水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

298 / 391
第279話 騎士 が 敵

 

「妹さんも罪に問われるでしょうね」

 

 

様子を見るに計画的犯行か、複数人だし……きっと私が死んでも問題がないと見える。

 

しかしまずい。ここは密室で、周りには壊すとまずそうな調度品もある。

 

 

「だから今は水汲みに行ったのよ!誰かの証言がありゃあ良いんだからなっ!!」

 

「私が貴方を叩き潰すとは思わないんですか?」

 

「水ごときが?この俺様を?ハハハ!これでも俺は水を消し飛ばす火の魔法使い様だからなっ!!」

 

「私の水を甘く見過ぎじゃないですか?」

 

「うぅん、澄んだ良い声だな……水を防ぐ魔導具がこちらにはある。それにこの部屋の周辺では精霊は出てこれない。――――抵抗してくれてもいいが、痛い思いをするだけだぞ?」

 

 

首にかけたペンダントをこちらに見せながら下卑た目で向かってくる男。

 

明確な敵意が、嘘か本当かもわからないその言葉が――――はっきりと身をすくませる。

 

 

「っ!?<リヴァイアス!水よっ!!>」

 

 

リヴァイアスが、出てこない?

 

水をいつも通り放出したつもりがいつもの10分の1以下でまるで水鉄砲。さらに男にあたる前に水が消失した。

 

 

「ははは!ほらな!特別な宝物庫であるこの周辺は王家の盟約で精霊は出てこれねぇのよ!!……だが、この俺に魔法を使おうとしたな?――――悪い子だ」

 

 

ガンと鉄棍を使って音を立てて、威圧してきた。

 

 

「ひっ」

 

 

声が漏れた。

 

冷や汗が、出てきて、怖くてたまらない。

 

 

「いつもの傲慢な態度はどうした!!デケェ護衛がいねぇと何もできねぇか!そうだよな!こえぇよなぁっ!!抵抗したきゃしろよ」

 

「<み、水よっ!?>」

 

 

いつもの何倍も魔力を使って人を倒すには充分すぎる威力の水を出した。

 

しかしバシャンバシャンと金属性の棍で打ち払われ、壁があるかのように一瞬見えないなにかに当たった後は消失する。飛沫すら男にはかからない。

 

 

「これからは俺様が旦那になるんだ。まずは教育が大事ってな」

 

「<水よ!うち貫け!>」

 

「ははははは!」

 

「……本当に趣味が悪い」

 

 

下卑た笑い。

 

勝利を確信した男が近づいてくる。もう1人の騎士は入口の横で腕を組んでいて参加する気はなさそうだ。

 

中央の机を挟んで下がりつつも本気で魔法を使う。しかし棒で打ち払われて、水そのものが消えてしまう。

 

動悸がひどい。悪意が怖くてたまらない。

 

 

「ばぁっ!<火よ!>」

 

「くっ<水よっ!>」

 

 

中央の壺を置いていたテーブルを挟んで男と対峙していたが身を乗り出して顔を近づけてきた。

 

そのまま火の玉が肩に当たりそうになり、寸前で水の壁で防いだ。

 

 

「ははははは!必死だなぁ!!」

 

 

火の粉がブワリと散る。

 

卵型の防御膜を出して正面戦闘をしてもいいが、今の私が使える防御膜では消耗がどれほどかわからないし、そもそも効果が無いかもしれない。

 

 

「妹に恥をかかせたお前なんぞ殺しちまっても良いんだ!」

 

 

男が右に来ようとすれば私は左に、逆に移動しようとすれば私も移動する。

 

 

「だがなぁ!勿体ない!俺は調子に乗った女を動けなくしていたぶるのが好きでな!!それも俺よりも格の上の偉ぶった世間知らずならより最高だ!」

 

 

私に逃げ場はない。それがわかっているからか、男は笑みがこぼれていて……楽しんでいるようだ。

 

私は机を挟んで左右に走る。もう1人いるから扉側には注意して。

 

 

「ここらは精霊が出てこない。廊下で調子に乗った新入りをわからせてやるにも便利だが……やっぱ良いなぁ。でけー領地持ちで、なにかしたって醜聞は勝手に隠してくれるような相手だ。――――しかも若い!」

 

「…………」

 

 

気持ち悪いと吐きそうになってしまった。

 

そもそもなんだ?その穴だらけの考えは?いや、今はそんな事を考えている時間はない。

 

目が尋常じゃないほどに歪んだこの男に何を言っても無意味だろう。

 

机のこちら側に来そうだったので無言で水の弾丸を放つ。

 

 

「チェリアァァ!!!」

 

 

水が弾かれたと同時に水の腕を分裂させ、全方位から攻撃した。ついでに足を取ろうとしたのだが――全て鉄棍で弾かれ、またも体の前で水は消えていく。

 

大きな金属の棒なのに速さで見えない。

 

 

「良い運動になるなぁ……んー?もうそこでにげるのはおしまいかなぁ?」

 

 

立ち止まって、回り込んでくる相手を睨みつける。

 

 

「――――……<水よ!砕けっ!!>」

 

「無駄だっていってんウォゴッ!!?」「ごガっ!?」

 

 

水を数発放ち、同時にボウリング玉サイズの氷をいくつもぶつけた。

 

