水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第283話 ガーレール の 計算違い

 

リュビリーナの様子がおかしい。

 

あのリヴァイアスの娘に膝をつかされてからというもの、どこか上の空だそうだ。

 

リュビリーナの配下にはとにかく動かないように伝える。仮にも大貴族相手に敵対するのだからそれなりの備えが必要というものだ。

 

 

――――リヴァイアス侯爵には明確な弱みがある。

 

 

多くの家臣を得て、リヴァイアスに領地を得たが……信頼できる人間が少ない。

 

リヴァイアスの領地を継いだが、数年の領主不在もあって『譜代の家臣からの方針』に反することは出来ないはずだ。

 

そもそも当主になろうと多くの種族がリヴァイアスの前に出て祭りをしていたそうだ。そこに横入りし、大精霊リヴァイアスの加護を得た。

 

誰もが領主になりたかったはずだ。だからこそ横入りしたことで支持は危ういはずだ。とはいえ選ばれたのはフレーミスである。嫌々ながらも当主として崇めねばならんのは想像に固くない。

 

その地を統治するのに、家臣の力がなければ何も出来ないだろう。

 

 

だからこそ――――奴隷だ。

 

 

政争で荒れに荒れたオベイロス国だが、リヴァイアスの地でももちろん荒れた。他種族に寛容な土地であるからこそその隙をつかれ、他領や他国からの攻撃を受けた。

 

そして領民は奴隷として連れて行かれた。

 

今でもリヴァイアス家ではリヴァイアス領の元領民を買い占めている。これはそうしなければ家臣からの支持を得られないのだろう。

 

だからこそリヴァイアスの元領民を国一と名高い我がガーレール商会が総力を挙げて買い集めた。これをリヴァイアスにまとめて売りつけるのだ。

 

総勢2716人、獣人は言葉がわからんし全員がリヴァイアスの民ではないだろうが……名家であっても支払えぬ程の金額になるだろう。獣人の中でも高価な戦闘向きな竜人種に希少種、それに虎人種や狼人種もいた。

 

そもそも利に聡い商人なら誰もがリヴァイアス相手に売ろうと考えている。市場では獣人の相場がつり上がっている。多少値は張ったし、うちの金庫もほぼほぼ空になったが……これから手に入る利には涎が出そうになる。

 

塩で儲けてはいても塩を取り扱ってから1年と経っていない。今のリヴァイアスには絶対に支払えはしないだろう。

 

しかし払わなければリヴァイアス侯爵は側近や臣下、領民からの支持を失う。支払わないという選択肢はないし最悪の場合、家臣によって当主が交代されることになるだろう。……よしんば払えたとしてもこちらには大きな益となる。

 

 

おそらく、国を傾けるほどの額をふっかけることも出来るだろう。

 

 

おそらくは借金と権利の移譲が条件となる。そこで鉱山や迷宮、港の権利を押さえれば良い。10年、20年とむしり取れる。

 

陛下か宰相が出てくるようなら少しは安くしてもいいが国に対して何かしらの譲歩を得ることも出来る。

 

金は使うべく時に使わねばならない。これまで溜め込んできたのはこの時のためだと言っても良い。

 

 

金を稼ぐだけでは3流、金を好きなだけ貯められる場を作れて2流。――――……1流の商人は誰かが溜め込んだ金庫をまるごと頂くものだ。

 

 

貴族としても失敗しないやり方を常に考えねばならん。もしも精霊のような商売の邪魔をするような何かが起きても商品は別のところに先に売ったことにすれば良い。

 

リヴァイアスの利権が手に入る可能性をちらつかせればかかった金子の数倍で売れる。何かあればの話だがそれでも約定は取り付けている。

 

もはや負けようがない。

 

 

「これで、我が商会は、我が家は――――……数代にわたって権勢を誇る事もできるだろう!!!」

 

 

身震いしてしまう。

 

この一件で、儂の人生は意味のあるものになった!儂が死んでも、贅沢に明け暮れたとしてもリュビリーナの孫の代までは金が尽きることはなかろう。貴族が商売をするなどと陰口を叩かれることもなくなるだろう!歴史にも名を刻むだろう!

