水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第251話 悪役令嬢 ? フリムちゃん

 

ちょっとよく考えてみる。直感で「やらないといけない」と感じて決めたことだがなにか大きな見落としがないか考えないといけないしそもそもが悩ましい。

 

 

人に『意地悪をしてその本性を見極める』というのは人に胸を張れる行いだろうか?

 

 

意地悪をされる令嬢にとってよろしく無いのは確かだろう。誰かに試されるなんて、ましてや意地悪をされるなんて……だけど、この行為によって戦争が止められれば人の命が助かる。あとシャルルのお嫁さんにまともな人を選ぶことができればこの国も少しは良くなるだろう……多分。それに私自身も婚姻を強要されるのはまっぴらである。

 

試される令嬢には申し訳ないがこれも王妃になるための試練と考えてもらおう。ちゃんと手加減はする。

 

学園に通って卒業すれば貴族としてある程度認められる。「学園を卒業している」ことは貴族の当主であれば当たり前なのだ。それをしないと舐められる。それをせずに王宮で悪役をするなど…………私が目立たず真っ当に生きる道はないのか?

 

全部無視してリヴァイアスに帰れば……それはそれで良いような気もするがリヴァイアスもクーリディアスも中央のゴミ貴族にとっては魅力的に見えるだろうし、よってたかって襲われる可能性もある。被害が出るはずだ。

 

 

ライアームの『自分の息子と娘を私とシャルルに結婚させる』という策。

 

 

ライアームなりの手なのだろうけど……『先にシャルルが私に婚姻を申し込んでいた』ってことにする。これだけでライアームは目算が狂ったとして戦争を引き起こしかねないが……シャルルの婚儀には令嬢を集めてその中から選ぶ。ライアーム派閥からも令嬢を呼ぶし、ライアームの息子さんと娘さんもそれに参加すれば「ん?勝負しないの?あ、負けるから勝負しないの?自信ないから?」と勝負に持っていくことが出来るかもしれないそうだ。

 

そのうえでライアームの娘さんも息子さんも優勢であるとある程度認識させれば……問題の先送りかもしれないが時間は稼げる。

 

戦力差が同じぐらいだったライアームとシャルルの軍勢。戦力分析によってはどちらが優勢かと言うのは難しいが無敵宰相が若返ったことで戦力差は均衡かもしくは若干優勢のはずだ。……リヴァイアスとクーリディアス抜きでは。

 

シャルルとライアームの戦力、それにリヴァイアスとクーリディアスの戦力「だけ」を考えれば私がついているシャルルのほうが優勢であるはず。貴族が変な動きをすれば……するだろうけど…………どうなるかわからない。

 

ライアームも他国からの支援を受け入れればリヴァイアスが参戦してもどうなるか全くわからなくなる。記憶の中のライアームは聡明でそこまでは絶対にしないような人物だった。近頃は私の影響かうまくいかずにキレ散らかしているが……。

 

しかし、そもそも『戦争が起こらないように対処する』のが一番のはずだ。私はそうなるように動くのだ。

 

 

「うーん……むむむむむ」

 

「そう言えば手紙で隷属の魔法で一人解放してほしいとあったが手紙でわざわざ伝えねばならんほどなのか?」

 

「ローガ将軍の弟君が見つかりまして、フリム様口を開けてください」

 

「はい、あーん」

 

「おぉそれはめでたい!」

 

 

甘味がしみる。考え事にはやはり甘味が良い。

 

そもそもライアームは『正当に』王となろうとしていた。外国やドラゴンからの脅威から国を守ろうと奔走していた人物であった。他国からの支援を使ってしまえば国としてなにかを譲歩しなければならなくなるし「選択肢としては存在するが絶対にしない」ように思える。

 

というか伯父上、王都に来る前に水の大家の長として大魔獣を狩って「仕事はした」とアピールしたようだけど……おかげで他国の軍が攻め込みやすい下地も出来ている。伯父上は既に一つ巨大なやらかしをしているようである。いや、うん、伯父上も王都に来るまではライアーム派閥をどうにかしないといけない立場だったし、もしも自分が死んでも手段を残せるようにしたのかもしれない。

 

