水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
一旦リュビリーナを下がらせたシャルル、ナイスすぎる。
何故こうなってるのかと聞かれて、主犯だったのか確信を得たかったから潜入して思考を覗いたというと呆れられた。
「――――……ということは奴も関与していたのか?」
「……だったらどれだけ良かったことか」
シャルルは私の反応からリュビリーナを不審に思ったのかもしれない。彼女のことはオブラートに、やんわりと、それとなーく説明する。……シャルルは余計に意味がわからないと言った反応だった。説明不足だろうけど君の婚約者だしね。
しかし、話し合ってみると彼女が襲撃に関与していないのならガーレール家が配下になるのは凄くありだと理解できる。主犯や共犯の方々は重い罰を受けるべきだが。
この国では「部下を抑えられなかった組織の長としての罪」とかはあまりない。むしろ組織の長こそ悪さをすることが多いという腐敗ぶり。そして国にとって大きな存在であるガーレールを強く糾弾したり、裁けるかと言えば……シャルルの立場上やれないことはないだろうがやらないほうが良いはずだ。
今回、主犯であるリュビリーナの取り巻きと近衛騎士の兄妹の動機は不明だがはっきりと『リヴァイアスとガーレールは敵対した』――――……このままならリヴァイアスとガーレールで全面的な紛争となりうる。
基本的にリヴァイアスの民も兵もシャルルのこともオベイロス中央のことも嫌っている。そのためガーレールに謝罪させ、何かしらの譲歩をさせなければ……今度こそシャルルもオベイロス中央のことも見限るだろう。
リュビリーナはガーレールの家名を出して私の下につくと表明した。
リュビリーナはガーレール家の一人娘であり、取り調べを受けている当主の『代理』である。代理とは言えそれは家を代表しての言葉で……後で当主の『商売貴族』が撤回出来ないことはないが、それではガーレール家の信用に関わる。
現在の当主は彼女を目に入れても痛くないほどに可愛がってるし、取調べ後にこれを容認するのなら……ありである。取り消されることも考えられるが。
王都の商会はガーレールこそ最大手であり、今は盛り上がっているとはいえリヴァイアスは新興だ。なのにリヴァイアスは塩の取引に交易品、更に軍でミネラルブロックで莫大に儲けている。これまでにないカレーを始めとするこれまでにない商品は王都の商売を少なからず、いや、大いに荒らしているだろう。
更には後継者であるリュビリーナはオベイロス王シャルトルの筆頭婚約者の1人とされているのにいきなり同格かそれ以上の立場で現れた歳下の小娘に人の目のある会場で膝をつかせた。……この国の貴族基準で考えれば恨まれて当然と言えば当然だ。
「ほら、エールの作ったケーキだ。後俺もロールアイスを作ってみた……また考えてるようだな。ほら口」
「……あーん」
「お、素直だな。たくさん食べると良い」
シャルルの膝の上でケーキを食べる。
色々ありすぎて莫大なエネルギーを消費した脳に甘味が心地よい。ショッキングな出来事でダメージが大きすぎたんだ。
……ガーレールと王都の貴族の縁を加味して戦力分析すればうちは分が悪い。うちの派閥に入ってくれている貴族の大半は平和主義かつ非戦闘の考えで派閥入りしている。最近治した元騎士や元当主の人たちもきっとまだまだリハビリが必要だろう。完全にガーレールの戦力を把握しきれていないのもあるが――――なにより、王都とリヴァイアスでは「距離」がある。クーリディアスにいた兵の数を考えれば確実にうちの方が有利だろうがそもそもの戦力が王都にはいないのだ。
道中の貴族も全員が好意的ではないのだから戦いになれば兵站に問題がある。仮に全面抗争になれば王都にいるガーレールのみが敵ではなくリヴァイアスを危険視する王都の貴族もこぞって敵に回る可能性もある。
