水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
リュビリーナから、何事もなく逃げることが出来た。建物から離れてもまだすぐ後ろにいる気がしてなんか怖い。
だって、夢でほんのりほんのり誘導してどんな人か知ったけど……つまりはあれこそが嘘偽りのない彼女の本心だったってことで、背筋とか耳の裏がゾワゾワして仕方ない。
私の様子を見たジュリオンが何を考えたのか出入り口に配下を集めていて、問題なく脱出が出来た。影働きしたいと言っていた人もちらりと見れたが治した貴族たちだったようだ。
まぁ、元気に自分の考えで手伝ってくれるなら良しとしよう。第一印象がみんなボロボロだったり痩せた病人だったこともあって寝ててほしい気もするが。
しかし、どうしたものか。
破滅願望のあるリュビリーナだが、精神を見ていくと彼女は子どものようだった。
親には家庭教師をつけられ、周りには肯定する人しかいない。失敗は誰かのせいや偶然。成功は派手に「流石はリュビリーナ様!」となんでも持ち上げられて小さなことでもパーティを開催されて当たりまえ。我儘はなんでも許される。それは自身を肯定されることで少し気持ち良い。しかし、否定される方がより愛情を感じられる。
親に見てもらいたくて悪さをする子どものように、精神がねじれ曲がって成長したような……。
大人になっても勝って当たり前だし、どこまで自分が愛されてるかを確かめるために叱られたくて、全部台無しになるかもしれないのに止められず。そのうちに自分でもいつの間にか叱られることが快感になってしまっていた。セルティーには叱られて嬉しかった。
「うぁぁ……ぶるぶるぶる、あ、あ、あー?」
嬉しかったのは私ではなかったはずなのに自分のことのように感じてしまって寒気が走る。
「だ、大丈夫かい?」
「全然大丈夫じゃないので抱きしめててください」
「え、あー、良いのかなこれ?何があったの?」
「……深淵を覗いたと言うか深淵を体験したと言うか、もっとぎゅっと」
「はいはい」
馬車に乗ってすぐに横にいたイリアの胸に抱きしめられている。
緊急事態に高級店舗に紛れ込むことが出来るようにとドレス姿である。エール先生は馬車の向かい側にいたので横にいたイリアである。ふんわりドレスの下は薄手の防具をつけてるのか硬い。
彼女の精神に釣られてしまっている。あの子の人生を僅かでも体験したようなものだから自然とあぁなった理由も理解できてしまって、自分のことのように感じられて気持ち悪いかしら。
………………かしら?
……記憶の中の伯父上がルカリムシステムを多用しなかったのも頷ける。精神への接続は嘘がつけないし、便利は便利だがこの感覚は本当に気持ち悪い。私の使い方が下手だったのか、それともより深く知ろうとしたからなのかもしれないが。
襲撃に関与してないことの確証は得られたが私への興味と執着が見て取れた。「シャルルの膝にいた私に向かって恋敵としての嫉妬」じゃなくて「椅子としてのシャルルに嫉妬」ってなんなんだ?
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
屋敷に戻って即ベッドに入った。ヤバいものを見てしまって、自分で自分が落ち着いていないと自覚している。休憩が必要だ。
杖も石でガチガチに封印してたけど今は近くにいて欲しいしすぐに解放する。少し反省したのか肌に当たる距離だったのにいつもの位置に戻った。
「キュクルルル」
「リューちゃんはそのまま素直でいてくださいねー」
「クルルル」
小さな翼でパタパタと飛んできて無垢な瞳を向けてくるリューちゃん。この子は純粋なままでいてほしい。
大きくなってきたし結構な重みもある。寝そべっていると胸の上に甘えに来るがそろそろ駄目と教育するべきか?しかし、このよちよちした足の重みが気持ちよくもあるし注意するの……も、あれ?ペットの重みはおかしくない…………よね?
――――数日引きこもっているとパーティに行くことが決まった。
「名目は何でしょう?」
「えーと、精霊の恩寵を賜ったリヴァイアス侯爵のお祝いと「さぷれーぜ」なる催しがあるようです」
「さぷれーぜ?なんです?」
「わかりません。外国の言葉かもしれません」
エール先生も知らない言葉ということは、外国の姫君が来ることに関与した行事かもしれない。
私のお祝いだからか少しソワソワしてるようなエール先生。
「お祝いって……いえ、わかりました」
リュビリーナの記憶からして大貴族なら節目やなにかの際にお祝いするのは当然っぽい。年齢だったり、難しい魔法が使えるようになったり、精霊と触れ合えたり、精霊からの加護や恩寵を得た場合などなど。
爵位貰えたときはしたけど、そういうのってよくわからないな。
まぁ事件もあったし貴族に対して「リヴァイアスは健在だ」とアピールする機会になると考えればいいかな。
宣伝したい食べ物とかも設置済みらしい。え?ラーメンも設置したって?……ええ?お店で人気だし貴族の噂がシャルルの耳に入って要望されたから?そんなの出してたっけ?…………資料?あ、これかぁ。
ニンニクカラメヤサイマシなラーメン。
うどんの乾麺作りに困ったリヴァイアスの職人が私の前世の曖昧な知識を書き出した「開発したいノート」の情報を元に作った極太縮れ麺。うどんの「乾麺」を作ると何が悪いのか少し柔らかくなりすぎる。そこで製法を工夫して作られた「生麺」が歯ごたえもあってうまくマッチしたようだ。
スープはうどんがベースだったので昆布や魚介の出汁のはずだったのに、いつの間にか動物の骨をよく煮込んで味を出して作っている……うどん店。サイっぽいあの動物、油がコテッとして美味しいからそれで作ったらしい。
うどん店の試作品メニューでお客の反応を見ていたそうだが今では普通のうどんの麺は全く売れずにそちらばかり売れているらしい。
もやしが山盛りとなり、にんにくが目で見えるあれはラーメンの一種として絵で伝えやすいものだった。味噌や醤油や豚骨のような「特定の材料が必要」と伝えるといまいち伝わってなかったから……塩ラーメンなんて塩水に茹でた麺が入ってて意味不明だった。豚骨に近いものは既に開発されていたけど少し派生したようなものかな?
