水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第178話 足りぬ……。

 

「行きます……<水よ!出ろ!!>」

 

 

一気に水を周囲に展開。水の膜、水の腕、水龍を出して目の前の将軍に備える。

 

水龍を複数突進させて攻撃する。老人相手に過剰かとも頭をよぎるが相手は国でも名の知られる将軍様だ。

 

クーリディアスとの戦いのように不意打ちではない。お互いを認識した正面戦闘である。だけどリヴァイアスの領地に来てから使える魔法の規模は格段に上がったし、これだけの力であれば火の強い魔法使いが相手でも簡単には負けないはず。水龍は相当な質量だし、当たれば勝利が決まるだろう。

 

海から少し離れているとは言え、力は増している。負ける気がしない。

 

しかし、ちょっとお年寄りには過剰な攻撃かもしれないな……怪我させないように気をつけないと。

 

 

「<――――>」

 

「ぁぐぅぅ!!?」

 

 

槍のようなものを私に向かって振った将軍。

 

何をされたかはわからなかったが光が見えたと思った時には既に終わっていた。全身が痛み、展開していた水の魔法が全て解除されて地面に倒れ伏した。

 

自分の展開した水が倒れた体に降り注ぐ。

 

 

「勝負ありじゃ!」

 

「い、今のは?」

 

 

何をされたかもわからなかった。

 

 

「雷じゃよ。これこそ最強の魔法!お主の方が魔力は強いじゃろうが相性が悪かったの」

 

「……うぐぅ…………ちょっと実験をお願いしてもいいでしょうか?」

 

 

雷というのは知っていた。『雷親父』という二つ名の通り、この将軍は電撃を使う。……しかし、純水は電気を通しにくいんじゃなかったっけ?

 

鎧袖一触で敗北した自分。「怪我させないように」なんて考えていたのにこうもああっさり負けたのかと少し腹立たしく思う。

 

 

人が私を立ててくれているのに、強い私が求められているのに、こうも簡単に負けてしまった。

 

 

「かまわん。だが先に言いたいことがある。リヴァイアス侯、お主はなぜ退かなかった?」

 

「え?」

 

「お主は守護される立場である。学園で水を使って素早い動きが出来たと聞く。戦闘など他者に任せて逃げればよかろう?」

 

 

学園でのことも知られていたのか。

 

起き上がってゆっくりと地面に座る。水と泥で嫌な冷たさを感じるが倒れたまま話して口に泥が入るのは嫌だ。

 

座るぐらいは出来る。だけど……とても驚いた。深呼吸して言い分を返す。

 

 

「……それでも立ち向かわないといけない場合があると思います。というか逃げることを想定しない手合わせと考えました」

 

「なるほどの。で、実験とは?」

 

「ちょっと待ってください。まだ体が……」

 

 

体を動かすとまだ痺れている気がする。……このおじいちゃん、結構容赦ない。

 

エール先生が少し離れた場所で少しオロオロしているのは、きっとこの経験が私のためになると考えているのだろう。

 

ほぼ純水の壁を作り出したはずなのに雷というか電撃はその水を貫通した。

 

実験で純水や魔力水でも作ってみても一緒。むしろ魔力水を通すと威力が増した気がする。……純水は雷を防ぐものだと思っていたが私が水を操れるように、彼も電気を操ることが出来るようだ。属性について「水属性では雷属性には絶対に敵わない」と言うのはそういうことか。

 

よく考えれば私以外にも水属性の人間はいたはずだし、ということは純水に近い水を操れた人もいたはずだ。なのに雷に対して水は絶対勝てないというのは『防ぎようがない』ということなのだろう。

 

 

――――ボゥウッ!

