水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね? 作:mono-zo
列車は思ってた以上に広く、前世の電車の倍は横幅があるだろうか。何両も連結されていて車両と車両の継ぎ目には板が設置されている。その上に絨毯が敷かれていて車両の区切りはいまいちわからない。最後尾には何故か船とピラミッドのような何かが載せられている車両がついてきている。
各車両には日持ちする食料もあるし中継地点にも準備されている。それに風属性の騎士がたくさんついてきているので運行については基本的に全てお任せで問題ない。
車両に壁はない。
絨毯は徒歩可能な絨毯と寝転んでも良い絨毯に分かれている。クッションのある場所で自由に寝ていいらしい。
クッションにダイブしてリューちゃんを抱っこして休む。きっと私は疲れている。
ピラミッドのような車両にはトイレと風呂が設置されていて他の車両と違って一段と車体が高い。重量がある分車輪やバネに工夫がされているようだ。帆船タイプの電車に人は乗っていない。
「乗ると危ないからの?」
「なんで作ったんですか?」
「そりゃあ……あとでわかるから楽しみにしとくがえぇ!」
ユース老先生は何かを言いかけたがすぐにニヤリとして楽しみにするように言ってきた。
全員空飛ぶ絨毯のような車両に乗っている。
何処に乗っても良いのだけど身分があまりに違うと身分差がある人が緊張するため車両ごとにある程度身分が近い人が集まっている。三両目辺りに筆頭婚約者格の私たちが乗った。
ミリーたちのところで休みたいのに……まぁ時間はあるし折を見て行くか呼ぶかしよう。
グデっと完全に休憩の姿勢に入った私、他の人は何処か浮かれてる気がする。
ユース老先生は出発直前まで車輪や車体の下側を調べていたらしく疲れているようだった。水を渡すとユース老先生は一気飲みして、近くで横になった。
「あれらがなければもっと速いんじゃが……まぁ仕方ないの」
じゃあなんで作ったんだろうか?耐久実験かな?
しかも帆船タイプの電車は帆に風を受けて進むことも想定されているはずなのに、マストは全部外されていた。
しかし……この車両、大丈夫なのだろうか?
広くて前後に長い車両。連結部には板を重ねて絨毯が敷かれていて継ぎ目がわかりにくい。揺れもそこまでないし結構な速度で動いている。
安全のためらしいがこれから数日かけてリヴァイアスに向かう事となる。空を飛んで1日から3日の距離、通常の陸路で数週間から数ヶ月。鉄道での実験結果では2日ほどでリヴァイアスについたそうだ。
……リヴァイアスからオベイロスまでの距離はどれぐらいなんだろう?以前リヴァイアスからオベイロスまで手紙を運んでもらっていたが鳥人で1日から3日だ。それは天候の影響もあるし空には空を移動する魔物もいるからばらつくのだが……ん?あれ?それを実験で2日、それもこの大きな車体で移動したということは、キャノンボールのようなスピードで移動したのだろうか?
