水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第248話 火事 の 予防

 

カレーは一瞬で……売れに売れた。

 

オークションで100倍越えの値段で売れていた点や、迷宮で食べていた生徒たちの反応からして王都の人間の口にあうのはわかっていた。

 

目星をつけていたお店を買い取ってボルッソファミリーによって突貫工事。瞬く間に行列のできる店舗が出来上がった。

 

いきなり飲食店を始めてもうまくいかない可能性も考えていた。だってここは王都で多くの人がいるが……宣伝を全くしていない。

 

『宣伝をしないと飲食業は難しい』何故かそんな先入観があった。チラシを配ったりネットに広告をしたりとかもなし。普及していない食材を使うし半年ぐらいはお客さんも来ないかもなんてことまで考えていた。

 

 

だが情報の伝達と噂の怖さを私は舐めていたのかも知れない。

 

 

口から口に伝わる情報。普段なら笑ってしまうようなねじ曲がり方のするような「噂」だが……いつの間にか「カレー」という謎の食べ物の噂は回っていた。

 

『金貨を積んでも買えない』うん、とりあえずやってたオークションでは原価の100倍を超える値段で豪商か王城に出入りする商人が買っていた。

『王が心から求める極上の逸品』うん、シャルルもカレーは気に入ったみたいである。

『あれを食べないなんて生きている価値がない』誰が言ったか調べると食べることが出来た貴族が自慢のために吹聴しているらしい。

『食べると加護が得られるらしい』それはない。リヴァイアスの謎の薬草と杖パワー入りのカレーは自動翻訳機能があるが普通のカレーにそんな効力はない。

『リヴァイアス侯爵の関係者が作っているらしい』それは完全に正しい。

 

 

更には倉庫ではうちの関係者がメインだが、取引先にも少しは出していた。……学園でも様子を見つつ出していたし、生徒たちにも評判は良かった。王都ではいつのまにか「リヴァイアス侯爵ならいつかお店を作って出すだろう」という確信めいた噂が広まっていたようだ。

 

しかし工事途中で看板の設置前からお客さんが入ってくるなんて予想外だった。作り始めたカレーの香りがお客さんを呼んだのかもしれない。

 

いや、うん。私も王都の人向けにもっと大々的に飲食店を出す予定はあったんだけど伯父上への対策で頭から忘れてた。精霊に持っていかれていたのかもしれない。でも店を作ってすぐに試しに作ってたら入ってくるとかビビる。看板もあった?まだ作ってる途中でしょう?……売れないよりもいいけどね。

 

 

そうして正式に王都内にオープンしたカレー屋。普通の食事に比べればたまの贅沢でと言うぐらいの価格設定のはずなのにとてつもなく売れている。

 

そして毎日、日に一店舗は王都内でカレー屋をオープンしている。

 

どうせカレールウがほぼうちの独占状態だ。カレールウはオークションとロライ料理長にも出しているがうちと同じものを出そうとすれば値段が何十倍にもなるだろうし真似出来るはずがない。

 

店舗ごとに別の種類の肉を分けたり、辛さを初めから甘口・中辛・辛口・激辛などで決めて特色を出しておく。トーテムヘッドを看板の近くにおいてそれぞれ色付けにして赤いほど辛い店舗とした。苦しそうな表情のトーテムの店は激辛店舗だ。

 

 

「カレーウメェな」

「甘口が最高だ」

「辛口も食えないのか?」

「舌がしびれるわあんなもん」

「あ”?やんのかてめぇ」

「外でやろうか……」

「喧嘩すんなよ、他の店でも出禁になっちまうぞ」

「大人しく食おうか?」

「あぁ、おかわり!」

 

 

ピリリと辛いカレー店もあれば野菜たっぷりなカレー店があってもいいだろう。後に家族で来る場合に家族であっても好みが違うし店舗ごとにでもある程度は調整できるようにしたけど。

 

カレールウの消費量を見て売れ行きが悪ければ後で別の飲食店にしても良い。物珍しさで今は売れてるのかもしれないが飽きられるかもしれないしね。

 

 

貴族には貴族用に高級店舗を作った。

 

 

味は殆ど同じなのに……店構えや皿が違うだけでこうも値段をあげても売れるものなのか。

 

貴族の間ではローブの中に香辛料を忍ばせるような流行もあるようだし、仲間内で集まってそれら自慢の香辛料を使ったカレーなんかも使って出すサービスも作った。

 

