水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第253話 肉球 で ふみふみ

 

服装の好みを聞かれて「とにかくできるだけ簡素なもの」を選んでいるとそれは上級貴族としてよろしく無いとエール先生に注意された。

 

 

「フリム様、身につけるものはそれぞれ意味があるのです」

 

「でも宝石って身につけていると無くしそうで怖くて」

 

「無くしたって良いのです」

 

「え?」

 

「フリム様が持つものを全て無くしてしまったとしても予備はいくつもありますし『それ程の財がある』と見せればリヴァイアスの力を見せつけることに繋がります」

 

「…………なるほど」

 

 

凄く勿体ない。

 

細かな数字はわからないが……たかが自分が着るものであるはずなのに、服一着にかかる金額が大きくなりすぎて警備の厳重な銀行とかに封印したい。銀行無いけど。

 

 

「殿方の視線があるからこそ令嬢方もまだおとなしいようですが婚姻のかかった令嬢方を軽んじてはいけません。下着を焼かれかねませんよ?」

 

「ナニソレコワイ」

 

 

私の思っている令嬢の世界じゃない気がする。

 

私のように爵位が領地がと関係していない『一般的な令嬢』って言えば紅茶を飲んで領地のことを「あらあらウフフ~」と和やかに話すものじゃないのかな?

 

エール先生によると、下手な不良貴族よりも令嬢のほうが怖いらしい。

 

 

「えぇ……」

 

「子どもような癇癪がある上に、貴族ですから魔法は使えて当たり前です。気に入らなければ従者ぐらいなら焼いてくる可能性は充分にありますよ……不良貴族は腐ってますが『杖を抜いては取り返しがつかない』と分別があるためまだ杖を出してこないですが」

 

 

そうか、想定が間違っていた。

 

魔法は普通の人間に普通以上の力を与える。強大な力を誰でもではないが行使できる。そんな力を人の命の軽い水準の世界で……更に癇癪持ちや我儘な人物がいれば…………危ないわそんなもん。誰かいんふー先生呼んでー、爆弾処理が必要よー!!

 

 

――――いや、学園でも矯正の仕事してるんだったか。この国ってやつは……。

 

 

 

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

 

「あの……これは?」

 

「お客様動かないでくださいねー」

 

「お客…………?はい」

 

 

既に作られていた服も、これからも作られていく服も……着るかどうかは場面次第だが輝かし過ぎて値段も考えたくない装飾がつけられることは決定した。ただゴテゴテした装飾品には重さもあるのでできるだけ数は減らしてほしいとは嘆願だけはしておいた。……聞き入れてはもらえなさそうだが。

 

しばらく仕事をしていたが報告書も読み終わって心を安らげるためにも少しエール先生の髪を編んでいる。私のアホ毛についてや髪についての話が出てきたので「こんな方法もあるけど試してみますか?」とお誘いした。

 

お世話されるのは悪くないがもともと世話を焼くのも好きなのだ。ちょっと歳の離れた妹と弟もいたしね。

 

 

「いつもより艶が出てますね!」

 

「クラルス様がリヴァイアスで良い薬草が入手できたと作ってくださいました」

 

 

それは大丈夫なのだろうか?

 

正直に言えば「髪が綺麗になる」のはとても魅力的だし、私も欲しい。

 

だが、それは前世の基準で製品化されるに当たって「品質が保証されているだろう」というメーカーへの信頼があってこそである。クラルス先生の薬師としての腕を疑っているわけではないが副作用とか怖い。

 

椅子の上で立ってエール先生の髪を編んでいるが座っているエール先生の後頭部を見ているとエール先生が少し頭を上げた。

 

髪がグシャってならないように髪は手で固定しつつ、私もエール先生の頭を胸に抱えて上からエール先生を見下ろした。

 

エール先生は私が染髪剤を欲しがったとでも思ったのか、品質チェックについては他の人で実験済みで最後の仕上げにエール先生が私にも使う分を自分に試してくれていたと教えてくれた。

 

 

「ふふふ」

 

「なんでしょうか?」

 

「いえ、なんでもないです」

 

 

思わず良い香りのする頭を抱きしめてしまいたくなったがぐっと堪えて頭をゆっくり戻して編み込みを続ける。

 

髪の編み方についてやって見せているのに今手を止めれば台無しになる。

 

……妹は幼い頃に様々な髪型にするのが好きだった。テレビに写っていた髪型にしてほしいとねだられた。イヤイヤ期とでも言うのだろうか……幼い頃は本当に大変だった。お菓子が欲しくて座り込む子供は見たことがあったが、うちの妹は突然「髪型を可愛くしてほしい」とか「シャンプーがほしい」と駄々をこねた。

 

これまでにしたこと無い髪型にしてほしいと私と母親にお願いしてきて、私もお母さんも妹の可愛さにメロメロだったから一緒に色々調べていろんな髪型にしてみた。妹の世代では学校で髪型でブームが起きたほどである。

 

ただお母さんはお母さんで朝の忙しい時間に妹ばかりにかまってはいられないので必然的に私がやることが多くなっていた。

 

ブームが過ぎ去ったあとはわがままを言うことはなくなったがやってあげると嬉しそうにするし、たまに「こんな髪型にしてほしい」ともじもじ言ってきたりして最高だった。

 

 

服は自分を見せる要素の一つに過ぎない。

 

 

髪を整え、姿勢を正し、化粧をして、爪を磨き、ハンカチやティッシュを持ち、香水をして、良い服を着る。

 

服一つが良くてもなにか一つ悪ければそこが悪目立ちしてしまうことはあるから最低限の準備をしておくのはマナーだと思う。

 