――――だが、ガーレールがうちの下につくと決めたのなら話は全くの別だ。勿論最低条件としてガーレール側からの謝罪や賠償金は必要となるが。
それに戦いとなれば失うものが多すぎる。最悪王都の動きを知ったライアームが攻め込んできかねない。
商売貴族は政争で荒らされたリヴァイアスの元領民の奴隷を集めて私に超高額で売りつけようと画策していたと言う情報もある。集められた人々がガーレールの面子のために他所に売られたり殺されたりする可能性を考えると……それも避けたい。
――――……これ、リュビリーナの一人勝ちな気がする。
現在、彼女こそがガーレール家の代表であるのは間違いない。しかし、この判断が当主の意に沿うかもわからない『やり過ぎな采配』に思える。
事情聴取から帰ってきた当主に責められればそれはそれで彼女的にありだし、責められずにこのまま認められれば私のもとに来るつもりのようだ。彼女にとっては親の愛がどこまでかの確認が出来るうえに……私と触れ合えるチャンスである。もしも認められずに勘当されたとしても1人でうちに来るつもりだろう。
そしてどちらにせよ私の下について罵ってもらおうとしている。あと魔力の圧で潰されてみたい……そこまでわかってしまう。
「頬に付いてる……ほら、とれたぞ。それでどうする?何を考え込んでいるかわからないが、なにか問題があるのか?」
「…………」
リュビリーナの深い部分で椅子になりたいとか……歪んだ破滅願望のような一面を伝えていない。知らないシャルルからすれば喜ばしいはずだ。
貴族院のデンレール、大臣の中でも力を持つポヨ、何をするかわからないが力を持つ魔導省、この国一の商会を持ち多数の貴族とコネクションを持つガーレール。
皆シャルルを支持はしているが戦となれば裏切りそうなダメダメな勢力ばかり……いずれもとても大きな力を持っているし、どうしたって配慮しなくてはならない。そんな大勢力の一角が私のもとに来て制御できればシャルルにとって安心できるはず。
どう考えても受け入れたほうが良い。私に向かって謎の執着心を持っている部分は正直気持ち悪いが、それでもこれこそ『人の死なない正しい選択』のはずだ。
大人の精神を持ち合わせている私からすればリュビリーナはまだ矯正可能だと思う。
前世基準で考えると我儘な学生のようなものかもしれない。自分を罵倒させることに快感を得ていたがやってきたことは善行。悪さも我儘を言って困らせたりするような可愛いものばかり……いや、後宮や魔導省に御禁制の道具や薬品を持ち込んでたのは良くないか。
何をしてくるかわからない部分を生理的に恐怖しているのはある。だが多角的に、色々考えても、どう話が転ぼうとも……受け入れないのは、駄目だろう。
「ガーレールは部下の暴走を止められなかったことを正式に謝罪します。後ほど詫びの品を運ばせます」
「わかりました。謝罪を受け入れましょう」
頬を赤く染めて恭しく頭を下げる彼女の見た目はとても綺麗で…………言っていることもやらかした取り巻きや当主のことを庇おうとする姿勢は聖女のようにも見える。
――――なのに中身がなぁ。
「そ、傍で仕えさせてはいただけませんか?」
「…………それには条件があります。ルカリムによって貴女の真意をもう一度確認したいです。そして当主が帰還後容認すればとなりますが……そちらも受け入れられますか?」
ルカリムシステムでもう一度精神をチェックしてから決めることにした。
「勿論ですっ!!いますぐにでもしてもらいたいですっ!!!」
「では……<おねがい、ルカリム>」
すごく嬉しそうなリュビリーナ。きっと最悪なまでに渋い顔になってしまっている私。
心底やりたくなかった……やりたくはなかったが、彼女は寝ていたし夢の中ってよくわからない思考や行動をすることもある。いつか何処かで確認は必要なはずだ。
