水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
リヴァイアスの領地は国の略図でもわかるほど巨大な入江を含む大きな領地だ。北側のクリータ領地は海に向かって突き出た杭のような半島を領都とし、その先の海にいくつかの島がある。
この尖った半島と小島があることによって外国からの防衛力がクリータにはあるらしい。数のある小島を無視して半島を攻めると小島から兵が現れて後方を叩かれる。かといって小島を調べてから攻めようものなら一つの領地を攻め滅ぼすだけの兵力にはとてつもなく兵糧が必要になるし、調べている間に半島は準備万端となる。
こちらからすれば陸続きの半島を攻める兵力はいるし、小島に追い込めばこのあたりの海はリヴァイアスの領域なので攻め込むにしろ兵糧攻めにしろ容易い。
相手からすれば私との婚姻によってリヴァイアスをまるごと得ることができればこの上ないだろうけど……「船を賠償しろー」っていうのも交渉のテクニックである『ドア・イン・ザ・フェイス』のように先に大きな要求を突き付けてから小さな要求を通したかったのかな?こちらが船員が全滅させて全く状況がわからなかったのだとすればこちらに非があると考えていたかもしれない。
婚姻云々が小さい問題とは思わないけど……うーむ。
「何を狙っていたのか、ちょっと様子を見るべきだったかもしれないですね」
「聞く限り、よくいる頭のおかしい貴族だと思うけど?」
「それが敵の中にいたチャークって人によると性格は最低だけど頭は良いみたいなんですよ。他の船の指揮官に聞いても意見が一致しています。こんな頭のおかしい方法はおかしくないですかね?」
「たしかに、頭の良い貴族は杖の先を狙うものだし。2人3人その先まで撃ち抜けるように………仕方ないわね、この『賢者』クラルスおねーさんが少し調べに行ってみましょう。ここは大丈夫よね?」
「はい」
周りにはニャールルやワー、他にも忠誠心のすさまじい亜人が大量にいる。
エール先生は心配していたがここでの安全はもうほぼ完璧らしい。
ワーは諜報を生業としている闇属性だけあって、全ての壁の向こう側や天井、地下の部屋にまで狐人族の人たちが警備している。言葉は拙いが有能である。
警備面以外にも食の面でも嬉しいサポートをしてくれる狐人族。何故か継ぎ足しで作られるカレー、もはや名物のようにガンガン作られていく。
この土地には多くの種族がいることから食の好みがあり、多くの農作物が作られていた。食材の種類の多くある。
もっと美味しいものが作れるのではないか?とブームに火の付いたカレーは領民によってどんどん作られていく。私も儀式用という訳では無いがこのほうが美味しいし超魔力水を出して使ってもらう。
まぁ領地の全ての人が食べたかどうか、戸籍もないし把握できていない状況ではわからないから続けているのもある。カレーは完全栄養食だという人もいたが……怪我人に飲ませるのにもちょうどよい。
肉ごろごろのカレー、海老たっぷりのカレー、野菜たっぷりのカレー、謎の白いカレー、葉っぱが突き刺さったカレー、スパイシーなカレー……スパイスの調合のメインはワーさん達狐人族が請け負っていることから狐人族の地位が高まっている気がする。
一つ良かったのが虫は食用ではなかったこと。毒を持つものもいることから何代も前の領主が食用にすることは禁止していたそうだが……マジグッジョブ!ご先祖様グッジョブ!!
もしも知らぬ間に食べていたらと思うとゾッとする。すりつぶしてたりして……。
「魚は鱗と内臓、頭とヒレをとってください」
「わかったにゃー!」
「お肉はこれぐらいの大きさで切って包丁の先や調理用の棒で叩いてください」
「「やるにゃー!!」」
「エビやカニは殻をとって食べられる部分を揃えてください、大きな貝も」
「「「んにゃー!!!」」」
「油は気をつけ……スープじゃないから飲もうとしないで!!?」
「ん”な”ぁ”ぁおっ??!」
危ない。指示すれば楽しそうに作業してくれる海猫族の彼らだが何にでも興味津々で近づいて……加熱していた油をスープのようにお玉で飲もうとしていた人がいたから止めた。唐揚げのときも別の海猫族の人がやっていたし揚げること自体がこの辺りでは珍しいことらしい。そう言えば王都でも見たことがなかった気がする。
幸い火がつくほど加熱していたわけではなかったがはねた油はそれなりに熱かったようで驚いていた。水あげよう。
せっかくカレーが流行っているのだからトッピングに数種類の謎肉カツ、エビ、カニ、貝も揚げることにした。
唐揚げはとても美味しかったし、脂の質が良かったのが忘れられない。
貢がれる食材の海老もカニも貝もすごく大きくて……無性に食べたくなった。
塩と白胡椒の下味をつけた肉と魚。それにエビ、カニ、ホタテに似た貝柱を挽いた小麦粉につけて卵にくぐらせ、しっかりとパン粉をつける。
できるだけ水気をきってはいるが弾けやすい性質があったら怖いから衣はしっかり目につけて油に投入。
かまどの火力と油次第が火柱が立つ可能性もある。日本では規格化された火力に安全装置、そして油自体の品質が安定していてなかなか火事になることはないが……この世界にはそんな便利なものはない。
一応大きな蓋も用意して火災対策はしっかりしている。蓋で消えなければ水だ。油を水で消してはいけないと言うがたかだか数十リットル程度の油なら数トンの水があれば消せるだろう。
サクッと揚がったカツはそれだけでも美味しかったがやはりカレーに良く合う。特にホタテのような貝が最高すぎる。
「ゴルルルル!」
「コッココココ!!」
「ウォウォーン!!!」
亜人の皆さんはカレーだけでも美味しそうに食べていたのに、カツが載って更に美味しそうに食べている。というか奪い合いそうな勢いだ。
魚のカツもカレーとは少しあっていないがざくりとした衣にジューシーな脂が良い……本当は刺し身で食べたいが醤油もどきも使い切って手持ちがないし食べてがっかりするぐらいなら食べない。寄生虫も怖いし…………そもそもいるのかな?
