世界を救う英雄を育てた英雄 作:スカイハーツ・D・キングダム
ヘグニの魔法 『バーン・ダイン』は確かにアイズのいた場所を吹き飛ばした
射程は短いながらも火力は高く、本人は使い勝手が悪いとぼやく程だ
だからこそあの距離まで接近して放ったのだ
確実に吹き飛ばす為に
そう 吹き飛ばしたのだ
アイズの立っていた場所を
ヘグニ「!」
次の瞬間、真上からの気配を察知した瞬間無意識に剣を振るった瞬間
頭上から奇襲したアイズの振り下ろした剣と刀を防ぐ
ヘグニ「馬鹿な!お前は確かに吹き飛ばされたはず!(危なかった……今無意識に上へ武器を向けていなければ確実に斬られていた)」
ヘグニは驚愕していた
自分の魔法で確実に当てたはずのアイズが、ほぼ無傷で攻撃してきたことに
それが意味する答えは
ヘグニ「避けたのか!?あの距離から放った我が爆炎を!」
そう、射程一メートル以内に居たアイズに放ったそれを、アイズがそれを上回る速度で避けたのだ
アイズがどうやって回避したのか
それは彼女が使う唯一の魔法『エアリエル』にあった
風魔法でありデフォルトでエンチャントを可能にするこれは超短文詠唱でありながら発動すれば全身と武器に風を纏わせることができ、その結果攻撃と防御に速度を上げる万能と汎用性に優れた魔法である
だが、一夏は自身の使う魔法を技術でエンチャントして見せる芸当を披露し、その際アイズの様に全身ではなく余計な部分にリソースを割かず今必要としている部分にのみエンチャントをして見せたことで、試行錯誤の末アイズ自身も風を全身ではなく部分的にエンチャントを可能にするに至った
全身ではなく一部分に纏わせる性質上、纏った場所以外に攻防速の恩恵を受けられないデメリットがあるが、そのリスクと引き換えに得たメリットが大きかった
それこそが、全身にエンチャントをした時の倍以上の効果を生み出すことができる
ヘグニが放った魔法が着弾し吹き飛ばすよりも早くアイズは全身に纏っていた風を両足にまわすことで移動速度を大幅に向上させ爆心地から回避し攻撃に転じてみせた
そして何よりも
アイズ「お兄ちゃんの魔法は、発動が早いだけじゃなくて、予備動作がほぼゼロから放ってくる。貴方の魔法は、お兄ちゃんの魔法に比べたら、遅すぎる!」
常日頃から一夏の不可視の高速の斬撃を受けて来た彼女にとっては至近距離から爆破までの時間すらも避けきるだけには充分すぎるものだった
ヘグニ「ッ!そういうことか!」
ヘグニが力の限り振り払い、アイズとの距離を作ったが
アイズ「ッ」
間髪入れずにヘグニに接近し斬りかかった
ヘグニ「(速!)」
アイズ「貴方の距離感を狂わせるその射程無視の剣の範囲は、もう読めた」
そう言うとアイズは剣でヘグニの剣を受け止めた時に、もう片方の腕に握っていた飛天を地面に突き刺した
その瞬間
ヘグニ「!?」
ヘグニは自身の身体が宙に浮いたかのような感覚を覚えた
いや、ようなではない 本当に宙に浮いたのだ
その理由は自身とアイズを囲うように突如出現した風、いや嵐の中にいるのだから
一夏から授かった刀の名は『飛天』
その能力は使用者の魔力総量に応じて風を起こすもの
現在レベル6となったアイズならば、嵐を起こせるレベルまで成長している
そしてこの状態では通常、ヘグニだけでなくアイズもまた嵐の中で自由の聞かない浮遊をすることになるのだが
アイズ「ここから私の独壇場。斬られる覚悟は出来てるね?」
アイズは全身に
ヘグニ「!」
嵐の中を掛けまわる一つの風と化したアイズによる一方的な蹂躙がヘグニに襲い掛かるのだった
一夏『前から思ってたが、リヴェリアって自分を王族みたいに扱わないで欲しい割にはどこか戦い方がお上品過ぎなんだよな』
リヴェリア『…………は?』
一夏『ガレスやフィンと比べてもお前は泥臭くないっていうか………どこか自分を綺麗に見せようとしてる部分があんだよなあ。もっと言うなら完璧、完全を求めてる。俺やあの
リヴェリア『いや…………それは』
