水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
流石に現役侯爵の私室に女装のまま入ったのはよくなかった。貴族社会において女性の私室に性別を偽って入るのはれっきとした重罪だ。
フレーミスちゃんは私を殺さない方向で説得してくれたようだが、幼女趣味のシャルトル王は激怒していた。
秘術を使ったことについては証拠もないし、フレーミスちゃんが許してくれたが……恐ろしい目にあった。
殺されなかっただけありがたいとは言え……死ぬかと思った。戦いで喉に穴があけられた時もここまで痛むようなことはなかった。余りの痛みに、全く動けなくなっていて……いつの間にか水に漬けられ、喉が治っていた。
「……自分デ出せる声ワ、気持ちがいいナ」
「ガニューラ、そこに一本お願いします」
「ハい」
自分の喉から声を出すのは十年ぶり以上で……自分でもぎこちない。道具でずっと話していたからクセが残ってしまっている。
神官長ヴァルジャ・ノーイと共にこれから迷宮を彷徨う。
城の地下にあるこの真っ暗な迷宮は本当に恐ろしい。ただただ暗く、火も光の魔導具も通じない闇の迷宮。
食事や最低限の装備は戻れば手に入る。
もしもフレーミスちゃんの働きかけがなかったらきっと獣刑だったはず。迷宮刑も魔獣や魔物のいる中に装備無しで放り込むことがあるが……それに比べると杖ありで指も足もあるだけありがたい。
ほんの一瞬だけであれば火や照明の魔導具で見える空間もあるが、それも長く続かずすぐに闇に飲まれる。何処を見ても、真っ暗で……進む道も戻り道もわからない。
何も見えないということは何がでてくるかわからないし、何があるのかもわからないということだ。
「この迷宮に魔物は出ない」とは聞いたが、それが真実かはわからないし単純に見つかってないだけかもしれない。罠だってこの先あってもおかしくはない。
地下に食事を持ってきてくれる奴隷もいるが、彼らは真っ暗の中でも迷宮の出入りをしているし……いつか彼らが襲いかかってくる事も考えられる。
本当に恐ろしい。
ただ、一人でなかったのが良かった。
自分一人でも水を出し、その水たまりで足元はわかる。前方に水を出して維持すれば壁や落とし罠、ツタのような刃物が積み重なって壁になっているのもわかる。壁は金属のような棘と刃が幾重にも連なっていて進みすぎるとそれだけで大怪我をしかねない。
そんな中いっしょにいる神官長。
彼には特殊な技能がある。水の精霊の種類や位置を視認できるようだ。どの人にどの精霊と相性が良いのかが何となく分かるなどの特別な才能がある。
あと、なにかの恩寵か加護なのか……こいつ死なない。
この迷宮は、恐ろしいことに魔物はいなくても道がいきなり途切れたりすることもある。
一度、人が助からないほどの高さから落ちたはずなのに無傷で戻って来た。刃物の積み重なったような壁を軽々と移動する。一度転けで壁にぶつかって結構な傷を負った自分と違って、こいつはなぜか傷つかない。
一緒にいるのが本当に人間なのかと恐怖を感じることもある。
「さっさと行きますよー、ほら、さっさと魔力込める!」
なにかが見えているのか余り迷うことがないこいつは、自分にとってなくてはならない存在だ。傷つかず、独自の何かで見えている。
ただ無敵というわけではない。筋力もないし、たまに精霊に小突かれるそうでなにもない場所で転けたりしている。
目を開けても真っ暗で、何も見えないここは……本当に恐ろしいが、一人じゃなくてよかった。そう、神官長に打ち明けると自分もそうだと伝えられた。
「私だってそうですよ?貴方のような松明がないと見えませんしぃ」
どうやら彼にとって自分は松明のようなものらしい。彼は精霊や魔力を視認できる。だから自分の魔力を発光体として髪に魔力を込めるように言ってきたり、たまに髪を切って通路に捨てるように指示される。それによって戻る道がわかるそうだが……。
「迷宮が、また蠢きました」
「大丈夫ナのですか?」
「方向はわかるのですが……進みます?戻ります?」
「戻りまシょう」
自分の思っていた出口の方向とは全く違う方向にまた進む。彼からすれば水を出せるし照明代わりな自分だが、自分からすれば……。
何日も、何週間も、どれほどに時間が経ったかはわからないが進んでは戻りを繰り返した……この暗闇にはいつまで経っても慣れない。たまに自分の指先がどこにあるのか、ちゃんと立っていられているのかも危ういこともある。
火をつけて暖を取ろうとしているのに火が全く見えない。熱は感じるのにな。起きているのか、寝ているのか……段々と自分が闇と溶け合っている気分になってくる。
細々としたものは見つけることが出来た。
迷宮は上位種や神が作ったとされる人で遊ぶ場。人を釣るためか、様々なものが見つかる。
ただ深くにいかないと、罪が許されるほど良いものはない。
