水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
さっさと授業を受けて単位がほしいのだが、そうもいかなかった。
量と質、それと精霊について競うが一度で行うわけではなく各個人の回復を待って三度行われる。その間は普通に授業を受けるのだが……シャルルに呼ばれた。
「リヴァイアスとクーリディアスから人材を送ってくれないか?文官を中心に人手が欲し―――」
「無理ですよっ!!?」
無茶苦茶言ってきた。
統治も大変な状況なのに!新体制を教えているところなのに!?
「報酬なら出すぞっ!!うちの不正貴族たちと取り替えてほしいのだ!」
「マジ勘弁して下さいよ!?あんなゴミいりませんよっ??!」
「ま、まじ?……ごみ?…………いらないか……まぁ、そうだよなぁ。不正をしないまともな部下が欲しい」
ガチの泣き言だった。つい日本語で返してしまった。
私だってあんなゴミ達はいらない。
しかも、王都の文官は基本がゴミ貴族とゴミ貴族のゴミ子弟で構成される。そこにリヴァイアスの文官を送ったとして『にっくき成り上がり者の部下がやってきて要職を奪おうとする』わけだ。毒殺どころか正面から殺しにかかってくるかも知れない。
「いい方法だと思ったのだ。クーリディアスから連れてきた隷属兵によって兵たちはやる気になった。不正する貴族は何もせずとも焦って燻しだされてくるし、まともにやる気を出してくれる。爺の考えもわかるのだがな……一時的でも文官を寄越せないか?」
「えぇー……」
「フリムには采配の才能があるとエールから聞いている。凄まじい手腕で人を使うのにも長けているともな」
「とりあえず状況がわからないんで、仕事を手伝いながら考えますよ」
「助かる――――本当に、助かる」
仕方ないので泣き言を言うシャルルの仕事を手伝うことにした。若いのに禿げかねない。
相談される程度には信頼されているのは分かって嬉しかったし、この王様はあまりに不憫である。自分で王位を狙ったわけではないのに王となって、外国からの脅威を伝えて国をまとめた。宰相や叔母様のような人物が手伝う姿勢を取ったのに、王位を狙う伯父がいる。しかも自分よりも勢力が大きく、血縁から外国の協力を得て攻め込んできてもおかしくない状況。
シャルルの叔母さんは王家に養子で入ったため王位継承権はなく、貴族派閥の長をしている。あのお菓子好きの叔母さんのためにロールアイスマシンを積んで王宮にきていたし、一個作ってあげよう。
「クァルルル」
「こら、エール先生の分ですよ?リューちゃんにはちゃんと作ってあげますから。はい、エール先生!自信作です!!」
「ありがとうございます!」
リューちゃんがエール先生の分のロールアイスを取ろうとしたので阻止した。ロールアイスは凍った金属製の筒に果物を当てて凍らせて削り取る。
エール先生の好きな果実の部分とリューちゃんの好きな果物の部分を別で作ったが切り分けたのがエール先生の分が先だったから我慢できずにとびついたようだ。
「……それが守護竜王の子か?」
「はい。可愛いでしょう?どうぞ」
シャルルにもロールアイスを作ってあげた。
リヴァイアス領都で人気の組み合わせ、乳と薬草を足して果物の酸味にまろやかさが出て舌触りの良くなったものである。もう少し王都で手に入る材料で改良したい。
「…………美味いな、体に染み渡るように美味い。果物をそのまま凍らせて食べるのは以前にそれなりに流行ったがこれは全くの別物だな。乳のまろやかさが酸味の強い果実と調和しているし美しい。……これは、絶品だな」
「ありがとうございます」
ロールアイスは誰に出しても好評だ。
ただ、氷を作って入れるし金属製の筒で強度も必要だから屋台の装置のような大きさではある。叔母さんがお菓子好きと聞いていたので一応持ってきたが……。
「そうだ……エールに不正しにくい作りがあると報告を受けていたがどういうことか聞かせてもらえるか?」
「ほぇ?」
「食べ終わってからでいい」
口にアイスが入った状態だったからか変な声が出てしまった。
『不正しにくい作り』というのは市役所や公務員の制度から少し知っていた。公務員とひとくくりにするとそれぞれなのだろうけど、確か政治システムと経済を調べた時に習った。
前世では国によって様々な政治システムがある。
法や風習、倫理観、人種、地理……皆違っていた。政治と経済は密接に関係する。様々な要素を調べていくと「政治機構」や「隣国との関係」などでも経済の状況は変わって調べても調べきれないほどで面白かった。
その中でやはり『自浄作用の有無』というのは重要になってくる。日本でも人という不完全な要素がいるのだからどこも完璧に機能しているわけではなかったが……単純かつわかりやすい不正防止対策が『配置換え』と『お中元禁止』だ。
数年ごとに部署ごと配属先を換えることで「長く居座っているからこそできる不正」を防止できるし、新たな部署に行けば人間関係も仕事の内容もかわって勝手がわからないため不正がしにくくなる。
そしてお中元は一般企業では当たり前だが駄目らしい。良く考えればそれもそうかと思う。出世のために上司に仕事以外でポイントを稼ぐ。上司も人によってはそれで割のいい仕事を回したりもする。結果、仕事での実力ではない部分で評価がされるのだ。
ある意味そういう部分も仕事のうちだという考え方もあるが……この国は賄賂だって当たり前だしそういう部分も規制すれば……いや、裏でいくらでもできるか。しかし、建前として規制しておけば取り締まりをする時にやりやすいか?
