水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第216話 エールっ!!

 

フリム様は、フラーナとオルダースの子だ。それは間違いない。二人によく似ている。

 

私は生まれた時からシャルルと共にあった。

 

風の名家の四男の父と七女の母。殺し合いも当たり前の風の名家同士の恋愛。実家からは壮絶に反対されたが駆け落ちに近い形で両親は逃亡し、王と縁があって王宮での生活をして……やがて私が生まれ、シャルルの乳兄弟となった。

 

本来であれば風の名家から出た厄介者の両親よりも、もっと格のある人物が乳母をするべきはずだ。しかし、それだけ両親は王の信頼を勝ち取っていた。

 

 

「エール、シャルルを守りなさい。そしてシャルル、お前もエールを守るんだ。……家族だからね」

 

 

前王陛下は私のことも娘のようにかわいがってくれた。陛下の後ろには常に父の姿があって……とても誇らしかった。

 

 

「陛下、陛下の言葉とは言えエールは臣下です。幼き頃からそう言ってしまえば考え違いをしかねませんよ?」

 

「すればいいさ。王族も貴族も精霊に選ばれし家族だ。……仲良く出来ないものかねぇ」

 

「陛下……」

 

 

この父達が好きだった。

 

少し頑固なところがあるが誰よりも速く空を飛ぶ父が。茶目っ気のある陛下が。

 

 

「オルダース、うちの娘はどうだ?悪さはしてないだろうか?」

 

「流石に速い。気がつけば壁の上にだって飛んでいく。まるで風の精霊のようだ」

 

「ははは!さすが我が娘だ!可愛いだろう!!」

 

「そうだな!俺の教え子は可愛い!」

 

「「ははははは!」」

 

「エラン、オルダース。少しは静かになさい」

 

「ルレール、フラーナも!せっかくのエールの誕生日だ!もっと飲め!陛下も騒いでもいいと許可を出してくれたぞ!!せっかくのエールの五歳の誕生日だ!!乾杯!」

 

 

王宮では陰口を言われて当然、爪弾き者の私達だったが寂しくはなかった。

 

厳格だが酒に弱い親ばかの父としっかり者の母がいて、豪快なオルダースと少し不思議なフラーナ、それに少しオドオドしたシャルルがいて……幸せだった。

 

こんな幸せがいつまでも続けばいい。そう願っても――――願いは叶うことはなかった。

 

 

陛下は病気で死亡。両親は政争で居なくなった。

 

才能がないと蔑まれていたシャルルは地下の迷宮に閉じ込められた。

 

私はシャルルを助けようと迷宮を攻略しようとしたが、オルダースたちに閉じ込められ……後のことを考えた。

 

他の殿下やライアーム様のことを考えれば私の目から見てもシャルルに王位はいかないとわかっていた。シャルルは普通だ。普通の人である。

 

だが、自信と覇気をまとったライアーム殿下、それと四大元素と光の属性を各々身にまとった他の殿下方は一目見ると魂を抜かれそうなほどに神々しかった。シャルルも普通なりに優秀ではあるが、対抗なんて思えないほどに他の殿下方は隔絶していた。

 

貴族も支持が割れていたが、皆「シャルルだけは王位につくことはない」という確証はあったはずだ。

 

だから王位は別の方が授かるはず。……しかし、混乱に乗じてシャルルが殺される可能性はあった。だから閉じ込められたのだとオルダース達の手紙でわかった。

 

シャルルが閉じ込められたのはシャルルのためとわかって私は迷宮ではなく、辺境の地に住居を構えた。

 

他の殿下の誰かが王位を手に入れれば田舎で住むつもりだった。王宮のような贅沢はできないかも知れないが、それでもまた幸せが欲しかった。

 

いずれ政争は終わる。その時のために、父や母は任務から居なくなったが残った家族が幸せになれるように準備しようと思った。望みは薄いかも知れないが両親も帰ってこれる場所を作りたかった。

 

平民の暮らしは慣れず、家族のいない生活は初めてだったが……お金はあったし、使用人もいる。そうして、あとは待つだけと思いつつも、何が起きても大丈夫なように研鑽は欠かさなかった。

 

 

いつか終わると思っていたのに……政争は激化した。

 

 

殿下方は激しく戦い合うし、他国からの侵略もあった、国が消滅するのではないかという大混乱。庶民の暮らしですら満足にいかず、賊が何処にでも現れる……最悪の時代となった。

 

平民の暮らしに耐えられずに学園に戻って勉学に明け暮れた。当時の学園内は人間関係は荒れていたものの殺し合いに発展するようなこともなく……私にとっては学びの時となった。ひたすらに勉学に打ち込んで、研鑽を重ね、最短で卒業ができた。

 

力も知識も、私には足りていない。

 

