水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第250話 頭痛 が 痛い

 

火事への対処法を水魔法の観点から「空から水をぶつける」「霧状の水を噴射したほうが良いかもしれない」「バケツリレー」「ホースがあったほうが火災現場では便利」などなど、水の魔法をメインで少し検証して火事に対する訓練を終えた。

 

ホースは筒状の布にゴムを塗った試作品を使ってみた。前世のぺったんこになるホースと違って膨らんだ状態で嵩張るし実用性には欠ける部分はあるが……持ってきて自由にさせたところ新たな可能性が見いだせた。

 

ホースを使って水の魔法使いが水を送ってやれば先端を持つのは火に耐性のある火の魔法使いで良い。前に出る火の魔法使いに続いて風の魔法使いが視界を確保し、土の魔法使いが建物が崩れないように固めて続けばサポートすることは可能だ。

 

魔法を使えなくても火災現場に向かって直接水をかけるのではなく水魔法使いの人間のもとに水を運んでくれれば水魔法使いが「水を生み出す負担」は減るし安全度は高まる。

 

色々と私の想定以上の効果が見受けられる訓練となった。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

シャルルに簿記を教えに行くと凄まじく苦々しい顔で出迎えてくれた。

 

 

「すまんが話がある」

 

「なにかありましたか?」

 

「……フリムの今後に関わる」

 

 

――――ライアームの動向がわかった。

 

椅子に深く座って頭を抱えたままシャルルが言った。

 

ライアーム伯父上は、婚姻を申し込んだそうだ。

 

 

「誰に?」

 

「…………俺とフリムにだ」

 

 

血を吐くように渋い声のシャルル。

 

ん?あれ?まだ見ぬライアーム殿下がシャルルに?……一瞬薔薇の咲き誇る庭園でシャルルとライアームが抱き合っている構図が脳裏をよぎったが――――あれ?私にも?

 

 

「ライアーム殿下が?」

 

「違う。子がいたようだ……」

 

 

ライアーム殿下は政争が始まった後に子を儲けていたようだ。

 

政争が敗北したとしても子供がいれば密かに派閥の人間に子供を託せば『負けても再興可能』『支持団体との結束が強まる』という考えがあったようだ。

 

伯父上の記憶にはその子どものあったが……これ王都の人間には知られていなかったようだ。

 

荒れた政争でライアームも戦っていたし戦闘で高揚して子供を儲けた可能性もある。それは良いけどつまりは私よりも年下で……男女の双子か。

 

男の子の方は私に婚姻を申し込み、女の子の方はシャルルに婚姻を申し込んできた。

 

 

「「はぁぁぁあああ……」」

 

 

両手で髪を掴んで俯いているシャルルとため息が重なってしまった。

 

何だその婚姻外交。しかもだ……3つ問題がある。1つはシャルルが私の存在から幼女趣味と思われていること。これはまぁシャルルの問題なのでどうでもいい。――――残り2つが問題だ。

 

1つは私のリヴァイアス侯爵としての立場だ。貴族社会では極稀に高位貴族の爵位継承に問題が発生し、一度滅んだ家が再興する場合がある。

 

こういった場合に縁のあった家が再興を助けるために『婚姻』という手段によって『爵位を保証する』という文化があるのだが……。上位者、特に王家からの申し出を断った家はこれまでに前例はない。

 

腐ってもライアームは王家の人間である。断るならそれなりの理由が必要となる。明らかに年齢に差がある場合、申し込みされた時に既に他の家と婚姻がなされていた場合、婚姻を申し込まれた人物が死亡していた場合。それに余りにも性格や所業に難のある部分があった場合。……これぐらい強い理由がなければ許されないだろう。

 

もう一つの問題は、断った場合に貴族たちが敵に回ることだ。

 

もしも婚姻を無理やりに跳ね除けようものなら「オベイロス王国に反意がある」「本当にリヴァイアスの爵位継承が正しいのか」「王国と縁を切るなら俺達でリヴァイアスを切り取っても良いだろう」とゴミ貴族たちが活気つくこととなる。

