水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
彼女らを庇護下に置くと言い逃げしたは良いものの、シャルルに聞くと彼女らを狙っている発情貴族が自由にしていたのには理由があった。
ポヨ大臣の配下にあたり、宮廷魔導師としてそこそこ強い力を持つ。更に子爵当主で金持ちでもある。
女好きですぐ離婚する発情貴族だが、おそらくこれ以上文句を言ってくることはない。これまでにも同じようなことは何度かしでかしていて、上役なんかに窘められればしばらく引きこもるようだ。
しかし……私のもとにポヨ大臣や貴族院、魔法省あたりからなにかしらの苦情が来るかもしれない。
それぐらいは構わないが裏で暗殺者なんかを差し向けられたりするのが一番厄介だ。
というわけで、夜会だ。
いくつかの夜会を開催して『私に向かって直接文句を言うことが出来る場所を作る』必要があるらしい。言い逃げは良くなかった。
5日ほど開催すると伝え、会場を抑えてうちの特産物などを中心に食べ物を用意する。挨拶の予約のあった人もそこで挨拶を受ける。もしも今回の件で文句を言ってくるようなら私が自ら相手をする。言い逃げだけでもそれなりに効果的らしいが彼女らが裏で攻撃されるのを防ぐのに必要だそうだ。
「リヴァイアス侯爵!このような華やかな夜会にお招きいただきありがとうございます!私はウタマイ家の縁者です」
「そうですか、ゆっくり楽しんでいってください」
「貴方こそ私の理想!あぁその幼さのままの唇、薄い胸、細い首筋……!!結婚してください!!」
「変態がっ……コホン。断ります、二度と私の前に現れないように」
「ナギラス家のコココット・ラツ・ナギラスです。お会いできて光栄です。お見知りおきを」
「はい、よろしくお願いします」
玉座にも似た豪華な椅子に座って挨拶を淡々とこなしていく。
たまに変なのも湧くが全く知らない人ばかりでもなく知ってる名前が出てくると興味を惹かれる。
今までの挨拶と同じくクッキーのセットなんかも少し渡したりもする。夜会にふさわしくないかもしれないがこれまでに挨拶に来た人と別の扱いをするのはよろしくないらしい。
結婚を申し込んでくるような人もいるがそういうのはつまみ出される。幼女である私さえ制御できれば侯爵領を好きにできると思っているのか……飽きもせずに結婚を申し込んでくる。もう慣れたものだ。
安全を考えて伯父上との戦闘で使ったのとは別の魔導鎧を着てそれを可愛らしくドレスアップしたらどうかと案を出したのだが満場一致で却下された。ただの服ですって押し通せばと……なんとなく案を出したのだがそうしたら会場からつまみ出されるのは私らしい。
挨拶を受けながら会場を見渡すと……いくつかのグループで集まっていることがうかがえる。
たまに視界に入ってくる私への敵意むき出しポヨ令嬢。大臣の中でも特に権力を持つ『ポヨ大臣』の直系の令嬢である。なぜだか彼女は私を睨みつけている。彼女の取り巻きは目を伏して彼女の後ろに佇んでいるばかり。
こちらからは人が多くてよく見えないがこの国の中でも歴史と権力のある貴族のみが所属できる『貴族院』院長の孫であるセルティー・ラース・デンレール。彼女の取り巻きは普通に飲食を楽しんでいるようにも見える。
上級伯爵を父に持ち、食料の売買では国内最大のガーレール商会の血縁でもあるリュビリーナ・レンドリュー・デ・ガーレールさん。取り巻きらしき人がこちらの様子を敵意を剥き出しに睨みつけるように伺ってきているが本人の姿は人垣で見えない。
ラズリーという令嬢もいるが……なんだろう。彼女のいる一帯だけ杖や魔導具らしき何かを水晶のようなもので観察して本になにか書き込んでいる。学園の研究者のようでこちらには全くの無関心である。