一夏『ぶっちゃけるが俺から見た所、魔法限定ではあるが、お前の魔法の才能自体は
リヴェリア『………』
一夏『まあお前自身、フィンにガレスや、俺に
リヴェリア『…一夏』
ヘディンが放つ無数の雷の矢
それは無慈悲にもリヴェリアに襲い掛かり
当たる寸前
リヴェリア「さっきの魔法は まだ終わってない」
その言葉と共に、リヴェリアの頭上から降り注ぐ氷の塊が地面に着弾すれば、氷の柱を形成し雷の矢を防ぐ大きな盾となった
ヘディン「ッ!」
驚くヘディンをよそに更に頭上から炎の塊がヘディンに降り注ぎ
ヘディン「───ッ【永伐せよ、不滅の雷将】『ヴァリアン・ヒルド』!」
とっさに一点特化の雷魔法を放ちその炎の塊に放つ
その瞬間 炎の塊からは凄まじい火力と爆発がその場に巻き起こり、思わずヘディンは後方に吹き飛ぶがすぐに体制を整えた
ヘディン「(今の炎、そして先ほどの氷………まさか)」
ヘディンはあのふたつの正体に気が付く
最初にヘディンの魔法を防いだ氷の正体は、先ほどリヴェリアが放った三つある攻撃魔法の一つ『ウィン・フィンブルヴェトル』
そして炎の正体も同じく先ほど放った二つ目の攻撃魔法『レア・ラーヴァテイン』
リヴェリアの魔法はどれも協力ではあるが、ヘディンの使う超短文詠唱による魔法の撃ち合いには速さで勝てなかったため、先の魔法の撃ち合いの際に一部の魔法を球体上に圧縮し互いの視界の外である頭上にストックとして待機状態にさせ、それを任意のタイミングで放ったのだった
本来これらの魔法をこのように運用することはできなかったリヴェリア
だが、一夏やアルフィア、そしてヘディンの様な魔法の早撃ちに優れた者を相手にした場合を想定し、自身の攻撃魔法の強みである広範囲高火力を活かす案を考えた末、戦いの最中にストックとして保存したものを放つと言う器用なやり方を思いつくに至った
ヘディン「………先ほどの魔法を待機させ自身の任意で放つとは………随分と器用な芸当ですね(とはいえこれだけで私に勝つつもりなのか?確かに私の様に魔法を早く放てる者に対してこの対策は有用だ。だが不意打ちで放ったあれらと同じものを、今度こそ当てるつもりなら警戒を解かなければ容易に対応できる)」
ヘディンはその魔法運用に驚きつつも決定打にはならないと判断しリヴェリアへ目を向けた
リヴェリア「…………」
リヴェリアはそんな自分の隠していた魔法がヘディンに刺さらなかったことにショック…………を受けておらず自身の掌を開いて閉じてを繰り返した末に
リヴェリア「…………やめだ」
リヴェリアは敗北宣言………ではなく、なにかを捨てたかのような決心した表情へと変わった
リヴェリア「………具体的なイメージは出来ている。後は形を成すことだけ」
ヘディンはそんなリヴェリアの様子に言いようのない予感を抱きながらも仕留めるべく魔法の詠唱を始めた
リヴェリア「────泥臭く……か。確かに私にはあまりな姿だったが………今ばかりは、あの
────いいだろう やってやる
ヘディン「ッ『ヴァリアン・ヒルド』!」
詠唱を終えたヘディンがリヴェリアに向け放つ雷の砲弾は
────領域展開
杖の先端に手を乗せヘディンへ向けたリヴェリアの足元から広がる緑に飲み込まれていき
ヘディン「!?」
周囲が森に包まれ、その中心にふたりは立っていた
ヘディン「こ、これは………まさか!?領域!」
そう リヴェリアは、自身に発現しなかった領域のスキルを自らの持つ魔力と技術とイメージで疑似的にだが領域にして見せたのだ
リヴェリア「は、ははは………不完全だな。こんなもの………不細工にもほどがある」
そのリヴェリアの言葉通り、この領域には必中効果の付与も、そもそも相手を閉じ込めることも出来ておらず、一夏やアルフィアの領域に比べれば低次元の出来でしかない
そもそもリヴェリアの性格上、不完全なでしかないこれを実戦で使うなど、今までの彼女ならばまずなかっただろう
しかし
リヴェリア「だが今は、これでいい!!」