 

……そして王宮では腐った貴族共が既に動いていて私とライアームの隠し子の婚姻話が既に進んでいるそうだ。どうせ私への嫌がらせかライアーム派閥の人間から賄賂でももらっているのだろう。

 

突っ込みたい部分は多々ある。精霊であるリヴァイアスが私を認めたんだから無視しても良いのではないだろうか?ライアームの子どもの方こそちゃんとライアームの子供なのか?など……いや、色々と言いたいことはあるがうちの正当性が傾けば他の領地からの風当たりが強くなることは想像に難くない。

 

今でさえ、王都に来る亜人の部下たちは王都で警戒を解かない。きっと安心できないような扱いを少しは受けているはずだ。……ここからさらに扱いが悪くなるのであれば――――リヴァイアスとオベイロスの間でも戦争が起こりかねない。

 

 

「さいあくだ」

 

「そこでだ。非常に言いにくいのだがどうにかできる方法が一つある」

 

「なんですかっ!!?」

 

 

言いにくそうなシャルル。その表情で頭脳明晰なフリムちゃんは気がついてしまった。

 

一人だけ、この婚姻を跳ね除けることが出来る人物がいる。それも目の前に。

 

 

「俺と婚姻して、裏で婚姻するものを見定めてはくれないか?」

 

「……ん?」

 

 

なんか前半はプロポーズのようなものだったはずなのに後半がおかしい。あれ?少し恥ずかしくなった私だが……意味がわからず、シャルルが何を言いたかったのか困ってしまう。

 

ギギギと執務室の入口から変な音がしたと同時にエール先生が部屋に滑り込んできてシャルルに向かって蹴りを入れた。

 

 

「ぐぅっ!?エールもだ!俺と婚姻してくれ!それで裏から女の本性を調べてく……エ、エール…………さん?」

 

「――――黙りなさいシャルル。何をとち狂っているのかわかりませんがちゃんと分かるように伝えてください」

 

「……はい」

 

 

ライアームの血筋には西の国の高位貴族の血が流れている。

 

オベイロスの西にライアーム殿下はいて、その地にいた大魔獣を伯父上が殺した結果、更に西の国からライアーム殿下が援軍を受け入れやすい形になった。

 

だからこの婚姻は基本的に跳ね除けることが出来ない。問題があろうとなかろうと、無下に断ればこんな意味不明な策しか出せなかったライアームは「他国の手を借りる」という最終手段に出てくる可能性があるからだ。

 

なら大人しく結婚すれば良いのか?私は知りもしない相手と結婚は嫌だな。いや、私の気持ちではなく、素直にそのまま申し出を了承すればライアームが王都に乗り込んできて家臣たちがずっと命を狙い合う水面下の闘いとなる可能性もある。

 

出来ればそれは防ぎたい。だからシャルルが宰相とやけ酒をしながら考えたのがこの方法らしい。そう言えば酒臭いなこの王様。

 

シャルルの考えでは有力貴族令嬢を集めて婚約者を探す。その集いの中に私も婚約者として配置する。

 

シャルルは私を結婚相手には考えていないようだが、シャルルの結婚相手がどんな相手なのか、性格や性根を裏から見極めてほしい。そのためにも『嫌がらせをして令嬢の本性を見極める役割を与える』ということだ。

 

いやー……嫌がらせをして後でそれが結婚相手の策でしたってバレたら後々恨まれるんじゃないかなー?空気の読めないシャルルの考えそうなことである。

 

 

「なるほど……しかし、いえ、シャルルもいつかは結婚しないといけませんからね」

 

「え?エール先生は納得するんですか?」

 

「実はシャルルは女性が苦手でして……政争時から女性に言い寄られましたが全てが罠でしたし、ローブの内から穴を開けられています。それも数え切られないほどに」

 

 

