水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第237話 返礼っ!!

 

「これほど旨い酒の返礼だ。杖を使わせてもらうぞ」

 

「はい」

 

 

土のタロースの人が机の上に台と杯を作り、伯父さんが水を注ぎ、天剣の人が風で茶葉を浮かせて入れ、フェニークスの人が杯ごと火で包んで――――

 

……一杯のお茶を作った。

 

全員が無言で魔法を使った。相当の使い手ということだろう。

 

 

「これは西の地の茶葉だがなかなか美味い。さて、この茶をフリムは飲めるか?」

 

 

回転テーブルで私の前に差し出されたお茶。

 

毒が入っているか、入っていないかわからない……そんなお茶。

 

全員の視点が私を向いている。これほどわかりやすく試してくるとは……。

 

 

「まだ飲めませんね。もう少し冷めたらいただきます」

 

「そうか」

 

「焼かれたばかりの杯に触れられるほど私の手は丈夫ではありませんからね」

 

 

動揺せず、当然のようにやれやれと肩を竦める。

 

度量を示すためには間髪いれずに飲むほうが良いと思うが、焼かれたばかりの杯なんて熱そうで触るのが怖い。

 

あらゆる可能性を考えても私を毒殺することはないはず。それに、飲んだとしても医療チームが待機しているから多分大丈夫なはず。

 

 

……だけど「毒かもしれない飲み物を飲もうとする」って、結構勇気がいる。

 

 

少し冷めたのを確認して両手で飲む。

 

 

「毒が入っている……とは思わなかったのか?」

 

 

一瞬吐こうとしてしまった。

 

一瞬ためて話した伯父さんに対してジュリオンは誰よりも速く貫手を叩き込もうとしていたがヴェルダース伯父さんの眼球の直前で止まった。

 

相手方ではいつの間にか『天剣』の二つ名を持つ剣士だけが動いて、ジュリオンの首の前に剣を突きつけていた。

 

 

「あっ、あらゆることを想定して、毒は入ってないと考えました。身分も立場もある貴方方がもしもそんなことをすればライアーム様につく人間の名誉はなくなりますからね。ジュリオン、席についてください」

 

 

動かないジュリオン。彼女なら多少傷ついたとしても数人は殺せるはずだ。

 

 

「……それに毒が入っていればお前は死んでいたな」

 

「入ってないと考え、度量を示すために飲みました」

 

「先に部下がなにか理由をつけて飲むように言いだし、主が飲むこと自体止める。飲むとなれば杯を観察し、ゆっくり毒の味を確かめ、口に含むように少しずつ飲むものだ」

 

「はい?」

 

 

これは、何かを教えようとしている?

 

 

「毒だとしても助かるように動く。それが代表である人間に求められる作法だ」

 

「…………」

 

 

ジュリオンの手を横に払って言葉を続けたヴェルダース伯父さん。ジュリオンは席に戻った。アモスも私の盾としていつでも動けるようにしているようで……空気がとてつもなく重い。

 

これまではこういうお茶会には出来る限り出ないようにしていた。

 

そもそも食べ物は基本的に自分たちで用意していたし……他人からもらう食べ物は久しぶりかもしれない。

 

 

「これも学びよ」

 

「なるほど、我が教訓とします。 誰 に も 教わったことがなかったもので」

 

「そうだな。教えていなかったことだ」

 

 

私を「育てた」と言っていた伯父に対して「教わったことがない」と皮肉で返したが受け流されてしまった。

 

なんだろう。腹立たしいな、この伯父さん。

 

空気が落ち着いてきたことでジュリオンが口を開いた。

 

 

「謝りませんよ?紛らわしい真似をすれば次はその目をいただきます」

 

「ふん、当然だな」

 

「毒で苦しんだばかりのフレーミス様に、よくもこんな話ができましたね」

 

 

ジュリオンは忌々しげにしている。

 

たしかにタイミングが悪い。……いや知っていたからこそこんな試しをしたのだろうか?

 

 

「なんと、そうだったのか。毒を盛る方も甘いな。もっと強い毒でどうせなら儂の知らぬところで死んでくれればよかったものを!ははははは!」

 

 

あ、エルストラさんが撃沈した。

 

 

「ふふふ、このお茶美味しいですね。おかわりもらえますか?」

 

「はははは、今度は毒が入ってるかもしれんぞ?」

 

「ふふふふふ!そのお酒にこそ入ってるかもしれませんよ?」

 

「ははははは!なら気をつけねばな!」

 

 

たくさんの人間がこの場にいるのに、話してるのは私たちだけでシンとしている。

 

なんだろう。この伯父、腹が立つ。

 

 

「まぁあれです。毒なんて入ってないんでクソ伯父上。さっさと食べてくださいませ」

 

「そうか、みな!美味いうちに食え!」

 