常識として「賄賂の禁止」「監査部の設立」「人事部の設立」辺りも採用すればいいだろう。賄賂は当然で、きっと監査部というか調査している人はいる。クラルス先生は屋根裏とか移動してるし、学園の私の屋根裏にもいるから複数いるはず。人事は縁故や爵位による調整が当たり前だがそれを人事に調整してもらう。軍なんかだと実力があるとわかるのは現場の人だし口出しするな!と言われたりも目に見える。さらに「上司への賄賂」が人事に向かうだけの可能性もある。
いや、人事の仕事は人材の調整やキャリアアップのための教育を挟んだり、別部署への短期配属などもできるようにすれば個々人のスキルアップにもつながるだろう。受け入れ先は人が入ってくれば悪さもしにくいかも知れない。少なくとも上司が采配し、たまに大臣や貴族院がでしゃばっているシステムよりはマシだろう。「能力をあげるための人材配置」とすれば文句も出にくいはず。
人とは良くも悪くも何かをする能力がある。
組織構造と屋台骨が腐っているこの国はよく瓦解しないと思うが……見えない部分でまともな貴族も居るということだろう。
戸籍や例年のデーターを保管するのも大事だ。戸籍で人の数を管理すればある程度の推測が可能だ。税収や労働力が分かれば、税収も計算しやすく、それだけで不正を防げる効果もあるはずだ。しかし、これを実施しようとすれば不正貴族たちは市民の数の調整のために市民を奴隷とするとか非道なことを起こさないか?
「うーん、ウムムムムム」
「大丈夫なのか?」
「フリム様、一度書き出してみましょうか」
思いつく限り書いていった。
内部告発システムや内部告発者を守る制度に秘匿の重要性も追加だ。しかし監査や人事、内部告発自体の不正も防止する相互監視のシステムも必要。法整備もして……一度全部ぶっ壊してほしいが無理なんだろうなぁ………。
草案を書いて、それぞれのメリットやデメリット、それと実用は現実的ではない理由なども書いておく。今のシャルルではメリットだけ見てなんでも飛びつきかねない。
きっと「部下の責任を取って上司を辞任させるシステム」など無理だろうな。大臣クラスが反対するはず。
とりあえず思いつくまま書いてシャルルに渡した。
余った材料がもったいないしロールアイスをたくさん作った。容器の下を氷で固めて溶けにくくしてエール先生に運んでもらう。ジュリオンが部屋の前を護っているし、この部屋は安全である。私は不正を犯した税務官の書類に目を通していった。
「少し集中して書類を読みたいので少し寝ててもらえますか?顔色も悪いですし」
「大丈夫だ。まだ仕事はまだまだある。休むわけには……」
「<水よ。超魔力を含んで出ろ>」
超魔力水をいつもよりも気合を入れて作った。
コップに入れて渡せば何も言わずに飲んでくれた。
「回復時には気分が悪くなることもありますからね。一旦横になって下さい」
「あ、あぁ。仮眠することにする」
暗い顔をしているシャルルを寝かせることにした。執務室なのにベッドがあるあたり仕事が忙しいのだろう……。
具合が悪い人が飲むと治りの速さから体に一時的に不調をきたすことが確認されている。内臓を病気で痛めていたような人に飲ませてみると少しの間お腹の具合が悪いとうずくまってしまった事例がある。倒れる可能性もあると伝えれば素直に寝転んでくれた。
そのまま……すぐに寝たようである。過労だな、ドクターフリムちゃんの診断である。
ロールアイスマシンはリヴァイアス領の最高機密だし、重要な報告もあるとして人払いをしている。『戦争が起きたばかりの領地の報告』ともなれば好きなだけ時間が取れるのだ。この部屋には私とシャルルだけだしゆっくり休むと良い。
書類を私なりに捌いていく。これぐらいしか出来ないが……少しゆっくり寝てもらおう。
皆様の応援もあって僕は楽しく書けています……(ヽ´ω`)優秀な部下を頼む。