才能を捨てた天才と夢を追い続ける幼なじみ 作:RUKA1235
「…おぁよー」
「はいおはよう。先に顔洗っておいで」
「…ふぁい」
中学を卒業して数日が経ったある日の朝。
いつもは朝が遅く、休みの日は昼頃に起きることもある奏が、この日は珍しく早起きしていた。理由は単純、学校に行かなくてはいけないからだ。
「おー、おはよう。珍しく早いな」
「…おぁよー… きょうは…がっこうに…いかなきゃだめだから…」
洗面所から出てきた父・大輝は、まるでゾンビのようにふらふら歩く息子の姿に思わず吹き出した。
「ははっ、目が半分しか開いてないぞ」
「ふぁい…」
その後、顔を洗って多少スッキリした奏は、家族3人で朝食を食べ始めた。
「…今日は仕事ないの?」
「あるよ。今日はこの後横浜行って取材して、そのまま大阪行ってまた取材して、んで帰ってくる」
「…へぇー」
「お前が聞いたんだからもうちょっと興味持てよ」
「…」
「あー寝るな寝るな!箸持ったまま寝落ちするな!」
「…早く食べないと…」
瑠奈が苦笑しながら呟く。
「本当に昔から朝弱いのは直らないねー。誰に似たのかな?」
「たぶん瑠奈さんあなたじゃないかな? 今でこそ早起きするようになったけど、昔は昼過ぎの予定に『今起きた!』ってやってたじゃん。それに今も朝はふわふわしてるし」
「えーそんなことないよー。ねー奏?」
「…」
「また寝てるから!!」
***
「…いってきまーす」
いつもの倍の時間をかけて朝食を終え、準備を済ませた奏は、ようやく家を出た。
彼がここまで眠気に襲われているのは、休みの間に崩れた生活習慣を、この日に限って無理やり直したせいだった。この現象は、長期休みのたびに確実に発生する。
「…眠てぇ…」
重いまぶたをこじ開けながら歩いていると、ふと前方に見覚えのある後ろ姿を発見した。
奏はそれを10年近く見続けているので、間違えるはずがない。
(千夏…だよな)
ここで、奏の頭に一つの悩みが生まれる。
(このまま千夏の後ろを歩いていってもいいのか? いやでも、千夏の荷物的に練習に向かってるんだろうし、このままついて行ったら…第三者から見たらストーカーじゃね?)
小さな頃からの幼なじみの後ろを歩くだけでここまで考え込む。これが本来の月城奏の姿である。
(でも、話しかけるのは違うし…)
奏と千夏は、あの日以来、ほとんど会話を交わしていない。
家族ぐるみの付き合いもなくなり、奏は千夏の登校時間を避けて登校するようになった。もし廊下で鉢合わせそうになれば、あえて目的地と逆方向に進むほど徹底していた。
一時期、千夏の方から声をかけようとしてきたこともあったが、それも今はない。
(あそこまであからさまに避けてたのに、急に話しかけたら「何こいつ?」ってなるよな…仕方ない、コンビニでも寄るか。全部俺が悪いんだし)
そう思って道を曲がろうとしたその瞬間。
「…あ」
千夏が、なぜか後ろを振り返った。
(えー!? なんでこのタイミングで振り向く!?)
目が合った。完全にロックオンされた。
(やばい、めっちゃ見てる… なんとかしないとストーカーだと思われる…!)
奏は必死に考えた。
1. 横にある看板を見て「こんなのあったんだ」と興味があるフリをする
2. 電柱の影に隠れる
3. 靴の紐を結び直すフリをする
4. コンビニに急いで駆け込む
5. 家の方向にダッシュで帰る
(…よし、これしかない!)
奏が選んだ行動は──
「…な、何してるの? 電柱の影に隠れて…」
バレた。
「い、いや、あの、ちょっと…風が強いから…」
「今日風なんか吹いてないけど」
「…あ」
奏、撃沈。
千夏は大きくため息をつくと、
「…はぁ…制服着てるってことは、学校行くんでしょ?」
「あ、はい…」
「私も学校行くから、一緒に行くよ」
そう言って、奏の手をぐいっと引っ張る。
「え? ちょ、千夏!」
「同じところ行くのに、わざわざ別々に行く必要ある?」
「そ、それはそうだけど…」
「じゃあ行こ。早く行かないと練習遅れるんだよ」
「あーもう、わかったよ…」
約1年ぶりの会話は、少しぎこちなかったけれど──
この1年がなかったかのような、懐かしい空気がそこにはあった。
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今回の話で奏の本来の性格と千夏との関係性が出てきましたね