要請して戻ってきなさい」

 

ラウル「でもアキは」

 

アキ「早く行って!あなたが一分一秒早く辿り着くだけで私の助かる確率も上がるから、早く行ってラウル!!」

 

ラウルの背中を押しながら上に向かって走るよう促す

 

ラウル「ッ!」

 

アキの言葉に迷いつつも18階層に向け走り出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキ「────フフッ……死なないでね、ラウル」

 

上へ目指し走るラウルの背中を見届けると、どこか安心したように小さく微笑し短剣を片手にバグ・ベアーに戦いを挑むのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウル「────待てよ」

 

18階層へ向け走ること5分あたりでラウルは足を止めた

 

本音を言えば、アキを逃がしたい思いと裏腹に死にたくないという気持ちが強かった

だから上へ一足先に逃げられることに安心してしまった

 

ラウル「────俺は今、何を考えていた…………俺が助かることに安堵したのか!?アキを置いて一人助かることに安心したのか!?

 

あれだけアキを助けようとしたのにもかかわらず、はたから見ればアキを置いて逃げる臆病で卑怯者な姿を晒す結果を生んでしまった

 

ラウル「───ッ!何やってんだ俺は!」

 

ラウルは自分を臆病で冴えない奴とは思っている

だが一つだけ譲れないものがあった

 

それは たとえ英雄のような誰かから讃えられるような男に成れなくても 誰かを犠牲にして生き残るようなクズにだけは絶対成りたくはない

 

ラウル「(それに、よくよく考えたらあそこから18階層には万全な状態で全速力でも20分はかかる、この怪我の具合じゃ倍の時間はかかるって見てもいいここから18階層に着いたとして救援の呼びかけや急いで下っても30分はかかる。その間アキは一人で持ちこたえきれるのか?…………いや、無理だ。もし万全ならともかくあの怪我の具合じゃ…………なんで、あんなことを俺に)」

 

冷静になって考えてみればこの救援をよこす為にラウルを逃がす作戦は最初から破綻していた

先ほどまでテンパっていて思考が上手く働かなかったことが関係して気づくのに遅れたとはいえ、あのアキがこれに気が付かないはずがなかった

 

ではなぜラウルに救援をよこすよう言い逃がしたか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウル「…………俺を…………逃がす為………自分は助からない事を承知で?」

 

そして気づかされた

 

自分は彼女に守られたのだと

 

守ろうとした いざとなれば彼女だけは助かるように命を捧げようとすら思った

 

彼女に背中を押され、2人が助かる可能性はこれしかないと考えた末に己自身もわき目も降らずに走った

けどそれは、彼女の命と引き換えの生存となることに今になって気が付く

 

ラウル「…………またか…………」

 

それは。暗黒期最終決戦のさなか、闇派閥がオラリオ中にモンスターをばらまくことでオラリオに大きな被害を出しオラリオを滅ぼそうとした時だった

 

当時、ロキファミリアを始めとした数あるファミリアの老兵とも呼べるほど冒険者人生を捧げて来た古参冒険者たちが自らの命と引き換えに多くのモンスターを道ずれに反撃の糸口を作り上げた

全ては次の若き世代を生かすために

その中には、新人だったラウルやアキを可愛がり指導もしてくれた者もいた

 

あの光景を見て、自分は誰かに守られるような存在ではなく、守る者になりたい

その為に強くなりたいと力を求めた

 

だが今、あの時のように、自身を生かすためにまた誰かの命が消えかけている

 

ラウル「────どうして!俺は こんなにも!」

 

────弱い自分が嫌い────憎い────情けない

 

結局自分は何も変われなかった 変えられなかった

このまま前に進めば地上へ行ける

もう痛い思いも恐怖も味わうことはない

 

────その代わり自分は一生自分は卑怯者の烙印を押される

 

このまま後ろに戻れば、待っているのは地獄 あるいは死のみ

 

────その代わり勇敢に死ねる

 

────前に向くことも 後ろに向くことも 一歩進むことができない

 

 

 

ラウル「俺は…………どうすれば」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウルは自覚してないかもしれないけど………ラウルは私よりもずっとすごいんだよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウル「ッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アナキティ・オータムにとって、ラウル・ノールドはこれ以上ないくらいに平凡な同期だった

 

