水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第282話 王 VS レージリア

 

 

いつかは立ち向かわなければいけない。

 

 

そう、わかっていても先延ばしするしかなかった。

 

 

だが、ついにその日が来てしまった……俺がそう決めた。

 

 

 

 

――――……今日で俺は殺されるかもしれない。

 

 

 

 

「私が何故呼んだかわかるか?」

 

「……いえ、見当もつきませぬな」

 

 

爺と一対一で、王として向かい合う。

 

飄々としている爺、いつもの執務室。だがいつもと違って服も着替え、この国の王として爺と相対している。

 

俺が王になれたのは爺がいてこそだった。

 

そして俺が死ねば王都の貴族は伯父上の派閥に冷遇されるのもあって貴族たちとの利害が一致したのが良かったのかもしれん。大多数は権力に酔いしれてすぐに腐ってしまうが。

 

 

「私は、此度の事件に関与する騎士のみならず、この国に巣食うゴミ共を一掃するつもりだ」

 

「……お止めなさいませ。そうなれば国が立ち行かなくなるでしょう」

 

 

本来ならこの役割は爺の仕事である。だが爺は殆どの場合はそうしない。

 

ボルッソへの処罰。俺のみならず騎士らにも攻撃がされていたしどう考えたって殺したほうが絶対に良いはずだった。爺は数日間罠によって重しを持ち上げ続けていた。真っ先に爺が殺さなかったのが不思議だったほどだ。

 

優しいフリムのためには俺としては殺さない選択をした。しかし俺が何をするよりも先に暗部か爺がボルッソを殺すと考えていた。

 

俺自身もボルッソには腹立たしくてたまらなかった。しかし何よりも爺が殺してなかったから手を出さなかったのもある。

 

 

やりすぎた貴族は爺や爺の配下が処理することもある。

 

 

なのに爺はそうしていなかった。殺さねば騎士らの信用も落ちる。なのにやらなかった。

 

いつもなら、いや、いつもそうだ。税務官は罰したのに――――……爺の考えはいつもわからん。明らかに殺すべきものがいて、大きな失態を犯して、その時になって殺すか活かすかをする。

 

 

「……爺、俺はやるぞ」

 

 

静かにこちらを見つめる爺に伝える。

 

爺は使えないものでも使えないなりに使うべきだと考えている。

 

政争で人が減り、そもそも本来であれば爵位にもつけないような人物ばかりしかいなかった。だから使わざるをえなかったのも確かだ。

 

 

「本当に、それでよろしいのですかな?」

 

 

いつも通りの表情でこちらを見てくる爺。

 

爺や数人の有力貴族がいなければ俺は王にはなれなかっただろう。

 

精霊が王を決めても、王を殺せばその王位は別の人間に行くだけ。貴族からすれば誰が王になっても良いのだ。当時は俺の他にライアーム伯父上しか候補がいなかったこと、ライアーム伯父上は父上が精霊と契約したときに選ばれなかったこともあって俺を殺せばどうなるかわからなかった部分もあるのかもしれない。

 

爺が大貴族を説得したのだろう。

 

爺がいなければ俺は王になれなかった。爺がいなければ政務を行うことは出来なかった。爺がいなければ――――……俺は誰かに殺されていただろう。

 

 

実質的なこの国の最高権力者は爺だ。

 

 

いくら俺を王として立てようとしていてもだ。

 

それぐらいは俺にもわかる。

 

 

「あぁ、今ならフリムが人を癒やしてくれた。忠誠心も能力もある人材がいる」

 

 

その爺がやらないことを俺はやろうとしている。

 

 

「ふむ……」

 

 

配下は腐ったものばかり。今なら……今だから動けるはずだ。

 

 

「腐ったゴミがローブを掴んで邪魔をしようとしている。奴らを野放しにすれば、使える人材は王ではなくフリムにつくだろう」

 

 

俺を何度も助けたフリムのためだ。

 

あの部屋には戦闘の痕跡があった。フリムに見える傷はなかったものの袖が少し焼けていた。起きたフリムに改めて俺が触れようとした時、一瞬であるが明らかに怯えていた。

 

怯えるようなことがあったのだ。

 

守りたいものに守られ、守りたいものを危機にさらしている。

 

 

あまりにも不甲斐ない。

 

 

そのためなら、俺は……。

 

 

 

「フリムもリヴァイアスに帰るかもしれんな」

 