こだわりを捨て、吹っ切れた彼女がそう言えば、周囲から詠唱もしてないと言うのに魔法が無制限に放たれそれに驚きながらも回避するヘディン
ヘディン「ッこの領域に必中効果がない……だがこの魔法は……まさか!」
その瞬間ヘディンは理解した
この不完全な領域の持つ特性
この領域内では、リヴェリアの持つ魔法全てが無制限かつ同時発動を可能にする
必中効果が付与できず、閉じ込めることができない不完全さを差し引いても、都市最強の魔導士の魔法全てを無詠唱かつ無制限に発動できるのはあまりにも破格すぎる
リヴェリア「さて、それではこの不完全な領域の的になって貰うぞ、ヘディン」
ヘディン「……ッ……それは……余りにも、無慈悲が過ぎませんかリヴェリア様」
そう返したヘディンではあるが内心冷や汗を流していた
自身がリヴェリアに勝っていた魔法の早撃ちはこうしてリヴェリアの領域が上回り、完全に自身の手札を潰され、これから起こるであろうエルフの女王の魔法の的となる自らの運命を悲観しながら、精一杯足掻こうと
魔法の雨を前に強く意識を保とうとするのだった
ラウル「『シン・陰流 簡易領域』」
自身を一斉に狙うガリバー兄弟を前に腰を屈めたかと思えばそれは迎撃の為の構え
ラウルを中心に形成された領域にガリバー兄弟達が入った瞬間バングルから複数の武器を射出した
ガリバー兄弟「「「「!!」」」」
突如放たれた大量の武器を前に次々と持ち武器で防ぐがそれでも完全に防ぎきれず、鎧を着ていなければ重症になっていただろう箇所にいくつも命中した
だが ラウルの狙いは最初から決まっていた
アルフリッグ「なっ!?」
射出した武器の中には鎖鎌が仕込んでおり、それをアルフリッグに放ち、上手く身体に巻き付かせたかと思えば
ラウル「ティオネ!ティオナ!」
ティオネ・ティオナ「「分かってる!!」」
ラウルの呼びかけに答えたティオネとティオナがその鎖を掴むとそのまま
ティオネ・ティオナ「「やああああああああ!!」」
アルフリッグ「うおおおおお!?」
振り回したかと思えば遠投した
ラウル「(もし、フレイヤファミリアで俺とアキ、それからティオネティオナが戦う場合の仮想相手としていつも設定してたのはブリンガル。派閥、いや都市随一の連携は確かに戦う上では難易度が高い……だが)…………崩れたな」
ティオネ「行くわよティオナ!」
ティオナ「うん!」
その言葉と共にティオネとティオナは投げ飛ばしたアルフリッグの方へ
ドヴァリン「────こいつらまさか!?」
アキ「気が付いたみたいね、でももう遅いわ!」
ベーリング「ッこいつらの目的は!」
グレール「────我らの分断!」
残ったガリバー兄弟の三人が今更になって気が付くがその時にはもうすでにラウルは動いていた
ラウル「『シン・陰流 簡易領域』」
続く簡易領域
ガリバー兄弟「「「!!」」」
それぞれが持ち武器でガードに入る
ラウル「『抜刀』!」
が、それよりも先にラウルがシン・陰流最速の剣技を放つ
ガリバー兄弟「「「なっ!?」」」
ガードが間に合わないほどの速度の抜刀術を受けた三者は驚く
レベルもステイタスも下のはずの相手が、明らかにレベルもステイタスも無視した速度の攻撃を放ち、それを自分達が受けたことに
シン・陰流 抜刀
シン・陰流の数ある技の中でも最速であり、刀身を魔力で覆い鞘の中で加速させることで威力を倍増させるシン・陰流最速の技
その速度は発動者によって差があり、ランクアップ可能範囲のステイタスのレベル4ラウルならば、レベル5クラスの速度を出せる
しかも不意打ちでこれまではこちらが出せる速度を誤認させる目的でわざと手を抜いて見せ、反応を遅らせたことで見事三人の身体に切り傷を作った
ラウル「ッ、浅い。当たる直前に少し後方に身体を下げたのが効いてるな」
ラウルの言う通り切られたガリバー兄弟達には確かに切り傷はあったがそのどれもが深く切り込めず浅かった
反応が遅れたとはいえそこはレベル5