思考が繋がってると伝えた途端「好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き」と怒涛のラブコール。思考が寝てるときは素直だったのに、ガンガン意識が伝わってくる。
「それはやめなさい」
私の唇や瞳に全神経を集中しているのも伝わって来る上に、いきなり「今脱いで押し倒したらどんな表情になるかしら?いえ、武器は何も持ってないと証明するために脱いで、そして、踏んでもらって――――どちらが下かを周りに見せつけたらどうなるかしら?」なんて思考しやがる。やめろくださいかしら。
一応私側の思考は漏らさないように調整してみるが……知ってか知らずか――――
「このあと貴族用の休憩室に2人っきりなんてどうかしら?」「やっぱり好きね。愛してる!ぎゅっとして!愛して!」「ルカリム様いると不思議と気持ちいいなぁ」「私のこと知ってもらいたい。どこまで見れてるのかしら」「まつげ触りたい」「私を見てくれてるっ!!」「うちの生地でドレスを作らせたい。良い服を私の考えた服を着せて……一度脱がせて、その肌着は私がもらって、私が着せていくのなんて……ふふっ」「私が侍女みたいに振る舞ったらお父様なんていうかな?」「魔力溢れた!気持ち、イイ!」「陛下こっち見ないでよね。フレーミス様は、私の!」「怒らせるようなことをしたら良いのかしら?その動く御髪食べてみたいなぁ」
なんて……休む暇もなく考えてきて精神力をガンガン削ってくる。ゾッとする、マジキモい。
「あぁん!つれない!!」
少し漏れたか。
そうしてなんとか本人の真意を確認し……悲しいことにリュビリーナが私の取り巻きとなることも容認しよう。ルカリムシステムでこれからよろしくと淡々と伝えて解除する。
断りたい気持ちは常にあるが、政治的にはすごくありなのだ。今なら買い占められてたリヴァイアスの民がおまけで引き渡されるそうだ。
そっちだけでいいです。だって――――
「変態すぎる」
「<……っ!?――――……ぁ…………あぁ!良いですわぁっ!!>」
声に出てしまったが、それを聞いて体を一瞬はねさせて震わせて悦んでいるリュビリーナ。私は泣きそうである。世界は残酷だ。
「……」
「できれば魔力を込めてくださいまし!是非!!」
会場に気を戻すと、元は王家の大精霊であるルカリムが会場に浮いていてそれを見て感動していたり、あぐらで呆然とこちらを見ている貴族に……祈ってる人もいる。
遠目には何が起きているのかわかってないんだろうな。
あまりの出来事に近くのエール先生もジュリオンもドン引いている。女性嫌いにフィルターがかかってるシャルルは理解できていないようだ。
しかも何が嬉しいのか、リュビリーナはその後、誰の目の前でも私の下僕のように振る舞った。
どこから出したのか、靴に埃がついただけなのに椅子に私を座らせて自分の膝の上に靴をおいて靴磨きまで始める始末。モーモスが対抗しようとしたが人の上に立つことに慣れているリュビリーナのほうが道具も気遣いも上だった。用意してたのね。
私の悪評は凄まじく上がっただろう。大精霊の力に物を言わせて人気の聖女を屈服させて使役する悪役令嬢である。
リュビリーナの取り巻きの人も怖い。
私に対しての反応が「怒ってる人」「無反応な人」「リュビリーナに道具を渡すような人」で分かれている。リュビリーナ視点ではバレてないと思っていたようだがバレてるんじゃないかなこれ。はぁ……水のもう。
「こほん、まぁ、頑張ってくれそれよりフリムにサプレーゼがあるんだ」
「サプレーゼってなんでしょう?」
何やらシャルルが嬉しそうに伝えてきた。何だサプレーゼって?外国のお菓子とか?儀式か?
そろそろ更新頻度落ちるかな。ストックなくなってきましたし、他の新作にも手を付けてたりいろんな作業をしてたりします。
小説3巻にコミックの発売日も発表されましたが……何処までいけるかなぁ(*´ω`*)