Fate/Spring Revive   作:烏賊の毒

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第四節 君と、依り代

いつものように朝が来る。

日差しが入り部屋全体が明るみに晒される。

 アルコールの香る空き缶やゴミに成り果てた袋菓子、新聞紙やチラシが散乱し、もう何ヶ月も洗濯していないような布団の上で眠る君。

「全く君は……。」

開かれた窓から部屋に入る彼。

 風邪を引くといけないと、自身の羽織っている赤いふわふわとした外套を彼の上に掛ける。

 散乱している部屋に落ちているコンビニの袋を拾い上げ、空き缶を入れていく。

「どうして寝られるのか……。」

ゴミを拾いながら、ふと、彼の腕を見る。

肌色の中で一際目立つ青黒く変色したアザ。

金色に光る王冠の真下にある眉間に皺が寄る。

君の目に日差しがかかり始めると、うーんと唸り出して目を擦り出す。

「ふぁ……ぁ、パパ……?」

「おはよう、残念だけどパパじゃない。」

「あっ!おうじさま!」

 そう王子様と呼ばれると、王冠の彼は腰をシャキッと縦に伸ばし胸を張り自身の胸を右手で叩く。

「そう!君の理想の王子様さ!赤色の似合うね!」

 そういうと、腰に引っ提げている皮のポーチから、コンビニで買ってきたであろう4個入りヨーグルトとスクランブルエッグが挟まれたサンドイッチを取り出す。

 机代わりに、そこに倒れている小さいバケツをひっくり返し、その上にペットボトルのオレンジジュースを乗せる。

 パキッとした音を出しながらヨーグルトを一つ、蓋を取り小さい白いスプーンで一混ぜ。

 サンドイッチも包装から取り出す。

「さあ、上等な朝ごはんが出来た。

 お食べ?」

「うん!いただきます!」

 そういうと、サンドイッチをもちもちと頬張り始める。

「おいしいかい?」

「すっごくおいしいよ!」

 満面の笑顔でそう言いながらヨーグルトに手を出す。

「ほら、ジュースも飲んで?」

 そう言ってキャップを外す。

 その時、ちょうど陽が彼を照らし出す。

「ふわぁぁ。きれいだね!」

 君の目線が彼の金髪に向けられる。

「そうかい?褒められると嬉しいね。」

 照れながら髪をいじる。

「……さて、そろそろ行かないと。

 じゃあ、また来るね。」

 そういうと彼は窓から部屋を出て行こうとする。

 君は手を伸ばし、彼の手を引き留める。

「またあえる?」

 その問いに満面の笑みで返す彼。

「あぁ勿論!また今夜君に会いに来るよ!」

 そういうと彼は膝をついて君を抱きしめる。

「まってるね、()()()()()。」

 抱きしめた手の感触のなんと小さい事か。

 まだ何も知らない無垢な子供だというのに。

 失敗だらけの人生だとしても、これだけは見過ごせない。

「ああ、僕も早く戻るとも。

 小さな君よ。」

 

 

 

 

 

「おっ!いたいた!」

 春美ぃー!と、気の抜けた声で廊下を駆ける。

 そんな明里の姿を、屋上への階段を降りてくる春美と巴は目撃する。

「あっ、明里。どうしたの?」

「どうしたのじゃないでしょー?

 昼ごはん食べようとしたらいないんだからさぁ。

 ……って、もしかして!」

 春美の後ろに見える巴の姿を凝視する明里。

「えっ、どうしたの……?」

「いやぁー、もしかしてあたしがいつも席乗っ取ってるから呼び出されちゃった感じ?

 いやほんとごめん!ついつい話すとなるとねぇ〜。」

 そう言いながら自分の頭をさする明里。

「いいのよ、別に気にしてないし。」

「えーっと、巴さんだっけ。そう言えば下の名前って?

 一年の時もおんなじクラスじゃなかったから知らないんよね。」

「そうね。

 改めて、巴詩織です。よろしく。」

 じゃあこっちもと、明里は満面の笑みで返す。

「倉持明里です!よろしくねー詩織さん。」

 そう言い巴詩織の右手を掴んでブンブン振る明里。

「え、えぇ。よろしく。」

 少し気圧される巴をよそに後ろの春美に目を移す明里。

 なんて会話をしているとキーンコーンと鐘の響きが聞こえてくる。

「あっそうそう。

 私今日バイトだからー。」

「うん、分かった。

 じゃあ先帰っちゃうね。」

 廊下に出ていた生徒の面々が教室へとだらだら戻る流れに3人が馴染む前に「お二人さん!」と、明里は着崩したブレザーのポケットから出した何かを春美と巴に投げる。

 わたわたとしながら春美はそれを受け止める。

 対照的にすんなりとキャッチする巴。

 ツナと書かれコンビニで買ったのか丁寧に包装されたそれ。

 「おにぎり!どーせお昼食べてないんでしょっ!」

 

 

 

 

 

 帰りのチャイムが鳴る。

 ぞろぞろと生徒達が教室から廊下へと出ていく中、巴もカバンを整理して帰ろうとする。

 その後ろからちょんちょんと人差し指が彼女の肩に触れる。

 巴の視線が後ろの座席へと向く。

「あ、あのぉ!