ローブの内からというのは庇護しているものに裏切られているという意味だが……。

 

 

「シャルルが悪い時もありますが、何度も毒を盛られて何度も刺されてきたので……婚約者候補を何人か作って交流させることで私共もそれ以上は何も言えなくなっていたのですよ」

 

 

味方陣営からも裏切られ、毒を盛られ、刺されてきたというシャルル。王様なのに嫁さんが居なかったのはそういう理由があったのか。

 

一度思い切りジュリオンの胸元に一緒に包まれたことがあったが照れもしなかったのはそういうことか……いや、戦闘中だったから状況が悪いとも思うけど。

 

このお年頃の男性というものは性欲を持て余して仕方がないのではないのだろうか?なのに……

 

「な、何だその目は?」

 

「いや、苦労してきたんだなーと」

 

「仕方ないだろう!?女は裏切る生き物だぞ?!わかるか?礼儀作法を学んでいると脱いで襲いかかってくる夫人の怖さが!?踊りながらも爪に毒を塗って襲いかかってくるギラついた女の悪意が!!『これまで苦労が絶えませんでしたね』と気遣いながらも毒を入れた杯を手渡ししてくる恐ろしさが!!?」

 

 

息を切らせているシャルル。ちょっと目が怖い。

 

 

「シャルル、落ち着きなさい」

 

「…………すまんな。既に王妃気取りのやつもいるし、もうやだこの国」

 

「じゃあ男に趣味を変えますか?」

 

「……それはもっとやだ。あいつらに押さえつけられるの怖い」

 

 

手首を擦るシャルル。既に指の数では効かない数を襲われてきたそうだ……というか男にも押さえつけられたことがあるのかこの王様。痴情のもつれどころかお家のためにとナイフで襲われた経験も数回。普通の毒にはある程度耐性ができてしまったそうである。

 

シャルルがまともに話せる女性は五人、私、エール先生、オッヴァーディア様、婚約者候補のエルストラさん、もう一人が私の知らない婚約者候補。

 

エール先生によるとエルストラさんはライアーム派閥であるため王宮の令嬢が総出で邪魔に来るし、エルストラさんは基本無表情に無言で問題がないと安心できる。もう一人はシャルルにめちゃくちゃアピールしてくるけどシャルルは彼女を人間と認識していないから問題ない。……認識していない?

 

レージリア宰相の娘であるクラルス先生は昔から少し苦手だったが最近更に苦手になったらしい。

 

王様であるわけだし、シャルルはすぐにでも世継ぎを残すべき立場だ。シャルル派閥の人間も『王はすぐにでも世継ぎを残すべき』というその姿勢のものは多くいる。しかし、ライアームの一手によって状況は変わった。迎え入れて何かしら対処をしないと今度こそライアームは外国の力を借りて攻め込んできかねない。

 

つまり、シャルルは私に偽装婚姻を行い、ライアームから私への婚姻は有耶無耶にする。ライアームにも『お宅のお子さんに魅力があれば婚姻をもぎ取れるし出来なければそれはお子さん方に魅力がなかったからなんじゃないですか?』と言い訳できる。

 

同時に国中から令嬢を集めて将来の国母となる人物を探す。

 

そして私はその中で令嬢方を取りまとめて様子をうかがう。殿方の前では猫を被る女性もいるから私やエール先生も婚約者ということで裏から情報を集める。

 

少し悪い人物を演出することでライアームからの婚儀の申し出を向こうから取り消すことも出来るかもしれないし、容赦のない酷い人物であると見せれば貴族からの嫌がらせも減る。

 

 

――――……つまり悪役令嬢フリムちゃんが誕生するわけである。

 

 

いやー……私、色んな人に胸を張れる人物になろうと決意したはずなんだけどな。

 

防災訓練とかも凄く人命優先で考えたのに……。

 

だけどこれ、戦争が起きないためと考えれば…………。

 

 

 

 

やりますか。

 

 




|д゚)わ、忘れられてないよね?
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