水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
ルカリム本家、大家の長。そして私の伯父にあたるヴェルダース。
私が代表になったのでちゃんと挑戦状を送った。
そもそも殆ど使われない制度だが学生の代表からの挑戦状を大家の長が受けないのは貴族として最大の恥になる。大家の長は挑戦を受けたうえで学生を軽くいなして制圧出来て当たり前だ。
水の家だしよくわからない競技をするのか、それともエルストラさんとのように杖を交わらせることになるのかは不明だが、これできっとルカリム本家の伯父さんと面と向かって話すことができる。
もしも伯父さんが挑戦を受けずに王都にも来ない場合も考えられる。そうなれば吸収合併したタナナ家とレーム家、それに大本のルカリム家からの信頼を大きく損なうことになる。あ、キエットみたいに水の名家に仕えている人たちも向こうにはいるはずだし、こっちに来るかな?
私は学生として「負けて当然」であるが、勝利できればライアーム派閥は大きく戦力を損なうこととなるはずだ。負ける気はしないが。
変な競技であれば負ける可能性はあるが、戦闘であればリヴァイアスたちがいれば負ける気がしない。……おそらくこちらにとって負け筋はない。
「直接触ると凍傷になるかもなので、必ず板に載せて押し付けて……危ない危ない危ない!?」
「きっとこっちのほうが美味しいと思うのよ」
「わたくしは、こちらのほうが好みです」
「あら?コーズちゃんそれもいいわね」
「酒をかけてみんか?」
「私がやるので引っ込んでてください?!」
それはそれとして……学園にシャルルの叔母にして貴族派の中核、オッヴァーディア様が学園にやってきた。
いつぞやの庭園で私とエルストラさんは呼ばれた。おそらく私が毒殺されかかったというニュースで私たちに決定的な溝が発生したと考えたようだが……私はエルストラさんを恨んだりはしていない。
たしかに少し距離感は出来てしまっていたが、代表の仕事について同じテーブルで話していたところにオッヴァーディア様が部屋に突撃してきた。
正直助かる。エルストラさんと一緒なのはともかく、『雷剣』ブレーリグスとジュリオンが同じ部屋にいる。お互いに強力な護衛が睨み合っているのは空気が悪すぎる。
オッヴァーディア様が来た名目としては以前王宮でエール先生に振る舞ってもらったロールアイスを食べそこねたので直接乗り込んできたそうだ。
本当は別の派閥の人にロールアイス作成の道具を見られるのは機密情報だし微妙な気分だけど「毒でも盛ってるのか」と言われるぐらいならと堂々と作ることにした。
塩とガチガチに凍るぐらいの過冷却水を金属の筒に入れて、水平にセット。これをくるくる回すだけで金属筒の表面は冷たくなるから砂糖入りのミルクをかけたり果物を押し付ければ押し付けた部分が凍りついて張り付く。そうして出来たアイスの層をヘラで切り離せば出来上がりとなる。
真似は流石にしないと信じたいが……一応王族に養子に入った経歴のあるオッヴァーディア様が倒れれば私の首が危うい。
「王宮ではろーるあいすの噂で持ちきりよ!『羽衣のように薄く、切なくも溶けゆく。その氷菓は幻雪の精霊がもたらした一夜の夢なり~』ってね!そんなの私が食べなくて誰が食べるっていうのよ!?」
オッヴァーディア様は結構食い意地が張っているようだ。
いや、これは少し大げさに振る舞うことによって僅かにギクシャクしてしまっている私たちへの気遣いだろうか?