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少し前まではアモス様アモス様と持て囃されていた俺だが……今では誰も話しかけて来ない。
それは良い。新たな主が出来たのならそうするべきだ。
俺だって竜人の端くれ、力ある主は望ましい。……ただ姉ちゃんとは仕え方が違う。姉ちゃんはとにかく守ろうとする。鱗もないのに「力あるものは力なきものを守るものだ」とか言って敵の強さも関係なしに前に出る。
俺は「何が何でも全部守る」という姉ちゃんを尊敬はしていたが真似はできないと思っていた。全部守ることが出来れば最高だろうがそうも行かない。
よりどちらがマシな結果になるか、選ばないといけないこともある。
常日頃から姉が無茶をするんじゃないかとは思っていたが……ついに姉は倒れた。
敵は1000、どこかの支援を受けている奴隷商。狙いはいくつか考えられたが地理的に2つの村のどちらかが狙われている。片方の村は兵力も軍備も少なく、もう片方は兵力も軍備も少しはあって1000の敵でも数時間は問題ない。
こちらの兵力は500。精鋭であるし1000の敵なら倒せるだろうが半分に分けてしまえばうち漏らしも出てくるだろうし後の損害が大きくなる。
――――問題は鳥人を酷使しすぎて過労で倒れ、俺と姉さんの翼も傷つき、飛べる者がいないことだった。どちらかを選ばねばならない。
「私の翼はまだマシだから、向こうに行ってみるわ」
「姉さん?」
無理をすれば飛べるだろうけど、無理をしないといけないほどだ。
「あんたはそのまま進みなさい。もしもこっちが外れならそっちには間に合わないかもしれないけれど……その時はあんたがどうにかするのよ、できるわよね?」
「子供扱いするなよ。それよりもそっちに賊共がいればこちらにわかるようにしろ」
「わかっているわ、斥候数人連れて行くから……お互い――――
「「民のために」」
そうして別れて――――姉は姉と信じられないほど甚振られていた。
こちらの村には敵は1000どころか3000はいて……姉の心配などしている余裕はなかった。しかし、こちらが忙しいということは姉だけは無事でいられたはずだった。何なら裏から攻撃してくれないかと期待したほどだ。
しかし、姉ちゃんが向かった村にも想定以上の敵がいた。姉ちゃんについていた斥候はこちらに知らせを届ける前に全滅、姉ちゃんは人質を見捨てきれなくて倒されてしまった。
俺たちが何をしたというのだろうか?
