才能を捨てた天才と夢を追い続ける幼なじみ 作:RUKA1235
「ねぇ、ナツ!」
「そんなに慌ててどうしたの、渚? 何かあったの?」
全中が終わって数ヶ月。ある日の放課後。
中学バスケは引退したものの、高校バスケに向けて練習を続けるため、体育館へ向かっていた千夏のもとに、バスケ部の友人・船見渚が息を切らしながら駆け寄ってきた。
「ナツ、あんた知ってたの!?」
「何が? KDが移籍するってことなら知ってるよ? もう何チーム目だろうね?」
「それは私も知ってる! けど違う!」
「じゃあ針生くんが花恋とデートすること?」
「それは初耳だけど今はそれじゃなくて!」
「じゃあ何?」
「奏くんが昨日でバスケ部を辞めたって!」
「……え?」
一瞬、頭が真っ白になった。
「そんなくだらない冗談やめてよ、渚」
「冗談じゃない! 昨日、男バスは視聴覚室でミーティングだったらしいんだけど、その最後に奏くん本人が『辞める』って言ったって、2年の綾瀬くんが!」
「……奏がバスケを辞める……そんな訳ない!」
千夏は渚の制止を振り切り、一気に駆け出した。
「ちょ、ナツ!? 練習は!?」
「後で行く!」
「綾瀬くん!」
「……千夏先輩?」
千夏が向かったのは、今日急遽練習が休みになった男バスの2年生、綾瀬勇人のもとだった。
「……ねぇ、奏がバスケ部を辞めたって、本当……?」
「……千夏先輩も聞いてなかったんですか?」
その言葉で、千夏の中に残っていた僅かな希望が崩れる。
「……ってことは、本当なんだね……」
「……はい」
肩がわずかに震えるのを感じながら、千夏は俯いた。
「……クラブチームに行くとかじゃなくて?」
「……違います。完全に辞めるって。僕らも昨日聞いたばっかりで、正直まだ呑み込めてません。逆に、千夏先輩が聞いてないってことに驚いてます。いつも二人一緒だったのに……いや、違うな。いつも一緒にいたからこそ、言えなかったのか……」
「……理由は聞いた?」
「……しっかりとは聞いてないです。『嫌いになる前に辞めたかった』としか……」
「……嫌いになる前に……?」
違う。そんなわけない。
奏がバスケを嫌いになるなんて、絶対にありえない。
彼がバスケをしているときの表情を、誰よりも近くで見てきた。
楽しいとき、悔しいとき、勝ったとき、負けたとき。
どんな場面でも、彼の中に「嫌い」という感情が入り込む余地なんてなかった。
それに──
(どうして、私には何も言わなかったの?)
奏とはずっと一緒にいた。なんでも話せる関係だった。
なのに、こんな大事なことだけは、一言も相談されなかった。
それが、何よりも引っかかる。
「……千夏先輩、意味分かります?」
勇人の問いに、千夏は首を横に振る。
「……分からないかな。奏がバスケを嫌いになるわけないし、人間関係で困るような性格でもないし……」
「そうですよね。今日、もう一度聞いても、同じことしか言わなかったんですよ」
「……そっか。ありがとうね」
千夏はお礼を言いながらも、心の中では別の言葉が渦巻いていた。
(奏、本当は何を考えてるの……?)
彼の決断には、何か隠された理由がある。
確信めいたものが胸の奥で膨らんでいくのを感じながら、千夏は拳を握りしめた。
(……直接、聞かなきゃ)
そう決意したものの──
「ナツ! 早く戻らないと、監督に怒られるよ!」
遠くから渚の声が響く。
(……今は、それどころじゃないのに)
そう思いながらも、千夏は深く息をついた。
どれだけ気になっても、今すぐにどうこうできるわけじゃない。
「……分かった、すぐ行く!」
とりあえず、今は練習に戻るしかない。
でも、胸の奥に広がる違和感は、消えてはくれなかった。
(奏、本当に……それでいいの?)