水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第28話 圧倒的不審者とのエンカウント、ようやく掃除が始まった。

 

「君はなんでここで魔法の練習してるの?見たところ良い家の方に見えるけど」

 

「………返答してもよろしいでしょうか?」

 

 

魔法の練習をしていると変な人が来た。

 

黒目黒髪のスラッとしたイケメン、古くて薄汚れた衣類。

 

 

「え?もちろんだよ!僕は従者見習いだからね!」

 

 

絶対に嘘だ。怪しい、怪しすぎる。対貴族用礼儀作法である虫になるところだったもん。

 

従者は貴族の従者であるが基本的に下働きである。貴族の子弟も従者として働くから清潔な肌艶は理解できる。

 

 

―――だが仕事は服や体に現れてくるものだ。

 

 

肉体労働であれば汗臭くて当たり前だし、文官であれば袖がインクでたいてい汚れている。下働きであれば汚れきっているなんて普通だ。服に洗っても落としきれない汚れが残るように、体にも汚れの痕跡は残る。

 

風呂上がりであっても洗剤の力が不十分なこの世界で髪がツヤツヤで首元や爪の先までピカピカな人間がいるわけがない。それも「肉体労働で今まさに汚れました!」といった汚れた衣類を着ているのにだ。

 

 

「商人に雇われているこの身はこの国において平民扱いされると聞き及んでおります。商会を代表してきている以上、礼を持って接するのは当然ではないでしょうか?」

 

「君は面白いね……僕も貴族とは言え平民と変わらないようなもんだから好きに話してくれていいよ」

 

「………わかりました」

 

「そうだ!ちょっとまっててね!」

 

 

一瞬何も知らない子供ムーブでもしようかと思ったがこの人があまりにも異質で……過剰に対応してしまったかも知れない。直感は結構ビジネスの場においても大事なスキルだ。

 

パタパタと離れていった男性、歳は20ぐらいか?居なくなったと思ったらすぐになにか持ってきた。

 

 

「これもらったお菓子!一緒に食べようよ」

 

「ありがとうございます。先程食事を終えましたので後ほどいただきますね」

 

「え?」

 

 

アウトっ!!こいつアウトすぎる!!!

 

菓子は何かわからないが包まれたハンカチの生地は高級に見える。

 

従者や待機エリアでの食事なんて一斉に行われるもので皆さっき食べた。しかも作りすぎたとかで食べきれないほどの量をだ。美味しいお肉もたっぷりで、皆今日は腹いっぱい食べた。……なのにお菓子?

 

なんだコイツ?人さらいとかかな?

 

海外では女性の旅行客にイケメンが声をかけて連れ去るという事件があるそうだが、そういう役の犯罪者か?こいつ、顔はいいし。

 

このお菓子を食べたら眠ってどっかに連れて行かれるかも知れない。

 

奴隷制度のある国、価値ある魔法使い、お菓子で釣れそうな幼女……。残念だったな、このフリムちゃんはそこまで警戒心がないわけじゃないんだぞ!

 

 

「すごく美味しいのに」

 

 

……ちょっとクラっと来たが我慢だ!

 

この国で美味しい甘味はなかなかない。チョコ食べたい。どこでも売ってる板チョコでいいからっ!今なら金貨出すよ!!?

 

 

「いえ、大丈夫です。ありがたく頂戴しますね」

 

 

笑顔に力を入れて対応する。いつでもこの不審者に水魔法をぶっ放せるように。

 

 

「ふぅん、ホント変わってるね君、で?なんでこんなところにいるの?」

 

「職務上詳しくは言えませんが私の魔法による清掃を依頼されたのですがもう10日も閉じ込められています。家に帰りたいです。」

 

「そうなの!?酷いね!ちょっと詳しく聞きたいから向こうの個室で教えてもらってもいいかな?」

 

「いえ、私は行動に制限がかかっております。上役の子爵様に許可を取らなければ決められた範囲から出ることは出来ません」

 

 

――――こいつ、何をする気だ?この辺りの個室を使えるのなんてここの責任者ぐらいだがこんなイケメンではない。まさか幼女趣味の変態……?いやフリムちゃんがいくら魅力的でもこの寸胴ツルペタボデーに欲情する輩はいないだろう。食べたばかりでぽっこりお腹やぞ。

 

しかし、なんだ?これはやっぱり売ろうとしているのか?