鉄棍で水を軽く弾くつもりだっただろうに激しく吹き飛んだ下衆騎士。後ろで我感せずの姿勢だった騎士にも同時に数発、本気で当てた。

 

 

時間を稼ぎつつ、いつもよりも作りにくい氷の塊を足元で作っていた。

 

 

敵に近づくほど水は消失する。わざわざ打ち払ったのも防御が完璧なら必要ないはず。限界があって隙を見せたくなかったと仮定し、より消しにくい、弾きにくい氷の塊を作っていた。

 

伯父上との戦いでも氷は有効だった。水は液体であるため当たってもダメージにはなりずらいが氷は固体で衝撃がそのまま伝わる。対応できる人も少ないはず……ガチガチに固めるのに少しだけ時間はいるけどね。

 

 

「はぁ……すぅー……はぁぁあああ」

 

 

ピクリとも動かない2人の騎士を目に収めつつ深呼吸する。一撃で落とせなかったらもう1人の騎士も参戦してきた可能性もあった。だから氷を作るのに少し時間をかけた。

 

 

怖かった。

 

 

これが効かなければ空間に氷の壁を作って空間ごと押し潰すか酸素爆発で倒そうかもと別の手段も考えていたが…………「効果が全くなければ」「男を逆上させるだけの結果になるのでは」と、どうしても悪い想像が膨れ上がって怖かった。この部屋では魔法が使いにくいし、彼らを遠ざけることの出来るほどの氷の壁が出せるかわからなかった。

 

深呼吸してあらためて男を見る。

 

氷の塊を受けてボウリングのピンのように吹き飛んだ男。

 

鉄棍ごとを砕くつもりで、今出せる本気で魔法を放った。

 

鎧がところどころ凹んでいるし頭から血が流れている。生きてるかわからないが部屋の隅に倒れているし巻き込んだ騎士ごと氷漬けにしておく。床と接着しておこう。

 

殺してしまったか?いや……こんな男はどうでもいい。

 

冷や汗びっしょりである。しかし、どうしたものか……男を吹き飛ばした結果、ただでさえ鍵がたくさんついていた重厚な金属扉が一部、へしゃげてしまって動かない。

 

こんな男と一緒の空間には一秒たりともいたくはない。だけどこれ、私の力じゃ明らかに開かないよね。敵の増援が外で待ち構えていないとも限らないし慎重にしないといけない。

 

静かに押してみるがピクリとも動かない。

 

しかしどうしたものか……状況がよろしくない。私が壊したことにされるであろう壺の破片に男性との密室状態。

 

 

「<水よ。切れ>」

 

 

練習していた魔法の一つ。ウォーターカッターだ。

 

前世では金属を切るのに細かい粒子の混じった水を高圧で出して何でも切る技術があった。

 

テレビで見た時は衝撃的だったが巨大な金属だって切断することができる。

 

もちろん練習はしてみたことがある。だって伯父上と戦うときには土の魔法使いもいたし強い剣士の情報もあった。

 

ただうまくは行かなかった。細かな粒子の砂を水に混ぜて操ることは出来た。細かな粒子でも水に溶ける土や泥のようなものじゃなかったから『水に砂を混ぜて噴射する』ぐらいは可能だった。しかし超高圧のまま金属の一点にまっすぐ集中してぶつけるのは至難の業だった。至近距離だから自分にも強いしぶきがかかるから水の障壁も同時に使う必要があるし、そうすればより一点に集中して狙うことがより難しくなる。

 

一応固定した素材に対して大量の砂と時間をかけての切断は可能だったが目にも止まらぬスピードで動く戦闘の専門家相手には絶対ムリだ。物の切断には時間がかかる。

 

ただ、工業的にはなにかに使えないかと練習はした。砂じゃなくても自分で出した氷の粒ならどうなるかとかも……。

 

何度も細かくすりつぶして水に溶けないように選別した砂が一番切断力がある事はわかったが結構な量の砂を準備する必要があるしその量を持ち運ぶのは難しい。ということで氷の粒でやってみた。試してみると威力は水だけよりも上がるし、一応金属の切断は出来る。

 

水だけよりは明らかに強く、砂よりは凄く弱い。更に操作するに当たって「氷を作り続けて噴射する水に混ぜ続ける」と言う手間が加わって難易度が跳ね上がる。

 

いつもより使いにくい水だが限界まで集中してぶつけていく。

 

錠がたくさんついている細工扉だしきっと高価だろうが私の身の安全のほうが優先である。両開きの扉の真ん中の下側を私が出れるぐらいの大きさに斜めにぶった切る。

 

大人は無理でも私なら出られるサイズ。外に敵がいた場合に突入されないほうが良いに決まっている。

 

 

時間をかけて……やっと金属板が切れた。

 

 

外に敵がいないか素早く頭を出して確認する。……廊下の先までは見えないが、いなさそうだし、今のうちに――――

 

「こ、こうなってしまえば……」

 

 

見ていた方の騎士が、氷漬けのまま四角いなにかをこちらに向けていた。

 

 

「えっ、な――――」

 

 

 

 

 

 

何かを避ける暇もなく、気が付けば一瞬で全く別の場所にいた。

 

 

そこはとにかく真っ暗で――――何の音もしない暗い場所。

 




ウォーターカッター!いつか皆さんも出てくると思っていたことでしょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。