安全運行を指示したのは間違ってないな、うむ。
ユース老先生は超魔力水で寝てしまって、キマさんが書類を渡してくれたのだが『難所は事前に準備し魔法を使用した』と書いてあるし、鉄道について色々分かってきた。
前世では当たり前だったが「車がカーブを曲がる」のにはなにかの装置が車体の下に存在した。車には内輪差があって曲がる時に前輪と後輪が通る箇所は違うし、装置無しでは車への負担が多くなる……だったかな。当然鉄道のような車両が長い場合にはより差が大きくなる。車が壊れたと嘆く父に修理費と共に教えてもらった覚えがある。
大昔の蒸気で動く車も確か曲がるのが難しかったはずだ。
しかし、その『曲がる』問題を解決せずに安全運行が出来る車両を作るのは難しい。なぜなら池や崖の迂回ができなければ当然危険だからだ。
だからか――――……この鉄道は、ほぼ直線で作られている。
水場は橋をかけ、山をぶち抜くような作業をこんな短時間で行っていたとは……いや、魔法のない前世との比較だが。
カーブはほぼないが上下には少し余裕があるようだ。
「フリム様!……大丈夫?」
「ミリー、大丈夫ですよ。ちょっと休憩してました。どうかしましたか?」
寝転んでいるとミリーたちが来た。
寝転んでいる私たちの横をお見合い参加者は結構移動していた。列車は珍しく多分オンリーワン。結構なスピードで移動する列車が珍しいのか落ち着かずに前後に行き来している。
前二両は騎士や物資にディア様もいるから実質この三両目辺りが行き止まりである。私たちを見て引き返すお見合い参加者の多いことよ。
「探検してた! フリム様も見に行かない?」
「行きます」
クライグくんも、モーモスも、ミリーも……新たな乗り物にめちゃくちゃ興奮しているようだ。居場所で落ち着かない人もいるようだ。リーズたちも何やらウロウロしていた。
正直私もアトラクションみたいでちょっと楽しい。楽しくはあるのだが……色々考えてしまう。
書類に書かれていた移動速度も理解できた。全部直線で更に風魔法による保護があるからスピードが出せるのだろう。やはり実験では事前に獣や人が通らないようにした上で限界速度に挑んだのだろう……じゃないと説明がつかない。
リヴァイアスで水路を作るときには私が指示するんじゃなくて任せると思いもかけない発展をしていたがそれに近い。きっと製作陣なりにすごく努力したはず。
特に男性はみな童心に帰った少年のように目を輝かせている。クライグ君、動いてる車体の下に頭突っ込んで覗くの危ないからやめよ?
前後を歩いていくと思うこともあったが結構楽しめた。
私のいる車両には筆頭婚約者全員いるわけで……そこにはエルストラさんもいる。当然彼女の護衛である『雷剣』ブレーリグスもいてジュリオンと睨み合っているし…微妙に居づらい。リューちゃんと休んでいたがやはり少し気を遣うし息抜きがしたかった。リュビリーナはついてきたけど。
風の騎士が何人もいて各車両ごとに風魔法で包んでいるようで風圧などはなくかなり快適である。
ただ高速で動いているし、振動はある。壁がないのは違和感しかないが、前世の電車の車両よりもかなり横幅も広いし問題はない。私が通ると下がって頭を下げる人もいるが危ないので止めさせよう。うっかり車体から落ちるなんて恐ろしすぎる。
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ものすごく長い車両、長いことは長いが車両同士のつなぎ目も板でほぼ問題ない。しかし、これだけ長く、これだけの大人数であれば結構な重さがあるのによくも動かせると思う。
先頭車両では精霊鳥が紐で引っ張っているが、馬や土魔法使いでも動かすことが出来る。精霊鳥の機嫌が変わることも考えてか前後に馬や騎獣も並走している。
心配は心配だが、まぁ任せることにしよう。
3両目のあたりに戻ってまた休むことにする。
列車に乗り込む前に挨拶したリュビリーナパパと……あれから後ろについてきているリュビリーナによって精神が削られている。やはりルカリムシステムは他の魔法と違って負担が大きい気がする。
「エール先生、寝ます」
「はい」
「お姉様、ぜひ私にもたれ掛かってくださいまし」
「…………まぁいっか。わかりました」
いくつかあるクッション。私の分もあるのだがラズリーさんがいくつか確保して寝てしまっていた。
すぐ近くでユース老先生も寝ちゃってるし、2人は親族だしそっとしておきたい。
エール先生とジュリオンがブレーリグスの位置を考えて私の居場所を何処の辺りにするか考えている間にリュビリーナは小さめのクッションにすでに腰掛けていた。
