Fate/Spring Revive   作:烏賊の毒

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第二節 夢、あるいは

「問おう、汝が此方の依り代か?」

 

 

 

 

 

 そう言葉を投げかける仮面の男を目の前に、恐怖と焦りを抱えていた春美のキャパは容量を超える。

「あっ、えっと、あ、あ、あ、、、きゅう。」

 そのまま頭からまるで水蒸気が出ているさまを見せながら、ベットに倒れ込むかのように地面に倒れてしまう。

「……。」

 どうしたものかと訝しむ仮面の男……ランサーの目線の矛先は近くにいた2人……巴とアーチャーを捉える。

「して、汝らは敵か?」

 持っていた杖のようなものを迷わず少女の方へと向ける。庇うようにアーチャーは左腕で少女を庇う。

「アーチャー、いける?」

 巴は小声に問いかけ横目でアーチャーを見るが、当の本人の頬には尋常で無いほどの汗が吹き出ていた。

「悪いな嬢ちゃん。正直今まで相手にしてた奴らと同じにするのは不味ぃな。」

冷や汗が吹き出るアーチャーに驚きつつ、巴は問う。

「そんなに?」

「あぁ、俺みてぇな本来召喚されそうも無ぇ野郎からしたら、あいつはランクが違ぇ。」

 まともにやり合えばこちらは瞬く間に死ぬと確信する。

 生きるためには何をすれば良いのか。

 アーチャーの思考は生前からその事を念頭に置いてきた。

「嬢ちゃん、勝負なんざより命だぜ……。

 おいあんた!」

 アーチャーは、意を決して両手を上げる。

 手には何も持っていないと示し、敵意はないと告げる。

「こっちにはあんたと戦う意志はないし、なんならさっきまでそこで倒れてるお嬢ちゃんを守ってたんだ。

 少しは礼くらいしてくれても良いんじゃねえか?」

仮面の男はびくともせずに、いまだに杖を構えている。

「だんまり決め込むのも良いけど、そこのお嬢さんカッタいとこで寝かせたまんまってのも可哀想だぜ?」

 軽口を叩いてみるが反応は無し。

 仕方がないとさっさと本題に入る。

「……ったく。

 ……それにおそらくだが、あんた霊体化しねぇと不味いんじゃねぇか?」

 少し杖が傾く。

 当たり前の事を当たり前のように。

 (確かに相手は神霊レベルの超大物。

 だからと言って、そのマスターまで超大物ってわけでもない。)

 アーチャーは、その異質な杖使いから目を離さない。

 おそらく今一番切り札になりうる事。

「多分そのお嬢ちゃん、魔術師でもなんでもねぇただの一般人だぞ。神様レベルのあんたを現界させるだけでその娘…………死んじまうぞ。」

 その一言で若干の静寂。

「……一理ある……か。」

 チラリと仮面が少女に向く。

 のちに、足元から静かに空気に馴染んでいき姿をかき消す仮面の男。

 冷や汗一粒、地に落ちる。

「とりあえず……なんとかなったの?」

「あぁ、だがあの嬢ちゃんになんかしようとしたらこっちを殺せるくらいにはまだ殺気がすげぇがな。勘弁して欲しいぜ……。」

 もしくは……。と言葉を続け、数軒先の方角を見る。

「俺ら以外にもサーヴァントがいるってことか?

 なぁ?()()()()?」

 そうかれが言葉を放った瞬間、夜空の星が隠れるように雲が厚くなり風が雷と共に鳴り、大粒の雨が降り始める。

 いつの間にか出していた折り畳み傘をアーチャーが差して自らのマスターを濡らさぬようにと頭上に広げる。

 しばらくの内に続いた雨粒が、次第に少なくなる雨粒と共にアサシンの気配も無くなるのをアーチャーは感じる。

「逃げると雨が降るって、どういう英雄だと思う?」

「俺には見当もつかないね。ってアッ!」

 アーチャーと巴は倒れている春美の方を見る。

「ヤベッ!びしょ濡れじゃねぇか!」

「と、とりあえず家連れてきましょうか。」

「家、知ってんのか?」

「し、知らないわよ。あんまり話した事ないし……。」

 頭を悩ませる巴、肩をすくめるアーチャー。

「……あ。」

「なんか思いついたか?」

 言い淀むが、これ以上思いつかないと観念したのか口を開く。

「学校忍び込んで住所調べる……とか?」

「あ〜、マジか。」

「大マジよ。」

「まじかぁ。」

 

 

 

 

 

 

人々が陽を浴びる。その日の一歩を踏み締める。

働きに、育てに、狩りに、商売に、交流に、耕しに。

熱く照りつける中で、尊敬の念を一身に祈りながら。

日が昇る事の奇跡に胸を膨らませながら。

でも、何で私はそれを地面よりも青空に近い場所で。

 

 

 

 

 

「出て行け、依り代よ。」

 

 

 

 

 

 その一言で飛び上がる春美。

 汗が吹き出ていたのか、やけに気持ちが悪い。そんな事を思う刹那、気付けばあの硬いアスファルトの上ではなく、ふかふかのいつもと変わらぬベッドの上にいるのが一瞬で理解出来た。

「はぁ……はぁ……はぁ……なんだ……また変な夢かぁ。」

 ほっと胸を撫で下ろす。

 いつもと変わらぬ日常、いつもと変わらぬ温もりに感謝しないといけないなと伸びをして、ふとベッド横の時計を見る。

 あぁ……、またか。と、意識より先に本能で気付く。

「また遅刻だぁぁぁあああ!!!!!」

 

 

 

 

 

「で?またギリギリ?」

「もう無理明里ぃ〜。」

 机に突っ伏しながら息も絶え絶えな春美を前の座席でニヤニヤしながら見る明里。

「これじゃあ高校卒業してからやってけないなぁ。」

「まだ1年あるじゃんかぁ。」

「だって、もう来年には受験だよぉ?