 

オベイロスの絶対者にだろうと、立ち向かってみせよう。

 

 

「どうだ?爺。俺を殺すか?」

 

 

爺は静かにこちらを見ている。

 

 

「……それは賭け過ぎですの」

 

 

何百年生きてるかわからん爺には歴史や伝説がある。

 

嘘のような伝説も多くあって、王家の人間のみが入れる禁書庫で爺について調べた。

 

 

「お祝いがしたい気分ですじゃ。一杯飲みませぬか?」

 

 

爺は、ジャーリグ・ブルーネス・フラトクア・レージリアは、王を殺したことがある。

 

 

「なぜだ?」

 

「ここまで天秤が傾くこと自体が稀じゃが……いつかはしないといけないことですからの、オベイロス国王陛下の成長を儂は嬉しく思います」

 

 

毒殺する気ではないのか?

 

いや、爺であれば一瞬で俺の頸を引き千切れるはずだ。

 

嬉しそうにする爺だが、今度は俺が爺を見つめることとなった。

 

 

「シャルトル陛下、貴方は王だ」

 

「そうだな」

 

 

何を当然なことを。

 

 

「王とは強くないといけないと思っていませんか?」

 

「そうだろう」

 

 

強い王は自分の好きに国を動かせる。その方が良いに決まっているはずだ。

 

その方が貴族に勝手にされずに精霊による災害も防げるはず。

 

 

「違いますな。王とは生きねばなりません」

 

「…………」

 

 

爺の言い分を聞いてみよう。

 

 

「力を見せれば更に力を持って襲われます」

 

 

それはわかる。力があるものにはその力以上の力を用意して対応させれば良い。

 

 

「もしもフリム殿がもっと弱ければ、それなりの刺客しか放たれずヴェルダースも出ては来なかったでしょう」

 

 

そう……かもしれないな。しかし、爺は何を言いたいのだろうか?

 

 

「もしも、貴方が強く見せれば、貴方は誰かに殺されてしまっていたでしょう」

 

 

俺が貴族たちの意にそぐわない動きをし続けていれば殺されていただろうな。

 

 

「なれば誰からも舐められる弱い王で良いのです」

 

 

爺にとっては王は弱く、言うことを聞く方が都合が良いのかもしれない。

 

 

「その割にフリムが掃除に来たとき、そしてボルッソにもだが俺は殺されていてもおかしくはなかったぞ?」

 

「儂の力不足で申し訳ないですじゃ。しかし言い訳をさせていただきますとあれらを超える襲撃を20は打ち払っております。儂の手勢にも限りがありますので」

 

「なに?そんな話は聞いてないが?」

 

「今しましたからの」

 

 

当然かのように言ってくる爺。

 

俺の手よりも長く、俺よりも先を見据えている爺。

 

つまるところ……爺は俺が粛清を行わずにこれまで通りに舐められて、弱い王でいてほしいのだろう。

 

以前のままなら、フリムのいないときであれば直接それを言われても納得していたかもしれない。だが俺も決めたのだ……無言で爺を見つめる。

 

殺されるかもしれない。幽閉されるかもしれない。ただそれでも俺は俺の考えを通したい。

 

 

「……どうです?このまま弱く、舐められている王でいてはもらえませんかの?」

 

「ここで否と言えばお前は俺を殺すかもしれんな」

 

「では……」

 

「だが俺は今よりは強い王でありたい」

 

「陛下」

 

 

強い恐怖を感じる。死の恐怖。

 

これまで襲撃を防いでいた爺の力はよく知っている。その力が俺に向くかもしれん。俺の頭蓋は晒され、爺はライアーム伯父上に頭を下げるかもしれん。

 

 

「フリムを守れず、エールを守れず、国だけ存続したとして俺の生に意味はあるのか?」

 

「未来に何か希望があるやもしれません」

 

「否だ。未来よりも今持つものを大切にできないようなら!きっと未来!俺には幸福など訪れん!あの時見捨てたと必ず後悔を残すだろう!大切なものが出来ても切り捨てても良いと考えてしまうだろう!!」

 

「これまでにも貴方の配下にも散っていった者もいるでしょう」

 

「そうだ!そうだな!」

 

 

そのとおりだ。

 

これまでだって死んでしまう部下はいて、これからだってそうだろう。それはわかっているが……死者までも引き合いに出すか。

 

 