 

いや、まだまだだ!これからだってもっともっと成し遂げて見せる!これほどの利益は二度とありえんかもしれん!!大商人として名を馳せた者であろうとここまでの成果を得たものは他には居まい!!!

 

老後はどうしようか?屋敷を新たに立てて……いや、リヴァイアスの領地や利権が手に入るのなら海商をしてみるのも良いかもしれんな。

 

どうせ分割になるし海の奴隷取引は後にして商売で役に立ってもらおう。

 

 

「こちらは風精騎士団が団長ヴァルディエである!リヴァイアス候爵暗殺を目論んだとして身柄を確保させてもらおう!大人しく同行するか?それとも抵抗するか?」

 

 

1人か?王宮でも名の通ったヴァルディエ騎士団長が強引に扉を開けてきた。

 

 

「な、なにかの間違いだ!?待て、儂はそんな指示をしていない!」

 

「リュビリーナ配下のマルヤード令嬢及びその兄がリヴァイアス侯爵暗殺を企て、実行した。彼らの派閥当主である貴殿にもオベイロス王シャルトル陛下より身柄の確保を命令されている」

 

 

ここまで無傷で来れたのなら彼だけで無理やり押し入ったのだろう。でなければうちの腕利きが止めていたはずだ。

 

 

「こ、この扱いは不当である!正式な抗議であれば書簡を通していただければ自ら出頭いたしましょう!でなければこちらも派閥当主として抗う覚悟が――――

 

「すみませんな。諸侯の皆様、ここはリヴァイアス侯爵と縁のある私が挨拶させていただこう……赤竜騎士団フェニークス騎士団長である。ここには将軍が2人、4人の騎士団長が来ている。風のは一歩早かったようだがな。ずるいぞ」

 

 

プライマーレ騎士団長が出てきた。

 

来たのが騎士団長1人だけであれば帰ってもらえると思ったのに……続々とこの国の、いや、この王都の戦力を率いる方々が現れた。

 

 

「ふん、速さでうちが負けるかよ。……しかし、これだけ集まってしまえば功一番とは言えんな」

 

「そうだな。まぁ今回は連名でお役目を遂行したということになるだろう。それとも我こそは功一番と言い張ってみるかね?」

 

「やめておこう。貴公らにも恨みを買いそうだが、何より陛下の怒りが恐ろしい。騎士がやったことだからな……また大きく調べられてはかなわん」

 

「だろうな」

 

 

国中の、いや、王都の名だたる将軍や軍団長、騎士団長が皆集まっている。

 

なにか、大きな事態が動いたのだろう。それも儂にとって良くないことで。

 

 

「一体なぜ?」

 

「王国中の騎士と軍団が今回の事件の解決に動いている。皆こぞってシャルトル陛下の命を果たそうとしているのだ。ガーレール殿、素直に派閥にも兵にも無用な動きを避けるように命令していただきたい」

 

「――――馬鹿な。こんな謂れなき罪で」

 

 

全く身に覚えがない。

 

直接やり合うにしてももうちょっと準備してからにするべきだろう。

 

 

「抵抗されれば、私達は退くだけさ」

 

「…………退くのか?」

 

「なにせあの近衛兵長も止められなかったリヴァイアスの竜人が我らが道を譲るのを待っているからね」

 

「あの竜人は恐ろしいの」「うむ、絶対相手にできんな」「うちの力自慢の騎士10人が歩みを止められなかったんだが」「元は将軍らしいぞ」「しかも馬鹿みたいに硬い土宮の壁も壁も素手で破壊してたぞ」「あれ、膂力で壊れるのか?」「陛下もお怒りだしな」「威圧もきかん」「うちの部下に欲しい」「あんなの反則だろ」

 

 

あの竜人が来てるのか。なら彼らには退いてもらい、竜人の奴隷を出せば……口利きしてもらえるか?

 

 

「儂にも派閥当主としての面子があります。ここで儂が連れて行かれれば派閥のものが杖を抜かんとも限りません」

 

 

これでも国内最大の商会であり、貴族とは多くの縁を得てきた。自分が捕まればそれだけで派閥には杖を上げるものも多くいるだろう。

 

……これで一度は要求を跳ね除けられるか?