 ……これから空いてる……?」

 

 

 

 

 

「うーん!美味しい!」

 まだ空に水色が残り徐々に橙色に染まっていく中、春美と巴は広場にある店前のテラス席に座っていた。

 カランコロンとドアが開く音を聴きながら、春美はスタンドに差されたホイップクリームにメロン、いちごが載っているクレープをスプーンで頬張る。

「あっ、もしかして甘いの苦手だった……?」

 巴は目の前にあるクレープをじっと見つめる。

「……本当にいいの?」

「うん、昨日助けて貰ったお礼だよ。

 今更だけどありがと、巴さん。」

「いいのよ。大半はアーチャーのおかげだし。

 これ、アーチャーの分まで買ってくれてありがとね。」

 そう言ってクレープの入ったレジ袋に視線をやる。

「……あの時、巴さんがいてくれて良かった。

 いつもああやって人助けしてるの……?」

 そういうと、巴は少し口をつぐむ

「……いえ、あの時は――」

「やぁ!少し良いかな???」

 彼女の言葉より先に2人のテラス席にいつの間にか近づいて立っていた男が1人。

 金色に染まった髪には小さな金の王冠が一つ。

 赤いサーコートに金の装飾が施された赤いふっくらとしたシャツと赤いブリーチズ、白いストッキングにとんがった薄黄色の革靴。

 そしてギラギラと輝く様々な指輪とはうってかわって、端正な顔立ちに朗らかな笑顔が浮かんでいる。

 おおよその人が彼を絵本の王子様と呼ぶだろう。

「えっ、えぇと、誰ですか?」

 春美の問いかけももっともだと言えるだろう。

「いやいや名乗るほどのものじゃないよ。

 あっ、これ一粒頂くね。」

 そう言うと彼は春美のメロンを一粒口にひょいっと運ぶ。

「う〜ん!美味しいメロンだねぇ!もう一つ貰うね。」

 また春美のクレープからメロンを取る彼をよそに春美はチラッと巴の方を向く。

「――ッ。」

 明らかに今までとは違い、明確な敵意を向けている巴。

「一体何の用……()()()()()?」

「……え?」

 その言葉に、昼休みのやり取りを思い出す。

 それは確か魔術を使う()()()()()()の一種だったと。

「いやいやそんなに警戒しなくても良いんだよ。

 前の今頃は酷くやりあったと思うけどね?」

 少し引っかかる言葉が耳を通り抜けるが、そんな事を考えている余裕はない。

「いやね?

