風穴と馬鎧   作:ハシビロ7723

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夢の続き

セセリア・ドートは決闘ラウンジのソファの上で、やっと冷静さを取り戻していた。

 彼女はアスティカシア学園の経営戦略科2年、17歳、ブリオン寮所属、決闘委員会のメンバーの1人である。

 

 彼女が珍しく動揺していた理由は、先程発生したアスティカシア学園内でのテロ襲撃事件だ。

 

 ―アスティカシア学園のオープンキャンパスの特別イベントであるランブルリングに急遽、2機のガンダムと複数の無人機が乱入し襲撃、テロ事件と断定された

 

 ランブルリングとはアスティカシアの学生によるMSのエキシビションマッチである。

 自由参加で制限時間30分のバトルロイヤル方式、最後まで残っていたパイロットが勝者となる―

 

 彼女は決闘委員会のメンバー代表で立ち合い人を担っていた。パイロットの死傷者も発生しており、好奇心旺盛でハプニングが大好きなセセリアも流石に強いショックを受けた様だ。

 現在、事件は収束し被害の確認中である―

 

 

 決闘委員会のラウンジでは銀髪で褐色の肌のセセリアと紺色の髪の色白のロウジ・チャンテの2人がソファに座り、中央の大型モニターを眺めていた。

 

 2人は派手で華やかなセセリアに対し、地味で控えめなロウジと対極的な見た目をしている。

 

 ロウジはブリオン寮メカニック科の1年だか、何故かセセリアには年上にも関わらずタメ口だ。

 

  ロウジはソファの上で膝を立てて座り、少し大きめの携帯端末を見ながら言った。

 「セセリア」

「何かわかった?」

 セセリアはソファから起き上がりロウジの方に乗り出した。

 

「襲撃に使われたのはガンダムで、パイロットは最近、地球寮に編入して来た生徒みたい」

「はぁ?そんな事ある?」

 

 「それと、ニカ・ナナウラが拘束された」

 「え!?どーして?」 セセリアは驚いた顔をした。

 

 「テロ等準備罪の容疑で」ロウジは淡々と言った。

 

  セセリアは一瞬驚いた顔をした後、再びソファに深く座り、いつもの余裕ぶった表情に戻った。

 「へーあの子、あんな感じなのにテロリストだったんだぁ。こっわぁ」

 

 「まだ、決まったわけじゃないよ」と、ロウジ。

 

 「ロウジはあの子大好きだったのにねー。ざんねーん」

 

 ロウジはセセリアの言葉を聞き流していた。

 セセリアも口ではこんな感じだか、ニカ ナナウラの拘束については失望していた。

 そして、ニカの拘束による、彼女が所属する地球寮の今後の行く末を心配もしていた。

 

 

 ―セセリアとロウジは一見、表面的な違いから正反対の性格に見えるが、内面は似た者同士である。

 2人とも偏見を持たない実力主義者であり、そして好奇心旺盛な性格である。現状のベネリットグループ、特にブリオンには全くと言って良い程、合わない性格である。

 

 2人にとっては停滞した、御三家とブリオンのパワーバランスは退屈以外の何物でも無かった。

 そして、知的好奇心が中心のロウジに対し、野心家の側面が強いセセリアは、いつかこの状況が覆らないか、日頃から虎視眈々とチャンスを覗っていた―

 

 そんな2人がここ数ヶ月、内心ワクワクし夢中になっていた事がある。

 それはエアリアルと地球寮の快進撃だ―

 

 セセリア、ロウジは本質的には挑戦者であり、現実の自分達の様な既得権益者では無い。

 その為、既得権益の御三家をぶち壊すエアリアルと地球寮のメンバーに、彼女達は強く心が惹かれていた。

 

 2人が特に注目していたのは、ニカ・ナナウラとチュアチュリー・パンランチだった。

 その理由は、ニカ達は何の後ろ盾もなくアーシアンという、ここアスティカシアでは弱い立場から自分達の力でのみ活躍していること。

 そして、デミトレーナーで戦っていた事だ―

 

 セセリア達は曲がりなりにもブリオンの人間である。

 寄せ集めの部品でカスタムした旧式デミトレーナー105がミカエリスの頭を撃ち抜いた時は、鳥肌が立ち、心の底から熱いものが噴出した。

 

 ロウジはメカニックとしてもニカを尊敬している様だ。そして、セセリアは既存の体制が大きく変わっていくとの希望を持ち始めていた所だった。

 

 そんなタイミングで今回の事件が起きた。2人は楽しかった夢が終わってしまった様な、虚しさと失望感を感じていた―

 

 

 ―ランブルリングから5日後―

 ランブルリングでのテロ事件の被害は、死傷者の発生だけで無く、グラスレー のサリウス代表の誘拐も発覚し、世間では大騒ぎとなっていた。

 プラントクエタでの事件と立て続けに発生した事でベネットグループ全体の信用は大きく低下していた。

 ベネリットグループが企業統治法を濫用したアーシアンへの圧力にアーシアン側も反発、地球では各地で戦闘が勃発していた―

 

