アップライジング・ゼロ 作:ヌタープヲチナ
「誰よ、あんた」
青空を背景に「ピンク髪の少女」は少年、吉秋 成に怪訝そうに尋ねた。
「?」
どうやら成は横になっていたようだった。いつのまに、少なくとも直前の記憶では立っていたハズだった。むくりと上半身だけを起こして辺りを見回す。
どこか、広い平原。上は空の青、下は緑と、見事に色が分かれていた。しかし少し離れたところには何やら建物が見える。大きい、石造りで城のような建物。昔読んだイギリスの旅行雑誌にあんなのがあったっけな。そう、成はぼんやりと思った。
視線を移してみると、自分と顔を覗き込んできた少女を囲むように集団があった。学生だろうか、年若い男女が二十人か三十人、白いシャツに黒いズボンやらスカートやら学生らしい統一された服装。だが何やら大きいマントのようなものを身につけている。仮に学生であれが制服の一部だというのなら、どんな事を勉強しているのかはあまり想像できない。
「ねえ、ちょっと! 質問しているのよ!」
そこへ「ピンク髪の少女」は甲高く成を怒鳴りつける。彼は驚いて耳を塞ぎながらも少女の方へ目をやる。その声色で塗られたように怒っていた。小柄な彼女は腰に手を当て、成を指さして怒っていた。
「…………ここはどこですか? 僕はさっきまで……さっきまで……」
「あんたねェ……! 質問に質問で返したらテストは0点なのよ! 平民にはそんな事もわからないのかしら!?」
さらにワナワナと震え上がり、「ピンク髪の少女」は爆発させた怒りをぶつけてきた。
初対面では礼儀正しくするべきだが、礼儀知らずだとしてもこれ程の威圧を向けてくるだろうか。まるでタチの悪い教師、パワハラしか脳みそにない会社員とか、そういった人を下に見た態度だった。なぜ初対面にそんなフウな態度を取られなければならないのか、成にはそれがわからなかった。
「オイオイオイオイオイオイオイオイ! ルイズぅ! 平民なんて召喚してどうするんだよ!」
二人を囲んでいた「学生風のマントの集団」の誰かがそう言った。すると一気に笑いが起こる。明らかな嘲笑だ。
「うるさいわね! ほんのちょっぴり間違えただけでしょ!」
「間違いはいつもだろ!」
更に笑い声が高まる。少女の髪が舞い上がる。成は依然として状況を飲み込めない。耳を塞ぐ手を離してことの成り行きを見守ろうとしていると、「ピンク髪の少女」は集団の中で唯一の成人男性、長い杖を持った「禿頭のメガネ男」の方へドスドスと歩み寄る。
「ミスタ・コルベール! 召喚のやり直しの許可をください!」
強い嘆願だったが「禿頭のメガネ男」は首を横に振る。
「それはダメだよ、ミス・ヴァリエール。許可はできない」
「何故ですか!?」
「二年に進級する際、君たち『生徒』は『使い魔』を召喚する。呼び出された獣、幻獣、それを見て専攻する属性を決める。
そして呼び出した『使い魔』の変更は認められない。『春の使い魔召喚』、それが永らく続いている『伝統』であり、『神聖』な『儀式』なのだよ」
成は「禿頭のメガネ男」の言葉から新しい情報を仕入れることができた。「使い魔」「伝統」「神聖」そして「儀式」。この集団はやはり学生であり、何らかの伝統的で神聖な儀式を経て進級することができる。そしてそれは「使い魔」と言われる何某かを「召喚」することによって成されるのだ。
そして、今の状況から察するに「召喚された使い魔」は成だ。
「平民が『使い魔』だなんて聞いたことがありません!」
「いいかい? 繰り返すよミス・ヴァリエール。これは伝統であり、例外は認められないのだよ。確かに古今東西、人を使い魔にした例はないが………」
成は集団に背を向けると地面を蹴って走り出す。
「あ! ゼロのルイズの使い魔が逃げたぞ!」
当然、あれだけの数の人目を一瞬たりとも誤魔化すことはできない。すぐに見つかってしまう。
「な!? あ、あんた! 待ちなさいよ!」
