水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
「フレーミス様?いかがしましたか?」
「なんか歯に引っかかっているというか、うーん」
「口を開けてください」
「あー……ひゃない、ひはいます。比喩表現です」
そういう意味じゃなかったんだが……考え込んでいるとナーシュに口を開けられて覗き込まれてしまった。
なにかチリチリと嫌な気分である。フリムちゃんの鋭敏なセンサーがなにか予感を感じ取っている気がする。しかし、正体が全くわからない。
周りの皆は至って平穏で、いや、むしろ特別なこの行事をキャイキャイと楽しんでいる。
襲撃の可能性以外で頭によぎるものを考えると2つだけ思い浮かんだ。『リヴァイアスの危機』とユース老先生に渡した『青い石のお土産』である。
もしかしたら私がいなくなったことでリヴァイアスが攻め込まれているとかクーリディアスが反乱を起こしている可能性は……あるにはある。海辺の最大戦力フリムちゃんがいなくなったのだから付け入る隙のはずだ。ドゥッガたちに渡したあれがあれば多分大丈夫なはずだし……違う気もする。
もしかしてお土産の石がなにか心に引っかかっているのだろうか?考えてみる。インフー先生の爆弾は火精石を板に練り込んだものだった。あれのように青い石も水が爆発する可能性があるかも知れない。そんな危険物をお土産として王国中に売ったのではないかと心の何処かで心配になってしまっているのか?
モヤモヤする心の引っ掛かりを解くべくナーシュに話してみると水の精霊石は強いものでもそんな力はないし、不純物も多いから全く問題はないようだ。
ただ魔石よりかは魔力を込められるかも知れないから工芸品として売るのはもったいないとも言われた。
他の精霊石はとても希少で、風精石であればいきなり吹っ飛ぶ上に割れると風が村を薙ぎ払った例もあるとかでとてつもなく危険。土の場合には丘ができることもあるとか……もしかしたら私が何処かでそれらを学んで漫然と覚えていて「リヴァイアスから売った石が爆弾でとんでもないことになりそうだ」と引っかかっていたのかもしれない。
朝、皆でいつものスープを食べる前にエルストラさんが前に出てきた。
「今日の夜に試験を行います。なので今日は魔法は使わずにいてください」
「「「はいっ!」」」
「フリム?貴女のことですよ?」
「……はい」
エルストラさんに無表情で言われて周りの人に少し笑われてしまった。恥ずかしい。
こういう皆の前での突然の指摘は小心者の私には来るものがあるのでやめていただきたい。ディベートとか発表物があるような気を張ってるときなら問題ないのだが。
今日は特別な日のため夕食は少し豪華ならしい。
「俺学園長と会うの初めてなんだよな!緊張する!!」
「俺見たことある。綺麗な人だよな。若いけど」
「長命種だっけ?」
「そういう噂も聞くけど精霊の恩寵らしいぞ」
「良いわよね若返るって」
「未婚だそうよ」
「全員の水を飲むらしいね」
「神秘的よね。まるで月の精霊みたい」
「童話の読みすぎよ」
「ここにあるもの食べれるのかな?」
「きっと果実しか召し上がらないのよ」
あの飲んだくれ学園長、中々に人気のようである。
あの人はお酒が大好きだよって言ってあげたい気もするけどイメージを崩すのはよろしく無い。
しかし……やはりなにかおかしな気がするが行事は進む。
皆で同じものを食べ、同じものを飲む。いつもより豪華だが不思議と匙が進まない。よくわからない感覚だが本当にもやもやする……風邪でもひいたかな?
「コのオ茶オイしいヨ」
「ありがとうございます」
ガニューラさんに差し出されたお茶を飲んでみる。
彼女は真紫の長髪と高身長、それに長めのマフラーにアクセサリー……それと変わった発音でものすごい目立つ。
「あら、どこのお茶かしら?」
「これは……とても美味しいですね!」
「わたくしにもいただけますか」
「トクベツなオチャだからネ!エンりょセズニノムとイイヨっ!!」
差し出されたお茶は美味しい。ほんのり甘さと渋さがあって鼻をすっと抜けるような香りをしている。
じんわりと胃があったかくなるようなお茶だった。他の生徒も飲んでいるが「これが高級なお茶なのか」と驚いてしまう。一口で美味しいとわかる辺りとても良質な茶葉なのだと思う。
神殿には神殿で出されたもの以外には認められたお菓子やお茶も持ち込み可だが……これは良いな。今度何処で売ってるか探してもらうことにしよう。
エルストラさんも飲むかなと思って探してみると目はあったがほんの少し苦い顔をしてこちらを見ていた。
ちょっと恥ずかしくなった。お茶一つでうろたえる侯爵なんてはしたないとでも言われている気がする。
考えてみるとエルストラさんは私と違って生まれも育ちもしっかりした上流階級の御令嬢である。そんな人におすすめしようとしても「いつも飲んでますがなにか?」とでも言われかねない。それに、ちゃんとエルストラさんにもお茶は配られていた…………異世界のお茶に少し感動しただけなんだ。
なんだかんだリヴァイアスに行く前の襲撃ではお世話になったし、気にかけてもらってる。今度ロールアイスを一緒に食べようかな?あれにはシャルルも驚いていたし、食べたことがないはずだ。……無表情な彼女がどんな反応するかちょっと楽しみ。
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「ちょっと、その色良いわね」
「ありがとう。貴女ちょっと目元の化粧ずれてるわよ」
「え、どっち?」
「それ貸してー」
「杖も髪も完璧よ!」
「かーわーいーいー!」
食後になると先輩方が少し身だしなみに気を使い始めた。
彼女たちは化粧をし始めたのだが……何をしているのだろうか?