他の子弟と違って筆頭婚約者格には最低限の護衛もいる。この車両では結構睨み合っていてとっさに動けるようにするためにもエール先生にもたれるわけにはいかない。
仕方なくリュビリーナにもたれかかる。ホントはまだ嫌だが、あまり邪険にしてもこの娘のクレイジーな部分が出かねない。ラスリーさんを起こしてクッションを帰してもらうのも忍びないし。
「はぁぁ……な、なにか必要なものはありますか?お姉様」
「疲れているのでそのまま動かずにいてください。私は寝ます」
「わかり……ました。……んくっ」
体重を預けるとリュビリーナからなにか声が上がったし、生唾飲んだようだが気にしない。他の令嬢も反応したようだが気づかなかったふりをする。……ほんとはリーズとテルギシアたちのとこで休みたい。
ちょっと考えよう。書類仕事をしたかったのだけど風圧がどれほどかわからなかったし下手したら機密が全部文字通り吹っ飛ぶ。だから書類はリヴァイアスに空輸で持っていってもらっていて仕事はなくなった。
だけどこれから到着すればやるべきことも多くあって……先に考えておく必要がある。
これからリヴァイアスに向かって、ライアーム殿下の息子と娘、それに他国の姫君を待つ必要がある。それの出迎えのためにお見合い大会の参加者も連れて行っている。お見合い大会の責任者はオッヴァーディア様。
ライアーム殿下は私にライアーム殿下の息子を、シャルルにライアーム殿下の娘をあてがうことで国をまとめようとした。
まぁシャルルからしても結婚の問題を人に言われるのは今更だし、レージリア宰相とシャルルがやけ酒をして「国中の貴族の子弟を集めてのお見合い大会」を思いついて開催した。これによってライアーム派閥の子弟とシャルル側の子弟も婚姻によって政争による国内の不和を解消しようとしている。
ライアーム殿下の派閥の中枢の子弟はまだ到着していないが、それでも中央に比較的近かった西側の子弟もお見合い大会には参加しているし、少数ではあるものの何組かは婚約も成立している。
ライアーム殿下の子どもは政争時に生まれたため私よりも歳下の四歳か五歳だ。この2人からの婚約を回避するためにもお見合い大会はあるわけだが……まぁ長引かせて、決着をつかせないようにすればそれだけでも良い。一応私はシャルルの婚約者となったことでライアーム息子らがお見合い大会でうまくいかなくても「男女の恋愛で負けただけ」とライアーム派閥の婚約の申し出をはねのけることが出来る。まぁ長引かせることでライアーム派閥と王都が冷戦状態となっている現状から徐々に仲良くなっていけば良い。問題となる五歳以下のおこちゃまなどあしらってしまえば良い。
国の貴族には憎しみも残っているが、このままでは駄目だとも皆が分かっているのだと感じる。
しっかし……名目上お見合い大会は「シャルルの婚約者選び」も主目的のはずなのにシャルルがいないのはどうかと思う。まぁ、外国からの姫君らを迎えるのに船で来るというのだからうちで迎えるのは悪くないだろう。王様が国の端にいるのも良くないしね。
それにしても何故、オベイロスの西に拠点を置くライアームの息子たち一行が王都よりも東のオベイロスに、他国の姫君も込みで来ようとしているのだろうか?
私の婚約者候補であるライアームの息子も来ると考えるとなんか複雑な気分である。
シャルルは婚約者としては見せかけだし気にすることはないが、おこちゃまが相手なら出来るだけ傷つけずにあしらう必要がある。
そもそも私、モテたことがないし、男性のあしらい方のスキルなんてない。
何度か友達に誘われて合コンぐらいは体験したが、日経平均株価の話とかすると離れていってしまう。その程度で離れるならその相手は私と合わないし問題はないのだが……いや、妹と弟の友人にはモテモテだったな。
「どんな髪型でもセットしてくれる最高のお姉ちゃん」と妹が紹介していて数回髪をセットしてあげた結果『謎のカリスマ美髪師!』みたいな持ち上げられ方をした。
弟は……モテない弟に軽く料理を作ってあげると弟の友人たちには謎にモテた。母さんが忙しい時にお弁当作ってあげただけなんだが男の子は冷凍食品でさえ「姉」が作ってくれればそれで嬉しいらしい。よくわからん。
声をかけてくることはなかったが、妹の友達も弟の友達も駅で会ったりして手を振ってあげると喜んでたなぁ。
基本的にモテ要素のない、結婚相手や付き合ってる相手もいなかった私だ。『同じ年頃の男性がいきなり婚約者として現れるっ!!しかも王族!』なんて信じられん。
どうすれば良いのだろうか?
