水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第179話 SASHIMI……。

 

忙しすぎる仕事はそのままに、結構な時間が経った。

 

仕事の合間にローガ将軍は何度か訓練をしてくれた。ローガ将軍の近くに酸素と水素の球を作ることで勝率は上がったが大怪我させかねないので多用はできない。少しヒゲが焦げていたが本人は私の成長を喜んでいたので良しとする。

 

元々スライムや害獣討伐を命じられた彼がここにいて良いのかとも思ったがここを拠点に部隊を分けて他の領地を回っているらしい。

 

ワイバーンの調教で手間取っているのもあるが、もしもここが戦場になったらと考えればそちらのほうが仕事としては重要なようで国元には報告をして残ってくれているようだ。

 

 

「ライアームの殿下がなにかしでかさないか心配ではあるが……他のやつらがここに来ないってことはそういうことなんじゃろ」

 

「うわぁ……嫌な話ですね」

 

「ほんにのぉ」

 

 

他の奴らとはオベイロスに何人か居る騎士団長や将軍のことだ。

 

精霊との相性や家の繋がりの問題があるためこの国の騎士団や軍はいくつもある。普段仲が悪くても流石に他国からの侵略に対して集まるぐらいは当たり前で、むしろ功名のために真っ先に来ても良いはずなのに――――誰も来ていない。

 

オベイロス国中枢ではおそらく戦力の大多数を既に失ったクーリディアスよりもライアームが動く心配をしているようで、そちらのために戦力を割いているというのがローガ将軍の見立てだ。

 

隷属兵を連れて帰って急激に増加したシャルル派の戦力を考えればライアーム派閥にとって決断を迫られることになっているのかもしれない。

 

彼がとれる選択肢は『ライアーム派閥による王都侵攻による内戦勃発』『他国からの支援を借りての王都奪取』『シャルルの元に出向いて頭を下げ、実権を取り上げられて軟禁』もしくは『現状維持で膠着状態の継続』のどれかとなるはず。

 

 

…………もしくは自陣の派閥貴族のいずれかに殺されて幕を閉じることになる。

 

 

西はどうなっているのだろうか?ここはオベイロス国の東であってライアームの居る西側とは離れていて情報が届くのにも時間がかかる。

 

自国内の戦争を考えないといけないなんて嫌な世の中である。とはいってもやることは変わらず、毎日忙しくお仕事だ。そろそろ机の上のインク瓶も数え切れないほどに割ったり溢れたりしたし、フリムちゃんは「子供の生活」を大きく超えて「ブラック領地のデスマーチ業務」をしている。

 

インク瓶は本当にストレスだ。ガラスが割れた音とインクがトクトクと机の上にあふれて書類が駄目になっていく。どうにかしたいのにどうにも出来ずに音を立てて減っていくのはもうストレスすぎる。他の文官たちは慣れているようだが、キーボードやボールペンで慣れきった私には色々と思うところがある。

 

掃除は大変……インクの内蔵されたボールペンとか、キーボードとモニターが懐かしい。今ならネット環境が繋がってないパソコンでも歓迎したいが……そんなものはない。

 

気がつけば机に体を投げ出していることがある。疲れた体など関係なく、頭の上のアホ毛は元気に動く。

 

 

そんなストレスフルな生活を送っている私の楽しみは食事だ。

 

 

ご飯の炊き方が美味しくなってきて大分満足になってきた。生で食べられる海の魚でソウルフードことSASHIMIや美味しいカルパッチョを楽しめるようになったのが大きい。

 

初めは生魚を所望してドンびかれたが亜人には生魚は食べる種族もいる。寄生虫が怖いので獲った段階で内臓を取り出してもらい血抜きする。活け締めや神経締めも教えて鮮度と美味しさについてかなり熱弁した。寄生虫といえばエラや内臓に多いというのは常識だしね。

 

それでもすこし怖いので身にも細かく包丁を入れてもらっている。他の種族の人は問題なく食べている種類の魚を選んでいるし手間はあるが……私は領主だし、安全第一である。ヤバそうなのはしっかり冷凍する。

 

魚の品質は前世に負けず素晴らしいものが多く、魚の旨味が美味しくて一切れでご飯が進んでしまう。醤油もどきのもう少し品質が良ければ……わさびがあれば…………体が、いや魂が求めてしまう。絶対に探してくれよう。

 

昆布や魚の出汁でとった磯汁に、ご飯、そして刺し身と醤油もどき。もうこれだけあれば最高よ!カビ臭いガチガチのパンや具のないスープには戻れないっ!!