 そろそろ変化が欲しいと思っていたところなんだよ。」

 そう言いながら席に座るキャスター。

「僕達が先に進むんなら、どっちかを選ばなくちゃいけない。

 ()()を倒すか、他のサーヴァントを倒すか。」

 夕暮れ時を見ながら、まるで他人事のように言葉が紡がれる。

「でも、()()を倒したところでこの状況が進むかどうかは分からないし、かといって倒せた時には僕くらいのサーヴァントは途中で敗退してそうだ。

 君の相棒だって、分かっているだろう?」

 きらりとして金色の瞳が巴に視線を投げかける。

「……何が言いたいの?」

「いやいや喧嘩を売ってるわけじゃあない。

 僕だって確かに勢いで失敗はよくある方だけど、ここは一つ慎重にね。」

 今度は金色の瞳に春美が映る。

「でもさぁ、君が要になるかは確かめないとねぇ?」

 怖気と寒気が春美に襲いかかる。

「おい、お嬢ちゃんをあんまりこわがらせるなよ?」

「……穏やかじゃないなぁ。」

 霊体化を解いたアーチャーが背後からキャスターの頭部に銃口を当てる。

「やぁお嬢ちゃん、さっきぶりだな。

 クレープありがとな。」

 にっこりとした顔を春美に向けるのとは裏腹に銃口は微動だにしない。

「全く君ってば、よく怖いって言われないかなぁ。」

「生憎、愛想は良くしてる方だ。

 んで?ここで1人消したほうが駒が一つ進むと思うんだが?」

「いやー、そう簡単にはいかないっていうのが僕の人生での教訓でね。」

 右手で指を鳴らすと、彼方から接近する何か。

「うおっ!マジか!」

 それをなんとか銃弾で弾いてギリギリ軌道を逸らすアーチャー。そして、その何か……銀の剣が自動販売機に突き刺さる。

 その機をみすみす逃すわけもなく、キャスターはするりと3人から距離を取る。

「おいおい、アタシの()()()()剣を弾くとはやっぱり面白い奴じゃねえか!」

 剣が放たれたと思しき路地裏の先、コツコツと小気味良い音が鳴り響く。

 赤い髪が腰までかかり所々傷のついた革製のチェストアーマー、破れた藍色のジーンズに茶色い革製のブーツ。

()()()()、お前……キャスターに手を貸す気か?」

「冗談ツラいぜアーチャー。

 アタシが男になんか手ェ貸すかよ。

 でもまぁ、確かにキャスターの言うことは一理あるだろ?」

 スッと彼女の手にまた銀の剣が現れ、それを自分の肩にトントンと叩く。

「癪だがアタシじゃ()()倒せねぇし、それに強え奴がいるって聞いてきたんだが?」

 アーチャーへの目線が後ろの少女、春美の方を向く。

「おっ、マスターみっけ。

 で?さっさとサーヴァント呼べよ。

 アタシが叩きのめしてやるからさぁ!」

 瞬間、春美の瞬きをコマにして、セイバーの動きが自分に近づいてくるのが写る。

 剣を引き摺るように地を蹴る。

 銃弾を剣で受け止めながら駆け抜ける。

 アーチャーが前に出るが蹴り飛ばされ、目の前。

 振り上げられた剣がきらりと光る。

 瞬間の出来事。ほんの少しの呼吸も許さず。

 その剣は……彼女には届かなかった。

「何ッ……!」

 ギチギチと音のなる刃の部分を色白く細い左腕で受け止める、紫に金の刺繍が入った着物がひらり。

「間一髪、命拾いしたねぇ。()()()()?」

 振るわれた刃を左腕から浮かび出たまさかりで受け止めながらセイバーをそのまま押し返し、今度は右腕から桜の花吹雪が春美と巴、そして着物の女性を包み込み、アーチャーが蹴り飛ばされた所まで勢いのまま浮遊させる。

「あなた……どうして助けたの?」

「おや、アーチャーのマスターさん。

 助けちゃ悪いってのかい?」

「いや……そうじゃないけど。

 ……助かったわ。」

「あ、ありがとうございます!」

「素直な子は好きよ?あたい。」

「ッツ〜痛ってえ、こんなんじゃ腰が曲がっちまうぜ。」

 腰を押さえながら立ち上がるアーチャー。

「おや、あんたここで退場かい?」

「へっ、冗談俺よりキツいぜ……。

 ……助かったわ。」

「あら?なにか聞こえたねぇ?」

「わーったから、ほら奴さんも来たぜ!」

 アーチャーの視線の先、またどこからともなく出した剣を肩に担ぎながら迫る赤い髪のセイバー。

「テメェかよアサシン。

 全く弱え癖に出しゃばんじゃねぇよ叩っ殺すぞ。」

「あらあら、弱いものしか挑まない能無しに言われたかないねぇ?」

「あ゙ぁ゙???」

 コツコツと踵を鳴らしながらキャスターがセイバーに近づく。

「で、どうだい?