「リヴァイアスは交易で儲かってますから好きなだけ食べていってください。毒をいれるとしてもこのクソ伯父上の分だけなので!」

 

 

交流できる宴だったはずなのに、戦闘態勢が抜けない数人がいる。

 

特にアモスとジュリオン。敵方ではエルストラさんの後ろにいる『雷剣』ブレーリグスと『天剣』ホライドが今にも動いてしまいそうだ。天幕の裏で配膳していた獣人の殺気が抜けない。うちの三馬鹿が暴発しないようにしたい。

 

普通に「あら美味しい」とか言ってるマーラーさんやたくさん飲んでいるフィレー。普通に食べているユース老先生のお陰でまだギリギリ空気は保たれている。

 

 

「儂の分にはいれるのか?」

 

「何度も刺客を送ってくるのをやめてくれればいれませんよ?」

 

「ぬぅ……殿下か。いや、うちの者が送った可能性が高いだろうな。儂から直接は送ってはいないが言い訳にならんな」

 

「認めるんですか?」

 

「違うと言っても証拠も出せぬ。嫌な話だが、そういうものよな……王都から儂に向かっても刺客が来るんだが?」

 

「私は全く知りませんね……まぁ、皆さんとにかく冷めて不味くなる前に食べてください。伯父上の食べるものには私も箸をつけるので」

 

「はし?」

 

「この2本の棒ですよ。箸という食器です」

 

「奇怪な動きをするな……気持ち悪いの」

 

「失礼な。これはこれで便利ですよ?」

 

 

本来であればこの宴は大家の長とその一行が学生の代表者と心温まる交流をするもののはずなんだけど。

 

 

「どうだ?陛下など裏切ってうちにこんか?」

 

「おとといきやがれですよ。クソ伯父上」

 

「ははははは!何言ってるかわからんが断られたようだな!」

 

「ふふふふふ!そうですね!」

 

 

こころあたたまるうたげなんてなかった!

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

食事中、何度かお互いに文句を言いあった。

 

他の生徒たちはさぞ肝が冷えたようでげっそりしていて、参加した大人たちは食事に舌鼓を打っていて満足そうだ。

 

ファッキンクソ伯父上に「少し修練してやろう」と言われ、食後に予定通り模擬戦闘訓練を行うことが決まった。

 

予想をしていたし、出していたのは私だが……数人が酒で倒れた。まさかのフィレーと生徒数人。相手方にも酒がうまいと飲みすぎて倒れてしまった人もいる。

 

相手は競技に参加する予定だったレーム家のおじさんだったから戦力を減らせた。蒸留酒と甘ったるいショートケーキを無言で食べていると真っ赤になって倒れてしまった。

 

 

指導内容は決まってはいなかったのだがやはり予想通り「護衛付きの戦闘訓練」である。一対一での指導で死亡事故が起きればあからさま過ぎるからか。

 

こちらは私とエルストラさんが水の属性として出場する。残りは他の属性から出場が決定した。熟練した生徒や他の属性代表の生徒から選出しても良かったのだが……。

光属性から一人だけいたミリア。

土属性からリーザリー・ローガ・レンジ・タロース。

火属性からテルギシア・フェニークス。

風属性からモーモス。

それと慣例に習って生徒の護衛が一人。

 

 

力量のある人間、おそらくリーズよりもクライグくんのほうが力量はあるはずだが敵にはリーズの身内が敵として出てくる。

 

完璧に敵の身内を選出して動きを封じに行った。クライグくんを出して「ついで」で殺されてはたまらない。

 

 

相手選手はヴェルダースクソ伯父上に同じテーブルにいたメンバーだ。

ロータス・タルタリア・レンジ・タロースはリーズの父親。

マーラー・ドエルゲ・フェニークスはテルギシアの従姉妹。

ホライド・ガルーラン・ディディッサ・ゴルンドは風属性でオベイロスでも有名な『天剣』の二つ名持ちの風属性の剣士。

それと『雷剣』ブレーリグスである。

 

土はリーズのお父さんだし、火はフェニークスの人間。ヴェルダース伯父さんには実子であるエルストラさん。風は縁のある人を連れてこれなかったので絶対に裏切らないモーモスだ。ミリーは自由参加だった。

 

 

「あら?貴女はそっちにつくの?どういうことか……ちゃんとわかってる?」

 

「……うちは家族いっぱい、どっちについたって良いはず」

 

「まぁフェニークス家はねぇ……」

 

 

テルギシアとリーズがお互い敵となった身内と話している。

 

私は伯父上とはたっぷりと話した。天剣殿はボルッソファミリーの子供は彼の親族にあたるしほんの少し手加減してほしいと釘を差したかったのだが……まぁ話すタイミングがなかったし仕方ない。

 

 

「……やはりか。様子がおかしいと連絡は受けていたが……」

 

