水魔法ぐらいしか取り柄がないけど現代知識があれば充分だよね?   作:mono-zo

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第301話 ソーギアー士爵‡グレジッグ子爵

 

ラズリーさん生首の刑は畑の管理人さんが来るまで続いた。

 

 

「なんじゃおんしら。ここはたちいりきんしだど?そんがこんいっぺいっど?」

 

「この人たちは大丈夫です。いつも畑の管理ありがとうございます。……貴族の中でも偉い人ばかりなので」

 

「そが、ごめんごったす。わっしはこごのがんりがしごどだど」

 

 

かなりびっくりした。

 

管理人が水の中からぬぅっと出てきた。後ろにいたカリュプさんが素早く彼になにか話すと管理人さんはこちらに頭を下げた。

 

管理人は少しだけ見える水中の尾からして人魚だ。ヒゲがもっさり生えていて肩幅が広く大柄であるがどこか腕が細くて……いやそれ以前に骨格や皮膚の色が人間ではない。麦わら帽子のようなもので水中から出てきてなんか妖怪っぽい。

 

かなり言葉が訛っていて何を言っているのか若干わからないが意思疎通はとれるみたいだ。

 

カリュプさんと話したからか帽子を取って胸に持って一定の礼をこちらにしようとしているのがわかる。しかし帽子を取ったおかげで長い髪が邪魔となって殆ど見えない。顔面の口と鼻以外は毛である。……カリュプさんもそうだが目を隠すのがここのしきたりなのだろうか?

 

それにしても水草の薬草を栽培だから管理人は水の種族なのか……淡水でもいけるんだな人魚って。

 

ここの薬草は美容に健康食品、それに精霊への奉納などに利用できるそうで量産が期待されている。

 

士爵であるソーギアー家が成功しつつあるからこそ隣のグレジッグ子爵が邪魔しようとしているのかもしれない。列車の通過地点でもあるから……いや、他にも考えられる原因は多いし、考えるだけ無駄かな。

 

 

とりあえずこの畑はソーギアー家の重要な拠点であり、人様の職場である。ここにいるのはあまりよろしくはないのだろう。ユース老先生も見つかったし引き上げることにする。

 

 

「じゃあ全員引き上げましょうか」

 

「うむ、仕事の邪魔をしては悪いからの。これからも良い薬草を作ってくれることを期待する。これは労いじゃ、うまいもんでも食べるとええ」

 

「あっがどございます」

 

 

ユース老先生はしっかりと彼と向き合い、水から出て濡れている管理人さんの背中にも手をやって真摯な態度で何かを手渡した。

 

多分お金かな?

 

この国の貴族としてか、それとも研究に関わるものを作った人への礼か……はたまた孫がなにかしようとした詫びなのか。

 

兵も来ていないし何も言われなければラズリーさんは問題がないはず。後で何か言われるかもしれないが。

 

 

「吾輩を置いてくなよ」

 

「…………反省しとらんのか此奴め」

 

 

周りの人数を確認して帰還しようと集まっていると生首状態のラズリーさんが声を上げた。

 

ちらりとラズリーさんを見たユース老先生。無言でこちらに「行こう」と目配せした。

 

良いのかなと思いながらも歩き始める。

 

 

「ごめんって爺!ごめんなさい謝りますからぁぁあああ!泣くぞ!大声で!!獣がこないように!!!貴族としてありえないぐらい泣くぞ!!!!恥になるぐらいにぃぃ!!!!」

 

 

ラズリーさんによる絶叫である。

 

しかし取り巻きも歩みを止めない。ちょっとかわいそうである。

 

 

「……しょうがないのぉ。しかし、ラズリーなら杖がなくとも時間をかければ抜けられるじゃろうて?」

 

「畑の水が近い!薬草の育成に悪影響が出たら事だろうが!!」

 

「……まぁええ、賢者フリムよ。皆を連れて先に行ってくれ」

 

 

あれ?自分で抜けられたのか。しかも自分で出ない理由が近くの池への影響を配慮してか……また強い言葉だったが喧嘩するような雰囲気ではなくユース老先生は優しげな表情をして彼女を土から出していた。

 

少し進んで後ろをちらりと見ると管理人さんに頭を下げさせられていたラズリーさん。まぁ良いか。

 

 

軽くおもてなしを受けてきたディア様が帰ってきていたのでまた列車を動かすことが決まった。

 

 

「ふん、見苦しいわね。私が声を掛ける前に挨拶するべきよね」

 

「グレジッグ子爵、申し訳ない」

 

 

ソーギアーの領主さんが列車までお見送りに来ていて……膝をついてグレジッグ子爵に頭を下げていた。

 

派閥の上司であるグレジッグ子爵に頭を下げるのは当然かも知れない。ただその動きはぎこちなく、見ればソーギアーの領主さんの足は木製の棒……義足であった。

 

 

「娘が娘なら親も親ね。あんたがみっともないからこの私が恥をかいてるのよぉ?それとも私への当てつけかしらぁ?」

 

「……そのようなことはなく、不自由な身体ゆえ不快な思いをされているのなら申し訳有りません」

 

「あら、私が謝らせてるみたいじゃない。いやだわぁ」

 

 

このババア、相変わらず陰険である。

 

わざわざ不安定な土の地面で足の悪い人に膝をつかせてぎこちないと指摘した。更に謝るように誘導しておいてこれか。

 

 

