水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第236話 宴っ!!

 

ジュリオンがヴェルダース伯父さんを王都まで護衛して観察した結果、ヴェルダース伯父さんは歩き方や所作からして「武人としてかなりの使い手」とのことだった。

 

伯父さんの体つきは全くわからない。大柄で肩幅も広いが潟からストンと足首まで青い衣を着ている。青い壁のようである。しかし、純粋な魔法使いのタイプでは無さそうだ。

 

西方からの噂は私をビビらせたり、国民にライアーム派閥を強く見せるためのプロパガンダではなかったのか……。

 

明日の準備もしなければいけないし、あの運ばれてきた大きな魔獣の頭も調べないといけない。

 

前世の世界史の勉強でも「トロイの木馬」という話があった。コンピュータウイルスと名高い「トロイの木馬」だが……元は古代ギリシャが戦争で使ったとされる伝説があったはずだ。

 

巨大な木馬の中に兵を隠し敵国がそれを回収。木馬の中から出てきた兵士が門を開けて戦争は終結した……だったかな。テレビでも見たことがあるし、上司がメールを開いてやらかしたからその怖さはよく知っている。それに広場に設置された魔獣の頭も兵士が入っていなかったとしても「爆弾」や「毒ガス兵器」だった場合も怖い。インフー先生に調べてもらおう。

 

ヴェルダース伯父さんが私を殺して人員を全員無事に脱出させるなら王都を人質にとれば可能かもしれない。一応可能性はシャルルに伝えたし警戒の必要もある。何事なければそれでも良いが、用心に越したことはない。馬車ももっと調べてもらおう。

 

明日の料理のことも考えるとやることは多い。食材のチェック、料理の配膳、警備体制のチェック、警備自体の入れ替わりがないかのチェック、遠距離攻撃されそうな場所への注意喚起、軽い気持ちなのか観光に来た人の動向の確認……それに考えられるだけのおもてなしをしないとな。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

ルカリムの家から学園まではアモスとエルストラさんがヴェルダース伯父さん一行を案内してきた。

 

アモスは警備に大きな問題がなかったようで小さく合図してくれて、エルストラさんは私に向かって首を振った。エルストラさんはできれば争わないように説得をしてみるということだったが駄目だったようだ。

 

 

少し驚いたのはここに来るまでの学園の生徒の反応だ。

 

王都の人間と違って学園の人間は国内外から来ている。大魔獣の被害者や政争で本家ルカリムの人間に助けられた人もいる。それに「大家」の人だからと歓声が上がっていた。

 

大家の役目は国家代表であり、各々の属性の代表であり、仲の悪い他国との交渉の顔役であり、魔獣討伐や精霊災害を治めたりと様々だ。学生から憧れや尊敬がされるのも当然だろう。

 

料理の監督をしている私のもとにも次々生徒たちの反応が入ってくる。

 

「水害を治めてくれた」「母を助けてくれた恩は忘れていない」「我が一族と懇意にしていただいてご挨拶に参りました」「祖母の仇である魔獣を倒してくれてありがとう」などなど……到着に時間がかかりそうである。娘であるエルストラさんの前で礼を言われているからかヴェルダース伯父さんは何処か誇らしげであるそうだ。

 

そろそろ会場に到着するので贅を凝らした食事を出す。

 

余れば食べる子が学園にはいっぱいいるし、宰相でも食べ切れないぐらいたくさんの料理を用意した。

 

 

「どうぞ、お料理が出来ています」

 

「これはまた……珍妙なものが多いな」

 

「東方リヴァイアスの地より取り寄せているものが多いですから」

 

 

予定された席に案内されたヴェルダース伯父さん一行。

 

料理を見て普通に驚いている。いや、警戒しているのかもしれない。

 

 

「この、何だ?魚の身のように見えるが……」

 

「はい、海の魚ですね」

 

「食えるのか?」

 

「はい。失礼しますね」

 

 

今日のために作った中華でよく使う回転テーブル。

 

大量の料理を作った。カレーや唐揚げ、サイ肉カツ、巨大海老の焼いたもの、寿司に刺し身などにこちらの世界で定番の料理、更には派手な肉の塊や王宮で流行っている料理まで様々なものを作っている。無くなっても大丈夫なように材料はまだまだある。

 

ジュリオンが回転テーブルを動かして、豪華に盛られた刺し身を卓上のトングで取り分けてくれたので自分の手元に移して食べる。醤油もどきのみで見つけたワサビもどきはつけない。刺激的すぎて毒を疑われても困る。

 

回転テーブルにも驚いたようだが生の魚を食べたことで少し変な顔をされた。

 

 

「美味しいですよ?」

 

「腹を痛めないのか?」

 

「元々お腹を痛めている人や体調の悪い方にはおすすめしませんね。それと度胸のない方にも」

 

 

どういうつもりなのか、様子見がてら少し煽ってみた。

 

 

「なにっ!?」

「言いよる!」

 

「やめい。……その棒で食べる作法は知らんがこれぐらいは食える。美味いな」

 

