水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
遠くだけど人だかりができているリュビリーナさんがいて……思わず隠れてしまった。
「フレーミス様?」
「違いますよジュリちゃん、私はローズです。ローズ・フレミンス」
「すいません。フ……ローズ様」
「ローズ、ちゃん、です」
「…………ローズちゃん」
今の私は変装してるし見つかることはないはず。
偽名は全く違う名前が良くて適当にローズとつけたのだがジュリオンは潜入など初めてなようでフレーミスと呼びそうになる。
角も羽も背も小さいジュリオンはジュリちゃんだ。いつもの体積というか大きさはなくて可愛い。
「どうしたのー?」
孤児院は王都の北側にあったのだが……思ったよりも大きい。凄く大きい。
こじんまりと言うイメージが合ったのだが公立の学校ぐらいはありそうだ。校庭に当たりそうなひらけた場所だけでも100人は子どもが見える。
外から見ていたら小さな子が寄ってきた。
「聖女って言われてるリュビリーナって人がどんな人か知りたくて」
「おねぇちゃんのこと知りたいの?きてー」
幼稚園児ぐらいの女の子が来るように言ってきた。彼女は私たちの返事を待たずに中に入っていく。
「いかが致しましょう?」
「ついて行ってみましょう」
「はい」
ジュリオンが外の何処かに向けてなにか合図をした。
最近強い配下が増えたって喜んでたもんね。どんな人か聞くと影働きを志望しているそうだ。私も顔は知っている相手だが私がそのことを知らないほうが良い場合もあるらしい。よくわからないが警備上そういうこともあるのだろうか?なんか映画で見たような特別警護とか傭兵とかっぽい。
ジュリオンがそれなりに信用しているようだしきっとここは安全なのだろう。
ヴェルダース伯父上との戦闘のときには王都中に兵を伏せていたがここから見える建物にもなにかあったときのための突入班を準備してもらってるし……うん、大丈夫。行ってみよう。
「こっちー!」
「はーい!」
さて、鬼が出るか蛇が出るか……聖女は出てこないと思いたいが。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
リュビリーナさんは聖女だった。
遠くにいたリュビリーナさんはお菓子を配っていて、それはなんとお手製であった。
「外の子なのー」
「あらそう?あら、あなた達……」
「…………」「…………」
何も知らない小さな子はいきなり調査対象に、どストレートに案内してくれた。
思わず身構える私に前に出て私を隠そうとするジュリちゃん。
「リーナ様がどんな人か知りたいんだってー」
「ふーん……ほら、美味しいわよ?仲間がいるなら連れてきなさい」
「あ、ありがとうございます。私たちだけです」
バレたかと思ったが、クッキーのようなお菓子の端を割って自分で食べてから私たちに差し出したリュビリーナさん。
いつもと違って小さいジュリちゃんがなにかする前にするりと前に出て受け取る。
私たちの格好はピカピカの肌にボロの服を着ていたどこぞの変装王様と違ってちゃんと下町の服を着て、髪も爪も自然に汚れている。この格好が普通に見えるぐらいには自分で掃除とかして汚したからね……シャルルとは違うのだよ!
「そう、この子達に服を」
「よろしいのですか?」
「ガーレール商会は子どもに優しいのよ」
「……リーナ様が優しいのですよ。わかりましたよ」
子供っぽく受け取ったお菓子をすぐにポリポリかじる私。菓子を懐にしまったジュリちゃん。ガッツリ甘くて、私の知らないナッツが入っていて歯ごたえが心地よい。
……あれ?なんか服をくれるっぽいが、私の想定の「一般的な服装」だとボロすぎたのかもしれない。そう言えば私も賭場やリヴァイアスの服は知っていても「一般的な王都の平民の服」はあまり知らないから――――結構なボロ着に恥ずかしくなった。
「気にしなくていいわ。仕方ないわよね」
「あ…………あ、りがとうございます」
自分の服を摘んで見ていると――――至近距離まで顔を近づけられた。
わざと土で汚れているというのにためらいもなしに接近してくるだと……バレたか?!
内心複雑な私のことなどつゆ知らず、リュビリーナさんはいなくなってしまった。
どうやら、今のところ、凄くいい人っぽい気がする。
服をもらって、着替えて小さな子は孤児院を案内してくれた。
ここの孤児はオベイロスの王都だけではなく、オベイロス国中から集められている。学園のように元は貴族の子弟が中心ではない。政争で荒れた領地では身売りや口減らしも行われていたそうでそういった難民を中心に集められている。
ただ集められたわけではなく、代わりに商売で優遇してくれるようにとその地の権力者や貴族に恩を着せていた。
ジュリちゃんも「情報通りです」と耳元で教えてくれるが……にわかには信じられない。
人は生きていくだけで結構な金額がかかる。もともとガーレール商会長は反対していたそうだが聖女リュビリーナは「人が救われるのは良いことだわ!」と実行した。
商売としては間違っている。政争当時は今よりも食料品は高かったはずだし、貴族や兵も気が立っていて横暴だっただろう。
自分の服を売って10人救い。自分の装飾品を売って20人救うリュビリーナに家族も目が覚め、手伝うことに。
しかしガーレール家は貴族でもあるが商売を行っている。身に纏うものを売るだけでは駄目だ。やるなら世話をするようにリュビリーナは諭された。
結果として赤子の世話からお菓子作り、仕事のやり方まで教育しているリュビリーナ。
哀れな子どもたちは礼儀作法を学び、王都の北側の清掃や貴族のお宅に訪問しての御用聞きに回らせ、貴族にも称賛される体勢を作り出すなど、流石はオベイロス王国の后となろうという素晴らしい人物である。あぁリュビリーナ。オベイロスにこの人ありと謳われる美しき娘よ。彼女の将来は国一の商会を担うのか、それとも国母となりうるか?リュビリーナ聖女伝説7巻完」
絵本である。ガーレール商会内部謹製の。可哀想に……じゃない。私もきっとリヴァイアスでこういうの勝手に作られてるんだろうなぁ…………じゃない。
きっと脚色は入っているだろうが、リュビリーナさんは大筋こういうことをしている人物なのだろう。
絵本を読んでくれたりしてくれる子どもたちだが、最近は塩や交易品を売る悪のリヴァイアス商会が幅を利かせていてここのところ暇らしい。しかし商売が忙しくなれば彼らも忙しくなるそうだ。
他の子供達に聞いてもリュビリーナさんは凄く良い人のように思う。
おしめを替えたり、御飯作ったり、算数を教えたり、商売のやり方を教えてくれたり、絵本の朗読や寝かしつけも行う。絵本は自分のもの以外を読むそうだ。凄いわかる。
平民からも慈善活動は受けが良い。
基本的に商人は善性の生き物ではない。混ぜものをしたり秤で量をごまかすなんてよくある。そんな中そこそこまともに物を売ってくれて、小さな子を受け入れて慈善活動をしている。平民にとって「何かあったら頼れるかもしれない存在」だ。
商会もリュビリーナさんもすこぶる評判が良い。
子供相手にドレスのまま追いかけっこをするリュビリーナを見て――――余計この人物がわからなくなった。
最高のコメント来てた(*´ω`*)皆様いつもありがとうございます!