お父さんとは一度喧嘩したなぁ……家族で遊びに行くのにお父さんは服を着て「さぁ行こう!」なんて言うものだから。

 

お父さんもお父さんなりには身だしなみに気を使っていたが、女性の準備に口を挟むのが悪い。

 

最低限きちんとしていたつもりだったが人によっては物凄かった。友人はジェルネイルがどうのとか、バッグの種類とか、ヒールの高さとか……季節や天候、その日の湿度まで考えて身支度を整えていた。

 

友人曰く「日々の努力で美貌は保たれるのだ!」とのことで私の最低限の身だしなみを指導されたのが懐かしい。私もお化粧の水準が上がったし友人には感謝している。

 

……ついつい財宝が光り輝く部屋で現実逃避してしまっていると自覚する。もうなんかあれだもん、海賊のお宝部屋みたいになってるもん私の部屋。……何故かドゥッガが頭をよぎった。これ集めたの大海賊ドゥッガ船長じゃないよね?いや、ある意味そうなのかもしれない。

 

 

「出来ました!」

 

「有難うございます……タラリネ、どうかしら?」

 

「よくお似合いですよ!こんな方法があったなんて!」

 

「フリム様ありがとうございます。とても嬉しいです」

 

「いえいえ」

 

 

わざと鏡の前でやらなかったので横で目を輝かせていたタラリネにエール先生が質問した。鏡の前まで行って手鏡を渡す。後ろをよく見ようとしているエール先生……髪は後ろでだけ整えるのでは無いのだよ!

 

前側から編み込んで後ろまででまとめたエール先生は……なんというか気品がある。触ったことはなかったが金髪だからか特にそう思えるのかもしれない。しかし少し照れたようなエール先生が可愛い。鏡を使って熱心に横や後ろの方を見ようとしている。

 

 

「他にも美に感してなにか使えそうな技術はありませんか?」

 

「えぇと、そうですね」

 

 

いくつかの編み方や止め方を見せると興味津々に観察される。私も面白くなって覚えているだけ披露している。木の棒一本で髪がまとまるとかも面白いよね。

 

美しさのためにすることと言えば……色々あるけどやはり保湿クリームや化粧水は絶対だった。あとクレンジングやリンスやトリートメントも。

 

しかしそれらは売られていたものだったし、何もなくても出来る技術か……エステとかトレーニングかな。

 

 

「なぁおぉー」

 

「あ、じゃあお願いしても?」

 

「フリム様、今ニャールルはなんと?」

 

「得意だからやりましょうか?と」

 

「……たまに亜人の皆さんの言葉がわかりませんね」

 

 

エステやマッサージについて教えているとニャールルが得意らしいのでやってもらう。亜人の皆さんは翻訳スープを飲まずとも話せる人ほど言葉がブレることがわかった。

 

同種族間ではわんわんにゃーにゃーがるるるで通じる。私はどちらを聞いてもリヴァイアスの人であればなんかわかる。だけど、亜人の皆さんは翻訳スープを飲んで「話せるし理解できるようになってはいる」が同種族の人に話しかけようとすると言葉が切り替わるようでそれを聞く周りの人が困ることがある。それと興奮したりすると何を言ってるかわからないこともしばしば。

 

特にニャールルは初めに私と会って海猫語でも通じたものだからか特にブレる。

 

本人たちには言語を切り替えている意識がなく自動で話せているようになっているそうであるため対処はできない。むしろ拙い共通語で話されるとベスみたいに何言ってるかわからいないこともある。

 

どんな理屈かわからないけど……言語の習得が「スープ一杯飲めばいい」とか便利なようで不便もあるようだ。だいたい分かるから良いけど。

 

 

エステを教えようとしたのだがニャールル……たちのマッサージは心地よかった。

 

部下も連れてきていたのか、天井裏の犬耳お姉さんと同じ格好で海猫族の方が天井裏から数人出てきた。

 

ふみふみとベッドの上でエール先生と並んで肉球マッサージをされる。

 

 

日々の疲れから解放されそうだ。

 

 

私の苦労を知ってか、キエットがなんか覚醒して仕事をしてくれているのが良いのかもしれない。

 

超魔力水を使ってキエットをねぎらってからいつもよりも元気になった。曲がった腰はそのままだが、なんかそれまでよりも数倍機敏に動くし部下への対応に昔話が入らずにわかりやすくなった気がする。あとなんか仕置き棒も携帯するようになった。

 

うちに来る人材は少々腐っていても厳しくする人がいるから少しぐらいなら矯正は可能である。いつもいないけどヒョーカ・カジャールが最初からは破壊工作を画策するような人物を排除してくれているしね。

 

私に来る仕事のかなりの量を家臣たちがこなしてくれているようである。

 

ボルッソの子供や私の婚姻候補として送り込まれた貴族師弟はまだまだ教育不足で役に立ってはいないが、それでも家臣候補の中には元々能力が高かったり頭角を現そうと努力する者もいる。

 

政治的な問題からだが奴隷頭であったローガンに男爵位を与えたのが良かったのかもしれない……『今頑張れば爵位も夢ではない』とでも思ったのだろう。人が多い分、私の知らない場所でなにかやらかしてないか心配だが悪さをすればキエットの指導が入っているはず。

 

 

「とかされるぅ~」

 

「「「にゃー」」」

 

 

海猫族による肉球マッサージは柔らかくて心地良いな。リューちゃんも真似して手の甲をふみふみしてくれる。

 




ドゥッガ船長は何をしているのだろうか……。
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