「あら、食べたことがお有りで?」

 

「ない。だがこの場で儂をどうこうする気はなかろう?」

 

 

不敵な笑みを浮かべるヴェルダース伯父さん。大きなこの机を作ったのにも理由がある。

 

ボルッソ製ベアリングを使った最新の机である。四角い机であれば両者の距離があるため「料理の取り分け」で細工がしやすいし、両者の陣営が偏っているためなにかの拍子で一気に争いに発展する可能性があるそうだ。

 

毒見もせず、他の人間がまだ手を付けていない料理にも手を付けるヴェルダース伯父さん。私も毒はいれていないしそんな気はない。が、その豪胆さは「警戒していない」という態度が見て取れた。

 

 

この卓でヴェルダース伯父さんの近くの席についているのは――――

ロータス・タルタリア・レンジ・タロース、土の名家タロース家当主。

ブリッツ・エランティ・レーム、水の元レーム家当主。

マーラー・ドエルゲ・フェニークス、火のフェニークス家のエース。

ホライド・ガルーラン・ディディッサ・ゴルンド、『天剣』の二つ名もち。

 

左右の中間にエルストラ・コーズ・ルカリムとフィレーネ・シヴァイン・エンカテイナー。

 

こちらからは護衛任務によって少しは信頼を勝ち取ったらしいアモス・ヤム・ナ・ハーとジュリオン・ヤム・ナ・ハー、それとナーシュ・マークデンバイヤーである。もう一席あるがガニューラの席で……もちろん迷宮に行っているため参加予定ではないが「現在迷宮で鍛錬中」と説明をした。空席はこちらのマナー的によろしく無いそうなので代役としてユース老先生に席についてもらった。

 

アモスやジュリオンを抜きにして水属性の生徒だけでも良かったけどこの席に座るのは皆嫌がった。「大家や家長クラスの人間のいる席に座って」更に「今にも殺し合いになるかもしれない」……だからそこに座るのはちょっととのこと。うん、私でも嫌だわ。

 

とは言えホストポジションの私は逃げられない。学園側からということでユース老先生に来てもらったが頼りになる。釣り合いそうな生徒は他の属性ならいるけど今回はこのメンツでのお食事だ。

 

 

この場で毒殺など……自分の首を絞める事になりかねない。

 

 

 

「そうですね。ふふふふ」

 

「ははははは!」

 

「政治的すぎて儂来るの嫌じゃったんじゃが……まぁ全員儂の教え子でもあるしの」

 

 

少しふてくされたようなユース老先生。

 

政治的問題が嫌いと言って学園長選挙の時でも説得からダッシュで逃げていたからなぁ……でも、お願いしたら来てくれた。

 

 

「ユース老もお変わりなく」

「元気そうで安心しましたわ」

「ユースス先生の剣は今でもよく使えます」

 

「ゴルンド、それは魔獣用の剣であって人を切るものじゃないと言ったはずじゃが?政争で大層暴れたそうじゃの」

 

「う”っ」

 

 

この席には要人を集めたが周りの卓もそれなりに上手くいっているようだ。学生の親や親族など、できるだけ親しい人間を同じ卓にしたり……上座や下座のようなマナーでものすごい気を使った。

 

名前を間違えそうな人は別の卓に行ってもらった。……以前「エコストラさん」って間違ったけど普通だったら決闘案件のはずだし、今回は覚えやすく少なからず縁のある要人ばかりである。

 

ジュリオンはここに来るまでの道中の警備責任者で、アモスは屋敷を警護によって最低限の信用を得ているし、皿の食事を少しずつ食べて私や周りの人に説明する役割もある。

 

 

「ヴェルもフリムも、他の子も……政治なんぞつまらんもんで争うことはやめて和解は出来ないのかの?」

 

 

蒸し餃子を食べつつ、ユース老先生が苦言を呈してきた。

 

 

「私は襲われるから跳ね除けたいだけです」

 

 

近くに座っている私が先に答えた。

 

 

「そうか、ではヴェルはどうじゃ?」

 

 

ユース老先生からすればこの卓に座るジュリオンとアモス以外の全員と関わりがある。

 

苦言の一つどころかげんこつを落とされても文句は言えない気がする。

 

 

「ヴァリエタース先生。儂も守るべきものが出来たということです」

 

「――――そのために姪を殺すのか?」

 

 

――――切り込み方が直接過ぎる。

 

このテーブルと、このテーブルの周りの音が消失した。

 

 

「それが『人の世』です。ヴァリエタース先生。姪かどうかは関係ありません」

 

 

こちらをちらりと見た後にユース老先生をまっすぐ見て堂々と言うヴェルダース伯父さん。

 

 

「儂は、いえ、俺は護ると誓いを立てた。そのために最良と考えられる行動を取り続けるだけ……それに此度は学生からの挑戦、殺すなんてそんなそんな」

 

 

俺と言い直した伯父さん。少し素が見れた気がしたがすぐに取り繕うように言われた。

 

