水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
私が倒れたことによってジュリオンは申し訳無さそうにしている。ジュリオンは何も悪くないのにね。
心配されているのはわかる。――――……ただ、今は行かないといけない。
抱えてもらって会場となっている扉の前についた。
「フレーミス様、何のために、何をされるのかわかりませんが……戻ってお休みになられませんか?」
「…………」
首を振って否定する。
「そうですか…………必要になればお呼びください。すぐに駆けつけてみせます」
肯定の意味を込めて頷く。
さて……時間はまだあるはずだが、休憩から着替えに時間がかかってしまった。
手紙をちゃんと持って、代表を決めている部屋に向かった。
「フリムっ!」
「…………」
話せないがハンド君に手紙を掴ませて渡す。受け取って読んでくれたエルストラさん。
手紙から私に視線を移した。
「本気ですか?」
手紙の内容は私が代表になるべきで戦いを申し込むというもの。
「…………」
杖を握って、エルストラさんの頭に水をかけて応えた。
本気であるという意思表明のためである。
「……なるほど、本気なのはわかりました。しかし、そんな状態で?」
「…………」
「では、話し合いでいかがでしょう?それも無理ですか……では、わかっていますね?」
彼女は無表情のまま、私に向かって杖を抜いた。
私も浮いている杖を向けてそれに応える。
「精霊のため、国のため、家のため力を尽くすと誓おう」
「…………」
エルストラさんの宣誓に私は声を出せないが……私の思惑通りに代表を決めるための決闘が始まった。
私も声には出せないが杖を相手に向ける。
「<おいでませルカリムが眷属よ。顕現し我が眼前の敵を溺れさせよ>」
ヒレの大きな金魚のような精霊がエルストラさんの前に現れ、私に向かって帯状の水が左右にうねるように飛んできた。
無詠唱で水の塊、水の槍で迎え撃つ。
なんとか相殺できたが、飛沫が大きく私にかかって体がふらつく。
ほんの僅かな衝撃なのに今の私にはきつい。
精霊への語りかけ、喉に魔力を集中して声に出すことで簡単に発動すると言われる精霊魔法。詠唱無しで使えるのは高位の術者だけだが効果は激減する。更に体調が悪すぎるし、視界も感覚もおかしい。おまけにここの水の領域はエルストラさんのものだ。
―――――それでも、この場でエルストラさんを倒さねばならない。
他の競い合いのように、何日か期間をおいてくれるとありがたかったが……。
水の球が左右から向かってきたので相殺させる。
いつもと違いすぎる魔法の使用感覚に思うように飛ばない魔法。三発目が足元から胸元に浮き上がって来ていたが……気づくのが遅れた。直ぐ目の前に水の球を作り出したが至近距離でぶつかって激しい衝撃で体が浮いた。
「…………ケホッ」
吹き飛ばされるほどではない。……後ろにほんの一歩下がった程度。
いつもなら大したことはないはずだが、全身がバラバラになりそうだ。
喉からまた血の味がこみ上げてくる。
「どうして……!どうしてそうまでするのですか!フリム!!」
「…………わ、たし……は……」
杖を両手で持ってすがりつき、倒れないようにする。一度でも倒れれば、もう起き上がれる気がしない。
なんとかでてくれた声を、必死に繋ぐ。
「あ、なたを……」
「もう喋らないでくださいフリム!血がっ!?」
焦るエルストラさん。それはそうだろう……彼女の思惑とは全くの反対のことを私はしているはずだ。
「ゴホッ……ペッ」
血反吐を吐いて、喉のつっかえが取れた気がする。血の味が這い上がってくるのは気分が良いものではないし、胃の底から吐き気が登ってきて仕方がない。
それでも、言わないといけない。
「……私は、私は貴女を、助け、たいっ!!!」
「――――――っ!!!??」
これが私の気持ちだ。驚いているエルストラさんだが、思惑通りにさせてたまるものか。
…………思えば最初からおかしかった。
私に対して執着心のあるエルストラさんがこの競い合いの最中にほとんど干渉してこなかった。
13歳ほどのエルストラさんは年の離れた私を本当に大切にしていて、私を説得するために日に最低5回も手紙を送ってきたような人だ。
なのに他の先輩方に私が蔑まれたり野次られていてもそれを止めることもなかったし、競い合いのスケジュールもおかしかった。
水の量を出すのにもいつもよりも水が使いにくかった気がする。今ならわかるがエルストラさんの前に浮かぶ金魚のような精霊の力を感じられたし……わずかなだが魔法を使いにくかった。