致命の一撃はしっかりと防ぎ切った
ドヴァリン「チッ、まさか我らがお前の様な凡夫如きに!」
ベーリング「ラッキーパンチが当たった程度で」
グレール「いい気になるな!」
三人から殺意交じりの罵倒を受けるラウルだったがそれを流しながら次の攻撃準備を始める
アキ「あら?その凡夫如きの攻撃を受けた上にその程度で切れ散らかすなんて、余程さっきのアイデンティティ潰されたのが許せなかったようね」
ドヴァリン「────ッ速攻でこいつら始末して合流するぞ!」
ドヴァリンの言葉に他の兄弟達も各々が武器に力を込めながら仕留めにかかる
ラウル「そんなに自分達の長男がティオネとティオナにやられないか心配か?それとも、司令塔の兄が居なきゃ自分達が負ける可能性に焦ってるのか?」
ガリバー兄弟「「「────はっ?」」」
それは挑発とも取れる言葉であったが、彼らは別のことが脳裏に浮かんだ
それは
ラウル「次男ドヴァリンが魔力察知能力、三男ベーリングが索敵能力、四男グレールは観察能力、そして計算能力が高い長男アルフリッグが弟達の分析をまとめ意思決定を行う。無限の連携とは、各々の優れた部分を掛け合わせ各々の足りない部分を補い合うことで初めて生まれる、四つ子のお前たちだからこその戦術。だがその弱点はいたってシンプル。四人揃って初めて発動できる戦術だからこそ一人でもかければその連携は無限でもなんでもなくなる。加えて」
言葉を続けながらバングルから取り出した魔剣から放つ炎をガリバー兄弟にぶち当てようとするが散開する
ラウル「四人一組で戦うことに依存してるから、単体でも戦闘能力はその実同じレベル5より少し強い程度だ」
ラウルはロキファミリアを通して敵対派閥のフレイヤファミリアの面々の戦いを見て来た
当然ガリバー兄弟の戦い方も見て来た
この無限の連携の仕組みに気づいたのはあのダンジョンサバイバル事件から二年後だった
そのことをフィンに言えば『よく気が付いたね。正解だよ』とラウルの観察と推察を褒めた
しかもこの仕組みを誰かに聞いたり誰かと考えたのではなく、たった一人で導き出した
ベーリング「────だったらなんだって言う!」
ドヴァリン「連携の精度が落ちようが」
グレール「お前たち如き格下に勝ち目などハナから存在しない!」
実際人数、レベル、ステイタス、経験に練度
どれをとってもラウルとアキはアルフリッグを欠いたガリバー兄弟に及ばない
ラウル「確かに、無限の連携が崩れてもそっちが上な事には変わりない」
アキ「ええ、でもね」
短剣型の魔剣を取り出すと隣に並ぶアキに渡すラウル
ラウル/アキ「「連携はそっちだけの売りじゃない」」
その瞬間、両者が駆け上がりガリバー兄弟を攻めた
ガリバー兄弟「「「!!」」」
その際彼らは驚愕した
ふたりの連携の精度が、明らかにティオネとティオナが居た時以上に増しており
更にバングルから複数の武器を射出しそれが弾かれ宙に浮けばアキが拾い上げ斬りかかり、複数の武器をほぼ同時に使用し攻撃の軌道を読みづらくした
アキ「さっきはティオネ達がいたから、それに合わせて私達の日頃の連携の精度落としたけど、私達の場合はふたりで戦う時が一番強いのよ」
ラウル「そっちとの違いは、兄弟の連携に依存してるのに対してこっちはファミリア全体とある程度の連携ができる程度には『集』の戦いを主体にしていること。…………だからと言って」
再びここで簡易領域を展開しようとしたので今度こそ回避する為大きく後方に回避した
ラウル「『シン・陰流 簡易領域』」
その瞬間 360度に広がっていた簡易領域は後退し回避する前方のガリバー兄弟達に向け領域が拡張したかと思えば
ラウル「『居合 夕月』…………『個』としての強さを磨くことを疎かにした覚えはない」
ガリバー兄弟全員が斬られた
居合 夕月
領域内に侵入したものをフルオートで迎撃するシン・陰流の奥義にして、ラウル独自の使い方として四方に広げる簡易領域を前方にのみ拡張し、強制的に敵を領域に入れ領域展開の必中効果と同様の仕組みで斬りかかる