「不幸であっても王には王の役割があります。王となったのですから王しての役割を全うしてもらえませんか?今が不幸でも、フリム殿を切り捨てたとしても、いつか小さな幸せが巡ってくることもあるかもしれませんゆえ」

 

「断るっ!!俺は今大切なものを守りたい!そのためにここにいる!――――さぁ、どうする爺!俺を殺すか!!」

 

 

顎に手を当て、少し考え込んでいる爺。

 

今までだって何度も言うことを聞かない貴族をどうにかしたいと言ったこともあったが、駄目だと諭されていた。

 

これほど俺が強く出たのは初めてだからな。

 

 

「ほんに成長しましたのぉ……」

 

 

嬉しそうに頬を緩ませた爺。だが、いつもとは違う。

 

 

「今から少しだけ儂の事情を話しましょう」

 

「なに?」

 

 

爺の生かすか殺すかの基準の話だろうか?

 

明らかに国に害を与えるような政策でも通す爺だが……。

 

 

「儂が長命なことは知ってますな?」

 

「あ、あぁ、当たり前だな」

 

「そう、儂は精霊と遠い昔に契約しました。故に儂は人の理以外に精霊の理で物事を判断しておりましての――――儂にとっては陛下が侮られようとも問題ないのです。むしろ何が問題なのかわからぬほどでして……」

 

「おい」

 

 

それがゴミ共を生かす理由になるのか?

 

いや、それよりも……爺の様子がいつもとは違う気がする。

 

 

「すみませぬ。儂には腐った貴族を使うことも問題ないように思っているのです。いつか良くなることもあります」

 

「善良なものが死んでもか?」

 

 

こちらを見る目が「そうだ」と言っているように感じる。

 

 

「覚えておきなされ、儂は人でもありますが、精霊との約定でものを考えております――――ですので、フリム殿が死のうとも問題無いと考えていることがあるのです」

 

「――――……っ!!なぜ俺にそれを伝えた?」

 

 

あれだけ助けてもらっているというのに!なんだそれは!!?

 

怒りのあまり目眩がしたが、爺は何かを俺に伝えようとしている。聞かねばならん。

 

 

「それは……話さずとも話そうとも約定に触れる事ゆえ、やむを得ず話すことにしました。まさか王が単騎で迷宮に潜るなど……」

 

「爺……?」

 

 

みるみる髪が白くなっていく爺。

 

おそらく精霊と何かしらの契約をしているのだろう。

 

精霊と何かを約束したりすればそれは守らねばならない。うまくいけば何かを捧げる代わりに力を借りることもできることもあるが……それを破っているのか?

 

 

「王は楔、王は要、王は指標、王は門………王は生きてそこにあるべきものですじゃ」

 

「何を、言っている?」

 

 

ゴミ貴族共を粛清したいというだけの話のはずだったのだが、爺は何を言っているのだろうか?

 

 

「考えてみなされ、精霊の国であるオベイロスの王なら、王は精霊そのものであるべきか不死の存在にしたほうが良いはず、なのに、人がその任をし続けている。その意味を」

 

「爺!無理をするな!死ぬ気か!?」

 

 

みるみる皮膚に皺が刻まれ、年老いていく爺。

 

 

「お気をつけ下され、儂には人にとって正しいが分からぬこともあるのですじゃ。なのにここまで力を持つことになってしまった」

 

 

少し俯いて話す爺。何を伝えたいのか全くわからん。

 

 

「待て爺!何を言い急ぐ!?」

 

「時間がないですじゃ、よくお聞きくださいませ。そして二度と儂に問おうとしないでくださいませ」

 

「やめろ爺!」

 

「奴らの末端を幾ら潰したところで無意味。お隠れくださいませ。ぐぅ……」

 

 

頭を抑え、ふらつく爺、何かに耐えているようだ。

 

 

「奴らとは誰だ!ポヨ大臣か!それとも――――「人の話などしておりませぬ!何を呑気な!もっと大きな……儂は奴らの好きにさせ、大元を潰し、この長きに渡る争いを――――」

 

「爺?」

 

 

 

急に爺が動きを止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はて、陛下」

 

 

 

 

 

 

 

「何を話していたのでしたかな?」

 

 

 




さて、たくさんのコメントの中にはシャルルや国が悪いという意見がありましたね。最高のコメントだなと僕はニヨニヨしてみてましたw
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