「学園長や神官長、それに宮廷の人間も見に来ますからね。高位貴族に見初められる機会でもあります」
「えぇ……」
フィレーや宮廷の貴族たちがやってきて四角い部屋に通された。神官と宮廷から来た貴族、それと学園の研究者でそれぞれの壁に沿って集まり、最後の一辺には私たち試験を受ける生徒がいる。
量を競ったときにベッドで魔法を使っていた生徒もまだ体調不良なのか椅子でぐったりしているのはちょっと可哀想だな。
ちょいちょいとフィレーに手招きされたので私かと自分を指差すと頷かれた。いつもと違って妖艶と言うか、威厳がある服装のフィレー学園長。私以外にも知り合いの貴族に挨拶をしている生徒もいるようだし私も学園長のもとに向かう。
「どうせお主が勝つじゃろう?あまり他の生徒のやる気を削がぬようにな」
「注意します」
超魔力水の存在は知らない貴族もいるし、秘匿するかは私次第だがまだ積極的に公開まではしなくてもいいはずだ。身内相手には結構使ってるけどね
それに私の出番は最後、他の生徒の力よりも少し品質の良い程度のものを出せばそれで勝てるだろう。
「ん?化粧しているのか?」
「するのが常識らしいですが、私は顔を洗っただけです」
子供だし化粧の必要はないだろう。
それに化粧をしようものなら「結婚に前向き」と見られてグイグイ来られるかもと思ったのでしていない。ちょっとチークとか興味あったんだけどな……フリムちゃんはまだまだ化粧いらずなのだ!
「そうか?……まぁ成長したのかもしれんの、ほれ、そろそろじゃから戻るが良い」
「はぁい」
他の貴族の中には私をじっと見てくる人もいた。この機会に私に求婚でもするつもりだったのかもしれないな。フィレーに呼ばれたのはこいつらへの牽制もあるのかもしれない。フィレーの心遣いに感謝しよう。
そしてついに始まった。質の試験。
「我ら未熟な生徒のためにお集まり頂きありがとうございます。これより水の質をお見せいたします。参加者は杖を掲げ、宣誓しなさい!」
「「「精霊のため!国のため!家のため!力を尽くすと誓おう!」」」
皆で杖を掲げてまたあれを斉唱した。
今度はナーシュにタイミングを教えてもらってばっちりだ。
質の試験はテイスティングと薬学的なものだった。
魔法使いの水は『出す人の資質』と『飲む人との相性』がある。
水の発生装置の役割を求められる水の魔法使いは貴族の家には必要となる。
高位の魔法使いにはある程度「どの水がどこの家の人間と相性がいいのか」もわかるそうだ。
出す人の質がある程度悪くても飲む人によっては体に良い相性の場合もある。
魔法で出てくる水は基本的に健康にも良いが……相性が良ければ魔力の効率もほんの僅かに良くなる。魔法力が尊敬につながる貴族社会ではとても重視されることになる。
先輩方も……もしかしたら相性の良い人に見初められるかもしれないし、更には婚姻相手となるかもしれないからかいつもよりキリッとしている。
それと魔法薬に使えるかを薬品で検査する。うちの薬品店で働いているクラルス先生派閥の人が器具を使って調べていた。
金魚のような、いや、熱帯魚のような魚の精霊といっしょにいるエルストラさんはほんのり光る水を出していた。
「 」
「 」
「 ! 」
「 !!」
「 」
誰かがなにか言っている。あぁ、エルストラさんへの賛辞だろう。何かが、なにかおかしい気がする。
水差しに注がれた水をフィレーや神官長らしき人が飲んで、なにやら盛り上がっている。
ガニューラさんやナーシュ、他の人達も次から次に水を出し、一瞬で私の順番になった。
「<水よゴホッ!ゴフッ?!>」
杖を握っていた手が、喉が、熱くなり……床が勢いよく近づいてきて――――私は床に殴りつけられてしまった。
何がどうなってるかわからない。
なにか鉄臭い何かを吐き出し、ひんやりと冷たい、歪んだ床で……私は眠りについた。
皆様の応援もあって僕は楽しく書けています-⁽ -´꒳`⁾- バタリ