先ほどとは同じ轍を踏まない為に発動の構えを見た瞬間射程範囲から逃れるべく大きく後方に下がろうとしたが、そんなガリバー兄弟達の考えを読んでいたラウルは中遠距離対応のこの技を使った
ガリバー兄弟「「「がはっ!?」」」
今度はかなり深めに斬られ全員が口から血を流す
ラウル「それと、習慣なのか。常に一塊で居ようとする」
そこへ畳みかける様にアキが真上からガリバー兄弟達へ向け
ラウル「それも弱点だな」
アキ「はあああああああああ!!」
先ほど射出した際に紛れさせた二振りの魔剣を同時に振り下ろし炎と雷が叩き込まれ、それをもろに受けてしまった
ガリバー兄弟「「「ぐあああああああああああ!!」」」
ラウル「────穴の開いた無限の連携が、『ロキファミリアの夫婦剣』にどう対処するか。もうそろそろ上のレベルに行きたいからな、精々踏み台にしてやる」
新たに武器を取り出しながら簡易領域を発動させるラウルが
周囲のフィールドを利用しつつ投げ渡された武器を手にアキが
自分達が最も戦えるペースとコンディションを掴みながらも、
(一夏を除けば)都市最速を誇るアレンの速度は、トップスピードに入れば同レベルでは見切ることは困難なものだった
当然自分よりもずっと後からレベル6になったベートでは本来ならば反応しきれない
はずだったのだが
アレン「────は?」
階層にそびえたっていた大岩をいくつも突き破り、その瓦礫の中に居たことに彼は理解が出来ずにいた
覚えてるのは、両腕に巻いてた包帯を外したベートに高速移動からの槍による一突きを浴びせようとしたその瞬間だった
それまでまともに対応できずにいたベートが槍を避けたかと思えばノーガードとなっていた胴体に蹴りを叩きつけたのだ
アレン「どう、なってやがる!」
瓦礫から這い出たアレンが目撃したのは
全身の毛を逆立たせ、戦闘時の獰猛さとは違う野生めいた雰囲気を醸し出したベートの姿があった
獣化
獣人の冒険者が発現する可能性のあるスキル
発動することでステイタスを超高補正化させられるソレを発動したことで、高まったステイタスから向上した動体視力が、アレンの動きを見切りカウンターを叩き込んだのだ
だが、アレンが驚いたのはそのことではなかった
アレン「なぜ、テメェがここで獣化しやがる!!」
本来、狼人の獣化は月の光を浴びることで、身に宿る獣性と力が解放されるものだ
しかし、ダンジョンの中ではその月の光を浴びることができず、真価を発揮できないが為ダンジョン探索に最も向いていない種族としてその名が上がる
だが、こうしてベートは地上と変わらず獣化を発動して見せていた
その秘密は、両腕に巻いていた包帯の下にある装備の封印を解いたことにある
ベートの両腕に装着している黒のガントレットにはそれぞれ4つずつ、計8つの光源が埋め込まれ、うち1つの光源から溢れる水色の光がベートを強化していた
それは、ベートの獣化スキルをどうにかしてダンジョンでも使えないか色々模索してた一夏が様々な資料を読み漁った末、鉱物の図鑑に載っていたある鉱石の存在を知ったことがきっかけで誕生した装備
オラリオから離れたある山岳地帯の頂上近く、その表面で採掘される古代から存在した月の光を蓄積し月が隠れた時に光り出すと言うだけの鉱石『月光石』
当然鉱石としての価値はないに等しいが、重要なのは月の光を蓄積している特性にあった
この鉱石の存在を知った一夏はすぐに採掘したのち、ベートが使っている魔法効果を吸収し特性攻撃に変換する能力を劣化させたメタルブーツ『フロスヴィルト』を作ったヘファイストス・ファミリア団長にして最上級鍛冶師、椿・コルブランドに制作を依頼
そうして完成したガントレットの名は『ルナ・メタル』
シンプルな名前に反し、その真価はいたってシンプル────光源状に加工したそれに込められた月の光を装着者の任意で放つというそれだけの物だった