 準備運動としては十分な相手だと思うけど。」

「っせえなキャスター。

 肝心のランサーが出てこねぇじゃねぇか。」

 首を鳴らすセイバーに頬をカリカリと掻くキャスター。

「ほら、そろそろ夜だし本番だ。

 ()()()共が登場する頃合いだよ。」

 夕暮れ時はやがて暗く染まる。

 チカチカと光る街灯がうっすらと世界を照らし出す。

「……ア……唖々……。」

 ゴリゴリと引き摺る足を引き摺りながら、まるで光に吸い寄せられる虫のように。

 路地裏、ビルの間、まるで石の裏をひっくり返したように。

 あの時は見えなかった姿が照らされる。

 それは、おおよそ人とは思えなかった。

 黒くくすんだ肌に折れ曲がった足。

 顔はモザイクがかかったようにボヤけていて見えず、両手は異常に膨らみ爪は鋭い。

 四方八方から浮かび現れていく。

「……唖々ァァァアアア!!!!!」

 その爪で真っ先に狙うは近くにいたキャスター。

「おっと。」

 振りかぶられた爪をひょいっと交わしながら街灯の上に立つ。

「こんなに出てくるなんてね。

 悪いけどお先に上がらせてもらうよ。」

「あっ!おいコラキャスター!」

 ニコニコしながら瞬く間に消える彼に、セイバーは剣を投げるが空を切る。

「チッ、まぁ派手にパーティしようぜぇ?」

 両手に剣を現しながら近くの化け物をぶった斬っていきながらアーチャーに向かってカッ飛んでいく。

「俺かよクソッ!」

 すかさず握っているリボルバーで眉間を狙う。

「んなもん当たるか……ッ!」

 残像が出来るほどの速さで弾丸を避けるその顔に苦悶の表情が浮かぶ。

 気付けば右の大腿部から赤い液体が流れ出ていた。

「そら当たると思ってねぇしな。」

 右手で構えているリボルバーとは別に、左の腰から硝煙が浮かぶ。

「こんなもん!「お忘れかい?!」

 ッ!アサシンッッッ!」

 雷の如く押し切る腕の斧でセイバーの首を狙うが、間一髪、右の剣で受け止める。

「邪魔だッッッ「今度は当たるぜ?」

 テメェらぁ!!!」

 がら空きとなった後頭部に銃弾3発。

 咄嗟の起点で左の剣を捨て、化け物の頭を鷲掴みにし盾にする。

「ヒュー、やるねぇー。」

 すかさず左のリボルバーで徐々に近づいてきていた化け物の眉間を撃つ。

 巴と春美はアーチャーの影に隠れる。

「アーチャー、平気?」

「悪ぃマスター。

 ここじゃあセイバーにも周りの気味の悪ぃ奴らからも的になる。

 庇いきれなくなったら逃げるぞ。」

「逃さねぇよぉ!」

 アサシンを弾き飛ばし、化け物達をも薙ぎ倒し差し迫る赤毛。

 銃弾を諸共せずにその矛先は……春美へと向かう。

「死ねぇ!」

 再び現れる剣で春美を狙うもアーチャーは咄嗟に自身のボウイナイフでそれを受け止める。

「いい加減諦めやがれってんだ!」

「あぁ!諦めてやるよ!

 アタシはなァ!?」

 ニタリと頬に笑みを浮かべるその不快感に思わず自身のマスターの方を見る。

 その背後から迫る爪が光の反射で見える。

「巴ッ!避けろッ!」

 その叫び声と共に巴は後ろを振り返る。

 化け物の顔はよく見えない。

 しかし不気味に笑っている事だけは感じ取れる。

 鋭い爪がギラリと輝き振りかぶられる。

 何か化け物から聴こえた気がした。

「アタ……シシ……クナァァァァァッッッ!!!!!」

 ポツポツと紡がれた言葉が咆哮に変わり、その爪が振るわれる。

 

 

 

 

 

 セイバーは何も持っていない左手に剣を現し、自身のマスターに駆け寄ろうとするガンマンの背後を狙う。

 ここでマスターが死のうがガンマンが死のうが、脱落は脱落だとほくそ笑む。

 少なくとも駒は一つ減らせるとそう考えていた。

 しかし、それは起こり得ない。

 ランサーが現れたのだ。

 

 

 

 

 

 目の前で人が死ぬ。

 そう思った。

 自身が死ぬかもしれないと思った時とは違う感情。

 気付けば走り出していた。

 振り下ろされるより前に彼女の前に飛び込めば良いだけ。

『死ぬのか。』

 聴こえた気がした。

 違うよ。と、胸の裡に返事をする。

『では?』

 問われる。

 今やっている行為は、自身の命というものを脅かす行為だ。

 生きるという事が善であるならば、死ぬという事は悪なのだろう。

 でも。

 あの日、助けてもらった人を。

 今日、一緒に帰った同級生を。

 ……友達を。

 助ける為に手を伸ばすのは、悪なのだろうかと。

『そうか。』

 手足が燃えるように熱くなる。

 視界が光で包まれる。

『善き行いであれば賜るが良い。』

 ……え?何を?

 

 

 

 

 

 突如、暗闇に眩い光が現れる。

 今まさに爪を振るった化け物はその光で蒸発し、その閃光は全員の眼を瞑らせるには充分であった。

 徐々にその光は弱まり、巴は目を開ける。

『無事か?』

 少女と男の声が混ざったような声がする。

「春美……?」

 巴の目の前には、少女が1人。

 金の武具に金の杖。

 そして、特徴的な虫の仮面を身に付けていた。

 

 

 

 

 

『ランサー、少女を依り代としここに現れ出でた。

 これより審判を執り行う。』

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