『ライアームの祖母は西の隣国アームリアヴィスの高貴な血を引いている』そして『ライアームのいる西の地にいた大魔獣は討伐された』この2点はかなり致命的である……かもしれない。

 

……情報が足りない。軍事に関する情報なんて前世でもシークレットだった。隣国の力がどれほどのものなのか全くわからない。元々ライアームと私を除くシャルル勢力の力はどちらが勝つかわからないものだったはず。むしろ劣勢気味……だけどそこに『無敵宰相』レージリア宰相が若返った。そして空白だったリヴァイアス、そしてほぼ無傷で手に入れたクーリディアスも手に入った。それらをライアームも見ているかもしれない。私は自分の領民を決して戦争に参加させたくはないが、戦争が起きればどちらかに味方しないと危険因子として戦後にどちらにも攻められる危険性もある。これは確かだ。

 

 

「口の周りについてますよ。拭きますねー」

 

「むぅー」

 

 

敵対はしないまでも中立の立場となれば腐りきったオベイロス貴族共はここぞとばかりにリヴァイアスに嫌がらせをするはずだ。

 

リヴァイアス侯爵領、クーリディアス地方の鉱山などの権利をよこせとか、いや領地ごとよこせと言ってくるのが目に見えている。あのゴミどもなら。

 

人がどう動くかなんてわからない。結論は同じところでぐるぐるしてしまう。

 

 

「すぅー……はぁー…………」

 

「……おい、大丈夫なのか?」

 

「いつもより長考しているようですね」

 

 

策として成立するかどうかはともかく、私が悪役令嬢をする。しなかったらライアームによる戦争の可能性は跳ね上がるし、私が「オベイロスのことなんて知ったことかー」と逃げたら逃げたでシャルルの部下から嫌がらせはあるはず。

 

悪役令嬢をすれば勿論悪評は立つだろうけど既に貴族社会では私が嫌いな人がなにか言ってるし……人の命が助かる方向と考えれば私の悪評ぐらいは胸を張れる行為だ。多分、うん。

 

 

しかし、うーむ。人への嫌がらせか。何をすれば良いんだろうか?

 

皆に聞いてみるかな。

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

いつの間にか時間が経っていて簿記は手作りの問題集をおいて帰ることになった。

 

『嫌がらせをして、その後の反応を見る』……やるまでわからないが嫌がらせとかしたことはない。領地よこせって言えば良いのかな?

 

学園で誰かに聞く必要があるな。

 

ローガンのことをシャルルに言うのを忘れていたのだけどエール先生が話を通してくれていたようである。

 

 

「えっと、アールゲースさんはこれからどうします?」

 

「フリム様、出来ればこれまで通りローガンとお呼びください。木の美しい精霊の名前に由来があって恥ずかしいので」

 

「はい」

 

 

アールゲースの名前は不服のようである。

 

ローガンさんは幼い頃女性のような名前をつけられ、女性のように可愛がられたこともあるそうで、今更アールゲースと呼ばれるのは嫌らしい。そう言えばミュードもミュラードと自分で名乗らないのもそういう理由だった気がする。

 

 

「これからも出来ればお側においていただければとお願い申し上げたいです。ドゥッガ様もフリム様も、これからが楽しみですので」

 

「それはむしろお願いしたいですが……」

 

「ではそのようにお願いします」

 

 

恭しく頭を下げるローガンさんに近づいて頭をなでておく。

 

臣下だし、他の人もこうすると喜んでいた。多分前世の騎士の誓いとかで剣を肩に当てるようなものだろう。

 

それは良いが、紫のモヒカンを何処まで触って良いのかわからなかったので軽くにしておいた。頭皮から力強く伸びた直毛は意外とさわり心地は良かった。……サイドの毛のない部分も治して伸びたらまっすぐな毛が生えるのかな?