ご領主様方はみな優しくて、別け隔てなく接してくれて………敵には厳しい人だった。人としては小さくはない体だろうが俺からすればその小さな体で朝から晩までずっと働いて、いつ寝ているかもわからなかった。
でも自分たちが働けばそれだけ領は潤うと頑張る、素晴らしい人達だった。
人間との闘争が終わって、この領地には精霊の御力で亜人しか入れなくなったが今度は亜人の賊が現れるようになった。――――酷い時代だ。
金はすべて姉の治療費につぎ込んだが元々死んでいてもおかしくなかった。姉はなかなか良くはならなかった。
姉は戦士で、姉は自身の犠牲を誇りに思っていた。戦士としての俺は戦士である姉を尊敬できたが、家族としては――――見ていられなかった。
自分が傷ついても前に出る姉。いつもならすぐに治っていたのに……姉は姉かわからないほどにいたぶられて……火に焚べられた体はすぐには良くならなかった。――――ずっとずっと、よくはならなかった。
人間への感情がわからなくなって、ただただいつ死ぬかもわからない姉に恐怖し、日々を過ごしていった。
言葉のわからなくなった領内では亜人同士でも裏切りが明白に起きていて……もう、こんな土地にいる意味があるのかと内心疑問に思ったが大精霊リヴァイアスがやってきて……俺も人に言われるがまま舞を披露した。
リヴァイアスに対して一体何をすれば良いのか?舞が良いのか?熱弁が良いのか?全くわからなかったが皆で続けた。
言葉は通じなくともかつては肩を並べて酒を飲み交わした仲である。だというのにお互いに疑心を持って接するのにはうんざりだった。
そして選ばれた新たな主は小さくて、息を吹きかければ倒れてしまいそうなほどに小さくて……守ってやりたかった。
尊敬し、敬愛していたご領主様の血族である。直ぐに跪いて槍を捧げたかった。
それでも、すぐに膝をついては俺を支援してくれる者に申し訳ないし、一度様子見することにした。
人間の中でも産まれたばかりに見える幼子だが料理はできるし知識はある……何よりリヴァイアスの力を大いに振るえていた。
船を何十も一度に持ち上げて無力化してしまうなど、聞いたこともなかった。
更に、姉まで治してくれた。
俺よりも背丈があって、自信家で、鱗もない姉。
角や翼までほんの数日前まではいつ死んでもおかしくない状態だったのに……今では俺を超える剛力を得ている。
姉が軍の再編をしていて、俺が少し補佐していたのだがおかしなことに気がついた。
姉は共通語を喋れるし書くこともできるが数年寝ていたから誰がどこにいるのか把握していなかった。
「ホーリーたちが、いない?」
「えぇ、アモス様についていた一派がまるごといませんが……アモス様の命令ではないのですか?」
「知らん、少し調べてくる」
普段にゃーにゃーとしか聞こえない声がしっかり理解できるはずなのだが、何を言っているかわからない。
自分を慕ってくれるものは多かったし……最悪フレーミス様を襲っているんじゃないかと嫌な考えが浮かんでしまう。しかもあの三馬鹿だけではなく三馬鹿を慕う者共やフレーミス様を疑っていたものを中心にごっそりいない。
焦りでフレーミス様を探してみると……なにか作っていた。
「アモスさんも食べますか?」
「――――……ありがたく」
内心の焦りは見せずに済んだが……これでは腹が減った俺が我慢できずに走り寄ってきたようではないか。
「どうかしましたか?」
「いえ、何が起きるかわかりませんから――――お気をつけください」
「はい、気をつけます」
頭のおかしな使者殿のことと思ったかもしれないが今は警戒心を持っていてくれるならそれでいい。
熱くて――――感動するほどに美味い肉の塊だが食べてすぐに奴らを探す。
えぇい、考えろ!あの馬鹿どもならどうする?フレーミス様を害して俺を立てるのならもうしていたはずだ。
なら……なんだ?ホーリー、ホーリーなら……戦果を上げてから部下にしてもらおうと考えるはずだ。敵の首をとってから「仕えたい主に従属」「直訴する」「温情を賜る」というのは星犬族ならある。しかし、攻撃は止められているし……軍に参加していないということは独断、更に3人そろってどこを探してもいない。
走って領都内を探した。緊急だとワーに伝えるとすぐに居場所はわかった。
「リットー!探したぞ!!」
「げぇ?!兄貴!!」
「吐け、何を考えている?」
「いたた!?痛いって兄貴?!!話す!話すから!!?」
狐人のリットーはこの領地にいないとなにか問題があったときにホーリー共に新たな情報が届けられない。トプホーもどこかにいるかも知れないが空飛ぶ鳥人を探すのは大変すぎる。
ホーリーたちが何を画策しているかと思いきや――――裏切っていたプゥロの里が人質になっていたことを知って、それらを助けて連れてくることで功績として俺が堂々とフレーミス様の配下になれるだろうという天才的発想……らしい。
「プゥロの里はクリータだ!!馬鹿どもが!!!」
「だからこそすげぇ良い考えだと……」
「馬鹿!!?今すぐフレーミス様に連絡してこい!俺は止めるために飛んでいったともな!!」
「えぇ?!」
「言うことを聞け!馬鹿共!!」
オベイロスからの軍隊がリヴァイアスのどこにいるかもわからないのに、かち合っていなければ良いのだが……しかも、今クリータに入るのは不味い。入るのにも敵がいるのは当たり前だがオベイロスの正規軍と遭遇してしまえば全滅もあり得る。
裏切り者の鯰人とは言えその家族にまで咎はない。しかも他にも亜人が集められているのなら気持ちもわかるが……正規軍にはあの王と筋肉の化け物が向かったはずだし俺の顔ぐらいなら覚えているかもしれない。――――今すぐに行かねばならない。
すぐに飛び立って馬鹿どもを探しにいく。
――――――間に合えば良いのだが。