息抜きは終わり、今回から新たな旅路が始まります。ティアマトがビーストとして藤丸立香の元へ居たり、ドクターが生きていたり、マシュは未だ救われていなかったり。余りにも正史からはかけ離れていく中いよいよ藤丸立香は自らの道を切り開く決意をします。幸福への最短ルートを行けるなら行きますよね。
追記・日間1位、ありがとうございます。初めての拙作には過ぎたものかもしれませんが、それほど皆さんに楽しんで頂けているのであればこれ以上嬉しいことはございません。あまりの驚愕に布団でぷるぷると震えて怯える作者でした。
年末のカルデアは大忙しだった。皆慌ただしくデータの整理や大掃除の準備に追われている。何よりの問題は藤丸立香とティアマトだった。本来であればカルデア職員によるデータの改竄、隠蔽のおかげで藤丸立香は魔術協会に目をつけられることは無く、ドクター主導での人理修復だと報告されるはずだった。だがどれだけデータを誤魔化そうと藤丸立香の肉体自体はごまかせないのだ。故に本来のカルデアでは有り得ぬ決定が下される。それは───
「
そう、
人理修復が成されたとはいえ未だ不安定な現状、抑止力の使者が遣わされるとも考えがたいが為の強引な策であった。しかしそうでもしなければあまりにも危ういのだ、カルデアのマスターとは。
神の目、心臓、脚を持ち
7つの特異点を超え
独りでソロモン72の魔神達を滅ぼした
ビーストの契約者
数え役満所の話では無かった。誤魔化せない部分が余りにも大きいのだ。ビーストを受肉させるという一歩間違えれば人類崩壊の危機所では無い判断はしかし、カルデアの調査により判明したティアマトの特性が故に可決された。それはティアマトは
回帰の理を手放した時点でティアマトはビーストⅡではなくなった。が、しかしその霊基は未だビーストとしての反応を持っている。災厄の獣が人を愛し、独りの為にその在り方を捨て人一人に己を刻み固定化した末に生まれた番外。ロストナンバーの獣……ネガ・ビースト。それが今の彼女の霊基だった。
故に現カルデア最高戦力である彼女は(内部的には)憂いなくカルデアのマスターの為の守護者として受肉した。
そしてこれは藤丸立香が希望したことでもある。退去していく英霊達への感謝とともに、しかしまだ旅が終わりでは無いこと知っていた彼には
ホムンクルスの寿命の問題である。
フォウくんがビーストとして目覚めなかったのは良いが、同時にマシュ・キリエライトはサーヴァントの力を失わず、そして肉体の寿命も変わらず短いままなのだ。
そう、デミ・サーヴァントとしての成功例である彼女を魔術協会の手から隔離しつつ治療を続ける必要があった……つまり、現カルデアには何としても現体制のまま維持されることが求められたのである。
そういった経緯もあり、カルデアは決断した。不可侵を押し通せる程の力が必要であると、皆が認識し……幸いにもその手段はカルデアの元にあったのである。カルデアの電力に頼らぬ、
カルデアは、
「恐らくその試金石に……新宿は必要」
藤丸立香は年末でも変わらずに1人トレーニングや魔術の習得(とは言っても、魔術に関しては知識を詰め込むことが主だ)にうちこんでいた。もう、無力な一般人ではいられないのだと彼はよく理解していたが故に。そう、
「英雄には、なれなくても……!」
トレーニングルームで藤丸立香は静かに幼年期の終わりを迎えかけていた。誰かを守る為に、誰かを殺す。残酷な選択をいずれしなければならない事を知っている藤丸立香はそれを頭の隅に追いやるようにトレーニングへと没頭する。
どくん、と。神の心臓はそんな我が子に応えるように神の血液を生み出すのだった。
───────
そして、来るべき日は来た。鳴り響く警報は時を知らせる。
「行こっか、ティアマト」
「行こう、愛しき我が子」
1人のマスターとサーヴァントは旅路を再び歩き始めた。今度は、未来の知識も捨て、本当の意味で自ら未来を掴み取るために。
「手始めに、新宿を身も蓋もない解決して行こう」
───────
一人新宿へレイシフトした藤丸立香は空へと投げ出されていた。共にレイシフトしたサーヴァントはおらず、このままでは地面に激突するのを待つばかり。そんな彼を助けようと1人のサーヴァントが本来来るのだが……
「来て、ティアマト」
ちらりとその姿を見ると、ティアマトに抱えられ着地した藤丸立香は新宿の地を踏み締め、背を向けた。
「……貴方との縁を繋ぎ、共に歩む未来も悪くは無かったかもしれない……でも、時間が無いんです。特異点を修復するため、そして聖杯を得るため。俺はこの特異点を終わらせます」
ティアマトへの令呪三角を用いたブースト。それを以て
本当ならば、何重にも重ねられた謎を1ページずつめくるようにして紐解いていくこの探偵と犯罪王の物語を藤丸立香はB級の怪獣映画へと貶めることに決めたのだった。
そうしてティアマトは水爆とも例えられた膨大な魔力を以てバレルタワーを
程なくして瓦礫の山から復讐の魔神柱が這いずり出てくるも、ティアマトはそれら全てを上から叩き潰した。権能も何も無い、天文学的な魔力量による無慈悲な圧殺である。出来の悪い怪獣映画のようにティアマトは極彩色の光線で全てを消し炭にしたのである。バアルはその三千年の復讐心を持ってティアマトへ対策を練っていたのかもしれないが……ただの基礎スペックで全てを無意味とする程の差がそこにはあった。
───────
「立香君、これは一体……!?」
一方カルデアにも激震が走っていた。確かに切り札たる戦力として期待し、送り出したのは事実。だが、これほどとは!
あまりにも現実味のない、あっけない終わりである。そして同時に、それを成したマスターへと視線は向く。
そんな理不尽な終わり方であった。
「ごめんなさい、答えられません。これからコレが当てになるかも分かりません。だから今回だけのズルです」
ティアマトの召喚……人間体としてのみの召喚とはいえ神の運用に藤丸立香の体は悲鳴をあげていた。全身の血が沸騰するような負荷がかかっている。だがそれに耐えられるのもまた、ティアマトの心臓のおかげであった。そんな藤丸立香を見ながらロマニはその答えを聞き、嘆息する。
(未来視の千里眼……?話せないというのはそれが不都合になってしまうから、か。千里眼持ちほど千里眼に囚われることとなるけれど……今回だけというのが気になる。千里眼ではない別種の……亜種のような魔眼だろうか)
推測はでき、また神の目を得た藤丸立香を見れば妥当な結論でもあった。だが確信はできないと、ロマニは心配そうに藤丸立香を見る。余りにも短期間で変質しすぎている藤丸立香は見ていて痛々しかった。
「無理は、あまりしてはいけないよ」
ドクターのその忠告は医務室で響いて聞こえた。
かくして最初の亜種特異点は終わりを迎えたのである。
誤字報告など皆さんありがとうございます、とても助かっております。