 

三度目で応じるぐらいが落としどころか?いや、二度目が来る前になにかの間違いだったとするようにしなければ……何が起こっているかわからんが、ガーレール商会が危ない。

 

 

「それはわかってるんだがな」

 

 

相手も事情がわかっているようだ。儂が捕縛されても自ら出頭しようとも遠方までいる我が派閥の人間が杖を抜いて集まってくることになる。

 

それは誰もが望まない。こういう諍いは後々面倒になるし儂もやめて欲しい。

 

 

「おい、うちのものからの連絡だ。リヴァイアス侯爵が癒やして復帰した諸侯が手勢を集めてここに集結しつつあるぞ」「なにィ!?」「止めさせろ!あの中には前の騎士団長や二つ名持ちもいるぞ?!」「誰だ?」「『移動要塞』だ!『踊る炎』に『無風』それに『砂塵』に『六歩一振り』もいるはずだぞ!!」「止めさせろ!」「あいつくたばってなかったのか?!」

 

「…………は?」

 

「一旦引くか?」「うちは争いたくない」「いや『無風』は……もう部屋にいるぞ!!?」

 

 

気が付けば部屋に人が増えていた。

 

見たことがある。歳をとって小柄で無口な風の強者。……政争で負傷して引退したはずだが。

 

 

「ぜ、前騎士団長?ご機嫌麗しく?」

 

 

傲慢でいつも偉ぶっているヴァルディエが大きな体を曲げてへりくだっている。

 

この世に怖いものが無いと言わんばかりの男が……腰を低くして顔色をうかがっている。

 

 

「…………俺はどうするか見に来たのだ」

 

「なるほど!ガーレール殿!どうしますか?」

 

「一度は跳ね除けねば儂の面子が……」

 

「死にたいのか!!?」「もう良い!確保しろ!!」「そうするとこいつの部下がどうなるかわからんぞ!??」

 

 

軽く地響きがして、窓の外で何かの影がさした。

 

それは、要塞に足が生えてそのまま持ち上がったかのようで――――

 

 

「降参します」

 

「良い判断だな。なに、抵抗がなければ攻撃しないようにも言われている。……もうガーレール殿の派閥の問題だけではないのだ。俺達もここから帰れるか不安なほどだ。……『無風』殿、いかがでしょう?」

 

 

腰が引けているヴァルディエの前に出たプライマーレ騎士団長。

 

 

「…………我々はガーレールと貴殿らの動向を見守っているだけだ。……そう、ただ、見ているのだ」

 

「連れて行ってもよろしいので?」

 

「…………そういう指令だ」

 

「感謝します」

 

「…………ところでヴァルディエ」

 

「は、はいっ!団長、なんでしょうか!?」

 

 

今の団長はお前だろうと言いたいが誰も口出しできない。

 

 

「貴様の所にいた者が、役に立たんかったそうだな」

 

「…………あ、あいつはうちの人間ではなく近衛に配属されまし「<おまえが、鍛えた、騎士――――だ っ た よ な ?>」

 

 

きっとこの場にいる誰もが思っただろう「こいつ終わった」と。

 

軍団長や騎士団長にも力の優劣はあるが、圧倒的な力を間近で感じる。

 

 

「………………はい」

 

「<フレーミス、様の、袖が、焦げていた、ぞ?>」

 

「……………………………い、命だけは」

 

「<…………>」

 

 

濃密な殺気と魔力、自分に直接当てられたわけではないのに、意識が飛びそうだ。

 

その後屋敷を出て理解した。

 

菓子に集る虫のように、王都中の戦力が、我が屋敷に集まっていた。

 

言葉にせずとも表情と魔力でわかる。いや、将軍や団長ほどの強者ですら膝をつくほどの集団の威圧に……意識が持っていかれることでわからせられた。

 

 

 

あの少女は踏めば潰れるスライムではない。

 

 

 

あれは……きっと魔王か何かだろう。少なくとも儂の栄誉は滅ぼされた。

 




評価やコメントなど、そろそろしてやってもいいかなという方、よろしくお願いします(「・ω・)「
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