リヴァイアスでは昆布や魚介が簡単に手に入るが、王都では廃棄される骨が多い。骨が入手できるから試行錯誤もしやすく、私のメモした指示通りに味を濃くして野菜をたくさんのせることになった。価格も抑えられて提供量もそれなりに多くできる。しかし量が多いことからリピートは人次第と……うむ、良い傾向だ。資料もそれなりにわかりやすい。
いや、うん。美味しいのはわかるよ。だけどこれって貴族のパーティに出すにはちょっと。
「ゼンマシで」
「ヤサイマシマシで」
「よくわからないし普通でお願いします」
「わかってねぇなぁ、アブラとカラメは増やすべきだろ!」
「アブラってどういう意味だ?」
「この分厚い肉美味いな!!」
「……マシマシはたくさんって意味だったか」
「アブラオオメカラメスクナメをお願いいたします」
「黙って食え、食えばわかる」
「これが流行りか……陛下は美味しいものをよく知ってらっしゃる」
行ってみるとなんか既にファンが居るようで知らない人に教えながら服の汚れを気にせず食べてる人がいる。異様な光景である。
正確にはニンニクではない野菜なのだが……何故か定着している。相変わらずカレーコーナーもあるけど「貴族」ってこれで良いのだろうか……。
小盛りに作ってもらって食べてみるとかなりイケる。とんこつというよりも上品なテールスープのような味わいにアブラを混ぜると上品すぎたスープにアブラの甘みと強い旨味が追加されてより美味しい。少し濃いスープなのに上に乗った野菜がシャキシャキとしていくらでも食べられそうだ。野菜やトッピングは勿論モヤシや豚肉ではないのだが相性の良い野菜を探したのだろう。
麺は成長過程の私には少し硬く感じるが強いスープと絡まってとても良い。魚介系の優しいスープのうどんも美味しいと言えば美味しいが麺が柔らかいためこちらのほうが売れているのも頷ける。
ドレスを汚さないように食べ終わるとシャルルが来た。
「よく来た!フリム!今日は楽しんでいくが良い!!」
「ありがとうございます」
元々出迎えで待っていたようだけど先にラーメンを食べて服が汚れたようで着替えに行っていたらしい。
シャルルは私のアホ毛が光ったことを凄く祝ってくれたのだけど、そもそも「髪が光ってのお祝い」とか全く嬉しくもなく複雑な気持ちである。
髪が光るのは再現しようと思っても出来なかったのだが「精霊の気まぐれかもだったのかもしれないな!」と明るく祝われた。
しかし、会場に来ている貴族に私の元気そうな姿を見せられたし、全て問題ないはず。
なのに嫌な予感がして仕方ない。
――――きっとやつが来る。まだ見てもないのにゾワゾワしてしまう。
「あの!フ、フレーミス・タナナ・レーム・ルカリム・リヴァイアス様っ!!」
後方から声がする。しかもフルネームで呼ばれた。
この国では名前の名乗り方は結構雑な部分があるから基本的にフルネームで人を呼ぶようなことはない。――――なのに、わざわざ暗記までしてフルネームで呼んでくる。
誰の声かもわかってしまって……ゾワッと悪寒が腰から上がってアホ毛まできた。
「あぁリュビリーナか、今は俺がフリムと話してるんだが?」
「そ、その、フレーミス様に伝えたいことがありまして」
「それは俺とフリムの話よりも大事――――「なんでしょうか?」
シャルルが彼女をぞんざいに扱おうとしているのが声の冷たさで理解した。
それは駄目だ。ガーレール商会は大貴族でもあり、国一の商会である。貴族のつながりもあるしシャルルのためにも軽く扱ってはいけない相手だ。
仕方なく……仕方なく振り返って見てみると、何故か艶っぽく上気させたリュビリーナがこちらを見て、尻尾を持っている。孤児院につけていったやつか。
「リュビリーナは!……あ、あの!」
大きな声を上げてから言葉をつまらせたリュビリーナ。
怒りに任せてきたというわけではなさそうだ。
自分の思考を覗かれたことに怒った可能性も考えたのだが……そっちのほうが良かったのだが…………得体のしれない恐怖を感じる。
会場もこちらに注目して静まり返っている。追って彼女の取り巻きたちもやってきた。
何をするつもりかわからないが何でも良いから彼女を止めてくれ。
「リュビリーナは!リュビリーナ・レンドリュー・デ・ガーレールは!ガーレールはっ!!――――貴女様の下につきたく存じますっ!!それとお慕いしていま……す」
耳まで真っ赤になって、膝をついて頭を下げるリュビリーナ。
意味がわからず、意味がわかって、意味を理解した上でそれを拒否したくて、寒気が再び身体を這い回った。
「――――……は?」
意味がわからないであろうシャルルの声がやけに大きく聞こえた。
インパクトが強いのはラーメンの味だけでいいです。
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