いつかシャルルとまた学び直すために席を残そうとも思ったが、どのようになろうともシャルルはもう学園に戻ることはない。王宮で情報を集めつつ、私にできることをした。

 

そして、なぜそうなったのか最悪の未来がやってきた。

 

 

闇の大精霊を伴ったシャルルが迷宮から出てきた。――――王となっていた。

 

 

まともな後援のいない王だ。情報は錯綜していたが、他の殿下方は激しい戦闘で地形を変えるほどの戦闘の後に行方不明。死亡したと見られているがその情報が正しいかなんてわからない。少なくともライアーム殿下は生きている。

 

 

シャルルを守るためにも、オルダースとフラーナ、そして私は必死で働いた。

 

 

亡き両親の教えだ。家族は絶対に見捨てない。

 

シャルルはもう何処にも逃げる道がなくなってしまった。なら、進むしか無い。

 

情けないシャルルも荒れた城下を、路傍に転がる死体を見て……少しは成長した。

 

オルダースとフラーナは水の名家の出身で、両親ととても仲が良かった。しかし、今となってシャルルを助ける理由を聞いたことがあった。

 

 

「水の女は情に弱いのよ」

 

「そうそう、水の男もな!」

 

「もう!」

 

「まぁ、そうだな……。エランとルレールも家族だったし、エールちゃんも家族だからな。この身が動けなくなるまで見捨てることなんて無いさ」

 

「私もよ?」

 

 

二人共水属性の名家の出身である。引き返せないシャルルとここにしか居場所のない私と違って帰る場所があるのに……私達を見捨てることはなかった。

 

二人の水の味は良く覚えている。そして二人の戦いようも……すこしおっとりした部分もあるフラーナも剣を使う芯がある武人で……オルダースも体格を活かした武術は見習う部分が多かった。水の魔法使いと言うだけでも貴重なのに、戦闘までこなしてくれて……何度命を救われたことか。

 

何度も刺客から襲撃を受け、何度も撃退した。彼らがいなければ生きてはいられなかっただろう。

 

しかし、大規模な襲撃を受けて……二人も居なくなってしまった。

 

二人は大きな傷を受けていて……戦場ではぐれた。もっと探せば見つけられたかもしれない。もっと私に力があれば……。ただ優先するべきはシャルルだ。そう話し合っていたからやってこれた。

 

 

いつしか、時は過ぎ、シャルルも王として立派になってきた。

 

 

レージリア宰相とオッヴァーディア様の手助けがあってのことだった。

 

国の中核である無敵宰相の派閥と、ディア様の貴族派閥は国をまとめるのに必要で……なんとか形になった。

 

ライアーム殿下は恭順することもなかったが……奴には奴の立場があるのだろう。獣の巣に縛って入れたいほどに憎いし、なんなら今すぐにでも殺しに行きたい。

 

しかし、争えばこちらが不利だ。

 

ライアームは祖母が外国と縁があって、やろうと思えば外国から兵を借りることができる。そうでなくとも戦力もおそらく向こうが有利。

 

こちらにはシャルルの魔法で増えつつある精霊と契約した魔導師に、城壁と王都までの領地そして宰相閣下がいる。

 

レージリア宰相は普段温厚だが、戦いになると首を捻りきってくるなど恐ろしい一面もある。

 

しかし流石に400年以上生きてきて、そろそろ危うかったのは誰の目から見ても明らかだった。合う水がないとかで老け込んだ宰相は階段で腰の痛みで一歩も動けなくなっていたほどだ。

 

しかし、彼一人が本気を出せば戦場の真ん中を駆け抜けて敵の総大将の首をもいで戻ってくるなどは今の大臣であれば誰でも知っているし、ライアームも警戒したようだ。もしも宰相が亡くなれば……ライアームは襲いかかってきたのかもしれないな。

 

 

そしてある時、私が毒で倒れた。味もしない、匂いもしない、謎の毒。魔導具か、何がなんだかわからないが、私は意識はあるのに、体は全く動かせずにいた。

 

 

変な男が控室に入ってきて、私の予備の服を着て、私の顔や髪をよく魔導具で写し取って化けた。……こんなに高性能な魔導具は、王家の秘宝でしかありえない。

 

もはや駄目かと思われたが……在野の魔法使いがシャルルを助け、二つ名持ちの勇士たちを一掃して事態は解決したそうだ。

 

そして、シャルルは何処かで見たことのあるような子に引き合わせてくれた。

 

 

 

家族とは減るものばかりではなく、増えるものでもあった。

 

 

 

フラーナとオルダースの子は、生きて……産まれてきていた。

 

 

 

本当に幸せで……彼女の報告を受けると泣いてしまった。

 

 

 

私にとって平民の暮らしは辛いものであったが、この子は金も保護者も力もなく、路地裏で寝ていた。

 

 

破落戸に殴られ、奴隷以下の暮らしをしながらも――――生きていてくれた。

 

 

