才能を捨てた天才と夢を追い続ける幼なじみ 作:RUKA1235
「ご飯ってなんだろうね」
「…ピザとか買ってんじゃない?」
「瑠奈さんの唐揚げ、久しぶりに食べたいなー」
「…作ってるかもね」
登校時に弾んでいた会話とは対照的に、下校時の二人の会話にはどこかぎこちなさがあった。
「楽しみだなー、瑠奈さんの唐揚げ」
「…そうだね」
「昔から好きだったんだよねー」
「…そうだね」
「瑠奈さんって本当に料理上手いよねー」
「…そうだね」
「そういえば奏、今日なんの呼び出しだったの?」
「…そうだね」
「…奏?」
「…そうだ、って痛っ!? 急にデコピンすんなよ!」
「奏、話聞いてた?」
「聞いてたよ! スティーブが船に乗って吉田さんにフライパン持ってきたって話でしょ!」
「は? スティーブって誰? それに吉田になんでフライパン?」
「…千夏さん、そんな冷たい目で見ないでよ」
結局、話し始めるといつものように会話は弾む。それでも千夏は、奏の上の空な様子が気になっていた。
彼がこの状態になっていたのは、千夏が帰る準備を終えて奏の元へ向かったときからだ。さっき会ったときには涙目だったのに、もう感情の見えない顔になっていた。
歩いている間も、奏の返事は淡泊で、ようやく反応が返ってきたかと思えば意味不明なものばかり。
ついさっきも「アンドレスとアルバレスはサウジアラビアに行って、パレナスとメリンドはフィリピンに帰ったんでしょ?」と言われた。
なぜか奏の返答には必ず外国人の名前が出てくる。その理由が気になりつつも、千夏は核心に迫ることにした。
「…ねえ、今日、体育館の外でなんで涙目だったの?」
「…」
「奏が何かあったらすぐ泣くのは知ってる。でも、今日のは特別な気がしてさ」
「…ドラマ見てて感動しちゃっただけだよ」
「…」
奏の目をじっと見つめる。
「…何?」
「嘘だよね」
「ち、違うよー! ユリアン・ロドリゲス主演の『エターナル・プロミス〜100年後も君を待つ』を見て感動してたんだよ!」
「また微妙なドラマ見てるの?」
『エターナル・プロミス〜100年後も君を待つ』は、知る人ぞ知るクソドラマ。評価は2.1/10。
「それに、奏が嘘をつくときの癖、出てた」
「え!?」
「嘘をつくとき、奏は耳を触る。だから、本当のことを話して」
奏は視線をそらし、下を向く。
「…怖かったんだよ」
「怖かった?」
「1年ぶりに、あの時間の体育館に入るのが怖かった。勝手に急に辞めた俺のこと、みんなどう思ってるのかなって考えたら…怖くなった」
顔を赤くしながら呟く奏を見て、千夏は思わず頭を撫でた。
「ふぇ!? き、急になに!?」
「ふふ。久しぶりに奏の弱いところを見たら、可愛いなって思って」
奏は一瞬で顔を赤くし、さらに俯いた。
「…1年前も言ったけど、私は奏がバスケを嫌いになるわけないって思ってる。だから、奏がまたやりたいって思うのを待ってるよ」
「…」
千夏は、奏の頭を撫で続けながら続ける。
「確かに、奏が急に辞めて困った人もいたと思う。私も最初は寂しかった。でも、奏が体育館に入っちゃいけない理由なんてないよ」
「…」
「バスケ部の子たちも、『奏、試合見に来てくれないかな』ってよく言ってるんだよ? それは私も同じだし、針生くんもだと思う」
「…」
「だから、そんなに心配しなくていい。もし奏が来て、何か文句を言う人がいたら、私は許さないから」
奏の目には、また涙が滲んでいた。
「…ありがとう」
そう言って、静かに涙を流す奏の背中を、千夏はそっとさすった。
そして、五分ほどそうしていると——
「ママー! カップルがイチャイチャしてる!」
「見ちゃダメ!」
「……」
「……帰ろっか」
「そうだね…」
どこか気まずさを残しながらも、二人の距離は、少しだけ縮まっていた。
翌日。
「…今何時?」
昼過ぎ、奏はようやく目を覚ました。昨夜は、鹿野家と月城家の久しぶりの食事会を楽しんだあと、疲れ果てて寝落ちしてしまった。
「…水」
喉の渇きを癒そうとリビングへ向かう途中——
ガチャリ。
玄関の扉が開き、大きな荷物を抱えた千夏が現れた。
「おはよう」
「…お、おはよぅ」
「今起きたの?」
「う、うん。それより…千夏、その荷物、なに?」
「それはね——」
千夏が何か言おうとした瞬間、
「千夏、来たのね!」
瑠奈が玄関へとやってきた。
「改めまして、これからよろしくお願いします!」
「こちらこそ、よろしくね」
「…は? どういう意味?」
状況が飲み込めず固まる奏に、千夏は微笑みながら告げる。
「これから月城家にお世話になります。鹿野千夏です。よろしくね、奏?」
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