水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第217話 猛毒っ!!

 

気がつけばエール先生が横にいた。

 

 

「…………」

 

「起きられましたか!?すぐに神官を呼びます!」

 

 

声を出そうとしても出せない。

 

胃腸や指先、目やアホ毛のあたりが痛む。

 

 

「…………」

 

「喋れないのですね?貴女は毒で倒れたのです!何処まで覚えていますか?」

 

 

焦ったようなエール先生。戻ってきてくれたんだと少し嬉しくなったが……その問いには答えられない。喉が熱く、焼けたように痛んで声が出せない。

 

何人かの光魔法を受け、薬湯を飲んで……自分の超魔力水も無詠唱で出して飲む。

 

 

「フリム様、離れていてすいません。異世界や3割負担が何なのか、調べて、フリム様に寄り添えるように、ありたかったのです。私がいない間に毒や襲撃まで……本当に……!」

 

 

なんで3割負担なのだろうか?

 

動かしにくい腕で謝る口をゆっくり塞ぎ、目線を合わせてから首をふる。

 

私がこの世界のことがわからないように、エールさんが私を理解できなくても当然なのだ。

 

謝ってほしくない。私は戻ってきてくれて、私のために色々考えていてくれたことが嬉しいのだ。

 

震える両手を動かして、泣きそうなエール先生のほっぺを動かしにくい手でもち上げた。

 

笑ってと伝えたかったのだが、エールさんからボロボロと涙が出てきて……抱きしめられてしまった。

 

 

「いつかっ……いつか私は貴女に刺されるかも知れませんっ!その日っ!その日まで!側にいさせてくださいっ!!」

 

「…………」

 

 

私がエール先生を刺すなんてありえないのにな……なにかの風習なのだろうか?取り乱すエールさんの背中をぽんぽん叩いてあげたいがもう手が上がらない。

 

しばらく泣かれて……そのままエールさんは教えてくれた。

 

エール先生はシャルルの乳兄弟であり、私の両親とも仲が良かったそうだ。

 

なんで私がエール先生を刺すのかはわからなかったが、それでも私を家族として大切にしていると教えてくれた。

 

 

――――だから、出会ってからずっと良くしてくれていたのか……。態度からはシャルルからの命令以上のものを感じていたが。

 

 

エール先生、いや、エールお姉ちゃんというのが正しいのだろうか?いや、気恥ずかしいし、これからも先生と呼ばせてもらうことにしよう。

 

 

「私はどんな貴女でも受け入れます。異世界というのがどんな世界か、わからないですが……受け入れてみせますから、だから側にいさせてください」

 

「…………」

 

 

頷くとまた抱きしめられてしまった。……エール先生も普通の女性で、完璧超人ではないかったようだ。

 

でも……これからはもっと頼っても、良いのかもしれない。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「神官長はもう大丈夫だとおっしゃってましたが……何があったのか教えて下さい」

 

 

水の腕でゴム手袋を取り出し、こちらも何があったのか筆談する。自分の手は動かすのでやっとだ。

 

たしか、ずっとあの日はモヤモヤとしていて、魔法を使う前には時間の感覚も早くなっていた気がする。だけど誰かに毒を盛られたりはなかった。周りと同じものを食べていたはず。

 

取り調べは私が寝ている間に厳正かつ苛烈に行われたようだ。一応ではあるが私は『シャルルの相談役』であるし、国に認められた『侯爵』である。

 

……しかし、どこからも毒物は出てこなかった。明らかに毒の症状なのに食べ物からは毒の反応がなかった。

 

今回の件で利を得るのはエルストラさんだが、彼女は私を擁護しまくっているし上級侯爵にして水の大家ルカリムの直系の後継ぎだ。しかも一応だがシャルルの婚約者候補でもある。無理に調べることは出来なかったが彼女は協力的で……証拠も見つからなかった。

 

怪しかった「やけに美味しいお茶」も全く問題がなかった。健康に良いという判断がなされただけである。

 

 

――――……犯人は、捕まっていない。

 

 

体中ズキズキ痛むが……痛み止めも強いものは使えないらしい。

 

倒れたその場にはフィレーもいたし、適切な処置を出来る水属性の先輩方もいた。水属性の卒業生たち、うちの薬屋で働く人もいた。

 

処置がよくて助かったが……結果を聞くとまともな水を出せなかった私の水の質は競うまでもなく不戦敗である。

 

最後の精霊については倒れた私の周りにはリヴァイアスたちが出てきていたそうだ。次は『精霊を出すことができればそれでOK』なため、水の精霊が出せる人はそれだけでポイントを得られる。

 

水の質ではエルストラさんが勝利したため、私とエルストラさんが同ポイント、これから代表の座を争うこととなる。もちろん次の行事に参加さえできればだが。

 

 

明らかに何者かの不正。しかし毒は見つからず、犯人も見つかっていない。

 

 

それどころか私の自作自演説も出ているようだ。「負けるのが怖くて自分で毒を飲んだ」とか言われているとか……。

 

 

「本日、他の生徒の精霊のお披露目が終われば代表が決まりますが……まさか参加するつもりですか?」

 

「…………」

 

 

ベッドから出る私。エール先生に止められそうになった。

 

 