 

クオリティは大分前世よりも落ちるがお寿司も出来たし、食生活が豊かになったのはとても良い。

 

 

「とても美味しいですが、一体どこでこんな料理を覚えたのですか?」

 

「えへー」

 

「…………まぁ良いでしょう。ヨグフェが良い具合なのでどうぞ、食べ頃です」

 

 

大きな貝を醤油もどきと香辛料で焼いてもらった。

 

食の楽しみというのは大切だ。前世を思い出す料理も良いがせっかくの異世界、こちらの美味しいものもだんだんと楽しみになってきている自分もいる。

 

前世のものを作って食べることで自分の中で大切ななにかを確認しているのかもしれない。

 

まだまだクオリティは前世には劣るものも多いがそれでも進歩はした。こちらのものも多種多様で美味しいと思えるものもあるし楽しみたいと思う。

 

領地にマヨネーズや氷菓をひろげようとしたのだがマヨネーズは賛否両論であった。鼻の良い亜人にはツンと来るらしい。しかし果物の多いこの国ではかき氷に果物のシロップをかけるのは大いにウケた。

 

氷はいくらあっても良い。建物サイズで作った氷を削って海でとれた魚のうち過剰な分でオベイロスに運んでもらう。塩もかなりの量があるから運べるだけ運ぶ。商売人として成功していた親分さん……ドゥッガならどうとでも売ってもらえるだろう。

 

王都からうちの家臣や学園の人間が出発したそうだし、ほんっとーに待ち遠しい!!到着予定日も近いのに音沙汰が無いのは気になるが……迷ってるのかもしれないな、探しに行ってもらおう。

 

 

異常なまでの建築スピードによって領地は安定してきたがそれに伴って商売も盛んになってきた。

 

謎の石に煙の出るトーテムヘッド、多種多様なブラシに櫛。このぐらいなら以前市場に出て見たことはあった。しかしその頃よりも領民が言葉を話せるようになったからか、それとも商人の出入りが激しくなったからか品数が一気に増えた。

 

経済的には素晴らしいが、この世界には相場というものがとても曖昧で、やはり騙してくる人はいる。

 

売買契約後に騙されたと申し立てしてくる人も多くいる。契約後に民事だから不介入という原則もない。商人は武力を持って居るのが当たり前なのだから無視できない問題だ。

 

というわけで石仮面トルニーには商売専門で紛争解決のために裁判官としての席についてもらうことにした。

 

商人の世界において「騙される方が悪い」とか「こんな場に申し出るなんて自分で商売の才能がないと喧伝しているようなものだ」ということもあるようだが、明らかに騙そうとする詐欺師は多くいるし騙されるよりも騙す方が悪いのだ。

 

重さや個数で誤魔化したりかさ増ししたりはよくある話で、硬貨を使った売買には硬貨自体の価値もかなり問題である。

 

「銀貨」一つにしても大きさやすり減り方に、偽物、合金割合、どこの国のものかなどで価値がぜんぜん違う。

 

商品も品質や安全性が怪しい物も溢れているから争いがなくならない。

 

 

「トルニー、任せても大丈夫ですか?」

 

「どれほど受け取りますか?それともリヴァイアス領地のものを優遇しますか?」

 

「……はぁ」

 

 

面と向かって賄賂はどれほど受け取るかそれとも外から来る商人よりもこの領地の人間を優遇するかを聞いてきている。

 

賄賂がまかり通っている世界では当たり前なのかもしれないが。

 

 

「それでは商人が後に来にくくなるでしょう。完全なる詐欺目的であれば領民でも商人でも関係なく罪です。賄賂は受け取った後に裁判中に返却してください。リヴァイアスは領民も商人も生きやすい領地でありたいと考えます」