両家の挨拶とかして「あとはお若い者同士でオホホホ」みたいな感じ?学生時代のデートの定番といえばゲームセンターに行ったり映画館や水族館…………全部無いな。
そもそも貴族的なお付き合いの仕方ってなんだ?
仮ではあるが、私って名付け親であるシャルルの婚約者って形になってるし、どうすれば淑女として相手を傷つけずに断れるんだろう?子どもだしテキトーで問題ないかな?ぜんっぜん、わからない。
他にも問題は山積みだ。
頭のおかしいこの電車もどきもそうだ。とりあえず進む、とりあえず人や積み荷は運べる。これは良い。
そして――――
チンチンチンチン!ドンドンドンドン!カンカンカンカン!!うぉぉおおお!うぉおおおお!!!
先頭では何やら叫んだり爆音で演奏し続けてる連中がいる。薄っすらしか聞こえないのは風の魔法が使われているのだろう。遠くから僅かに音がするように感じる。
以前シャルルに話した「交通事故防止策」だろう。
線路にはそもそも人や動物が入れなくするのが一番だと話した。それが無理ならクラクションで相手に知らせて退いてもらうと………だけどなんかかなり違う。「クラクション」で伝わらなかったのはわかるよ?だけど、楽器を叩いたり、叫びまくる奇天烈なことになるとは思っても見なかったよ!?たぶんいま獣が出やすい場所とかで追っ払うためにやってるんだろうけど!わかるけど!!!??
私恥ずかしい!みんなはこんなものなのかって車輪と板バネと骨組みの上の板の更に上の絨毯に安心して乗ってるけどさ!!?見世物みたいなもんだよこれ!!!??
途中、稀に農民とかがこっち見てるのが凄く恥ずかしい。
「フリム様?」
「何でもないデス」
ほんのり肌寒いはずなのに耳が熱い気がする。
なんとなく……確実に共犯者であるエール先生をジト目で見てしまう。リヴァイアスから王都までの鉄道だし、私に連絡が来なかったとすれば確実に主犯格の1人としてエール先生は関わっている。諸悪の根源はシャルルだろうけど。
サプライズってのはわかるんだけど、それにしたって「線路と電車サプライズでつくっちゃった♪」とか意味不明すぎる。前世でまともなプレゼントですら体験したことのない私にとっては……とんでもなさすぎる。
「キュクルルル」
「お前だけだよ、純粋な癒やしは……」
「キュル?」
元気なミリーも私の癒やしではあるが……友人であるし配慮は必要だ。
やはり産まれたときから世話をしているリューちゃんこそ真の癒やしだろう。
純粋無垢で何をしていても可愛いし何も考えることもなく撫でることが出来る。オルカスも見た目は可愛いといえば可愛いが、いつ何処からゴスゴスボフボフしてくるかわからないから身構えてしまう。顎と肋骨のダメージは忘れない。
構想を練る→書く→読み直して修正→3度読み直して修正して投稿→コメントチラチラ僕ニッコリ→誤字脱字衍字表現不足が見つかる→たまにボコボコになって三日ぐらい凹む→修正→別サイトに投稿時にまた修正→また修正……。
この作業の合間に他の作業もたくさんあってなかなか身軽に動けない。だけど皆様に読んでもらえて僕は楽しく作業できています(/>ω<)/ありがとうございますっ!!