 

 アスティカシア学園では緊急事態規則に基づく行動規制がされていた。

 当然、行動規制下では決闘は行われず、決闘委員会のラウンジはセセリアとロウジの溜まり場となっていた。

 

 「ロウジは休学しないの?」

 「セセリアこそ どうするつもり?」

 「私までいなくなったら 決闘できないじゃん」

 ロウジは珍しく驚いた顔をした。

 「責任感有ったんだ」

 「もうすぐお姫様の誕生日でしょ。誰が花婿になるかぐらい、見届けようかなってさぁ」

 いつもは天邪鬼である彼女らしく無い発言だった。

 

 

 ―ランブルリングから一週間後―

 学園は緊急事態規制が続いていた。セセリアは相変わらず決闘委員会のラウンジで暇を持て余していた。

 

ロウジのやつ、どうしたんだろ

 

 この日は珍しくロウジがいない為、少し心配していた。

 すると見つめていた携帯端末が振動し、画面にロウジの名前が表示された。

 

「ロウジー?どこにいるの?」

『セセリア、ブリオンのドックに新しいMSが届いたんだ。一度確認して欲しい』

 セセリアは言葉足らずのロウジの話について行けなかった。

 「ちょっとロウジー。何で私がMS何て見ないと行けないわけ?私は忙しいんだけど」

 

『この機体について調べたら、ブリオンのデータベースには存在しない機体だった。セセリアも確認しておいた方が良い』

 

 彼女はロウジの様子から何か重要な事だと感じた。

「わかった。今から行く―

 

 *

 

 「セセリア、こっちだよ」

 自分用に改造したハロを抱えたロウジがブリオンのドックの入り口で待っていた。

 セセリアがブリオンのドックに来たのは入学以来、数回しかない。

 一方、ロウジは自分のおもちゃが沢山置いてあり、ほぼ毎日入り浸っているみたいだ。

 

 ドックに向かっている最中にセセリアが言った。

「ロウジ、わざわざ私を呼んだってことは何か厄介事?」

「わからない。まずは実物を見てよ」

「はいはーい」

 

 ロウジが案内した先でセセリアはロウジが自分を呼んだ理由がわかった。

 

 そこには真新しいブリオンのものにしては大きい機体が立っていた。

 隣のデミトレーナーより一段背が高く、肩幅はドックのレーンにギリギリ収まるサイズであった。

 MSの性能などには疎いセセリアもパッと見で高性能機体である事がわかった。

 

 ただし、ロウジが自分を呼んだ理由は恐らくそれだけでは無い。

 見た目にニカが作った改造デミトレーナーの面影が有った事。どちらかと言うとそっちが主な理由だと考えられた。

 

 セセリアはこの時点で何が起きていて、これからどうするべきか凡その見当が付いていた。その裏付けの為、ロウジに確認をした。

 

 「ロウジ。何なのこれ?」

 「デミバーディング。ブリオンの次世代コンセプト機。性能はこれまでのブリオンの機体とは比べ物にならない。御三家のハイエンド機とも肩を並べるスペックだよ」

 

 続けてロウジが言った。

 「ランブルリングの当日に搬入されてたけど、緊急事態規制の関係で今日まで放ったらかしだったんだ」

 

「状況はわかったけど、こんなの作ってブリオンは何する気?」

 ロウジは首を傾げた。

「あと、何でこんなのがウチに来るのかなー?次世代コンセプト機を乗れりこなせるパイロットなんてウチ(ブリオン寮)にいないでしょ?」

 

 「事情は良くわからない……さっき、これを作った試作部門の人に連絡したんだけど……コストの関係で向こうで試運転が出来ないから、ウチでやって欲しいらしい」

 

 「はぁ?そんな事、ありえないんだけど」

 

 「これを設計した人は少し前に退社したみたい」

 

 「何それ?訳ありにも程があるでしょ」

  流石のセセリアも苦笑いをしている。

 

 セセリアは頭の中ではパズルの当てはめを試行する様に、幾つかのパターンをシミュレーションした。バーディングに関する仮説と今後の最適な行動パターンについてだ。

 数秒の沈黙の後、セセリアの中で方針が決まった様だ。

 

 「ロウジ。悪いんだけどコイツを動ける様に調整しておいて。あとテスト運転のデータはいつでも取れる様にセッティングしておいて。できる限り内密にやってね」

 「わかった」

 ロウジはセセリアの意図を理解したが、言われなくてもそのつもりだった。彼も彼の考えを確信する為にセセリアにこれを見せたのだ。

 

 「これについて、ブリオンとの連絡はその試作の人以外とはしないで」とセセリア。

 ロウジは無言で頷いた。

 

 セセリアはカツカツとドック内を歩き、バーディングに近づいていった。

 そして、バーディングの足元に到着すると見上げて不敵な笑みを浮かべた。

 「てか、うちにもこんな事する変な人がいたんだー」

 

 2人はアスティカシアを覆う不穏な空気の中で、再び楽しい夢の続きが始まりそうな予感を感じていた―

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