エルストラさんもいる。彼女は4人と違って明確にライアーム前王兄殿下派閥の本家ルカリムの御令嬢である。王都の人間からすれば憎き政敵に他ならない。一応シャルルの婚約者筆頭の1人ではあるが……エルストラさんの一派は他の王都の令嬢たちによる牽制なのか目からビームが出そうなほど睨まれている。本人はいつもの無表情でお茶とお菓子を楽しんでいて雷剣殿はこの程度の争いには参加しないのかエルストラさんの後ろで立っている。
私の夜会だし、エルストラさんを助けたいところではあるが口を挟むと私もライアーム派閥であると見られる可能性もあるのでやっちゃダメらしい。
後は「筆頭」と称されないが何人もいる婚約者候補さんたちに、王都の貴族と辺境の貴族が会場に散らばっている。誰もこちらに文句をぶつけてくるようなことはなさそうで普通に楽しんでるように見える。
夜会の全体を見てみると王都ではまだ珍しい菓子や酒、食べ物は好評のようである。特にディア様からの熱烈な要望で作ったカレーコーナーは人気だ。
うちの貴族専門カレー店にスパイスを提供してくれた貴族がなんだかカレーの素晴らしさを声高に語ってくれていて……遠方から来た貴族は興味深そうに聞いている。
「カレーには多くの香辛料を使って作られる貴族の中の貴族が食べられる至高の逸品であ~る!」
「爽快に汗が出るほど辛くもできるし、山林のごとく深い味を醸し出す甘口にも出来るのであ~る!!」
「肉のみならず海産物や揚げたものも合わせればなお美味しいのであぁ~るっ!!歯ごたえの良い海老などが特に相性が良く、香辛料の香りと奥深さがその海老の強い旨味と相乗効果を出し、光の精霊が目の前におわすかのような至福の時が――――――――あ~るっ!!」
カレーにハマっている変な貴族だ。
彼は貴族の中では比較的マシな部類でそこまで私に敵対していなかったので任せたのだが……目立ち過ぎである。
高級カレー店では貴族様おすすめのスパイスを持ち込んで美味しさ競って勝ったカレーを一定期間「~~様提供の独自に配合した特別仕立てのカレー」などと出すようにしている。
このイベントによってスパイスを持ち込んだ貴族は「自分こそ味がわかる貴族である」と宣伝の名声を高められるしこちらも「提供のためには多くのスパイスが必要」と説明してスパイスの種子や苗をリヴァイアスに得ようと画策している。彼はそれに毎回参加して毎回優勝を争っているそうだ。というかほぼ毎日お店に通っているという報告もあって気になっていた。
カレーコーナーを作ることが決まると調理中なのにやってきて「カレーは奥深くその味わいは多岐にわたる!もったい、な~い!任せてもらいたいのであ~る!!!」などとこのコーナーを任せてほしいと言い出した。味は無難に甘口オンリーの予定だったが彼の主張によって何種類ものカレーを用意している。彼はカレー奉行と言ってもいいのかもしれない。
「食べたことがなければまずは甘口を試してその奥深さを知るべきであ~る!」
「程よく素材本来の味を感じられるぅ!旨味と一体となれる辛さ!!フェニークスの羽ばたきの如きぃ!美しくも力強い辛さ!!そして竜に火を吹かせるほどにぃ!辛いとされる激辛!!どの辛さにも――――」
「食べたいんだが?」
「熱いうちに食べるのであ~るっ!!」
彼の独特な演説を聞くのもいいが……それにしてもポヨ令嬢。セルティー、リュビリーナの3人の動向が不安だ。
『どちらが挨拶するか問題』……私は挨拶に行く気はないが向こうの方々は「リヴァイアス侯爵が挨拶に来るべき」とでも考えているのかもしれない。
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夜会を開いて4日目までは特に何も起こらなかった。発情クソ貴族からの文句も来なかったし、筆頭婚約者の彼女らと取り巻きの方々も毎回参加していた。
たまに国の大物貴族や将軍、お見合いとは関係のない王宮の貴族がやってきてご飯を食べて帰っていく。文句を言ってくるならこの人だろうと考えていたポヨ大臣もやってきたが「盛大ですな」と軽く挨拶してカレーを食べて帰った。