暗黒期真っただ中にふたりはロキファミリアへ入団し、当時話せる相手が限られていたこともあって共にペアを組みこともよくあった

庇って庇われて、特にラウルが自身を庇って負傷した時は大いに怒ってやったこともあった

 

変り映えしない田舎の三男坊の人生を変えたい為にオラリオに来たラウル

スラム育ちで欲しかった物を手に入れる為にオラリオに来たアナキティ

 

共に自身の目指す先を話し、いつかはそこにたどり着けるまで生きようと誓う

 

だが、人並み以上の才を持つ自分に反し、ラウルは平凡

人一倍努力をしている、できることはなんでもやって強くなろうと足掻いていた

だが、どれだけ努力しても その成果が表れることはなく、暗黒期を終えた後

とにかく我武者羅に奔走するその姿は見ていて心配になる いつか壊れてしまわないか不安になったことは何度もあった

 

多くの神々や冒険者からは そんな才能無しが、かのロキファミリアで必死こいている姿が笑えたのか【超凡夫(ハイ・ノービス)】などと言う二つ名を与えられ、彼はそんな二つ名がコンプレックスだった

悔しかっただろう どれだけの屈辱も泥も飲んできたのだろう

それでも彼はヘラヘラ笑うしかなかった

それが凡庸でしかない自身が妥当だと自己を低く見積もった評価の全てだったのだから

 

そんな彼の姿を見るたびに、アナキティの心は締め付けられたかのような痛みを覚えた

努力が報われず、痛々しい姿何度も見たからであり、できることならもうやめて欲しいと思った

 

だがその反面、アナキティの目に映った彼の姿は、彼女から見て凄いと思わせるものばかりであった

他の者なら諦めるようなことも、逃げ出すような厳しい訓練にも、彼は自信なさげな反面

一度たりとも逃げることはなかった

 

自分でも逃げたくなることからも、彼は逃げなかった

だからこそ、彼女はラウルを内心で尊敬しつつ、そんなラウルの頑張りも理解せず好き勝手言う輩に対して、そんな輩の言うことを妥当な評価だと鵜呑みにし反論しようともしないラウルにまるで自分の事のように怒りを見せることもしばしばあった

 

どこか頼りないながら目が離せない同期

 

しかし、共に泣きそうになりながらも暗黒期を生き抜き、深層に落ちた後も、主にラウル主導の下でサバイバルを行い、中層一歩手前まで生き抜くことが出来た

ここに来るまでに何度か死にそうになった

 

だがラウルの機転と凡夫なりに努力して身に着けた深層の知識、手持ちの物資の使用可能日数の計算をして持たせてくれた

普段の怯えていて頼もしくない姿から一変し、非常に頼もしくなっていた

 

なによりうれしかったのは この広くて怖くて怯えるしかなかった未知の空間に共にいてくれたことだった

もし一人だったら確実に泣いていた 一人だったら何もできず死んでいた 一人だったら、ここまでこれなかった

 

スラムでひとり生きて来た時、そばには誰もいなくて 寂しさを覚える日々だった

 

誰にも話したことが無いが アナキティは孤独が怖く 嫌いだった

 

だからもし ひとりで深層に落ちていたら恐らく耐えられなかった

 

だからか、精一杯自分の孤独を拭おうと不器用ながらに自分を励まそうとしてくれた時のラウルの姿は いつも以上に頼もしかった

 

だから思った ラウルとなら、無事に生きて帰れると

 

そんな彼女の心にできた希望は 襲い掛かったモンスターによって踏みにじられた

 

逃げ切れないさなか 彼女は決断した

負傷したまま自分達が戦って勝てる相手ではない まとめて殺される

 

ならせめてラウルだけは 自分が命を捧げてでも生き延びて欲しい彼を生かせるために

 

彼に嘘をついてまで背中を押した

 

そして今

 

アキ「はあ……はあ……はあ……」

 

ボロボロの身体を引きずり短剣片手にひとり、バグ・ベアーと戦っていた

 

分かってはいたが、強化種の個体であるバグ・ベアーは素早く、モロに攻撃をくらえば死は免れない

 

ラウルが確実にこの階層から上に行けるまで、時間を稼ぐことを視野に殿をした

 

アキ「はあ…はあ…(アレからもう体感で10分は過ぎたかしらね。もう今頃は18階層真近って所かな………)」

 

