水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
ルカリム本家、いや、伯父さん対策にありとあらゆる方法を模索するが……『一般的に許される範囲での対策』というのが結構えげつない。
自分と関係ない賊を配置して襲わせる。闇討ちに毒殺……つまりは『自分と関係のない事象で敵が死ねばいい』という貴族的な考えを教えてもらって――――ちょっと、いや、かなりげんなりした。
心の内で「真っ黒じゃねぇか」と荒んだミニフリムちゃんが言ってる気がする。
ちゃんと戦って、ちゃんと勝利することによってライアーム派にいる水魔法使いもこちらの派閥につこうと考えてくれるはずだ。もしもうまく行けば私や私の派閥の人間の安全度はグーンと上がる。親分さんがいなくてよかった…………やりかねない。
しかし、外道な方法はやらないとしても、グレーな方法ならまだ考慮しても良いかもしれない。
戦いの前にお互い同じ属性ということで酒を飲み交わすと言った作法があるようだが「酒で倒した」という事例があった。学生は大家の長に来てもらうのだから貴重な酒や豪華な食材でもてなす慣例がある。大家側は水魔法を使えるものがいればそれを学生は出されて飲むと言った事例がある。
酒は高価な面もあるため大人には喜ばれるが……蒸留酒も用意しておこう。
私は酒もタバコもあまりしない。ただ、自分から買うことはないだけで飲むのはまぁ好きだ。両親は下戸だったし地域の行事や贈り物で頂いたお酒は私の胃袋に入っていた。仕事上がりのキンキンに冷えたビールと母さんの唐揚げが恋しい。
会社の飲み会でもお酒は出るものだったし……家族は今頃どうしているだろうか。
タバコも凄く濃いやつとか無いかな?相手が喜んで飲んだり吸ったりするぐらいならまだグレーゾーンだろう。
タナナの秘術もいくつか覚えたが四大属性と違って検知できないから使うのはありらしい。私の倫理観では卑怯な方法だが、それでも有効だし…………そもそも相手は暗殺者を送ってくるのだからそっちのほうが悪いに決まっている。水のもう。
………………何処から何処までがやっていいことで何処からまで何処までがやっちゃ駄目なことなんだろうか?情報収集までならセーフのはずだが……とにかく「相手が連れてくる何かしらの競技に参加するかもしれない人物の人質」とかは駄目だ。
考えることもやることも多いなぁ。
一応リーズにはローガ将軍の弟が生きている可能性は低いので誰にも言わないように口止めした。ローガ将軍にリーズが連絡して糠喜びさせてしまうのはよろしくない。
倉庫で色々売っているお菓子の中でもショートケーキを王宮に持っていこうとしたのだが思いもしない進歩を遂げていた。
生地が、私の作ったものよりもしっとり柔らかいのだ。
聞くとスポンジ部分の焼き方を変えたそうだ。
私は良く碾いた小麦を水分多めで発酵させて作っていた。そうすることでこの国の荒く碾かれて作られたパンよりもよりきめ細かく作られると思ったのだが……そもそももっと別の方法で「発酵させず焼いてふくらませるやり方」の方がきめ細かく、柔らかなものが出来ていた。
お菓子は完成形は知っていたしパンなら作ったことがあったけど……別の作り方があったのか。ケーキは母さんが作るのが上手かったし、生地から作ったことはなかった。タルトなら作ってはいたが……私は食材の違いで試行錯誤が大変だったから「一定の品質」で満足してしまっていた。
うちの料理人であるラキスさんには失敗してもいいから試行錯誤するように言っておいたのが良かったのかもしれない。クーリディアスやリヴァイアスから流れてくる外国の調理法なども試してくれている。
しかし……いくつかの試作品を食べてみるが美味しいものばかりではない。
フレッシュチーズとこの生地のケーキは合わないな。生地が水っぽくなってグジュっとした食感がよろしくない。チーズと生地がお互いの良さを消し合って……むしろどこにもなかった臭みが出てしまっている。
カレーかけピザパンのようなものもあった。最近作った試作品の中では一番人気らしい。この調子で色々作ってもらいたい。
オッヴァーディア様ももっと別のバターケーキのようなものを作っていたがかなり荒い舌触りだったが……異世界の食材と向き合うのは楽しいな。私の感じたことのない味を作り出してくれている。美味しい味にお腹が満たされてストレスが抜けていく感覚がする。…………………………単位のことなんて忘れ…………単位ぃ。
シャルルはアラビア数字から学んで、簿記の基本である貸借対照表と損益計算書を学んでいる最中だ。
彼にとっては馴染みのない概念だろうけど「異世界では凄まじく便利な計算方法」という話をしたためか積極的に学ぼうとしてくれている。