だが、装着者が狼人で獣化スキル持ちならば地上で月光を浴びた時と同様の効力を発揮させる
すなわち、本来ならば実現できないであろうダンジョン内での狼人の獣化を可能とさせる結果を生み出すこととなった
ちなみに月光石を装備用に加工させられるのはヘファイストスファミリアの主神鍛冶神ヘファイストスか団長の椿のみである為、一つ加工させるのにおよそ100万ヴァリス、ルナ・メタルの製作費はおよそ6800万ヴァリスもかかる。おまけに加工した月光石の光は一つにつき約5分程度の効力が発揮できず、魔剣同様使い捨てである為無くなったら再度加工し取り付けてもらわなければならないのでかなり財布にきつい装備である
なおこれら全て一夏がレベル5にランクアップした祝いとして全部自腹でベートに授けた物であるため、なおのこと一夏に対し頭が上がらなくなるのだった
この奥の手を持って、かつて強化ウダイオスをアイズと共に屠りレベルアップを果たし、現在でも奥の手として、本気になる必要があった時にのみ使用する
こうして強化された動体視力によりアレンの動きを捉えカウンターを叩き込み、形勢逆転の一手を担うに至る
アレン「ッ!」
瞬間 アレンの視界から一瞬ベートの姿が消えたかと思えば一瞬で距離を詰めアレンに向け重い一撃を叩き込もうとした
反射的に武器を盾にし防いだがそれに構わず何発も蹴りのラッシュを叩き込みその一撃一撃が重いがために完全にはガードができずやがてモロに受け始め、その顔を掴みこまれた瞬間壁にぶつけながらも引きずり回し、胴体に拳を叩き込んだ
アレン「ゴファ!」
種族差、更にはスピード特化な自分と違い力のステイタスも高く、獣化により全ステイタス超高補正化も受けているため、それらを受け流すことも防ぐこともできずベートの攻撃を受けるたびに敗北が脳裏に浮かんでしまうアレン
アレン「ッッ調子にのんな!クソ犬がああああああ!!」
全身から殺気と怒りをまき散らしたアレンは両手で槍を握りしめたかと思えば
歌を紡いだ
アレン「【金の車輪、銀の首輪】【憎悪の愛、骸の幻想、宿命はここに】」
それは 女神の戦車としての役目を果たすための詠唱
だが今は女神の戦車としてではなく、この目の前にいる気にくわない狼人を屠る為だけに発動しようとした
そんなアレンを前にベートは止めようとせず、それどころか
ベート「【戒められし悪狼の王】【一傷拘束。二傷痛叫。三傷打杭。飢えなる涎が唯一の希望。川を築き血潮と交ざり涙を洗え】」
自身も相手を屠る為に詠唱を唱えだした
アレン「【消えろ金輪、轍がお前を殺すその前に】【栄光の鞭、寵愛の唇、代償はここに。回れ銀輪、この首落ちるその日まで】」
ベート「【癒せぬ傷よ、忘れるな。この怒りとこの憎悪、汝の惰弱と汝の烈火】【世界を憎み摂理を認め涙を枯らせ】」
互いに発現した魔法はそれぞれの過去に負った傷がきっかけで生まれ、自身にとっては切り札であると同時に心の古傷を思い起こさせるものであるためにかつては出し渋っていた
アレン「【天の彼方、車輪の歌を聞くその死後まで】」
ベート「【傷を牙に慟哭を猛叫に——喪いし血肉を力に】【解き放たれる縛鎖、轟く天叫。怒りの系譜よ、この身に代わり月を喰らえ、数多を飲み干せ】」
互いに認めたくはないが共通していることが多く、同族嫌悪とでもいうべきか犬猿同士ではあるが
唯一の違いは
片や過去の傷から目を逸らし守るために大切を傷つけ
アレン「【駆け抜けよ、女神の神意を乗せて】」
片や過去の傷を受け入れ今ある大切を守る為に立ち上がり
ベート「【その炎牙をもって平らげろ】
決して相いれることのない互いの心の在り方が今
────グラリネーゼ・フローメル
────ハティ
衝突する
それは 歌
フィン「【真なる契りを此処に】」
一族復興という夢を掲げ、自らが小人の光となるフィンになると誓ったあの日から夢へと走り出した末に生まれたものだった