 

「おぉ!!?水が燃えよったぞ?!」

 

 

試しに酸素と水素の混合玉にも撃ってもらったら爆発した。火種がないのに燃えるんだと不思議に思ったが雷って一気に熱が発生するから……?うーん、いや、そもそも私の水も本当に純水に近いかわからない。

 

不純物がない方が操りやすいけどそれは私の感覚であって実は全然純水じゃないのかもしれない。ローガ将軍の電撃だって電撃に見えるけど私の思う科学的な電気とはまた別のものなのかもしれない。

 

……だめだ。そもそもそこまで私は科学に詳しいわけじゃない。経済というものを通してエネルギーや一部の科学には詳しい方かもしれないが基本的に一般レベルの知識しか持ち合わせていない。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

――――いくつか実験が終わって数度手合わせしていく。

 

 

「行きます!」

 

「来い!」

 

 

何度かボロボロに転がされて、うちの兵の私を見る目が変わったように思う。

 

海の操作はさぞとんでもないものに見えたのだろうが私は私である。出来ることには限度もあるのだ。……強く威厳のある領主じゃないのは申し訳なく思うが。

 

 

「うぐっ!まだまだぁっ!!!」

 

「よぉし!いくらでも付き合おうぞ!!」

 

 

死にはしない程度の攻撃というのはよくわかった。手加減してくれているのがよく分かる。

 

それにしてもこれが戦闘では最強と謳われる雷属性か……相手は軽く出しているだけなのに光ったと思ったら勝負が決まる。

 

火のように空間ごと燃やす訳では無いが風よりも早い。防ぎ方は基本的に無い。先手を取られれば、いや同時でも負ける。

 

初めから逃げることを想定した水の腕ダッシュ逃走やローガ将軍の頭上に出した過冷却水はそれなりに将軍を驚かせることが出来た。過冷却水は流石のローガ将軍でも対処ができなかったようで体の至る所が凍った氷像が一つ出来て、最終的になんとか小さな勝利をおさめることが出来た。

 

 

「う、うむ。圧倒的、ふ、ふ、不利でも、やりよう、に、よ、よってはあっ、いいって、にぃい……だ、駄目じゃ、ふ、風呂」

 

「ぐぅぅ……」

 

 

いや、勝利ではなく相打ちだな。

 

いつもとは別の意味で熱い風呂を所望されたのでそこで訓練は終わった。

 

待機していたボルッソファミリーに命じて即席のバスタブを訓練場の端に作ってもらいお湯を張った。

 

 

「大丈夫ですか?フリム様!ローガ将軍!これはやりすぎですよ!!まだフリム様は6つですよ!!」

 

 

ずっとハラハラしていたエール先生が少し言ってくれた。おおよそ6歳なので5歳か7歳の可能性もあるが……いや、そこじゃないな。そもそもその年齢で戦闘訓練はするべきじゃないだろう。

 

 

「ぬ、ぬぅ、し、しかし、な」

 

「エール先生……私は大丈夫、なので、急ぎで手ぬぐいと湯桶を持ってきてもらえますか?ローガ将軍の状態がよくないカらデぇっス」

 

「はい!すぐに!!」

 

 

すぐにあることに気がついて声が裏返ってしまった。エール先生には手ぬぐいと湯おけを持ってきてもらう。

 

電撃と言えばスタンガンが思いつく。電流が流れることで筋肉が収縮して相手を無力化する……確かテレビで暴漢相手に使うことがあるというものがあって…………大の大人でも漏らすことがあったはずだ。

 

 

「ジュリオンは湯に将軍を入れてください!ゆっくりと!慎重に!私のことは気にしなくていいので!全然っ!全く!何も!気にしなくてもいいので!!!!」

 

「はっ?…………??……はい!」

 

 

 

もしかしたら、水だらけ泥だらけで気がついていないが……私 は 漏 ら し て い る か も し れ な い 。

 

乙女の尊厳にかけてそうじゃないと信じたい。そうだとしてもそれは気が付かれたくはない。いや、出してしまったかは自分でもわからないのだが……もしも漏らしていたらと考えるとたくさんいてこっちを気にしている兵士たちに気付かれてたまることか!!?えぇい、視線が気になってしかたがない!