 遅刻癖は治さないとね〜。」

 ぐぬぬという表情で言い返せない春美。

「そういえば大学決めた?」

「いやぁそれはぁ……。」

「もうそろ大学は決めとかないとやばいっしょ〜。

 受験勉強もしないとだし?」

「……そういう明里はどうなのさ。」

ん〜。と少しだけ言い淀む明里に気づいたのか、春美は顔を上げる。

「あたしはまぁ西大に絞ろうかなって。」

「えっ?!あの西大?!日本のトップオブ大学じゃん!」

突然の雷のような声に少し耳が痛くなる素振りをする明里。

「いやまぁ先生からの薦めもあってね。

 行こうとしてたとこもないしさ。」

「そうかぁ〜。」

 すごいなぁ……。と呟きながら椅子にのけ反る。

「そういえば、明々後日のお祭り何時に集合にする?

 あたしその日バイトで4時までなんだよ。」

 明里の言葉に、椅子が元の位置に戻る。

「そうだねぇ〜、花火の時間が7時からだっけ?

 そしたら6時くらいに集まろうよ。

 でその後、明里ん家でオールしよ!月曜休みだし!」

「いいねぇ〜!んじゃあたしお菓子とか買っとくよ。」

 ふとチラッと時計を見る明里。

「あっ、もうこんな時間だ!

 じゃあお昼ご飯にね春美!」

 気づけばホームルーム前の時間になっていたようで、飛び跳ねるように教室を出ていく明里。

 それを目で追いながら――、その視線を遮るように横切りさっきまで埋まっていた席に座る人影がいた。

「あっ、巴さん。お、おはよう。」

 やけに鮮明に夢を覚えてるせいか、少し気まずいなと思いながらも巴に一言挨拶をする春美。

 また返事はないだろうと確信して教科書を泣く泣く机から引きずり出そうとしているのを他所に、予想外の返しが聞こえてくる。

「春美さん、今日のお昼休み。空いてる?」

「……え?」

 

 

 

 

 

「で、なんで呼び出されたんですかね……?」

 屋上に人影二つ。

 どぎまぎしながら声を出す春美と呼び出した巴だ。

「なんでって、昨日の事よ。」

「昨日……?」

「化け物に襲われたでしょ?

 まさか……覚えてないの?」

 その一言に震える春美。

「も、もしかしてあれって、ゆ……夢じゃないの?」

 今度はその一言に頭を抱える巴。

「……まぁ、分からなくもないけどね。

 あれは現実よ。」

「で、でも!私、家で起きたんだよ!」

それは……。と言い淀む巴。

「学校の資料漁って住所を押さえたんだよ。

 着替えは巴にやって貰ったぜ?()()()()()?」

 どこからともなく聞こえてくる声に、聴き覚えがある春美は振り返り目を丸くする。

 不意に、2人から少し離れたフェンス側の空気が歪んでいき、あの夢に出てきた見覚えのあるシルハットのガンマンが現れる。

「よっ!元気か?」

「あ、あの時の……っ!」

 あの時は暗闇でよく分からなかった姿が日に当てられ細かな部分がよく見える。

 上等な白いシルクハットに清潔に剃られた髭。

 対して、少しボロボロになった薄手の茶色いコート、ジーンズには土埃が付いている。

 黒と黄色のチェック柄のシャツに、腰には革でできたベルトに特徴的なホルスターが2つ、そこにある回転式拳銃がコートの隙間からチラチラと垣間見える。

 とんがった靴でコツコツと、そして、ニコニコとした顔で手を振りながらゆっくり近づいてくる彼に対し、後退りする春美。

「あ、あの!」

「おっと、怖がらせてるつもりは無いんだ。

 ……当世風の格好にしてみたんだがな。」

 「どこかおかしいか?」と巴に問うが「まぁ、大の大人が近づいてきたらね。」と言われ少し傷つく素振りを見せるガンマン。

「ま、まぁとりあえずあの時助けたカウボーイだ。

 よろしくな。」

「あっ、その説は……ありがとうございました。」

 深々とお辞儀する春美に頬を掻いて照れ隠しをするカウボーイ。

「いいんだいいんだお嬢ちゃん。人助けもなんとやらだ。

 それより……。」

 上体を元に戻す春美に、カウボーイは告げる。

「しっかし厄介な事に巻き込まれちまったなぁ、お嬢ちゃん。

 

 

 

 

 いずれ殺さなきゃなんねぇや。」

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