しかし、私が夜会を開催する最後の5日目、挨拶に行かない私に対して明らかに取り巻きの方々がイライラして……今にも爆発しそうだ。こちらを睨みつけながら熱心に杖を磨いてきたりは3日目からあったが今日は更に魔力が高まっているのが見えた。
会場の雰囲気が悪い。いつ誰が爆発することやら……それらを分かっている上でよく観察する。
私への悪口もだんだんと隠すこともなくなってきたが、こちらは何も言わず、偉そうに椅子に座ってそれを見つめているだけである。作ってみた扇子で口元を隠して高圧的に。
「リヴァイアス侯爵といえば陛下をたぶらかしたと高名な?いやはや、陛下をどのような方法でたぶらかしたのか。いくら払えばご教授願えますかな?」
「お前知らないのか?リヴァイアス侯は子供だけあって金子では動かんよ」
「玩具とかか?」
「いやいや奴隷がお気に入りらしいぞ、特に獣人のな!」
「なんと!破廉恥な!!」
「…………」
たしかに奴隷は集めている。政争でリヴァイアスが荒れた際、リヴァイアスの謎バリアで入れなくなるまでは人狩りがあったそうだし亜人ぐらいしか出入りできなくなっても腐った貴族や商人は亜人を使って領内を荒らした。
だからうちの領民を助けるためにも奴隷を買い集めている。
私に後ろめたいことは何もないが、貴族的にはなぜか破廉恥らしい。
「田舎者らしく、さっさと自領に帰れば良いものを」
「いやいや、それよりもクーリディアスをオベイロスに献上すべきでしょう」
「ですな!リヴァイアス侯爵はそれを良しとしないのはオベイロスに含むところがあるのではないかね」
「こわやこわや」
「…………」
「貴族としてどうなんですかねぇ」
「侯爵は塩を売るのに税も払っていないそうだ」
「なんとっ!?」
「声が大きい。聞こえてしまう」
「すまんな。しかし、それが本当ならこの国になにか含むところでもあるのではないかね?兵を揃えようとしているのかもしれんぞ」
「侯爵としていかがなものか」
「…………」
「しょせんは陛下の傀儡よ」
「いや、しかし、あの『水剣』や『水の化身』と名高いルカリム侯爵を打ち破ったのであろう?」
「そういうふうにも見えたが……なにせ戦っているところは見えなかった。ルカリム侯爵と手を組んでいるという見方もできる」
「は?なぜそうなる?」
「わからんかね?現状シャルトル陛下の部屋をリヴァイアス侯は通い詰めである。敵対していると見せかけることでシャルトル陛下に近づけているのは確かであろう?」
「まさか……ライアーム殿下の策略であると?」
「そうとまでは言わんが、陛下はリヴァイアス侯爵を溺愛しているし政策すらリヴァイアス侯爵に相談しているそうだぞ」
「あの年齢の子にか?!いや……それは――――」
「…………」
ボロカスに言われている。何もしなくても聞こえる声も多数。特に風が吹いている会場でもないし、優秀なエール先生によって声を集めてもらっているからよりしっかり聞こえる。
彼らなりに自分や派閥の立場を護るためなのかもしれない。……それよりも問題はずっと出席しつつも何もしてこない筆頭の4人だ。お見合いに関係のないのに来ている貴族は『どちらが挨拶に行くか問題』を楽しみに見に来ている風潮まである。心底どうでもいいのだが……彼女らが動いた場合には争いに発展する可能性もある。
私の後ろにもジュリオンやミリー、ミキキシカ、うちの派閥の人間に助けた令嬢たちがいる。モーモスやローガン、トルニーのような男性組は私の傍ではなく会場に散らばってもらっている。戦闘になった場合には最悪を想定して裏でニャールルたちだって伏せている。
備えはしている。しかし……攻撃魔法がいきなり飛んでくることもありうるし、私に味方する貴族よりも敵対している貴族のほうが会場には多い。遠くに騎士も待機しているが――――その騎士だってどちらの味方かもわからない。
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