バグ・ベアーから距離を取りつつ、持っている短剣で攻撃を避けた隙に叩き込むがあまりダメージにはなっておらず、攻撃もなんとかギリギリ避けている

 

アキ「ははは………これで、ラウルが居てくれたら、もう少し楽に攻撃避けられるのだけどね」

 

負傷する身体に鞭を打ちながらヤケクソ気味に小さく笑うアキ

 

アキのスキル猫恩返(キャットリターンズ)は自身が一定の好感度を持つ相手が近くにいた場合、『敏捷』の小補正が掛かり、好感度が限界突破している相手が近くにいた場合は、『力』と『器用』の中補正、『敏捷』の高補正が掛かるというものだ

こんなスキルを発現した際、あまりのこっ恥ずかしさからロキと三首領以外には口外しないように箝口令を出すほどだった

 

そんな自分が、誰と共に戦っているときが最も強くなれるのか そんなものは考えずともわかりきっていた

 

せっかくのスキル効果を生かすなら共に戦うべきだったが、負傷状態のラウルと自身が勝てる可能性が絶望的に低かった為、敢えてそれをやめ、自己の力だけで挑むしかない状況を作った

 

そんな自身とバグ・ベアー強化種の戦況は、ギリギリ致命傷にならないように回避行動しつつヒット&アウェイを繰り返したが、蓄積するこれまでの疲労と出血により限界を感じていた

今もフラフラになりながらバグ・ベアーから目を離さないように

ほんの一瞬でも気を抜いて避けるのが0.1秒でも遅れれば、確実に直撃 死が待っている

 

そんなことは頭に叩き込んでいたはずなのに

 

一瞬、時間にして僅か0.1秒 バグ・ベアーの攻撃に対する回避行動に遅れが生じた

そしてこの瞬間、アナキティの視覚と思考はスローとなりながらも理解した

 

アキ「(ああ、不味いわね…反応が遅れた。これ駄目な奴、避けられないわね)」

 

自分はここで詰みだと

回避行動はしてるものの、避けるよりもバグ・ベアーの前足による攻撃が自身を叩きつけるだろうことは理解した

 

バグ・ベアーの攻撃が直撃するほんの一瞬

しかし、彼女の脳裏には、これまでの思い出が走馬灯のように溢れ出ていた

 

貧しかった貧困街での孤独の日々 オラリオに来てロキファミリアの門を叩いたあの日

 

暗黒期を必死に駆け抜ける日々 ダンジョンに潜り冒険する日々 多くの先輩達に混じり訓練した日

 

そして

 

ラウルと共に過ごしたロキファミリアの日々

 

 

辛かった思い出はある 悲しかった思い出はある

だがそんな中でも楽しかった思い出は 確かにあった

 

死ぬ前に どうしても欲しかったものはあった

 

ソレを手に入れる為に冒険者になった

 

最期の瞬間になって 彼女は思う

 

 

 

 

 

 

 

 

────嗚呼 悔しい せっかくもう少しで手に入れられそうだったのに でも 悪くなかったわ

 

 

 

最後の瞬間 自身に降り注ぐであろう死への覚悟を胸に抱き、心の準備を終えた彼女

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして 彼女の命を奪うであろうその一撃は彼女の胴体を貫く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寸前に 彼女は攻撃を避けたのだった

 

アキ「!」

 

彼女は驚きつつもバックステップで距離を置いた

 

バグ・ベアーの攻撃は 確かにアナキティの胴体に、彼女が避けるよりも早く貫くはずだった

 

だが、彼女の身体に攻撃を当てる寸前

 

突如回避しようとしたアナキティの動きが速まり、ギリギリで避けきれた

 

そしてこれに対しアナキティは理解した 自分の身に何が起きたのかを

 

アキ「…………これって………」

 

スキル 猫恩返が発動した

 

それもこの上昇具合 間違いなく敏捷のステイタスに高補正が掛かった

 

これが意味することがどういうことなのか 頭の聡い彼女には理解できる

だが 理解とは別で なぜ?と疑問と困惑が胸の中で渦巻いていた

 

なぜなら これほどの自己強化を発動させられる相手が ここに来るはずないのだから 

なぜなら 上に行き戻って来たその時には もう自分は死んでるはずだから

 

だがスキルが発動した 

 

それが意味する答え それを発動させる条件の相手は予想した時間よりもずっと早く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウル「アキィィィィィィィ!!」