掃除や食事の間、私を構う機会は何度もあったはずだ。構ってこないのは代表の仕事が忙しいかもと思ったが……それが引っかかっていた。
学生の代表を決める制度程度でここまでするのは意味がわからなかった。この制度自体は各属性の活性化を考えられたものだ。
学生の中で最も力の強いものを代表として選ぶ。代表ともなれば貴族社会でも名誉なことである。先輩方のように結婚に使うこともある。
制度について先輩方やナーシュに教えてもらった。
『学生の代表は、大家の長に挑戦することが出来る』
今では使われない権利だ。
学生の代表は大家の長に挑戦することが出来る。学生側は大家の長に挑むことで自分の力を貴族社会に披露することが出来る。大家の長はこの挑戦を受けないと貴族社会において最大の恥辱として歴史書に書かれることもある。挑戦を受けないという選択肢はない。
もしも私が代表の座につけばきっとこの制度を知ることとなっただろう。そしてこの挑戦はこの学園で行われるしきたりである。つまり、水の大家の長であり、ライアーム前王兄殿下派閥筆頭家臣である伯父をこの学園に呼び出すことが出来るのだ。
ライアーム派閥としてはこれは避けたいところだろう。もしものこのこと伯父がこの王都にやってくればそのまま暗殺されかねない。
ならこれを止めたければ……そもそも私を殺してしまったほうが確実なはずだ。
しかし私は生きている。
私を本気で毒殺するつもりだったのなら薬師やフィレーのいる「私が死ににくいあの場で毒を盛った」ことがそもそもおかしい。
だから……きっとエルストラさんは本気でこの制度を避けようとしていることがわかった。きっとこれは私を護るための方策だったはずだ。
私は代表になることしか考えていなかったが、エルストラさんは追い詰められてか、誰かからの命令かでこんなことを行ったはずだ。
――――だから私は、13か14歳かの……この少女を助けたいと思った。
どれほど辛かっただろうか?自分が護りたいと思っている、自分と同じ血を引いた妹のような存在に毒を盛るのは。……私だったら自分の半分ほどの女の子にそんな真似は絶対にできない。
だからこそ私に対する態度がそっけなかったのだろう。
「<水槍よ!水刃よ!>」
「<……水よ>」
彼女は私を倒そうとしていて、水の球でガードしたがいくつかの攻撃が当たる。私の水刃と違って切れ味があるのか少し服が切れた。
体まで傷つきはしなかったが、衝撃で膝をついてしまった。
代表になるという名誉のためであれば、彼女にとって私が傷つくのは有利となるし嬉しいはずだ。……なのに、私に水が当たるたびに無表情な彼女の顔が崩れて……酷く苦しそうにしている。
……このままやられて、彼女の思惑通りになるのも良いのかもしれない。
だけど、その後は?結局はまた私が狙われ続けることとなる。――――禍根を断たねばならない。
「……貴女を倒して、私は貴女を助けます」
何度目かの水の球を打ち払って、そう、宣言する。
喉だけは吐いてだいぶん楽になったが、立っているだけでもかなりキツイ。
放たれてくる水は段々と強くなってきて、数発受けてしまった。激痛から、意識が保てていることが奇跡のようだ。
「わかってるの?そうなればきっと――――貴女は死んでしまうわ」
「しかし、いつか、は、解決しないと、いけない問題です。――――私は、家族を助けたい」
目の前の少女を、私を想ってくれる彼女を。
「……そう、ではこの一撃で決めることにします。耐えられればわたくしは負けを認めましょう」
「はい」
………
………………
………………………
向かい合って、お互いの気力が高まってくるのがわかる。
「<水よ。天藍に連なりし純青たる我が護り手よ!激流を持って押し流しなさい!!>」
エルストラさんが精霊を出した。
左右の長いヒレに沿って水の板がゆらゆらと現れ、こちらに向かって激しい水流が向かってくる。
「<水よ。リヴァイアスよ!押し流せ!>」
< キ ュ ア ッ >
時間の経過か、喉が使えるようになってよかった。
リヴァイアスは金魚の精霊を飲み込み、水流は私の操作通り、軽くエルストラさんを尻餅をつかせる程度で倒すことができた。
距離感覚も、魔法の使用感もバグっている。全身が激痛で痛むが……単純な出力勝負に勝つことが出来た。
リヴァイアスが、呼んでもないオルカスや他の精霊たちがエルストラさんの周りを取り囲んでいる。
「そこまで!勝者はリヴァイアス侯爵!よって水の代表はフリムで決まり!いいな!!」
いつの間にかフィレーがいて、私は勝利し……水属性の学生の代表となることが出来た。
今日の3話投稿『一週間に一回ぐらいの投稿にして焦らそうかな』と思ったのは内緒(´・×・`)