「……そう言っていただけてありがたいです」
少し呆れた気もするが、エルストラさんが無表情ながらも生唾を飲み込んだのを見逃さなかった。
私とエルストラさんの関係回復のために一芝居してくれているのなら……良い人なのかもしれない。
「私の分は大盛りで作ってね!」
――――訂正。食い意地かもしれない。
ロールアイスを作って見せて出したのだが……一口でほわっとしたオッヴァーディア様と無表情ながらも食いついたエルストラさん。
出したのは人気かつ定番の味のものだが「果物の種類で全く味は変わるし、好みもあるから美味しくないかもしれない」という説明をすると作るのに興味が湧いたらしく……大惨事になりかねなかった。特に同席していた飲んだくれが全部にお酒をかけようとしたからね。
オッヴァーディア様にはフルーツティーをものすごく濃くして少量のミルクと大量の砂糖を混ぜたものをベースに、エルストラさんにはたっぷりのミルクと糖分強めをベースにして後は別の場所でお好みの果物を凍らせて出してみた。好みもあるからね。
果物よりもミルクの風味の方がやはりアイスと相性がいいのだ。果物は少量でもいい。
あらかじめ「まだまだ試作中だから美味しくなるかは不明」とは再三注意しておいたが……それなりに美味しいものが出来た。果物には凍らせると酸味と苦味が強く出るものもあるからバランスが大事なのだ。
「これはこれで美味いが、酒には合いそうにないの」
「フィレー、お酒使いますね」
「好きなようにつか……えぇっ?!」
「よく混ぜて飲んでみてください。美味しいかはともかくお酒の可能性かと」
一番端だけピンクグレープフルーツのような味の果実をアイス状にして、フィレーの飲むお酒に混ぜて撹拌した。リヴァイアスでもロールアイスを作っていた時にフィレーのような酒好きが液体を凍らせようとして……失敗していた。
酒はアルコールがはいっているから凍りにくいし、すでに凍りついた果物にも影響してうまくいかなかった。
リヴァイアスの子どもたち相手にロールアイスを作っていたのにちょっと目を話した隙に大人たちが作っていた。何で勝手にお酒を?と思ったが……ロールアイスの下に溜まった果汁とお酒の混合物をもったいないと飲むと美味しかったようで……酒好きな彼らはいろいろ試していた。私も飲みたかった。
最終的にはフルーツの中でもリヴァイアスで人気の「酸味の強いものと砂糖を混ぜたお酒は美味しくなる!」として屋台を開こうとしていた。私がいないと余分が出来るほどの氷を作れる人が少ないから無理だと言うと断念していたが……オリジナルカクテルに目覚めて色々混ぜるようになっていた。ホーリーくんは今ごろ何をしていることやら。
「おぉ!?これは良いのぉ!!!??爽やかな酸味が引き立って酒の味が引き立って!冷たさが喉に心地よい!酒の癖も無くなってスッキリ飲める!おかわり!!」
「私もいいかしら」
「材料は単純なので好きに作って飲んでみてください」
オッヴァーディア様も食いついた。
やれやれ、エルストラさんのように一口一口静かに食べてもらいたいものだ。一口食べるたびにホワッとしてる可愛さが目に入らんか。
普通に美味しくできたものを2つ持って移動する。
「ブレーリグスさん、良ければ食べてください」
「――――なんだと?」
一瞬で場が凍りついた。雷を使うこの護衛の方は私を殺そうと思えば殺せるはずだ。
なのに私がアイスを目の前に持って行っている。
「――何を、考えている?」
「美味しいですよ?せっかく作ったのでどうぞ」
目の前で一口食べて見せて毒はないと訴える。
ちょっと怖い。だけど胆力を込めて何事もないように笑顔で差し出した。
「……礼は言えんぞ」
「せっかくなので、食べていただけると幸いです。好みもありますし美味しいかはわかりませんが!」
「………………そうか」
この人はエルストラさんも警戒していることから、伯父さんの手先の可能性が高い。
何を考えているかはわからない。しかしフィレーがいただけでも手出ししてこなかったのに王族であり貴族派の中枢であるオッヴァーディア様がいる以上、私に向かってここで凶行に出ることはないはずだ。
渡したアイスは捨てられるかもしれないという前提で渡した。
受け取ってもらえたし、これ以上近くにいると誰かが杖を抜きかねないので目礼をして帰ろうとしたのだが……。
カッカカッ!