 

戻って来たのだと

 

アキ「……馬鹿」

 

剣を握りしめ、アナキティとバグ・ベアーの間に割り込む形で乱入したのは 18階層へ救援に行かせるという建前で生き延びさせようと逃がさせたラウルだった

 

そのラウルの姿を見てアナキティは理解した

 

彼は一度上を目指したがすぐに引き返してきたのだと

 

ラウル「アキ!怪我は!?身体は問題なく動かせそう!?」

 

ラウルはバグ・ベアーの方に目を向けつつも後方にいるアナキティに声を掛けた

 

彼が来るのが後ほんの少し遅ければ、確実に殺されていた

なんだったらアナキティが殺される瞬間に立ち会うことになっていただろう

 

アキ「…………なんで、戻って来たの」

 

ラウル「────」

 

アキ「なんで戻って来たの!せっかく私が足止めしたのにすぐ戻って来たの!18階層に行って、助けを求めに」

 

ラウル「そしたらアキは死んでた」

 

アキ「!」

 

ラウル「…………俺の方こそ聞いていいすか。なんで、自分が助からない事前提で俺を生かそうとしたんすか?」

 

アキ「────」

 

アナキティの考えを見抜いての言葉を聞いて、それまで戻って来たラウルに対して憤っていた感情は吹き飛ぶ

 

ラウル「アキは、俺に生きてて欲しいって思ってたんすよね。だからあんな嘘をついてまで俺を逃がそうとしたんすよね」

 

アキ「────それは」

 

ラウル「そのアキの気持ちを知ったうえでこんなこと言うのはなんだけど…………ごめん、アキを置いて行こうとして」

 

アキ「!」

 

ラウル「助かりたかった。死にたくなかった。少し考えれば分かることだったのに、生き延びたかった。そんな気持ちが優先して、一瞬アキのことを考えなかった。卑怯者のクズに成り下がるところだった」

 

アキ「ラウル」

 

ラウル「そもそも、ふたり助かる方法はないから片方だけ助かる方法を考えること事態が間違えだったっす。かと言って楽してふたりまとめて助かる方法なんてない────だったら」

 

剣をバグ・ベアーに向けながら、これまでアナキティが効いたことが無かったほどの大きく、強い意志の籠った声がラウルから放たれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウル「地上に生きて帰る為に、ふたり共生きる為に 一緒にこいつを倒す────それが、俺達が取るべき最善!

 

アキ「────」

 

そう強く宣言するラウルの後姿は、いつも見ていたモノと違い、大きな背中に見えていた

 

ラウル「俺は、自分に自信がなかった。自分なんか大したことないって思ってた。でも、アキはこんな俺をすごいって言ってくれた。欲しかった言葉を貰った。勇気を貰った。だからもう逃げない。俺はもう覚悟は決めた、アキはどう?俺を逃がすために命かける覚悟を決めたんだ。ここで、俺と一緒に命をかけて、生きて帰る為に戦わないか?」

 

その言葉は、生きて帰ることを半ば諦めていた彼女の中にできた 新たな道

 

死ぬときは独り寂しくだと思っていた

 

でも 彼が来てくれた 共に戦おうと言ってくれた

 

例え共に戦っても、今の状態ではこちらの負けは濃厚

 

そのはずなのに

 

先ほどまで感じていた死の気配が遠のくような感覚を覚える

 

そして

 

 

 

アキ「不思議、さっきまであった震えが止んだ。今だって、一撃でもくらったら死ぬかもしれないのに、さっきと違って

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今なら勝てる気がするわ!

 

戦い抜いたその先の未来への希望と勇気がアナキティの中で溢れ出たのだった

 

剣を握るラウルの隣に短剣を握り絞めながら並び立つアナキティ

 

対するはバグ・ベアーの強化種

 

先ほどまで狩られる側だった相手の雰囲気が変わった事に僅かな動揺が走るが、それでもモンスターとしての本能の赴くままにふたりを狩り取ろうと牙を立たせ両腕を前にふたりに襲い掛かった

 

そんな迫りくる格上を前に若き男女は慌てることはなく、かと言って緊張することはなく

 

ラウル「行こう───アキ」

 

アキ「ええ────ラウル」

 

目の前に迫っていた(終わり)を退け(未来)を掴むために駆けだしたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────────さあ 冒険をしよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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