「そのような体で、おやめください。学生の代表の座なんて、フリム様には必要ないじゃないですか!!」

 

「…………」

 

 

答えたいが喋れない。苦笑して「そうじゃないんだ」と目で伝える。

 

自分だって身体の状態が悪いのは自覚している。全身痛いし、目もしばしばするし、喉も痛い。結構な血を吐いたのかくらくらもする。

 

こんな状態で、寝ずにいるなんて、おかしいのはわかっている。

 

 

――――でも、行かないといけない。

 

 

 

「行くのですね?」

 

「…………」

 

 

頷くとエール先生は困惑している。「無理をする必要があるのか」と言いたいようだ。

 

でも、絶対に行かないといけない。ハンドくんは一度解除して干されたから自分の手で手紙を書いて……手の血管全てが痛むような気がする。感じたことのない痛みで、字があまりにも汚くなってしまう。他のハンドくんを出すかな?いや、書きたい内容は書けたし良い。

 

……よく見れば部屋も少し歪んで見える。目を凝らしても真っ直ぐなはずのものが歪んでいる。自分がまっすぐ立てずにフラフラしている部分はあるが、それでも視界の歪みは認識できた。

 

でも、行くのだ。

 

歩き出そうとすると足が動かず膝から落ちそうになったがエール先生が受け止めてくれた。

 

 

「どうしても行くのですね?」

 

 

頷いて答える。

 

 

「……まだ時間はあります。もう少し休んでからいきましょう」

 

 

頷いて……超魔力水を飲んで少し横になる。

 

インフルエンザを3回同時に発症して、交通事故にでも合えばこんな状態になるだろうか?自分の体がうまく動かせず、人形のように感じる。

 

それでも行くのだ。

 

 

――――理由を、聞かないといけない。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「何者かにフリムが、いえ、リヴァイアス侯爵が毒を盛られたのは不運でしたが水の質と精霊によってわたくしが代表ということでよろしいのでしょうか?」

 

「ソレワオカしくないカイ?カノじょはサンかゴホっ……すらしていないじゃないか?それニ、カノじょは精霊ヲ出セるのだかラ彼女ニモ代表ノ資格ガアルダロうゴホッホ……」

 

「それはそうかも知れませんね、しかし毒に倒れたリヴァイアス侯爵には代表としての責務が全うできるとは思えません。それにフリムにお茶を出したガニューラさんが言えることではないのではなくて?」

 

「ウタガいはナいはずダ!オチゃはミナノンゴホッゴホッだ、だろう?」

 

「そうですね。でも疑惑は残ったままですよ?」

 

「……ソレをいワれるのノワ仕方ナいネ」

 

 

もう何も反論はないようだ。

 

他の生徒もやはりフリムの吐血から牽制しあって嫌な雰囲気は流れているものの……わたくしの代表就任になにか口を挟んでくることはなさそうだ。

 

 

「では、わたくしが代表ということでよろしいでしょうか?」

 

 

わたくしに向かって膝をついていく生徒たち。全員が膝を付けばそれで決まりだ。

 

あとはナーシュ・マークデンバイヤーだけ。彼女はフリムの側近であるし、派閥の面子もある……膝をつけにくいのかも知れない。

 

 

「貴女はわたくしの代表就任に反対ですか?」

 

「えぇ、反対です」

 

「理由は何でしょうか?わかっているでしょうが、わがままや理不尽であれば無視されて終わり、貴女と貴女の主の名誉が傷つくだけですよ?」

 

 

家門の人間であれば一言舌戦を繰り広げたり、文句を言うぐらいはよくある。

 

貴族の中には「とにかく自分が一番じゃないと気がすまない」という子もいるが、それは許されない。力があるのであれば勝てば人格は問わないのだが……。

 

 

「貴女よりも、フレーミス様のほうが代表にふさわしい筈です。水の量は歴代でも10番以内に入りますし、精霊の数は桁違いの数だったのを皆も見たはずです」

 

 

たしかにそれはそうだ。

 

精霊は一人に一柱が基本だ。一柱だけでも貴重だがたしかに歴史上数柱が一人の人と共にあることもあった。倒れたフリムには大精霊のリヴァイアスやオルカス、他にも名前は知らないまでも文献に特徴の記された大精霊が出てきていた。

 

しかし、量と質を比べたときと違って精霊については数は関係がない。学園の生徒は卒業時に精霊と契約できる場を設けられるが……そもそも卒業よりも前に生徒が精霊と契約していたり加護を得ている事自体稀なのだ。複数の精霊が出てくる想定はされておらず「精霊の数」は規定もない。

 

精霊とすでに契約しているのは五人、わたくしとフリム、ガニューラ、それと他の生徒が二人だ。しかし水の質はわたくしが勝利したため代表の資格があるのはわたくしとフリム。この場合話し合いか、稀に杖を交わすこともある。

 

 

「そうですね。しかしフリムは毒で倒れています。ここに立てていない以上、代表の資格はないでしょう」

 

 

……心苦しいが、もう決まりのはず。

 

 

しかしそこに、扉が開く音がして……決してここに来てはいけない人が来てしまった。

 

 




皆様の応援もあって僕は楽しく書けていますイカナイト(›´ω`‹ )……
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