「………ぐっ……これは独り言だが、美味しかった……うぐっ…………」
「冷たいものを一気に食べると頭が痛くなりますよ?しばらくすれば大丈夫になると思いますが……と独り言をつぶやいておきます」
「知っている……これは独り言だ」
私に食べる姿を見られないようにしたかったのか、振り返って数歩で匙が器に当たる音がして……なにやら独り言を言われた。美味しかったのなら良かったが。
持っていたアイスのもう一つをジュリオンに渡した。私がブレーリグスに渡した時にすぐ近くにいたからね。
「寿命が縮む思いです。お気をつけください」
「わかってるでしょ?大丈夫」
「……はい。あいす、ありがとうございます」
ブレーリグスさんが何を考えているかはわからないし……オッヴァーディア様は来てもらってあれだが、手段を間違えたエルストラさんに怒りなどの感情はない。13か14の女の子が安全に思える方法で私を助けようとしたのだ。
感謝はないが恨むようなこともない。年下の女の子に本気で気にかけてもらえたというのはくすぐったい気もする。これは前世の年齢も関係しているのかもしれないな……。
代表のやらないといけない仕事を聞くと、学園のすぐ近くの迷宮に行くことが決まっていた。
前代表や卒業した元代表達も引率に参加して、迷宮で魔物を倒す。
毎年魔法を使う一人として自覚を持ち、脅威に対応するために全員魔物との戦闘を経験をする。水魔法の魔法使い以外は……ん?
「じゃあなんで水の属性の魔法使いも参加するのですか?」
「毎年『他の魔法使いのように自分たちも戦うんだ』という考え違いをしている方もいらっしゃいますので、守られることに慣れる必要があるのです。それと魔物はちゃんと殺すことになります」
水の魔法使いは直接の戦闘ではなく、捕らえられた魔物を安全な環境下でドスぐりっなどするそうだ。それは戦闘か?介錯というか……いや、処刑なのでは?たしかにそれは戦闘ではないがなんか嫌だな……。
通常の水の魔法使いの魔法を操れる範囲が3~5メートルほどだ。そこから先はコントロールできずにジョボジョボこぼれたり放射するだけとなる。もっと広範囲を焼くことが出来る火に最大の範囲を操れるが質量はない風、作って放つだけで脅威の威力を持つ土と比較すれば戦闘面では役に立たないと思う。
口や鼻に水をまとわせて溺れさせる方法もあるかもしれないが魔物や、いや、近接戦闘可能な素早く動く敵を相手に3~5メートルの距離で「水を高速で作り出して」「正確に顔に当てて」「呼吸を止める」のは難しいだろう。
ボールで相手の顔にぶつけるように狙っても相手も狙いがわかって動き回るのなら……当てるのは困難だ。しかもその距離なら一呼吸我慢してドスぐりしてくるのには充分過ぎる。
操作範囲も狭いし瞬間的に出せる質量も少ないし操作も難しい。出せる総量も大したことがない水の魔法だ。戦闘には向かない。うん。
ただやはり飲み水としては重宝されるし……学生のうちに役割分担や、魔物への対応に慣れろということだろうか?
私でもリヴァイアスの領域ではない場所でこの杖を使ってもおそらく操作できる範囲は20メートルほど……しかも一瞬で出せる水の量も多い。これでやっと戦えるのだと思う。しかし風の魔法使いなら全員たやすく操れる距離だ。
ヴェルダースに手紙は送ったが、手紙のやり取り自体に時間はかかる。本人がどうするにしても距離もあるし、向こうは向こうでどうするか検討する必要があるからかなりの時間がかかるはずだ。
代表としての仕事以外にも学園での勉強や試験についても教えてもらった。
私にとって最大の敵である「歴史」は貴族当主であれば常識だし、覚えないといけないのだが……。
「これまでの試験内容を代表として生徒に聞けば良いのでは?」
「そういうのありなんですか!?」
「えぇ、各属性の代表というのは権力がありますから……フリムの思うように私達を使っても良いのですよ」
まるで慈母のようなエルストラさん……そうだ!過去問があれば!!
「――――それ、禁止な。裏で少しするぐらいならよくあるが流石に学園長の前でするんじゃない」
「「あっ」」
しまった!?ここには飲んだくれがいた!!?
フリムは過去問を思いついた。
エルストラはこの国にとって当たり前なちょっとした不正を勧めようとした。
しかしそこには学園長がいた。