ここがどこで、彼らがどんな学校に通っていてどんな事を勉強しているか、そんな事はどうでもいい。人間を呼び出して何某かの枠に嵌めようとしている。どうなるかわかったものではない。だから成は逃げ出した。戦うには相手の数が多すぎるし、あの「禿頭のメガネ男」は危険な臭いがする。少なくともわかっていることが少ない今の状況では相手をしてはいけない事を成は本能的に察した。
「!?」
だが彼の逃走劇はその走り出しよりも早く終了した。何故なら足が地面を蹴れないから。付け加えならば成の身体は地面から離れつつある。カートゥーンアニメでキャラクターが背中に風船をつけられて浮かぶように、彼は空中へ浮かんでいた。
「流石は『ゼロ』のルイズね。召喚した使い魔に即行で逃げられるなんて。しかも平民に」
女の声。何とか体を捻って見てみると、『褐色肌の美女』が『ピンク髪の少女』の方へ歩いてくるのが見えた。手には20センチから30センチ程の長さの、何やら木の棒のような物を持っていた。
「ツェルプストー! 余計な事しないでよ!」
「あーら。貴女のために杖を振ってあげたのにお礼もないわけ〜? ヴァリエールは礼儀知らずね〜」
言い合いをする『ピンク髪の少女』と『褐色肌の美女』。この二人のやり取りから人間を浮遊させるなどという異常現象を起こしたのが『褐色肌の美女』という事は容易に想像がついた。
「『スタンド攻撃』かッ!?」
成の経験は異常現象を『スタンド』によるものだと考えた。ワイヤー、扇風機、磁気、物体を浮遊させる類の装置が見当たらないならばそれは『スタンド』というモノの仕業だと考えるのが彼には自然だった。
(だが……『ヴィジョン』が見えないぞ! スタンドの姿が見えない! いや、あの『褐色肌の美女』が持っている『木の棒』、あれが怪しい! 物体と同化するタイプのスタンドか、精神的な指揮棒! あれさえ破壊するか奪うかすれば……クソッ! 射程距離の外だ!)
成にはどうする事もできない状況。何をするにしても地面から離され、空中に浮かばせられている。自身の『能力』で打開することも、石か何かを拾って投げつける事もできない。何をされるにしても抵抗が少しもできない危機的状況だ。
「ほら、近づけてあげるから、さっさと『コントラクト・サーヴァント』を済ませてしまいなさいよ」
「オイオイ! ミス・ツェルプストー! 離れた方がいいぜ! きっと口をつけた瞬間に『爆発』するからな!」
「先にあんたを吹っ飛ばしてやろうかしら!?」
「君たち! 神聖な儀式の最中に喧嘩はやめたまえ!」
『褐色肌の美女』が踊るような手つきで『木の棒』を振ると成の身体は三人の、『ピンク髪の少女』のところはと吸い寄せられていく。
(『爆発』だって!? それが『ピンク髪の少女』のスタンド能力か!? ヤバい、ヤバいぞッ! この状況はかなりヤバいッ!)
口をつけるというのがそのままの意味なのか、それとも何かの隠喩なのかはわからない。しかし爆発に巻き込まれるなど避けなくてはならない事態だ。
だが、ピンチとは逆にチャンスともなりえる。『ピンク髪の少女』に近づけられているならば『褐色肌の美女』にも接近ができる。能力であの『木の棒』を奪い取るか破壊するかしてこの浮遊能力を解除。その後は二人の女のどちからかを人質に取って逃げる。今できる事はこれしかない。
「ま、まったく……! この平民……! わ、わた、私に恥をかかせて……! で、でもォ!? 私は寛大な貴族だからァ!? 今回は大目に見てあげるわよォ!?」
成の顔が『ピンク髪の少女』の顔に近づく。少女の手には『褐色肌の美女』と同じような『木の棒』が握られており、その先端は成に向けられている。もしや、同じタイプの能力か。だが考えているヒマはない。まずは自分を浮遊させているであろう『褐色肌の美女』の『木の棒』を破壊し、自由になったら『ピンク髪の少女』を人質にする。これしかない。
成は彼の彼自身、その『能力』の名を叫ぶ!
「『ミュー…………」