一度に簿記の全てを理解できるわけがないし、たまに教えに行っているのだがシャルルはなかなかに頭が良くて教えるのが楽しい。
ただこの国には意味不明な使途不明金が多くあるし「それぞれの項目をどう処理するのかわからない」上に「そもそも表示上正しくても賄賂を裏で渡し合っている」可能性はある。それでも、データの積み重ねによって過去の不正が出てくることもあるし、簿記の全ては使えなくても一部でも使えるようになればいいと考えている。
シャルルは異世界の政治システムや技術に興味津々で、使えそうなものは取り入れようとしているようだ。特に「3割負担」と「国による免許制度」だ。
しかし……あの時、打ち明けてよかった。心が一つ軽くなったように感じる。シャルルにはケーキにデコレーションをして持っていってやろう。
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フリムに話を聞いたときには本当に驚いた。
ただ彼女の負担を少しでもやろうと考えたのだが……。彼女には賢者がついていたわけではなく『異世界』というよくわからない世界の住民が亡くなって、生まれ直して「前世」というものを覚えていると言っていた。
子供の頃の記憶はうっすらだがあって……それが自分の記憶なのかは定かではないと。
想定外だった。フリムの言う言葉はよくわからないが、とにかく恨みがあって意識が残った賢者ではなさそうだ。
しかし、異世界……精霊や天使、巨人や竜のいる異界があるというのは聞いたことがある。
それに不思議な空間や体験はオベイロスではそこまで珍しいものでもない。精霊の領域の奥は人間が行けば帰ってこれないとされているし、平原にぽつんと出現した丘に入った少年が一日そこで過ごしてだけで十年経っていたとか。迷宮の壁に飲まれて光り輝く世界を見たという青年が気がつけば子供に戻っていたとか……。もしかしたらフリムは精霊だったのかもしれないな。
フリムは数多くの精霊に愛されている。フリムは水の属性の精霊にまとわりつかれていると聞くし、以前も水の精霊と契約した魔法使いだったのかもしれない。もしもそうなら桁違いの魔力も説明がつく。
そうでないのなら魔力の増加と精霊との親和性は俺のではなくルーラの加護のはずだ。同じ系統の『加護』の魔法なのに効果が全く違っている。
俺の使う闇の加護で幽霊が見えるようになった者がいたが……そう考えると妊娠中に毒で倒れたことのあるフラーナの腹の子供に使ったことで俺がフリムの前世の魂を入れたということになるのか?いや、俺の加護が幽霊ではなく精霊をつかせたのかもしれない。
王家の加護の魔法はわずかに健康になったり、ほんのりと魔力も増える。
胎児の状態で魔法をかけたことによる効果なのか?…………いや、もしもそうなら………同じようなことを考えた王家の人間は過去にもいたはずで、そうであるならば慣習や伝統となったはず。
ルーラの加護である可能性が高いはずだが……ルーラは他の人間に加護をかけようとしないし、はっきりとはわからん。
「――――俺の予想外な部分もあったが、それでも俺は変わらずフリムの味方だからな」
「予想外とは?」
「賢さからしてどこぞの賢者がついていると思った。そして霊というのは強い恨みを抱く者が多いそうだ。誰かに復讐するとかなにか望みがあるかもとは思っていたが別の世界とは……天使や悪魔だったりするのか?」
「確実にそういうのではないです。私は人間でした」
もしも精霊だったらもっと話が通じないはず。話が通じるほどの精霊だとしたらルーラ以上となるがそれはありえない。
彼女の死ぬ前というものが話の分かる人間で良かったと心の底から安堵した。
「そうか、とにかく俺に気を使うことはない。それよりその……異世界とはどんな国だった?」
どこの国の出身かは気になる。
異世界というのが別の国という意味なら……これほど賢く、魔法力もあるということは神秘に包まれた神聖国かエルフの国辺りだろうか?俺も知らない海の向こうの国だろうか?天空にある国?
「こことは全然違いますね。平和で戦争もなく、私の国だと誰でもようちえんやほいくえんからだと18年ぐらい学べる機会があって……経済大国の――――」
彼女の説明を聞いたがやはりわからない部分は多い。「ほーくえん」やら「ようちえん」ってなんだろうか?
ただ、話そうか迷っていたはずのフリムが話す気になったのだ。理解できるかはともかく、聞かねばならん。
これでフリムの何らかの憂いが晴れればいいのだが…………。
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