リヴァイアスの香辛料は香辛料の種子が交易船から入ってきて各種族が好みのものを栽培していたから種類が豊富だったわけだが、リヴァイアスにはない香辛料だってあるはずだ。彼らの持つ香辛料でカレーがより一層美味しく出来るかもしれない。

 

貴族の協力によって美味しく出来たカレーは「~~様独自の香辛料を配合した特別仕立てのカレー」と暫くの間メニューにいれる。味のわかる貴族として自慢できるだろう。代わりに「安定供与のために」と貴族をそそのかして香辛料を手に入れられるようにしたい。できれば種子も。

 

貴族が平民の店に行くのは取り返しのつかない問題も起こるかもと考えて貴族用店舗を作った。これで貴族と平民の棲み分けが出来たかと思ったのだが…………だというのに平民用の店に彼らは来る。

 

従者が買いに来ることもあるがテイクアウトはしないようにしている。すぐに食べるとは限らないしそうなればお腹を痛める可能性はある。難癖つけてくるとわかっているから店舗でのみ提供しているが……だからってバレバレの変装をして来るのはどうかと思うんだ。

 

……カレーうどん専門店で服を汚して帰る貴族が多いそうな。紙ナプキンなんて便利なものはないから。

 

 

カレールウの消費量はちゃんと増えて部屋をいくつも埋めていた在庫もようやく減ってきた。商売はうまく行っているが……塩の売買が怖い。

 

これまで流通していた食塩や岩塩の品質よりもリヴァイアスの塩は品質が良い。

 

商人の中にはかさ増しのために塩に砂をいれるような場合も当たり前にあるそうだがそれは私が許さなかった。異物混入絶対駄目。

 

岩塩には岩塩の良い部分もあるだろうけどうちの塩は異物混入を可能な限り排除している結果、当たり前だが品質が良い。しかも品質に対して価格はとても安い。

 

前世の当たり前に品質が担保された市場が懐かしい。こちらの市場に出るとまともな商品が無いと言っても良いかも知れない。

 

前世で外国の人と話すと異文化のカルチャーギャップに戸惑ったことはある。

 

先進国の中でも日本ではスライスした肉がパッケージングされているのが当たり前だが、国によっては肉はブロックで売られていたり生きた状態で渡されることも普通だ。

 

うちの商品は品質も良いのだ……!

 

でも騎獣・家畜用ミネラルブロックを人間用として転売しないでほしい。シャルルに売ったはずなのに横流しでどこかに売ろうとした貴族はブラックリスト入りである。

 

 

「歯ごたえが良い!」

「渋い草だと思ってたがこうして食うとまるで別もんだな!」

「塩とよく合う!スゲェな揚げ物ってやつは!」

「うちでもできないかしら?」

 

 

店舗はカレー屋だけではなく天ぷら屋も出した。

 

カツカレーを提供しようと考えたのだけどよく考えればこちらでは揚げ物が珍しい。珍しいということは普及していないということになる。油も火がつきにくくされているものでもないし、コンロの火力も一定ではない。さらに油の取り扱い方を皆が知っているというわけではない。

 

だから火事の危険性があるのだ。

 

しかしカツカレーは提供したい。そうすると油による火事の対処法を教えないといけなかった。

 

燃える油は蓋をすれば火を止めることが出来るがそう簡単なものではない。薪による調理は簡単に止められるものではない上に鍋から燃え上がる熱は近づくだけで危険だ。

 

以前揚げ物をするのになにかあれば私の水で消せばいいと考えていたのが悪かったのか、私が軽く扱ったものだから「油に対する恐怖心」がリヴァイアスの料理人にもなかったのだ。無論彼らから普及すると危険性がわかっていない料理人は増える。

 

私がいれば高々1リットルの油が燃えたとしても数十トンの水が使えるから消せるが……普通はそうはいかない。

 

だから倉庫の料理長ラキスと天ぷら作りの好きな配下によく油の取り扱い方を教えて天ぷら店のみ揚げ物は提供可能とした。カレー店舗でカツカレーのカツは揚げたてでの提供はできないのは残念だがそちらの店舗で作って運んでもらうことにした。……いつか全店舗で揚げ物を提供できるようにしたいものである。

 

揚げ物だけする店舗では国内最大手のコンロ魔導具業者から仕入れて、火事への対処を学ばせた複数のスタッフを用意した。でもどこまで理解してくれているかはわからない。

 

どうせなので学園で「火事の危険性と対処法」の訓練を行う。

 