フィン「【捨てられし真名、刻まれし光。右腕は裂け、傷口は哭き、五の一が開く】【語れ賢者よ、神工輝斧の担手よ。騙れ偽者よ、汝は赤を名乗る者。報いし猟犬は既に数多の槍とともに】」
かつて実在したかもわからないその逸話を胸に進み続けた末に発現したそれには思わず拗らせてるのかとぼやいたこともあった
フィン「【轟く馬蹄、終わらぬ蹄跡、騎士達の歌は今もなお高らかに響く。すなわち誓約、小人が誇り。すなわち狼煙、小人は守護者】」
思えば 初めてバロールと単独で挑むこの戦いに、どこか運命めいたかのように思えた 遠いどこかで 自分はこの怪物と酷似したなにかに挑んだかのような感覚があった
フィン「【一族よ、集え。この御旗のもとに。同胞よ、続け。聖烈の光は今も先前に】」
などという奇妙なデジャヴを胸に 彼は詠唱を続けながら単眼の王の目から放たれる光線の中を駆け抜ける
フィン「【我が名は一走、蹄鉄とともに駆ける者。大いなる勇気のもと、今一度。もう一度。聖約をこの手に】」
かつてはいがみ合ったが今では背中を預け合う同士となったハイエルフとドワーフ諸共、かつての最強派閥に手も足も出せず泥の味を口にすることもあった
フィン「【もし許されるならば】」
その彼らが居なくなり、その後釜に座っても、未だその影を踏めていない
だからこそ 勝って勝って勝ち進み証明しなければならない
フィン「【今ここに、女神の一槍を】」
その場所に立ったという証を
フィン「『ティル・ナ・ノーグ』!」
光が槍に収束されていき、自身も携え飛び掛かる
ソレは レベルおよび潜在値を含む全アビリティ数値を魔法能力に加算させ、投槍による攻撃を放つ投槍魔法
だがそれを、彼は敢えて投擲せず、そのまま握りしめ
フィン「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
単眼の王が その眼から放つ極太の光線へ槍を向け 衝突
互いに拮抗し合い、体格差で明らかに不利なはずの彼だったが
その胸に多くのものが駆け巡っていた
一族復興の夢 最強派閥の後釜に座った責任 自分を信じて付いて来る友や仲間達
そして
最強/最凶を知り、その最強/最凶にただ一人辿り着きながらも、一人でできないことを多くの者と力を合わせようと日々奔走する若き
追い抜かれた悔しさはある だがそれ以上に未来の為に己の出来る全てを成し遂げようとするその姿は、ある種の尊敬の念すら持たせた
だが だからこそ 彼と共に、未来の厄災を退け、世界を救う為にも
────今 己の壁を越えないでいつ超える
やがて拮抗していた両者の一撃は
心を持たない単眼の王の眼を
フィン「貫けえええええええええええええええええ!!」
一夏「終わったな。ちゃんと無事に」
岩の上に腰掛けながらその全てを見届けていた一夏は笑みを浮かべながら岩から降り、そのまま、フィンの下まで歩き出した…………その背後には無数の斬撃の跡と共に地に伏したフレイヤファミリアの団員達の姿があった
ボロボロになっていたフィンに声掛けをしつつ他の面々が来るのを待っていると、まずはガレスが合流した。ボロボロではあったがオッタル相手に単騎で渡り合えていた辺り流石はロキファミリア随一の超前衛特化と言えよう
続いてはヘディンに勝利したリヴェリアが合流
その際自身が不完全ながらも疑似領域の展開を果たした事を言えば
一夏「お前それ、偉業してんな」
不完全にして疑似とはいえ技術だけで領域の再現をしたことは偉業にカウントされるだけのものであるため、この遠征の目的であった三首領の偉業達成は無事果たされたと言えよう
これで49階層より下まで行く必要がなくなったのは予定外ではあるが手間が省けたので良しとした
それから程なくして、比較的軽傷だったティオネとティオナがボロボロのラウルとアナキティをそれぞれ肩を貸しながら合流した
ロキファミリア対フレイヤファミリアの連携対決は、ラウルが崩したことがきっかけで崩壊し、アルフリッグはティオネとティオナの二対一に敗れ、残った弟たちは接戦の末にラウルとアナキティの『ロキファミリアの夫婦剣』を前に敗れ、これでラウルとアナキティはレベル5三名に勝ったこととなり無事に偉業を達成した