とってきた成果によって食えるものもマシになるし申請した装備の購入もできるが……なかなか浅い迷宮に良いものはない。
それでも回数を重ねてそれなりに良い物は手に入れたがそれでも罪が許されるほどのものではなかった。ただ多めの食料が手に入ったし、これでより深く探求できる。
この迷宮は本当に恐ろしいな。王城の地下にあるというのもなにかの理由があるのだろうが……人が多く出入りすればおそらく殺し合うことになるだろう。
フレーミスちゃんには自分としても苦しめてしまった咎もわかっているし、このように魔物も出てこず荒らされていない迷宮などなかなかないのだから、王に提出するよりもより多くの成果を持って帰って捧げたいところだ。あと自分の生活費用も稼いでおきたい。
「起きていますか?」
「ハい」
声の方向にいる存在に安堵する。
もしも一人取り残されてしまえば、きっと正気ではいられない。
彼からもどこか拠り所とされている気がする。
「この先、魔物の気配がします。戦闘はからっきしなのでお任せできますか?」
「魔物は、イないはズでは?」
「おそらく隠し通路のようなものだと思います。罠で沸く魔物もいますのでその類いかと、無視しても進めますが、もしかしたら進んだ先で後ろから追われることになりかねません。私はどっちでも大丈夫ですが」
「……万全に備エて戦うこトにしよウ」
「懸命な判断です。私もオークに持ち帰られるのはこりごりなので……」
「何ダそレ?」
「以前精霊の住処に行こうとしてオークの巣に……いえいえ、大したことはありません」
気になるが、何の恩寵か、傷つかないこいつなら生きて帰れるか。
おそらくだが……この神官長はこの迷宮に来たことがある。王にとっては信頼できて、いつもの仕事を頼むのについでだったのだろう。自分はそのついで、死んでもいい存在だ。
見張りか、それとも刺客と見るべきか……。
ここに来るまでに「いつものがないから髪が欲しい」とか口を滑らせたからな。
しかし、なんでこんな事になったのだろうか?
ドワーフの国では金が無いなりにうまく生活していたし、タナナの「別のタナナが苦しんでいれば助ける」という掟もあって助けに来た。
なのになんでこんなことに……。しかし、参ってばかりもいられない。変な運気で生きるのもタナナの定めだ!いつものことだ!!気合を入れろ!!!
「さて、ヤろうカっ!」
「開きましたよ!」
周辺の情報をしっかりと把握し、準備もした。ならやるしか無い。
「ギャギャギャギャギャ!」
「ギャグッ……ガッ!!?」
「キィー!キィー!キィー!!」
複数の子鬼の不快な鳴き声がする。子鬼も見えていないのか壁やそこら中にある金属製の刃物のようなトゲに巻き込まれていた。
声の位置と大きさから一体上位種がいて、こちらが見えているのかまっすぐ向かってきた。
念入りに動ける範囲を調べていたし後退しながら、足元の水を滑らせて転倒させる。
「ゴギガガ」
「<水よ。我が水瓶の精霊ガニューラよ。注ぎ、弾けよ>」
声を出してくれて助かる。顔の位置を水で掴んで、更に手のひらの前に固めた水を掌打と共に流し込み……弾けさせた。
「ゴカッ……」
手のひらの前に水を圧縮し、一気に顔の穴から水を流す。水の魔法使いでも全然使う者のいないタナナの無距離戦闘術。
効果は薄いしこんな状況めったにあるものじゃない。どちらかと言うと権力者を夜伽に誘い込んで殺す方法だ。
少し距離感を間違えて、手首を痛めてしまった。
「たぁすけてぇ~」
「ギギギギッ!」
「すまんな」
何処か余裕そうな神官長の声に向かって自分の髪の半分ほど精霊に捧げて……声の方向に走って神官長ごと水の砲弾で撃ち抜いていく。
声の聞こえる方向に近づいて一発ずつ、かなりの威力で。思ったよりも数がいたし一匹でも逃せば後々面倒になりそうだった。
「ひ、酷いですよ!?ガニューラっ!」
「デも傷ツかないノでしょウ?」
「まぁそうですけど!?ひっどいなぁ!!……あ、髪の残り貰いますね!」
短剣で一匹ずつとどめを刺して行く。
「なぜ精霊と同じ名前なのか」とか「髪が無くなる前になにか見つけたいですね」とかかなり面倒なことを言ってくるが……それよりも成果はないかとせっついておいた。
「この先いくつか同じような場所があるので!任せますよ!」
「ヤっパり来たことガあるんじゃないカ……」
「え?まぁそうですけど?隠してませんでしたが?」
こいつは……。
…………ここにいるのも水の流れとして諦めようか。
オルダースとの面識があったからなおのこと人選としてこの国に来るのに自分が選ばれた理由もわかるし、この喉が癒えたのも、きっと精霊の導きだろう。
できればフレーミスちゃんとヴェルダースちゃんは自分が仲直りさせてやりたいが……。そのためには早くここを出ないとな!
コメント嬉しい(*´ω`*)・・・コメントと言えばコミカライズの方で知らぬ間に1800とかコメントあって全部返さないといけないのかとガチ焦りしました。