 

 

「フリム!今、大丈夫かー?いつもの水頼むわ!」

 

「あ、はーい!行ってもよろしいでしょうか?」

 

「あぁ、またね?」

 

「………」

 

 

なにかよくわからない視線を感じるがそのまま立ち去る。しばらく魔法の練習はお預けかな。

 

つい「またなんて無いクソがっ」と言ってしまいそうだったがお口にチャックする。男の不信すぎる言動に背筋がゾッとしたがここで働いている見知ったスタッフさんのもとに走る。

 

人の出入りは激しいがおいしい水を出してからここの人には目をかけられているのだ。

 

 

「ありがとうございます……あの人見たことありますか?」

 

「いや、見たこと無いが?どうかしたのか?」

 

「自分で従者見習いって言ってて「お菓子食べるか」とか「あっちの個室で話を」なんて言われました」

 

「食べたのか?」

 

「いえ、毒が怖かったので」

 

「そんな菓子捨てちまえ、危ないところだったな」

 

 

変態の出現に警戒し、すぐにバーサル様に報連相したらすぐに慌ただしくなった。

 

 

―――しかし、黒目黒髪のイケメンの従者は見つからなかった。

 

 

騒ぎになっちゃったとは思うがこれで二度と顔を合わさずに済むかも知れない。もうこんな場所じゃなくて賭場に帰りたい。そう思っていたがすぐ仕事となった。

 

 

「あの、バーサル様。像の材質次第で壊れたりする可能性もあるというのは伝えましたか?」

 

「もちろんだ。俺だって首になりたくはない……ここの道具は好きに使っていいとさ」

 

 

持ってきた荷物は無駄になったか。いやまだ使うものもあるかも知れない。

 

掃除する場所は長い間使われていない、誰もこない庭園らしい。石畳は元の色もわからないし、像も日当たりが悪いのか苔で全て覆われていて元の状態がわからない。もはやクリーチャーである。

 

 

「俺も仕事がある。いない間は従者のいる場所にいても良いことになったが……すまんな」

 

「いえ、バーサル様ではなく不審者が悪いんです。この小屋使っても良いんですかね?」

 

「良いはずだが?」

 

 

建物と植物の影にある小さな掃除小屋。掃除道具だけではなく何故かベッドもある。住み込みで働いていた人がいたのかな?

 

鍵がしっかりついていて悪くないんじゃないだろうか?

 

 

「ここに住むのはどうでしょう?鍵もついてますし」

 

「何?……ありかもしれんな。窓もないしドアもがっしりしてる……しかしな」

 

 

木製のドアや壁を殴って確認するバーサル様。たしかにここにやつが来たらそれはそれで危ない。

 

 

「ここには人は来ないそうですし、ここでの仕事を知っているのは上役とバーサル様だけです。不審者はこないのでは?」

 

「―――もしも来たら攻撃魔法の使用を許可する。気をつけるんだぞ?」

 

「はい」

 

 

人の動線から完全に外れた庭園、噴水か周りのなにかか腐ったような嫌な臭いがする。誰も近づかなくて当然の場所。

 

ドアや鍵が丈夫でもあの不審者なら従者の待機個室の鍵を開けられるかも知れない……というか鍵は一応付いているが鍵が超単純で一見して多分自分でもあけられると思ったぐらいだ。セキュリティ性はよろしく無い

 

 

「<水よ。出ろ!>」

 

 

重たい荷物をおいて防護服で掃除を始める。体の近くから5本ほどの高圧洗浄ビームを出して歩き回る。

 

久しぶりの掃除は面白い。鍛えた水魔法の本数も増えた。コントロールは難しいがさっさと帰りたいし張り切って行う。

 

流石にこの広い庭園を綺麗にするには数日かかるだろうけどできる限りさっさと終わらせたい。

 

誰もいないし、好き放題できるのは良いね。……よし他の魔法も試しに使ってみるかな。

 




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