それから少し経てば負傷したアイズが合流
ヘグニとの嵐の中でのぶつかり合いはアイズが制し、ヘグニに打ち勝つことが出来た
そして
一夏「…………その様子じゃ、勝ったってことでいいんだな。ベート?」
ベート「───まあな」
アレンとの勝負を制し、勝利したベートが合流した
全体的な戦績で言えば、勝負付かずだったガレスとオッタルを除いたとしても間違いなくこの戦いはロキファミリアがフレイヤファミリアに勝利したと言えよう
目的は果たし、これ以上ダンジョンに居る理由がなくなったので、地上に帰還しようと一行は上へ目指して歩こうとした
が、
一夏「────しつこい」
いつの間にか回復したオッタルを筆頭にフレイヤファミリア面々がそのボロボロの身体を引きずりながらも勝負を挑もうとした
一夏「勝利への執着だかなんだか知らないが、負けたんだから大人しくしてろ」
溜息掃きながらも一夏が戦闘態勢に入るオッタルへ近づけば
オッタル「うおおおおおおおおおおおおお!!!」
自身の握る大剣を振り下ろすがそれを一夏が片手で刃を掴み受け止めた
オッタル「!?」
その際レベル7の自身の攻撃を素手で受け止めたことに驚いたがオッタルは別の事にも驚いていた
オッタル「(手の平から斬撃、だと!?)」
斬撃を手の平の表面に細かくチェンソーの様に発生させることで刃に触れず受け止めることで手を傷つけず、後は純粋な力でオッタルの膂力を利用がした
一夏「挑むことを辞めず諦めない姿勢は評価するが、あの
その言葉と共にもう片方の拳をオッタルの腹に叩き込めば
黒閃
黒き閃光がオッタルを吹き飛ばし
一夏「『解』」
続いてフレイヤファミリアの頭上に向け太い斬撃を放てば
一夏「『散』」
スペルキーを発した瞬間放たれた斬撃が別れ散り、そのままフレイヤファミリアへ向け斬撃の雨が降り注ぐこととなり、阿鼻叫喚が広がっていく
一夏「よーしお前ら、さっさと帰るか」
フィン「え、ええ…………なんか僕たちの後ろで地獄絵図が広がってるけど…………」
一夏「知らん。曲がりなりにも最大派閥なんだからあの程度の斬撃くらい生き延びられるだろ。仮に死人が出たとしても殺ろうとしてきやがった連中の生死なんざどうでもいい」
フィン「…………(あの程度って……レベル9の君が出したんだから彼らからすれば十分脅威でしかないんだけど)…………分かってたけど、君相変わらずあのファミリア嫌いだな」
苦笑しながらも特に引き留める気にはならずフィンはそれ以上何も言わず、一行はその後地上へ帰還
それからすぐ
オラリオではふたつのニュースが一面を飾るのだった
フレイヤファミリア ダンジョン49階層にて遠征中のロキファミリアと抗争の末敗北
ロキファミリアの三首領レベル7へ そしてロキファミリアの夫婦剣が共にレベル5入り
こうして、長きにわたり抗争して来た両派閥の力関係は、それまで対等と思われたパワーバランスが崩れ去り
ロキファミリアが全てのファミリアのてっぺんに至るのだった
そして
月日は流れ
白髪の少年「あれが、迷宮都市オラリオ…………世界の中心…か」
物語は加速する
《キャラクターズファイル》
織斑一夏 レベル9
この遠征の少し前にあったグランドディと呼ばれるイベント時、突如襲来したベヒーモスの亜種 ベヒーモス・オルタナティブを相手取った際、その強さが話に聞いていたベヒーモス以下でしかないことに気づき、これまで集めていたバロールを始めとした階層主の魔石計17個を食わせることで本家ベヒーモスと並ぶ強さを得たベヒーモス・オルタナティブを単独で討伐したことでレベル9へランクアップを果たすことに成功した
こうしてかつてヘラファミリアにいた人類最高到達点とも言える女帝に続くレベル9冒険者となった
長くなりましたが
次回から遂に、原作開始となります。