 

「……」

 

「まずはトルニーだけの判断で決めるのではなくお互いの主張を話させた後にそれらについてまとめた資料をトルニーが作って提出してください。調べるのに部下を何人かつけましょう」

 

「それでは仕事が増えるだけではありませんか?」

 

 

こちらの判断、こちらの常識を持ったトルニーがその場で裁判官として即決で裁いてもらうのも考えた。それも正直ありだと思う。

 

しかし、早期で終わる裁判というのはそれだけ不幸や不平等を生みやすい。しっかり時間をかけて調査しても最終的には誰もが納得しない判決になるかもしれないがこちらの人間も使ってちゃんと調べるべきだと思う。

 

現代の民事裁判と違って、紛争が起きればその段階で牢屋行きも当然ある。何年もかけるような裁判はできないが可能な限り手早くしなければならない。

 

既に牢屋は一杯であるし商人には商人用のスペースが新設されたが……行政や司法機関が忙しくて牢屋に入れていく一方で出られないとなればその分の負担も問題も後々のしかかってくるのだ。

 

 

「仕事は増えるでしょう。しかし彼らの商売には彼らの人生がかかっています。まずはこの形で裁判をしていってください。様子を見てこちらに合う形に移行します」

 

「こちらに?あぁ!リヴァイアスにということですね。なるほど、水のように清く深い心でやるようにと……なるほどなるほど」

 

 

本当にわかっているのだろうか?石仮面をしているから表情も見えないし何を考えているかわからないな。

 

 

「トルニー、賄賂はこの国で常識なのかもしれませんが出す方も受け取る方もその金で腐敗を招きます。私は汚職や腐敗を嫌います。もちろん貴方も腐らないようにしてくださいね?」

 

「少しぐらい受け取っても良いのでは?受け取って領の運営に使うのは当然のことかと思われますが……」

 

 

それはたしかに魅力的だ。商人たちは王命で集まっている人が中心であってこの領地をメインに活動しているわけではない。いうなれば外貨を稼ぐようなものかもしれない。

 

そんなお金で領地で困っている人に使えれば魅力的で……私の言っていることは手間もかかるし、常識から外れているのかもしれない。

 

 

「そうですね、それも良いかもしれません。しかし金を持っていたり権力者が得をする裁判ばかりやっていては若手は成長しません。交易都市というよりも軍港が近くなったリヴァイアスでは強い商会が既得権益を持って抑えるような形よりも若手の商人もちゃんとした商売で競い合って発展する実力主義にしていきたいのです」

 

「それは……これまで考えたこともなかったです」

 

「賄賂を受け取らない原因は『領主が受け取らないように言っているから』とか『賄賂などなくとも公平な裁判をする領地にしたいと言っている』とか言って構いません。私が子供だからで納得するでしょう」

 

 

新しい領主の方針だし、私が子供だから融通が利かないと思ってもらえればそれでいい。

 

 

「ある程度は法よりも商人たち全員が得をし、納得するような判決を心がけてください。わかりましたね?」

 

「はい、御心のままに」

 

「あ、もちろん、裁判自体にも監視もつけますので悪いことはしないように。貴方まで罰したくはありません」

 

「……レルケフのような愚は犯さないと誓いましょう」

 

 

言い過ぎたかな?表情は見えないがうやうやしく膝をついて頭を下げたトルニーは従順である。

 

もう見慣れたが何を言っていても止めないフルフェイス石仮面は怪しく見えてしまう。最近は亜人の服装に合わせてか変な服を着るようになっている。

 

全部羽根のコートに素肌に革のベルトで小物を携帯している。下はちゃんと履いているが上半身がコートと皮のベルトだけ………………明らかに不審で、多分日本で見かけたら即通報ものである。シャツぐらい着ろと言いたくもなるが私がそれを言うと周りの亜人の人たちにも影響しそうで言いにくい。

 

やっぱりクーリディアスの船に乗せなくてよかった、行動が不審すぎて問答無用で戦いになってたかもしれないな。

 




皆様の応援もあって僕は楽しく書けています(*TωT*)←1年に12ヶ月だけ花粉症の僕、目がしばしば。
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