才能を捨てた天才と夢を追い続ける幼なじみ 作:RUKA1235
「……ただいま」
「おかえりー! どうしたの? 珍しく遅かったけど……」
「……お母さん」
「え!? 泣いてるじゃない! 何かあったの!?」
千夏は公園で泣いていたが、何とか涙を止めて帰宅した。しかし、母親の声を聞いた瞬間、再び涙が溢れ出してしまった。
「……奏が……奏が……」
「奏? 奏が何かあったの?」
鹿野家と月城家は母親同士が長年の友人で、家もすぐ近くの距離。だからこそ、千夏と奏は幼馴染で、互いの母親は子供を下の名前で呼び捨てにしている。
「……奏が……ぐずっ……バスケ……辞めるんだって……」
「え!? 」
「……嫌いになる前に辞めるんだって……」
「嫌いになる前に辞める……」
「……私……ぐすっ……奏の事がよく分からないよ……」
千夏は大粒の涙を流し始めた。これが、奏に対して抱いている最大の感情だった。彼の前では決して見せないようにしている感情。
「そうだね……」
「……あんなに辛そうな……奏の顔、初めて見た……」
「何があったんだろうね……」
「……また……奏とバスケしたいよ……!」
千夏は感情を抑えきれず、泣き崩れた。
「……あの奏がバスケを辞めるなんて……」
翌朝
「……うわぁ」
千夏が洗面所で鏡を見ると、目が腫れているのがすぐにわかった。
「……昨日あのまま寝ちゃったからかな……」
夜、泣き疲れて寝てしまったせいだ。
「千夏ー! 早くしないと朝練遅れるよ!」
「う、うん! わかった!」
朝食を食べながら目の腫れを引かせることに成功し、朝練のために家を出た千夏は、いつもの登下校ルートを歩いていた。考え事をせず歩いていたが、気づけば月城家の前に来ていた。
これまでは、朝練の時に月城家のインターホンを押し、奏が家から出てきて一緒に学校へ向かうのが日課だった。しかし、今日からはその習慣がなくなることを考えると、また涙が溢れそうになった。
学校に着くと、男子バスケ部の練習を見ても、元気に走り回っていたはずの幼馴染の奏がいないことに気づいた。それを理解していながらも、練習中に何度も目が行ってしまう。
「千夏、今日調子悪いね? 体調悪い?」
「大丈夫だよ」
チームメイトからも心配され、プレーにも精彩を欠いていた。
その様子を心配していたのは、二人の部員だった。
「……ねぇ。ナツが何かあったか知ってるでしょ?」
「……知らないよ」
「昨日、勇人と話した後から調子が悪いと思ってたけど、今日は特に酷いんだよ」
「奏の話ね……」
女子バスケ部の船見渚と、男子バスケ部の綾瀬勇人が話していた。
「渚以外からも言われてたよ。千夏先輩があんなに調子悪いところなんて、僕は見たことない」
「そうだよね。明らかに奏くんの影響だよね……」
二人は、休憩中に練習を続ける千夏の顔が、いつもの楽しそうな表情ではなく、悲しみを漂わせていることに気づいていた。
「ナツ……」
「……確かに、あの表情は見てらんないよ」
「……けど、多分奏くんは説得できないんでしょ?」
「無理だね。奏がバスケを辞めるなんて、彼を知ってる人からしたらありえない選択だ。それを彼がしたということは、相当な理由があるんだろう」
「そうだよね……」
朝練が終わり、更衣室に向かうとき、渚は千夏に声をかけた。
「……ナツ、大丈夫?」
「……渚、私ね……奏が帰って来るまで待つんだ。奏が帰ってきた時に失望されないように、頑張るんだ」
「そっか……一緒に頑張ろうね」
それから1年が過ぎ、千夏が高校1年生、奏が中学3年の冬。状況が動き出す。
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