 

大柄なジュリオンがローガ将軍をひょいと担いでゆっくりと風呂に入れているのを横目に私はその場でお湯の滝を出して頭から浴びる。まとまったアホ毛がブンブン動くのを感じるがもう慣れたものだ。地面の排水なんて無視してザバザバと浴びる。

 

過剰なまでにお湯を浴びて若干訓練場をお湯で泥だらけにしてしまったがそこは許せ。

 

ついでに水で泥のついた服を流して不純物を減らし、純水に近い状態にしかならなくなったところで水を操作し、服から水を離すように動かして軽く乾かす。

 

カラッと乾くようなものではないが大まかに水を取り除けばそのうち乾く。結構操作が難しい。

 

 

「ま、まさ、か、あれ程、の、ここ、こおりをつくれ、るとは、の」

 

 

完全に氷漬けとはいかなくても足のあたりが凍っているローガ将軍、鎧の内側の服は結構凍っているのだと思う。体の芯まで凍えているのだろう。

 

なんだか兵士の視線が恥ずかしい……じゃない、風が吹くと寒い気がしたので私も着衣のままだけどローガ将軍の入ってるお風呂に入ってローガ将軍にお湯をかける。底のお湯が結構ぬるいな。

 

訓練場で鎧のローガ将軍と着衣の私が即席バスタブで湯に浸かっている。シュールな気分だ。……しばらくするとローガ将軍も温まったようである。

 

 

「……儂はな、いつも思うんじゃよ」

 

「何をでしょう?」

 

「誰しも足りぬのだ。力が、魔力が、才能が、血筋が、属性が、金が、権力が、縁が……」

 

 

私の水で泥になった訓練場だが兵たちは自発的に皆素振りを始めている。

 

そんな彼らを見ながらローガ将軍が足りぬと言い始めた。

 

 

「誰もがいつかは『足りぬ』時が来る。戦いだけではない。生きる上で足りぬことばかり、リヴァイアス侯一人だけが強くともなにかに足りぬことはこの先来るじゃろう。だからどんなに持っていようとも儂はその『足りぬ』時が来ないよう、努力するべきじゃと思うんじゃ」

 

 

兵士を見ていたローガ将軍だがもしかしたら兵ではなくもっと先、あるいは過去を見ているのかもしれない。

 

 

「じゃからリヴァイアス侯もその『いつか』のために努力を惜しむことなく研鑽なされよ」

 

「はい」

 

 

なにか過去に悔恨があったのかもしれない。おそらく彼もその「足りない」想いがあったからこそ私に教えてくれようとしているのだろう。

 

私も自分でいつも足りない部分があると思っているし頑張るようにはしているが……いつか致命的に足りない時が来るのかもしれない。そんな時が来ないように頑張ろう。

 

 

「――――爺臭くなってしもぉた。まぁ爺なんじゃが。……リヴァイアス侯は今日は休むがええ、電撃は体の筋にこたえるでな」

 

「はい、ご教授いただきありがとうございました」

 

「ふはは!賢者の称号を得た貴殿に儂がご教授か!くくく!良い話ができたもんじゃ!!さて!儂は訓練に戻る!ちょうどいい具合に地面が泥になったしの!!」

 

 

温まったローガ将軍は風呂から出てもっと訓練じゃと素振りに混ざりに行ってしまった。

 

すぐに戻ってきて泥の地形も訓練になると言われてもっと水を出すように言われたので兵のいる場所まるごとちょっと温めのお湯を流しておいた。大声で走り回って……元気なおじいちゃんである。

 

その後、エール先生に抱かれて流石に今日は寝ることにした。明日は確実に筋肉痛だな。

 

体も痛いし書類仕事も出来なかった。でも、きっと私にとって良い経験が出来たように思えて……なんだか心地よくスッキリと寝ることが出来た。

 




後書きって何書けば良いんだろう。書籍でもWEBでもめっちゃ思う(ヽ´ω`)
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