才能を捨てた天才と夢を追い続ける幼なじみ   作:RUKA1235

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体育館

「…そこをなんとか!」

 

「えー、嫌ですよ。なんで俺が生徒会なんか入らないといけないんですか。他にも成績優秀な人いるでしょ?」

 

「そんなこと言わないでよ~! 楓さんに言われてるんだよー! 『奏が上がってきたら生徒会に入れろ』って!」

 

「菜緒さんもあの馬鹿の言うことなんか聞かなくていいって」

 

「馬鹿って…そんなこと言わないであげてよ! 私の尊敬する先輩なんだからさ!」

 

奏が学校に来たのは、高等部生徒会長・三倉菜緒からの呼び出しだった。理由は生徒会への勧誘。

 

「お願いだよぉー! 奏が入らないと私が…ば、楓さんに怒られちゃうの!」

 

「今、馬鹿って言おうとしたよね」

 

「そんなわけないじゃん! 私が、あの…学校中をめちゃくちゃにしてたけど頼れる楓さんを馬鹿にするわけないじゃん!」

 

「…はぁ…とにかく俺は生徒会入らないから」

 

「待って待って待って!!」

 

奏がため息をつきながら立ち去ろうとした瞬間、菜緒が腕を掴んだ。

 

「…もうちょっとだけ話を聞いてよー! 昼ごはん奢るから!」

 

「別にいいよ。家帰って食うし」

 

「今ならなんと! ジュースもつけちゃう!」

 

「通販じゃないんだから…それに後でコンビニで買うし」

 

「アイスもつける!」

 

「……じゃあハーゲンダッツで」

 

「うっ…!」

 

菜緒が一瞬言葉を詰まらせる。明らかに予想外だったらしい。

 

「さ、さすがにそれは…」

 

「ほら、無理でしょ。じゃあ帰るね」

 

「待って! わかった! もういい! 奢るから来て!!」

 

「最初からそう言えばいいのに…」

 

「でも生徒会入るって言ってないよね!?」

 

「言ってないね」

 

「ぐぬぬ…!」

 

結局、奏は昼飯に釣られ、しぶしぶ食堂へ向かうのだった。

 

 

 

その後も菜緒のしつこい説得を適当に受け流し、折衷案を出すことで話はなんとかまとまった。

 

「いつの間にか夕方…菜緒さん、しつこいんだよ」

 

帰るために靴箱で靴を履き替えていたとき、ポケットの中の振動に気づく。スマホを取り出すと、瑠奈からのメールだった。

 

『今日は鹿野家と久しぶりの食事会だから千夏を連れて帰ってきてね!』

 

「千夏を連れて帰ってこいって、子供じゃないんだから…」

 

呆れたように呟きながらも、奏はふと眉をひそめる。

 

「それより、あの親は俺らが話してなかったのを知らないのか? まぁ、今日喋ったからまだいいけどさ…」

 

文句を言いながら、奏は体育館へと歩を進める。しかし、体育館の近くに近づくにつれて独り言は消え、表情が次第に強ばっていった。そして、入口の手前でぴたりと足を止める。

 

理由は明白だった。

 

今朝、久しぶりに千夏と話したとはいえ、それは千夏のほうから声をかけてきたからだ。奏のほうから話しかけるのは、実に一年ぶりになる。

 

そして、もう一つ。奏が立ち止まった最大の理由は──

 

── ドン、ドン、バン!

── キュッ、キュッ

 

「ナイス!」

「ドンマイ! 次は決めよう!」

 

この時間帯の体育館。

 

バスケ部の練習が行われている時間。

 

奏が体育館に足を踏み入れるのは、バスケを辞めて以来、一年ぶりだった。千夏とは言葉を交わしてこそいないが、時折顔を合わせることはあった。しかし、この体育館には、一年間まったく近づいていなかった。

 

理由は簡単だ。

 

自分がバスケを辞めたことにまつわる感情が、強く、そこに根付いていたから。

 

扉の前で固まったまま、奏は動けずにいた。

 

諦めて帰ろうとした時、

 

「あれ?奏じゃん。何してんの、入口の前で?」

 

「針生くん…」

 

「え!?なんでそんな泣きそうな顔してんだよ!?」

 

声をかけてきたのは千夏と奏の共通の友人でもある針生健吾だった。

 

「…針生くんは練習終わり?」

 

「そう。今日は20分ぐらい早く終わったんだけど、体育館に忘れ物してさー。奏は何の用?」

 

「…千夏に用があって」

 

「ちーに?それなら呼んだら良かったのに。奏なら入ってきても誰も文句言わないって」

 

「…女バスまだ練習終わってないよね?それなら外で待ってよかなって」

 

「あー確かにまだだけど、もう終わりそうだし上で見たら良かったのに」

 

「…」

 

(どういうことだ…朝見かけた時はちーと楽しそうに話してたのに、今は何か怯えているように見える…でも、奏の性格上、聞いても絶対答えないだろうしなぁ…どうしようかな…)

 

奏の様子がいつもと違うことに気づきながらも、針生は解決策を考えていた。その時、ちょうど女バスの練習が終わったのが目に入った。

 

(お!チャンスだ)

 

「奏、ちょっと外で待っときな。ちー呼んでくるから」

 

「え?」

 

「とりあえず外で待っときな」

 

針生はそう言うと、練習を終えたばかりの女バスの方へ向かって歩き出した。

 

「あれ?バト部は終わったんじゃないの?」

 

近づいてきた針生に、思わず渚が疑問を口にした。

 

「忘れ物だよ。ついでにちーちょっと」

 

「私?」

 

針生は千夏に近付き、他に聞こえないように小さな声で言った。

 

「外で涙目の王子が待ってる。ちーに用があるらしい」

 

「え?待ってるってのもびっくりだけど、涙目ってどういうこと?」

 

「とりあえず伝えたから」

 

針生はそう言って、千夏を残して去っていった。

 

「…」

 

「ナツ、なんだったの?」

 

「ごめん、渚。すぐ戻るから!」

 

「え!?ちょっと、ナツ!?」

 

そう言って千夏は体育館の外に出た。するとすぐ近くのベンチに、奏が座っていた。

 

「…千夏」

 

「奏、どうしたの?泣きそうな顔してるけど…」

 

「…ただ、今日家でご飯食べるから千夏と一緒に帰って来いって言われてて、それで声かけようとしてただけだよ」

 

「…そっか。ちょっと待ってて。すぐ片付けるから」

 

そう言って、千夏は体育館の中に戻っていった。

 

(朝の奏とは全然違う…体育館に何かあるの?奏の中に何があるのか分からないよ…)

 

千夏の頭の中には疑問が大きくなっていた




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