 

「目的と行動が一致していないように思うがの?」

 

「この時勢であればそう見えるでしょうね。ただ、我等が道を阻むのであれば姪であろうと、親であろうと、弟であろうと……打ち払わねばならない。それを教えてくれたのも先生でしょう?」

 

「ぬぅ、痛いところをつきよる」

 

「研究のためなら出世も栄誉も気にしない。そんなヴァリエタース先生を俺は尊敬していますよ」

 

「…………そうか、それも『精霊の定め』か」

 

「いや『人の定め』でしょうね」

 

「嫌な世じゃ」

 

「同意します」

 

 

なにやらユース老先生はヴェルダース伯父さんと親しげな気がする。

 

一触即発になるかとも思ったが、そういう空気ではなくなった。

 

 

「私もそういうのが嫌で外で研究してたのになぁ」

 

 

フィレーが唐揚げを食べながら一言言った。

 

元々学園ではなく王宮の研究員で、しかもフィールドワークしていたのに妹であるギレーネがやらかした結果……強制的に侯爵就任と学園長就任が決まってたもんなぁ。

 

思えば、皆……「やりたいか」ではなく「そうするしかない」とわかった上で道を模索している気がする。私も初めは「生きたい」「死にたくない」だけだったのにな。

 

 

「それは『血の定め』じゃなエンカテイナー学園長」

 

「うるさい爺!上手いこと言ったつもりか!?お前が研究したいから私にいれたんでしょうがっ!酒もってこい酒!新しいリヴァイアス酒を!」

 

「どさくさに紛れて要求しないでくださいよ。……用意はしていますが」

 

 

誰か倒しかねないグレーゾーンな蒸留酒だが一応持ってきている。

 

出して良いのか迷っていたし会話の流れ次第で出すつもりだったのだけど要求されたなら出すしか無い。

 

 

「何ぃっ!?ついに持ってきたのか??!」

 

「あぁ、でも、これ飲むと倒れるかもしれませんよ?……あ、毒じゃないです。酒精が強すぎまして」

 

 

ちょっと失言してしまった。

 

お酒は詳しいラディアーノとギレーネがうまく作ってくれた。薬学にも通じるラディアーノと社交界であらゆるお酒を飲んできたギレーネはとても役に立ってくれた。

 

熟成期間が数ヶ月では足りないと思ったが……海の中に沈めたり土の下や森の木の上で保管した数樽の熟成は完了していた。精霊がどうとか言っていたしとにかくよくわからない熟成方法だが謎の酒ができていた。

 

強い酒精はそのままに、味が良くなるように二人が苦労して調合してくれた。

 

輸送の過程で味が変わったものもあるが、そもそも実験で全部失敗していてもおかしくなかった。一応全部舐めて、水で口をすすぐという作業はしたが……近くにいるだけで酔いそうだ。飲み込みたかったが怒られそうだったのでやめた。お子様ボデーがにくらしい。

 

……もう少し熟したほうが良いとは思うが、これはこれで素晴らしく美味しい。作ったときよりも量が減っているのとなんか光ってるのは気になるが。

 

 

「リヴァイアスで作った火のつく酒。リヴァイアス酒と名付けました。あまりにも強い酒精に大人でも倒れることがありますのでおすすめはしません」

 

「ほう……精霊酒になってるな」

 

「そうですね。ラディアーノもそんな事を言ってました。本当に強いお酒ですので飲める人だけどうぞです」

 

 

本当はもっと加水したかったのだけど、それはもったいないと周りの人間に止められてしまった。

 

一応配られたその酒だが……誰も手を付けない。それを見てかジュリオンとアモスは率先して飲んでおかわりを要求していた。

 

 

「この儂に飲めるかだと……?良い度胸だ」

 

 

ヴェルダース伯父さんは不敵な笑みを浮かべてからガラスグラスに注がれたその光る酒を高く掲げてよく観察し……香りを堪能してからゆっくりと飲んだ。

 

 

「強い酒精だな。……まだ荒い味だが、ここまでの酒はなかなかあるまい。この酒であればうちの人間も気合を入れられることとなるだろうな」

 

 

満足そうなヴェルダース伯父さん。酒豪とかだったのだろうか。

 

飲めるかってのは度数の話であって「毒でビビって飲めるか?」という意味じゃないんだけど、失言だったかな。

 

 

「――――……素晴らしい風味ね。美味しいわ」

「ゴホッゲホッ!!?し、しつれゲフッ失礼、喉が焼けるように強い酒ですね。ゴホッ」

「……乾いた身体に染み込むようだ。ドワーフやエルフが喜びそうだ」

 

「「「おかわり!」」」

 

 

アモスとジュリオンとフィレーは遠慮なくおかわりをしていた。ユース老先生は研究のために持ち帰ろうと何処からか自前の容器を出していた。

 

良い雰囲気で食事は進んでいるがヴェルダース伯父さんは私を観察しているようだし、しっかりしないといけない。

 




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