私の小さな家族が、そんな扱いを受けている中……、私は温かい寝床で寝て、不自由のない暮らしを送っていた。私を助けて傷ついた二人の子どもの存在も知らずに。

 

 

無茶苦茶な子で、常識があるのかないのかあやふやな部分があった。おそらく何処かの大貴族か、水の家の誰かに育てられたのだろう。

 

シャルルと同じで、彼女にも逃げ場がない血統があって……側で支えることにした。シャルルから離れるのは心配だったがシャルルにとってもフリムは家族である。側に行かせてもらえた。

 

闇の加護魔法による魔力の増加も理解が出来たし、賢人がついていた可能性もわかっていた。

 

私から聞いても良かったが、フリムから言ってほしかった。どんな貴女でも受け入れてみせるという自信があった。様とつけ、令嬢として扱って、この上ない生活を、贅沢をさせてあげたかった。

 

私がいない間にシャルルは襲撃対策を増やしたのか執務室の声はあまりわからなかった。しかし、聞き取れた内容は私には理解できないものであった。

 

死んだ人が、生まれた時に同化したかもしれない。その意識はなかったけど、大きくなって破落戸に殴られて前世を思い出したそうだ。

 

そこまでは良い。言い出せなかったのも悪魔憑きとでも思われれば殺されるかもしれないし懸命な判断だ。何歳であってもフリムはフリム、私の家族だ。

 

しかし、私を庇って傷を負った二人のことを、フリムは知っているのか……どう思っているかわからなくて――――私はどうしても言い出せなかった。

 

後に両親の死の原因が私にあるかもしれないと知れば怒ってその短剣で私の腹をえぐるかもしれない。それで良い。しかし、それでもこの子が大きくなって不安がなくなるまでは側にいたかった。

 

シャルルが聞き出すように話したのは何故か……後で聞いたが、霊がこの世界に残るのは「強い力の持ち主」だったり「何かしらの強い感情を持っている」可能性があったから聞き出そうとしたそうだ。

 

もしもフリムの前世に家族がいればその家族を探してやることもできるし遠慮しなくてもいい。例え誰かに殺された強い恨みがあるのなら早くしないと復讐すらできなくなるかもしれない……そう思ったそうだ。もしも光の神殿を恐れているのなら守るべく対応をするから安心してほしかったとも。

 

聞き出そうとした理由は納得できた。

 

しかし理解できないのは「異世界の存在」だ。別の世界がある。人種も、教育も文化も違う。誰も死なず、誰でも診断が受けられる、3割負担の世界。

 

よくわからない。よくわからないが、私が短剣で刺す方法を教えたのは辛かったと聞こえた。

 

そこで、一旦離れることにした。彼女にとっての常識が何なのかはわからないが、もしかしたら私は彼女の尊厳を踏みにじるようなことをさせていたのかもしれない。

 

私も良かれ思ってやったというのは私自身が理解しているが……王宮から同じ国内で平民の暮らしを体験し、学園で学んだ私には「受け入れられない文化」があると学んでいた。

 

 

フリム、さんは、私にはまったくない常識を持っていて、あまりに優しかった。

 

 

ボルッソなど、家族まとめて10年ぐらいは拷問してから殺してしまえばいいはずだが、それも拒んで生かしている。

 

国の基準だって民主主義という民こそが国の主であると言った説明をしていたがそんなの……常識が違いすぎる。選挙というよくわからない制度で民の代表者を選び、彼らの協議によって国が運営されるといった説明をしていたが……全くわからない。

 

だから、一度離れて調べることにした。異世界とは何なのか、強く言っていた3割負担とは何なのか、ちょこれーととは何なのか……。

 

謎の多い闇の精霊の加護とは言え精霊は精霊、四大精霊や光の精霊と違って珍しくはあるが神殿はある。

 

王宮の禁書庫と闇の神殿の両方を調べ、フリムさんのことを知ろうと思った。知って……本当に自分が必要とされるかを知ろうと思った。

 

 

だが、その答えがわかる前に急報が来た

 

 

フリムは毒に倒れた。

 

 

しかし、毒を盛った者はいないし、皆神殿で同じものを食べていて下手人は捕まっていない。

 

私のいない間に……。すぐに学園の部屋に行くと襲撃の形跡が残っていた。天井が破壊されていた。いや、それよりも、毒で苦しむフリムは見ていられなかった。これは私が傍にいなかったから起きてしまったのかもしれない。

 

 

それで決めた。

 

 

フリムの気持ちなんて関係ない。

 

 

私が役に立てるかなんて関係ない。

 

 

この小さな家族に寄り添おうと、彼女のためにやれることはやってやろうと……そう決めた。

 

 

いつか彼女の短剣が私を貫いたとしても、きっと後悔だけはしないだろう。

 

 




皆様の応援もあって僕は楽しく書けています(`・ω・´)
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