「動けない騎士なんて引退したほうが良いんじゃない?陛下の呼び出しに駆けつけられるのぉ?忠誠心があるなら領地を返すべきでなくてぇ?」

 

「陛下がそのように判断されたのなら従いましょう」

 

「自分で言いに行くのが貴族として正しい姿じゃないかしらねぇ?見苦しいわねぇ」

 

 

口を挟むのはよろしくないのかもしれないが……。

 

この人も間が悪いな……私がまた現場に出くわしてしまうなんて。

 

 

「お話の最中に割って入ってすみませんが……グレジッグ子爵、我々は王命による移動中ですので列車にお乗りください。それとも王命に逆らいますか?」

 

「この領地の派閥として少し窘めていただけです。リヴァイアス侯爵は口を――――ー

 

 

「<逆らうのか?そう、私は言いましたよね?>」

 

 

グレジッグ子爵は以前私が窘めたこともあったからか、それとも私が子供だからか……まだ私を侮った態度であった。表情ですぐに分かった。

 

魔力で威圧して話すと一瞬で彼女は青ざめた。

 

 

「ぐぐっ?!すっ、すいません今すぐに乗ります!!!」

 

 

脱兎のごとく列車に移動していったグレジッグ子爵。

 

残されるソーギアー領主と私。一応この団体における二番手の責任者であるし軽く挨拶するべきか。

 

 

「お初にお目にかかります。リヴァイアス侯爵閣下。不自由な体ゆえこれまでご挨拶に行けず、大変申し訳有りません」

 

「いえ、陛下のため働いて負傷した経緯を知ってます。仕方ないと理解していますし不愉快に思ったことは有りません」

 

「……ありがたく」

 

 

これは途中にカリュプさんに事情を聞いていた。

 

ここは鉄道の通る領であるし、領の事情を把握しておけば後でシャルルに報告できると考えた。

 

モラルがよろしくない貴族たちによる抗争や紛争は結構あるあるらしいし、この場所で揉められると今後の運行に支障をきたしかねない。それはリヴァイアスからオベイロスの間全ての問題となりうる……把握しておくべきだと考えた。

 

私の伯爵と侯爵の就任、そのどちらの祝いにも直接来れなかった彼は「リヴァイアス侯爵に反意があってもおかしくない」という見方も貴族的にできるだろう。個人的には普通に怪我で移動というのは大変だろうし、仕方がないように思うが。

 

 

「そうそう、その足ですが」

 

「はっ」

 

「そのうち私の魔法で治します。その時間が取れるように仕事を片付けて私のもとにきなさい」

 

「治し……いえ、膝下からすっぱり切られているのですが」

 

「治せます。もちろん私に敵対しないことが条件ですが」

 

「しかし、派閥と領の安堵が……」

 

「私の軍をここに駐留させましょう。それで如何ですか?この領の問題はシャルルの作った線路の問題に繋がりますので」

 

「…………」

 

 

グレジッグ子爵は彼の派閥からすれば上役に当たるが、明らかにこの領地を狙っている。

 

彼からすれば子爵は気に入らないだろうが派閥をかえたとしてもこの領地を守ってもらえる保証がない。

 

足の治療を申し出てからの説得はちょっと卑怯で……強引だったか?

 

 

「考えておいてください。この線路はシャルルが作ったもの。この場が争いとなることを私は望んでいません。そのための提案です」

 

「本当に領民を、我が家をお守り頂けるのでしょうか?」

 

「えぇ。私の両親は陛下の傍に仕えた騎士だったそうです。陛下の盾となるべく、怪我をし、毒を何度も受けました。……貴殿も同じく国に仕え、陛下のために戦って負傷したと聞きます。派閥の問題は抜きにしてもその足は治しましょう」

 

 

ちょっと話の進め方を失敗したかもしれない。フリムちゃん貴族社会の話し方にまだ慣れてないんだ。

 

王都では何人もの貴族を治して礼をされた。

 

私に敵対しないように人選がされた彼らは基本的に国のために戦って大怪我をしていた。私のことを直接知らなくても私の両親のことを知ってる人は多くいてその働きを褒めてきた。

 

あまり死んだ人のことを引き合いに出すのはよろしくないのかもしれないが、貴族という生き物は数代前のやり取りですら引き合いに出す生き物である。これぐらいなら説得材料にしてもいいだろう。

 

前世のビジネストークに近いのかもしれない。貴族トーク……自分にとってプラスになるように、親のことでも子のことでも話に交えて説得するのだ。…………慣れないなぁ。

 

 

「……兵を受け入れます。――――リヴァイアス侯爵閣下、この御恩、末代まで語らせていただきます」

 

 

成功かな?

 

まぁ彼の足を治療し、ここに軍を呼び寄せて、シャルルからも軍を置く許可が出るまではソーギアー領の安全は確約されるものではない。それは互いに分かっていての口約束である。駄目なら駄目で何かしらのトラブルになっても「爵位に差があったからあぁ言うしか無かった!」と言い訳もできるだろう。

 

介入したくはなかったのだが、そもそもグレジッグ子爵が悪い。鉄道とか国家事業だろうにそこで争うとか……まぁ彼女なりになにかの道理や目的とかあるのかもしれないが。

 

とりあえず問題が起きないように私が保全し、その後はシャルル判断でいいだろう。ここに軍を置ければ移動手段の保険にもなる。そうなったらきっとうちも助かるしね。

 




いつもあたたかいコメント(/>ω<)/アリガトー!!
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