いざ火事に直面すれば避難の手順なんて出来ずにパニックになるかもしれない。だけど知っていれば動ける場合もあるはずだ。

 

 

……そして『火事に対する訓練』を大々的に行うことになった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「よーく!!よーく!!!指導員さんの話を聞いて下さいね!これらの知識は自分や家族!友人の命を守ることに繋がりますので!!!」

 

「「「「はーい!」」」」

 

 

火事への対処法。2つ覚えている。「押さない駆けない喋らない」で「お・か・し」それと「押さない走らない喋らない戻らない」で「お・は・し・も」。

 

日本人であれば学ぶことであるがこちらの人間にはそんな知識はない。

 

水魔法の人間が火事で死んでいった理由ももしかしたらこういう訓練がなかったからかも知れない。エルストラさんに確認しても「火事が起きても派遣先の偉い人に従って動くもの」という認識であった。

 

貴族的な争いや騒動の犯人扱いされないためかもしれないが……まぁこういった考えもあると学んでもらおう。

 

消防を行う魔法使いや騎士の邪魔をしないために野次馬をして集まらずに道を開ける。

 

誰がいて誰がいないか。現場に誰が残されているかを把握するのにグループごとに集まる。

 

野次馬が大きな声を出さない。もしも中で人が生き残っていても悲鳴が聞こえないし、確認作業や作業員の指示が伝えられないかもしれない。

 

 

修練場でお店に似せて建物を演劇の舞台のように作って人に見られながら従業員や教師がどう動くべきか、生徒はどう動くべきか生徒に見せることにした。

 

大貴族や見に来たシャルルであれば襲撃者もいるかもだしそのように動くべきではないかもしれないが……知識としては覚えておいて損はないだろう。店員はお金よりもお客と店員を優先して外に誘導する。不安でも声を上げてしまえば逃げ切れなくなるなど、しっかりと教え込む。

 

テレビや映像による「火災からの逃げ方」なんて知らない人ばかりだから皆興味津々に、真剣に見てくれる。

 

 

「向こうからお逃げください」

「俺はこっちから逃げる!!馬鹿なァァアア!!!??」

「彼が逃げた先は倉庫で出口がなかったようですね!店員さんの誘導に従っていればこんなことにはならなかったのかもしれません!!」

 

 

「向こうからお逃げください」

「俺の金はどうなる?!俺の荷物は!!?」

「お客様!命にはかえられません!お客様!!?」

「ちょっととってくる!ヌワァアア!!!」

 

 

「火事だ!よーく燃えてやがんぜ!!」

「さがってくださーい」

「おぅみていけよ!あそこ人残ってねぇか!!」

「何ぃっ?!」

「あぁ見間違えだったわ!!わりーわりー!!!」

「下がれって言ってんだろうが!!?切り捨てるぞ」

「ところであんちゃん!!」

「なんだ!?」

「かわいいねーちゃんのいる店知らねーか!!」

「邪魔だ!!」

「グァアアア!!!??」

 

 

赤竜騎士団フォーブリン様が来てくれて駄目な人の例を演出をしてくれる。

 

自分勝手に騒いで迷惑をかけたあとに火にあぶられたり、野次馬役で騒いで他の赤竜騎士団の邪魔をして怒られる役だ。

 

この人、見た目は怖いが結構ユーモラスに溢れていて面白い。

 

火の魔法使いで「竜」を冠する騎士団。彼らは荒事もこなすが火事に対して優れた耐性を持つ人達であるようだ。フォーブリン様なんて、なんと直接火に炙られても問題無さそうにしていたほどである。

 

 

普通の火事に対して魔法使いがどう動くかを各属性魔法使いでも学んでいく。

 

火は火自体を操って小さくし、風は建物の中に人がいないかを聞き取って、土は建物を崩して延焼を防ぎ、水は……水をどんどん打ち込むもしくは負傷者のために出す。水だけ効果が薄いな、火災に対して水の魔法では足りていないように見える。

 

――――なんだか「水属性」の面目丸つぶれな気がするが……私が手を出してしまえば「水の魔法使いならみんなあれぐらいできるんでしょう?」という基準になっても面倒なのでできるだけ手は出さない。

 

他にも水場の位置は皆で覚えておくことやバケツを用意することの重要性なども教えて「火事に際して自分がどうするべきか」を教える。

 

自分のお店のためというのが発端なのに……よくぞここまで集まってくれた。ここまで真剣に皆学んでくれるとやったかいはあるというものだ。

 




身内に不幸がありました。しばらく更新ができなくなるかもです。
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