才能を捨てた天才と夢を追い続ける幼なじみ 作:RUKA1235
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「…」
朝 奏が自室のベッドで目を覚ますと、布団には自分以外のもうひとつの膨らみがあった。
その膨らみは明らかに人のものだった。しかも、奏の体にしっかりと抱きついている。
現在、この家にいる可能性があるのは奏以外で4人。
父親は体型からして除外。朝はリビングにいる母親も違う。
となると残りは2人だが、こんなことをするのは1人しかいない。
普段なら雑に振り払うところだが、もしかしたら別の可能性もあるかもしれない――そう考え、慎重に布団をめくった。
「…な、菜緒ごめん! まさかドーナツがこんなに増えるなんて…」
「どんな寝言だよ…しかも文章だし…」
そこにいたのは奏の姉、月城楓だった。
奏の4歳年上、20歳の大学生。
顔立ちは奏と同じく母親似。
楓が奏のベッドで寝ているのは珍しくない。
そのほとんどが、夜遅くまで遊んで帰ってきたときだ。
帰宅後、深夜テンションのまま奏の部屋に入り、ちょっかいをかける――わけではなく。
起こさないように布団に潜り込み、そのまま眠るのが常だった。
「………」
ドンッ!
「うわぁっ!? もーうー、蹴らないでよー……せっかく寝てたのに…」
わずかにあった淡い期待を見事に潰され、しかもそれが自分とそっくりな顔をしている。
すると、妙な怒りが湧いてきた奏は、楓をベッドから蹴り落とした。
「…また来てたけど」
「うーん、本当だ。ごめんねー。遊んで帰ったときって、つい奏の布団に入っちゃうんだよねー」
「…酔っ払いみたいなこと言ってるけど」
「深夜のテンションに酔っちゃった!」
「…」
寝起きとは思えない楓のテンションを無視して、奏は部屋を出る。
そのままリビングへ向かうと――
「おはよう、奏」
机に向かい、朝食を食べていたのは千夏だった。
「…おはよう」
「…どうしたの? 扉の前で止まって」
「…未だに朝、千夏がリビングにいることに違和感があるのと、朝からバカの対処で体力を使いすぎた」
4月。
千夏が月城家に来てから1週間以上が経つ。
きっかけは、千夏の父である鹿野冬樹の海外転勤だった。
千夏がバスケを続けるには、一人暮らしをするか、誰かの家に住むしかない。
しかし、女子高生を一人暮らしさせるのはさすがに問題があると両親は考え、共に海外へ行くことを検討していた。
だが、千夏は「日本でバスケをしたい」と主張。
その話を聞いた瑠奈が、
「千夏が良ければ、家に住んだらいいのに」
と言ったことで、話は一気に進んでいったのだった。
「ウインナーもらうね。奏の好きなトマトあげるから」
「トマト好きじゃないし…むしろ嫌いなんだけど」
「あれ? そうだっけ?」
「…お前が知らないわけないだろ。昔から野菜は嫌いって言ってんのに」
「えー? 知らなかったなー」
「そもそも、千夏の方がトマト嫌いなんだろ」
「そ、そんなことないよー」
「もう少し上手く嘘つけよ…」
奏と千夏は向かい合って話しながら、朝食を食べていた。
「奏ー」
「何?」
キッチンにいた瑠奈が、食事中の奏に呼びかけてくる。
「楓は? 今日も一緒に寝たの?」
「寝たって言い方。たぶん2度寝してる。さっき蹴ったし」
「帰ってきてるならいいや」
そう言いながら、瑠奈はリビングを後にした。
「親子そろってマイペースめ…」
「奏がそれを言うんだね。月城家でマイペースじゃないの、大輝さんだけだよ」
「…ごちそうさま」
「あ、逃げた」
「逃げてない。戦略的撤退だ」
奏は教室で、自分の机に向かって座り、窓の外を眺めていた。
その表情は、何か考え事をしているようだった。
視線の先にいたのは、バドミントン部所属の男子――猪股大喜。
現在、千夏と同居はしているものの、朝練があるため奏は一人で登校している。
時間が合えば一緒に登校するかもしれないが、それはまだ分からない。
奏が学校に着いた頃、体育館の横を通った。
バスケを辞めてから、体育館に顔を出すことはなかったが、時折、千夏や針生のプレーを見ることはあった。
この日も、横の扉から中を覗いていた。
あまり真剣に見ていたわけではなかったが、ふと気になる選手がいた。
それが、バドミントン部の猪股大喜だった。
彼は真剣に、そして楽しそうにバドミントンをしていた。
その姿は、今の奏にとって、あまりにも眩しく映る。
教室に戻ってからも、その光景を思い出していた。
そして、大喜が教室に入ると、奏は思わず彼を見ていた。
「奏くん、宿題やった!?」
「…え? やったよ。蝶野さんは?」
奏と中3の時に委員会の繋がりで仲良くなり、席も近い蝶野雛が話しかけてきた。
「じ、実はやってなくてですねぇ…もしよろしければ見させていただいても…?」
「別にいいけど」
「本当に!? ありがとう! 大喜ー! 私は君とは違うステージに行くから!」
ノートを渡すと、雛は一目散に机へ戻り、笠原匡に見られながら一生懸命課題に取り組んでいる大喜に声をかけていた。
「ひ、雛お前まさか!?」
「そう!私は奏くんにノートを見せてもらった!人望がない君とは違うんだ!」
「…くそぉ!匡!俺にもノートを!」
「ダメだって言ってるだろ」
「No──!」
この姿を見ていた奏は、
「…勘違いかな」
悩みは消えて、授業が始まるまで「絶対に開けてはいけないドアを開けたら終わりだった」を見ることにした。
映画「絶対に開けてはいけないドアを開けたら終わりだった」
評価 10段階 2/10