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

なんとか西に帰ることが出来た。

 

 

ここに来るまでにライアーム様の手のものに殺される危険性もあったが何事もなかった。

 

 

「水の大家の長殿、幼き姪に、負けてきたそうだな」

 

 

椅子に腰掛け、酒を片手に酷く酔ったままのライアーム様に皮肉を言われた。

 

仮にも筆頭家臣の自分が帰ってきたというのに出迎えがなかったのはそういうことか……。

 

 

「グラティアス・シュラムの首と引き換えに褒美を頂いてまいりました。ライアーム様に献上します」

 

「あぁ、ご苦労。――――それで?お前の姪はどうだった?」

 

「精霊の力を持つ愚か者ですな。リヴァイアスにオルカスをはじめとした多くの精霊が奴についておりました」

 

 

今は話が通じる状態ではないか。

 

このまま殺されることはないはずだが、生徒に負けた自分の面子なんて無いようなものだ。苦言で済めばいいが。

 

 

「で、負けてきたんだな?」

 

「はい」

 

「俺の部下が!小僧の部下に負けて!帰ってきたんだな!!!えぇ!?それでもお前は俺の筆頭家臣か!!?」

 

 

酒の入った杯を落として掴みかかってくるライアーム様。

 

旅装がめくれ、それを見たライアーム様が止まった。

 

 

「それ、は?」

 

「……」

 

 

あるはずの利き手がない。魔法を使うのに重要な腕がないのだ。貴族社会では腕をなくし、感覚を取り戻せずに隠居する人物もいる。

 

ライアーム殿下は、元々思慮深く、仲間想いな部分もあった。

 

 

――――だから自分で切り落とした。

 

 

これで戦ったという証明も出来るし、儂が居なくなればいよいよ四大属性の水からの支持が丸ごとなくなるかもしれない。

 

肘から先を無くしている儂の腕を見て驚いて、狼狽しているライアーム様。

 

 

「こんな、すまない……なんで……」

 

「ライアーム殿下……いえ、ライアーム様。よく考えてくだされ」

 

「…………なにを?」

 

 

伝えねばならない。何度諫言しても伝わらなかったが……今なら伝わるかもしれない。

 

 

「国の行く末を、貴族のあるべき姿を、民と……精霊のことを。我々仕えている者のことを」

 

「お前まで俺の前から居なくなる気か?」

 

「いえ、次代のルカリム家をまとめられるものはいません」

 

 

痛ましい視線を向けて来るライアーム様。

 

ルカリム家を継ぐものがいない。娘はまだまだ能力がない。タナナとレームの元長なら能力はあるがルカリム家に来た以上2人が長になることはない。儂が居なくなれば最悪ライアーム派閥は中からぐちゃぐちゃに……仲間内で殺し合うこととなる。

 

 

「これまで通りとは行きませんが、それでもまだやってきましょう」

 

「…………」

 

 

泣きそうな顔のライアーム様。

 

自分で切り落としたことに罪悪感はあるものの、この腕一本でライアーム様の目を覚ます事ができれば……!

 

 

「ですからライアーム様、御身は御身のことを、そしてこの国のことをよくお考えなされ」

 

「……大儀であった。すまんな、苦労ばかりかけている。充分に療養するが良い」

 

「はい!さっさと万全まで癒やし、小娘に目のものを見せてやろうかと!!」

 

「俺も考えてみる。――――誰もここに近づけるな」

 

 

 

これでなんとかライアーム様も嘆くばかりではなくなると思ったのだが……一体何がどうして、婚姻で戦おうなどとわけのわからない策を取ろうとしたのか。

 

 

いや、まぁライアーム様が今シャルトル陛下に頭を下げようものなら配下の命が危うい。

 

頭さえ下げれば大公となれる資格をライアーム様は持つがこうも争ったのだ。反抗できないように財も領地も取り上げられるだろう。ライアーム様自体は幽閉となるはずだが部下の中でも戦いに参加した主だったものはライアーム様をそそのかしたとして全員首にされてもおかしくはない。

 

だからといって次代の婚姻をもって徐々に融和させていくなど……それも若い者全員送り込んで支援させるとか。いや、うまくいかずとも次代は生かせられるし、うまくいけば戦いにはならないか?

 

冴えた方法ではあるようにも思えるが……うむ、他の当主たちも次代の子供たちの未来が確保されることは喜ばしいはず。しかし、そうだな…………この策、若き子弟共を大人の監視なく王都に送ることになるのは手綱の無い騎獣を王宮に送るようなものである。

 

一体どうなるやら……うまくシャルトル陛下を籠絡できれば最高の結果だろうが、いや、それよりもフリムにも婚儀か。確実に間違いなく苦労をかけることになるな。

 




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