「私にとってフリムは友達だからね。クソッタレな命令してくるのが悪いのよ」

 

「そうか、後悔はしないようにな。すぐに終わるはずだしお前らに出番はないが」

 

「みてなさい!驚かせてあげるんだからっ!」

 

 

リーズも父親と言葉をかわした。

 

エルストラさんがこちらで出場するんだから雷剣殿がこっち側だったら良かったのに、雷剣殿は今回ヴェルダース伯父上側として出てくる。

 

 

こちらは七人、相手は六人……人数はこちらが一人多いが経験値が圧倒的に違うはずだ。

 

 

競技としては修練場や運動場と言われてるこのコロシアム状の出入り口の何処かから入り、別の出入り口出られれば生徒の勝ち。できなければ生徒の負けという競技だ。

 

元から勝てない前提。圧倒的上位者から要人を逃せられるか。どれほどの力量があるのか。ちゃんと立ち回れるのか?といった内容である。

 

水属性の人間として「護衛される立場」とか「立ち回り」を教えてくれるそうだが……事故や大怪我の可能性もある。

 

出入り口のどこから入っても別の出入り口までは結構な距離がある。基本的に負け確定の指導である。

 

しかも敵側に『雷剣』がいる。だが、エルストラさんがこちらにいる以上全員焼き殺される可能性は低いだろう。

 

 

「でも皆さん本当に良いんですか?」

 

「わたくしはわたくしの従姉妹を、妹を護るために行動するだけです。フリムこそ一度苦しめたわたくしを信じてもらえますか?」

 

「はい。私はエルストラさんを信じています」

 

「――――では父を撃破しましょう。杖と家名、いえ、わたくしの精霊にかけて私はフリムを裏切ることはしません」

 

 

彼女は完璧に政敵と言っても良いはずだ。……だけど、私はこの従姉妹の少女を信じることにした。父親と対立させてしまうのは少し悲しいが…………彼女の守りたいものは私の命であり、私も命がかかっている。

 

前世の倫理が「子供に苦痛を与えるようなことをするな」とか「自分の利益のために子供を傷つけるのか?」と言っている気がする。ただ、これは立ち向かわないといけないことだし両者納得ずくでやろうとしていることである。

 

できれば伯父上はぶちのめして……私に刺客を送れないくらいに派閥の力が失ってくれれば良いのだけど…………。

 

 

「クソッタレな命令を出すほうが悪いのよ。その……友達だしね!」

 

「テルギシアは?」

 

「……フェニークスはどっちの派閥にもいる」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

ショートカットでズボンを好む、貴族子女としては少し変わった子を見つめる。

 

しかし、続けてなにか言うのかと思って待っていたが何も言わずに踵を返そうとしたところをリーズが肩を掴んだ。

 

 

「言葉が足りないのよっ!?」

 

「……いたい、リーズは相変わらず暴力女。ごめんなさい」

 

「一言足りなかったり!いらない言葉が多いのよあんたは!!」

 

 

リーズとテルギシアといるとよくこういうシーンを見る。

 

テルギシアは自由気ままと言うか言葉足りずと言うか……。たまにコミュニケーションが取れないがリーズがよくカバーする。まるで姉妹だ。もちろんリーズが姉。

 

 

「まぁまぁ、でもテルギシアさんはなんでこちらにつくんですか?」

 

 

一応最後に確認したい。不思議少女なテルギシアだが、こちらにつくということは家族の縁に亀裂が入りかねない。相手には彼女の親族のお姉さんが出てくる。

 

火の属性の参加希望者にはキマさんがいる。ユース老先生について学んでいる火の属性の学生。彼女は学生の身ながら賢者である。明らかにテルギシアよりは力量もあるはずだが……相手の攻撃の手を緩めるためにはテルギシアの方が良い。

 

テルギシアが出場する意味は殆ど無いはずなのだ。

 

 

「……私の家族はどっちの派閥にもいる。ならいたい方につく。それだけ」

 

「~~~~~っ!!!??」

 

 

こちらの陣営で裏切るとすれば彼女だけだった。

 

彼女の本家筋はライアーム派閥のようだが……守護竜王と戦った海中でもシャルルの近衛兵によってフェニークスの火魔法は使われていた。つまりは王家側にもフェニークスの家族がいるからどちらについても良い立場である。

 

だけど、リーズの服の袖をつまんで「いたい方につく」と言った。リーズは耳まで真っ赤になって固まってしまった。

 

テルギシアは小動物のように何を考えてるかよくわからない部分がある少女だが……いつも一緒にいるリーズがこちらにいるからこそこちらにつくと明言した。

 

人生を決める選択であるのに間違いはなく、それは愛の告白のようでもあって……リーズは突然の告白に火が出そうなほど真っ赤になってしまった。

 

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